魔王様、幹部を叱責する
魔王城大会議室
ここに今、魔王により集められたのは、四天王、六魔将、三賢人、風の三羽烏、影の五人衆、守護の双剣、先駆けの七本槍、ドラゴン十二翼将、八王子、の面々。
全員、緊張の面持ちで上座の魔王を伺っている。
沈黙の中、やけに響くパイプ椅子の軋む音。
「今日お前たちが集められた理由は、わかっておろうな。」
重々しく口を開く魔王。その魔王の後ろにホワイトボードが運ばれてきた。
「コレはお前たちが、今年撃退した勇者の数だ。」
ホワイトボードには、各々が撃退した勇者の数を示す棒グラフ。
だが、
「ふん。グラフにする意味も無いな。揃いも揃って情けない。
全員合わせて5人。たったの5人だ。」
誰も声を上げることができなかった。
「おい、四天王が一人。今年、ここまでで一番勇者を撃退した者は誰か? 答えよ。」
「...シサンです。」
「聞こえぬ! もっと大きな声で言えっ!!」
「魔王城正門守衛室のタカハシさんですっ!!」
◆◆◆
タカハシさん
警備会社からの派遣職員
勇者撃退数:36人
◆◆◆
「お前ら恥ずかしくないのか!?
タカハシさんは21時〜翌日6時の夜間勤務。そのなかで2回の城内巡回と1時間の仮眠を挟む。実質守衛室詰めは6時間/日程度だ。
しかも彼女の装備はサスマタと痴漢撃退スプレーだけだぞ?
そんな彼女が36人...お前らネームドは全員合わせて5人...。
お前らには恥の概念が無いのかっ!!」
「し、しかしっ! ほとんどの勇者が他の拠点には見向きもせず魔王城正門を目指しますれば...」
「じゃあお前らも正門前で待ってりゃいいじゃん!? そこまで分かってるなら正門前に横一列で待ってりゃいいじゃん!!」ドーン
魔王が拳を振り下ろした。長机、グワングワン。
「1,315ウェンだ。」
「...はい?」
「彼女が雇用元の警備会社から受け取っている時給。1,315ウェンだそうだ。因みにわが国の最低賃金と同額だ。
...お前らの年収1億超えてるのに(ボソッ)。」
なんとっ! そんな低賃金で!?
いやいくらなんでもそれはあまりに...
「しかも、雇用保険も社会保険も未加入だそうだ。
この国では、勤務時間が週20時間以上の労働者に対する保険加入は雇用主の義務だ。それを言ったら警備会社の社長、
『タカハシは弊社の雇用ではなく、弊社と対等な立場で契約を結んでいる個人事業主の扱いですので。』
とか抜かしおった。あの会社絶対潰す...。」
闘気を纏わせ怒りに怒る魔王。もう誰も何も言い出せない。
「それと六魔将!
お前達、入城時、タカハシさんに身分証の提示を求められる度に怒鳴りつけているそうだな。」
「それはっ! 我々役員の顔も覚えず毎回提示を求める不届き者に対しての正当な叱責にございます!!」
「痴れ者がぁ!!
タカハシさんはマニュアルに従っているだけだ! しかも勇者が変装している可能性も踏まえて、お前達の理不尽な態度にも屈せずに、忠実にだ!!
褒められこそすれ、叱責を受ける謂れなど微塵もないわぁ!!!」
今日一番の雷を落とす魔王。
闘気で蛍光灯が破裂し、会議室が暗闇に包まれた。
「ということで、六魔将には全員セキュリティ講習、並びにパワハラ研修受講を命ずる。
それから、お前達ネームド全員、無期限で50%の減給。
浮いた金全額を使いタカハシさんに高給を提示し、直接雇用の交渉を進める。
文句は無いな?
以上、解散!!」
がっくりと肩を落とし会議室を後にするネームド達。
それを横目に見ながら、魔王はタカハシさんを最高幹部とした新たな人事構想を思い描いていた。
• • •
「会議室の魔王様の声、守衛室まで聞こえてくるよ。声でかいなあ。
別に今の労働環境、嫌じゃないけどね。むしろ理想的。
夜中なんて基本誰も来ないからさ。空き時間に資格試験の勉強をしまくって、おかげで税理士資格も取れたしね。
...てゆーか、来月から税理士事務所で働くから辞めるって、会社を通して人事にも契約終了通知出したはずなんだけどな。魔王様、まだ見てないのかな?」
魔王国壊滅の危機迫る
おしまい




