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RONDO  作者: maric bee
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取調べ

砂漠から出発して数10分後にはレリスの街に到着した。街は全面が粘土のような高い塀で覆われていて、唯一の入り口には厳重な門が設置されていた。

門の横に見張り台のような高台があって、騎士団の帰還を確認した門番が何かしらの声を発して開門した。この様子ならば、もし自力で街に辿り着いたとしても入り口から入るのは無理だったと反省し、置き去りにした「友達」のことをほんの少し案じた。


月が真上にいる時間帯でありながら、街は未だ明るく、大勢の人々でごった返している。門から続く大通りには露店市のようなものが開かれており、遠くの方からは愉快な音楽と歓声が聞こえてきた。隣国の賑やかさは噂には聞いていたけれど、これほどまでとは思わなかったなと男は目を丸くした。


「ありがとう」


門を通り抜けたところで動物の背中から飛び降りて、男は礼を言った。そのまま立ち去ろうと軽く会釈をして騎士達に背を向けた時、女団長は鋭い口調で彼に声をかけた。


「残念だが、ここでさようならというわけにはいかないな」

「は?」

「お前がスパイである可能性も十分ある。少し調べさせてもらおうか」

「俺がスパイ? ギャグにしても笑えないな」


男は眉を顰めて笑ってみせたが、団長が合わせて笑うなどということはなかった。


「レリスを狙う野蛮な輩は多いのだ。申し訳ないが、まずは名乗ってもらおうか」

「こんなところで取り調べをするのか?」

「名前だけだ。詳しいことは兵舎に着いてからだ」


男は溜め息を吐いた。どうしたものだろう、と一瞬頭を高速回転させて、どう対応すべきか策を練る。


「俺の名前はシェイドだ」

「そうか。ではシェイド。少し調べさせてもらうぞ。着いてこい」


彼女はそう言って身軽に動物から飛び降りた。マントの下に着込んでいる鎧がガチャっと金属がぶつかるような音を鳴らした。


「俺が名乗ったのだから、あんたも名乗れよ」


男が顔を歪めて女の無礼を咎めると、団長はふっと息を漏らしてあの硬直した顔を僅かに緩めた。彼女の青い瞳が僅かに泳いで、すぐに元の位置に戻った。


「確かに無礼だったな。私はレリス騎士団長を務めているナシュアだ」

「ナシュア……」


男は頭を再び動かし記憶を探ってみる。どこか奥の方で引っかかるものを感じたもののそれが何かは分からない。

それにしても、と彼は頭を一度整理した。隣国レリスが商業で栄えていることは知っていたが、ここまで厳重に警護していることは知らなかった。彼は厄介な土地に足を踏み入れたことをほんの少し後悔した。


「取り調べって何をするんだ?」

「どうってことない。素性を聞いて、目的を聞いて、武器がないか調べるだけだ。最近は物騒なものでね」


ナシュアは騎士団を解散させ、乗っていた動物を優男に預けてから、シェイドと名乗った男を大通りから横に反れた小道に誘った。遠くに石造りの巨大な建物が見える。大通りが明るすぎた分、若干鬱蒼とした空気で満ちているように見えた。


「お前はどこから来た?」


歩きながら唐突に訊ねられて、彼は思わず顔を歪めながら訊ね返した。


「もう取り調べか?」

「いや、私の個人的な質問だ。あの広大な砂漠を歩いてレリスに向かおうとする無謀な男がどのような者か知りたいだけだ」

「マジェールから来た。知ってる?ズィ=エルース王国領の貿易都市だけど」

「要するにエルースから来たわけか」


ナシュアは足を止めて、男に顔を近づけ、彼を凝視した。こうして近くで見ると団長は更に美しく見えた。肌が目映い月明かりに照らされ輝いている。


「小国レリスは大国エルースを嫌ってるようだな」


彼がそう言うと、ナシュアは何も言わずに顔を離しまた歩きだした。彼は従順な犬のように彼女の背中を追いかけた。


兵舎の談話室に彼は通された。談話室とは名ばかりで、部屋は大人4人も入れば十分なサイズで、真ん中に粗末なテーブルと椅子が乱雑に置かれていた。


「さて、じゃあ取り調べを始めようか」


椅子に2人がテーブルを挟んで向かい合って座り、彼女が口を開いた。


「お前は何者だ?」


ざっくりとした質問に彼は当惑したが、冷静さを欠かないよう努めた。ぼろが出ると厄介だ。


「俺はしがない冒険者だよ。世界中を見たくて、各地を飛び回っている」

「なるほど。しがない冒険者、シェイドか。歳は?」

「もうすぐ30だよ」


彼女は男の目を凝視している。瞳孔の開閉までチェックされている気分になる。


「最近はあまりに物騒だ。魔族が各地で姿を現し、村や街を襲う回数が異常でね。魔族のまき散らす魔素のせいで獣や人間さえも正気を失ってしまう。魔物退治やらお宝探しやらの好奇心で満ち溢れた冒険者というお気楽な人間がいる一方で、確実に世界は混沌に包まれている」

「冒険者批判か」

「そのようにとらえてもらっても構わないさ。だが小言を言うためにお前をここに呼んだわけではない。何故そのようなことを言うかというと、レリスはこれまで魔族に数回襲われている。人間に化けた魔族に。彼らは頭がいい。勿論馬鹿な愚物もいるが、冒険者に化けて街に侵入する周到な輩がたまにいる」


男は思わず笑い出しそうになるが、堪えた。


「なるほど。俺がそのヤバイ魔族の可能性があるって言いたいんだろ?」

「魔族でなくてもヤバイやつかもしれないな」

「じゃあこんなとこで俺と2人になってていいのか? 危ないだろう?」


砂漠の真ん中で遭難している胡散臭い男を、取り調べと称して街に入れる理由が見当たらない。方法ならいくらでもあったはずだ。彼は首を捻った。

そんな彼の様子を見ながら、ナシュアは吹き出し、声を上げて笑いだしたので、彼はとても驚いた。どうやら感情が欠落しているわけではないらしい。


「あまり私をナメない方がいいぞ、シェイド」


彼は予感した。彼女が笑ったのは「彼女が全てを把握している」ことを意味しているのではないかと。この取り調べの真の目的は「彼は魔族であるか」を調べることではなく「何故彼がここへ来たのか」ということではないかと。


「世界の3分の1を占める巨大な国、ズィ=エルース王国。レリスと隣接した閉ざされた楽園。だが他国がお前の国を全く知らないと思ったら大間違いだ。私はこの国の軍事を任せられている人間だぞ」


彼女が何を言いたいのかすぐに分かった。もう隠す意味などないということを彼は知り、溜め息を吐いてからうっすら笑った。ナシュアはテーブルに頬杖をついて、鋭い眼光を放ちながら彼に問う。


「ズィ=エルース王国第二騎士団、団長ルージュ=ヴィスラン。一体レリスに何の用だ?」



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