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RONDO  作者: maric bee
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古城探検 

庭園を小一時間ほど鑑賞したルージュ一行は、その後古城の奥を探索した。倒壊しそうな灰色の柱が並ぶ回廊をまた彼らは縦に並んで歩いた。奥に行くに従って、視界は闇へと閉ざされていく。このまま歩き続けると、おそらく光が一切届かない場所へと辿り着くのだろう。


「まだ奥に行くの?」


崩れた壁や倒壊した柱が折り重なっている所へ躊躇わずに進んでいくルージュに弱音を吐いたのはティラだった。相変わらず露出の多い彼女の肌は砂でカサカサになっているに違いない。


「イヤなら外で待っていろ。だが俺達は行く」

「そんなぁ。やめときなよぉ。この先はヤバいって」


ガイドをやると言い出して、庭園に連れてくるまでの意気込みは既に失われているようだった。彼女は駄々をこねる子供のように泣き言を言う。


「何がやばいんだ?」


ルージュが訊ねると「知らないけど、でもやばいんだよ、きっと」とわけの分からないことを連呼した。明らかに慌てていた。手をやたらとぶんぶん振り回しながら引きつった笑みを浮かべているし、耳たぶは紅潮しているように見えた。


「何か知ってるだろう?」


訊くまでもないが揺さぶってみる。外れかかったネジくらいは落ちるかもしれない。顔を覗き込むようにして近付けると、「ひゃあ」と猫のような悲鳴をあげて彼女は仰け反った。


「ちょ、ちょっと近すぎだって!」

「何だよ、キスするわけでもあるまいし」


反応が過剰でおかしかった。傍らで歩くリュダがそんな彼女を揶揄する。


「おめでたい格好してるくせに純情ぶるなって」


そう告げるリュダも我慢できずに笑っていた。


「はぁ? やっぱりアンタむかつくし。ていうか、やめた方がいいって。引き返そうよ」

「まだ止める気か? 無理だって。お前には俺達を止めることはできない」


予言めいた言葉にティラがたじろいだ。更に彼女を追いつめるようにリュダが続く。


「おれ達、冒険者なんだぜ? 危ない所に行かなくて何が冒険者だ」

「危ない所って分かってるなら、行かない方がいいよ、絶対。命は1人にひとつしかないんだし」


早口でまくし立てるティラは異常だった。本人も気付かないほど興奮しているようにも見えた。


「ダメだってば。陥落してから誰も奥に行ってないんだよ」

「だったら尚更、俺達が調べた方がいいだろう」

「そうだけどさ」


ティラは言い淀み黙り込んでしまった。決して納得したわけではなく、観念したというのが正確だろう。不満を顔の全面に貼り付けたような彼女の顔はやはり幼く見えた。


「う……」


突然彼女がお腹を抱えるようにして膝をついたので、ルージュ達は立ち止まった。


「どうした?」

「お腹が痛くなっちゃったよ。帰っちゃダメかなぁ」


顔をしかめて言うティラの黒い瞳は相変わらず輝きを放っている。


「悪いが、仮病ならお断りだ」


ルージュがやんわり言うと、しばらく沈黙した後にティラは鮮やかな腰布に付着した土を払いながら立ち上がり、小さく舌打ちをした。

その後彼らは何を話すこともなく、ただ真っ直ぐに闇に突き進む。時折何かが崩れるような音がしたり、滴が水面に落ちる不気味な音がする。外界から閉ざされたような奇妙な場所だとルージュは思った。古城は思った以上に広く大きなものだったようで、歩いても歩いても彼らは廃屋の中にいた。ぐるぐると周回しているのかとも思ったが明らかに闇は深くなるばかりだった。


「このまま歩いていたら突然屋根が降ってきたりして」


リュダが笑いながら笑えないことを言う。ティラの顔はひきつり、ルージュの顔は和らいだ。


「一応言っておくけど屋根が降ってきたら、アンタら即死だからね」


ティラは脅すように強い口調で言ったが、ルージュは穏やかな笑みを浮かべ「即死かぁ」と気楽な調子で言った。


「それだけは避けないとなぁ。俺達がレリスに迷惑をかけに来たとなると、国間の友好関係は最悪なものになる」


ティラは彼の言葉の意味が分からず首を捻る。ルージュの顔には消えそうな笑みがダラダラと余韻の如くしつこく残っている。


ガラガラと大きな崩壊の音が聞こえてきた。


「ほら、やっぱりヤバいって」


ティラが手をバタバタ振りながら、また説得を開始する。徐々にしつこさがまどろっこしくなっていたルージュは彼女の忠告を無視した。歩き続けるルージュとリュダ。一方でティラの足は止まっていた。地団太を踏みわがままを叶えようとする幼児のようだとルージュは思った。


「う……」


背後で呻くような声がした。振り返るとティラは再び膝をつき、今度は頭を抱えていた。


「おい、お前な……」


通用しなかった仮病が2度目で通用すると思ったか、と続けようとした時ルージュはその変化に気付いた。先ほどまでのあの瞳の輝きは失われ、呼吸は荒々しいものへと変化していた。


「どうした?」


ルージュが慌てて駆け寄ると、ティラは「触らないで!」と鋭い声を上げた。悲鳴のようでもあり、獣の鳴き声のようでもあった。


「く……来る!」


彼女が唸るようにそう言うと同時に、近くで爆発音がして地面が揺れた。屋根が降ってこなかったのは奇跡に近い。


「何かがいるよ」


リュダが弾けるような声を発した。前方の闇には確かに巨大な生き物の気配があった。フーッと外敵を威嚇するような獣の声が聞こえる。


「何か面白いことになってきたね」


玩具を見つけて喜ぶような少年の声の色が気に食わないのか、眼前の生き物は轟々と吼えた。


「やめなさい。それにアンタらが勝てるわけない」


ティラは頭を抱えながら、途切れ途切れに言った。呼吸は激しく乱れている。


「知り合いのようだな」


落ち着いたルージュの声が闇に響いた。


「凶暴そうな生き物がいるが、お前はそれを知っている。そうだろ?」


彼女は答えなかった。苦しそうな喘鳴だけが聞こえた。


「何者だ? 魔族か?」


疑問を更にぶつけてみると、ティラは断固否定したいと言わんばかりに首を横に振った。


「じゃあ何者だ?」


ルージュが膝をついてティラに視線を合わすと同時に、彼女の瞳は閉じ、呼吸はみるみる落ち着いた。一瞬死んだのかと思うほど、彼女は静かに佇んでいた。


「ティラ?」


ルージュはティラの肩を持ち、軽く揺さぶってみる。


「触るな」


低くおぞましい声がした。その声が華奢な踊り子の少女の口から飛び出したと理解するまでに数秒かかった。


「汚らわしい人間よ。私に触るな」


彼女はゆっくりと瞳を開けた。そこには紫色のまがまがしい光を携えたふたつの瞳があった。


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