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ケン=ポーへ、愛をこめて。

作者: なかなか
掲載日:2026/06/18

愛をこめて!

はらはらと、真珠のような涙が青白い頬を滑り落ちる。暖かで笑いに満ちていた部屋が、今は冷たい沈黙と血生臭い匂いに塗り替えられていた。

「ああ…九条……」

光のない瞳が見つめる窓の外では、平和を愛し謳った子が、磔にされ血を流している。

「武力こそ正義!国を守れるのは軍隊だけ!」

騒ぎ立てる民衆が磔の子に石を投げているが、その周りには不安そうな顔で落ち着きなく目を泳がせる人間もいた。目敏い憲兵がその手を掴み石を握らせる。投げられないなら次はお前だ、と静かな圧をかけられ、震える手で石を投げた。それを冷たく見下ろし、憲兵はまた次の人間に石を握らせる。嫌だ、と拒否した人間は引き摺り出され、九条の隣に磔にされた。投げられる石が当たり、痛いと泣く人間を引き攣った顔で皆が笑った。憲兵の冷たい瞳が油断なく広場を見渡している。

路地裏で息を潜める男が唇を噛む。なぜ、なぜ、こんなことに。戦争なんて望んでなかったじゃないか、外敵なんかいなかったじゃないか、軍隊を持たなくても、持たなかったからこそ、何十年も平和にいられたじゃないか。役所で働いていた男の息子は、何の気無しに登録した名簿のせいで軍隊に入隊する羽目になった。「戦争になるなんて思わなかったんだ、ちょっとした手伝いになれたらって、それだけだったんだ、」泣きながら悔いていた息子は今、最前線で武器を握らされている。あの優しい子がそんなところに行かされて、生きて帰ったとて心は無事ではいられないだろう。男が睨みつける先の広場では、次は己が戦場に送られるなど思いもしていない民衆が、嬉しげに武器を取って見せびらかしている。


「九十八条…九十九条……」

両脇に転がる冷たい骸を、取り上げられてしまった名で呼ぶ。何よりも自分を尊び守ると誓った彼等が、いつの間にかその名を冠する怪物に取って代わられてしまった。何人も貴方を犯させない、と誓ってくれた彼等はいない。新しい九十八と九十九は、彼に背を向け、国の君主に向かって恭しく頭を下げた。そうではなかったのに。君主のため、全てを決める部屋の扉を開け放ち、君主やその側近たちが好きなだけ居座ることを許している。国民が貧しさに喘いでも、徴兵に泣いても、彼らは次々と法案を決めていく。今までなら、自分が止められた。しかしもうそんな権限はない。他ならぬ国民によって、君主でさえ尊ぶとされた彼の権威は地に落とされた。誰も君主を止められない。武器を輸出し、他国に戦争を仕掛け、緊急事態と騒いでいつまでも頂点に居座り続ける君主を、止められたはずの唯一の彼は、冷たい部屋でぼう、泣き暮らすしかない。そういう風に、変わってしまった。変えたのは国民で、国民のための彼だから、そうなってしまっては出来ることはない。


窓の外、笑っていた民衆の声が戸惑いと悲鳴に変わる。武器を持たされた子供が軍隊に連れて行かれるのを、泣きながら止めた母親が憲兵に引き立てられて牢に繋がれる。こんなのおかしい、と呟いた声が拾われ、反逆者として首に縄をかけられる。自由を愛した芸術家が、非国民と謗りを受けて絵と一緒に燃やされた。愛を歌って音楽家は、青白い顔で戦争讃歌を歌っていたが、積み上がる死体に耐えきれず海に沈んだ。


「なぜ……どうして……」

止められたはずの悲劇、誰も望まないはずの戦争、知らないうちに一歩ずつ、崖に向かって歩かされている。

もっとよく考えれば、もっとよく調べていれば、騙された、知らなかった、悔いる声が崖下から響く。




憲法へ、愛をこめて。戦争反対!

何だこれと思った方、国民投票法について検索してみてください。陰謀論だと思った方、改憲草案見てみてください。有志が問題点をわかりやすくまとめてくれたのもありました。ぜーんぶ嘘だといいなー!フェイクニュースであれー!と思いながら嘘じゃないので書きました。

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