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新しい職場は異世界でした  作者: しょうわな人


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第五話 マーケター、行ってみる


 僕は悩みに悩んで取り敢えずリナさんのいう事を信じたフリをする事にした。

 ほら、無理に正論を述べることが正しい治療法じゃないって事もあるからね。


「分かりました、リナさん。僕の勤務地は異世界ルネリアの商業国家アーキンの商業ギルド本社ですね。その異世界ルネリアと日本は百三十年前につながって、今は異世界の住人の何人かが日本に戸籍を持って暮らしている。そして、その方たちの協力もあってこの会社がここにある。日本政府とも国民には知らされずに秘密裏に取引をしている。そういう認識で正しいですか?」


「そうです! さすが春夏冬あきないさんです。一度聞いてそこまで理解されるなんて、私が見込んだ方だけはありますね!」


 何気に凄いのは僕を見つけた自分だというアピールをするリナさん。だけど僕はそれをあの病(厨二病)特有の症状だと知っているから、心の中でいつか必ず僕が癒してあげますからねと誓っていた。


 僕が優しい目でリナさんを見つめていたら続きを話し始めた。


「それでですね、なぜ春夏冬さんを雇うのかと言いますと、現在本社でとある問題が起こっているからなんです! ずばりその問題とは…… 大小の商会や商人さんや個人商店さんの商業ギルド脱退という、非常事態なんですっ!!」


 最後にそう力説して僕を見るリナさんに僕は冷静に問いただした。


「原因は分かっているのですか?」


「はい! 原因はうちとの間に別の王国を挟んだ場所にある成金王国シューセンによる引抜きです! シューセンは元々うちの国と商売において対立関係にあったのですが、商業ユニオンという組織を立ち上げて各国の商業ギルド加盟店に働きかけて商会や商人さんたちを引抜いてしまっているんです。これは本当に非常事態なんですよ、分かります春夏冬さん?」


 そう問われて僕は課長に質問を投げかけた。


「課長、そのアーキンの商業ギルドでは加盟されてる商店さんたちから加盟料などを貰って運営しているという認識で良いでしょうか?」


 僕が課長にそう質問したのはひょっとして課長もリナさんと同じ病(厨二病)かも知れないと危ぶんでいたからだ。


「そうだよ、ショージくん。まあ加盟してくれた商会や商店にはアドバイスをしたり、ギルドが持つ賃貸物件などを格安で提供したりと多岐に渡る支援を行っているんだ」


 …… どうやら課長もリナさんと同じ病魔に侵されているみたいだね。僕は二人を刺激しないように話を合わせて話を続ける。


「それがなぜ、新興組織である商業ユニオンに引抜かれる事態に?」


「良くぞ聞いてくれました、春夏冬さん! 実はシューセンにもうちと同じように次元の歪みができてるみたいなんですっ! そしてうちと同じように歪みの固定化に成功して、往来してるそうなんですが…… その現地の人を雇ってアドバイザーとしてユニオンを立ち上げたらしいんです! それが十年前の事です。そしてそのアドバイザーのやり方が斬新で目新しく、加入した商会や商店も利益が右肩上がりとここ二〜三年で実績を作り出して…… このままでは商業ギルドが無くなってしまうという恐ろしい未来が待ち受けているんです! そこでギルド長が急ぎでうちでも日本の方を雇い入れてギルドの改善をしてもらおうと言い出して、私が春夏冬さんを見つけたという事なんです!」


 私が見つけたアピールが凄いですねリナさん。まあ上司に自分の実績を知らしめる為なんでしょうけど。


「その、シューセンという国も日本と繋がったんですか?」


「いいえ、地球ではないまた別の星みたいです。でもやる事がえげつないと言いますか…… うちは商会や商人さんの規模で手数料の割合を変えてるんですけど、商業ユニオンは商会は銀貨五枚、商人は銀貨一枚、個人商店は銅貨五十枚で統一してるんです。うちの一番規模が小さい商会、商人、個人商店の手数料と同額なんですよね…… そして、そのアドバイスがうちより効果的だという事で……」


「う〜ん…… それだけで利益が出るのかなぁ…… 何か裏がある気がするんですけど、それは実際に見てみないと分からないですし…… まあそこは良いとして、それなら僕は海外勤務という訳ではなくて、そのアーキンの商業ギルドに通勤という形で勤めるという認識で良いですか? 勤務時間も朝八時〜十六時半で間違いないですか?」


「そうだよショージくん。それで間違いない。タイムカードはここに用意しているし、退勤時にカードを押した際に一分でも時間を過ぎていたらちゃんと残業手当も支払うようになっているよ」


 課長からそう保証された。良し、そういう事ならば話を合わせよう。そして、肝心の給与だ。そこをしっかりと確認しておかないと。


「それで、こちらの契約書には給与について書かれてないですけど、僕はいくら貰えるのでしょうか?」


「基本給が二十八万円、通勤手当、家族手当、持ち家の場合も住宅手当が出る。残業手当は先ほど説明した通りだね。休日出勤の場合もちゃんと分単位で支払うよ。賞与は年二回。六月二十日と十二月二十日に支払われる。一回が二カ月分になるよ。昇給は年一回、四月だよ」


 そう説明をしながら課長が給与面での契約書を差し出してきた。


 それを見て僕は躊躇う事なく両方の契約書にサインをしたんだ。前の会社よりも賞与が良くなるからね。前の会社は一回で夏が一月分で冬が一月半分だったから。それに、手当が多くて基本給が少なかったからここまでの賞与は貰ってなかったんだ。


「おお、サインしてくれるんだね。それではさっそくだがリナくんと一緒に勤務地に行って貰おうか」


「はい、課長。私がご案内しますね。あ、それとこちらから向こうに行くと春夏冬さんはスキルを使えるようになりますからね。また向こうに行ってから詳しくお話しますけど、取り敢えずそうだという事を覚えていて下さい。それじゃ、上に行きましょう!」


「分かりました。行きましょう」


 どんな仕掛けで僕を信じさせるつもりか分からないけれども、僕は素直にリナさんの後についていきエレベーターに乗った。

 メガネ女子と狭い箱の中で二人きり…… 緊張するなぁ……


「ふふふ、初めは驚くかも知れないですけどみんな良い人ばかりですからそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


 僕の緊張を初職場によるものだと誤解してくれてるリナさん。うん、そういう事にしておこう。


「は、はい。分かりました」


 そして三階についてエレベーターを降りると迷うことなくリナさんは左側に進み、目の前の扉を開いた。


 そこは何だか雑然とした部屋だった。


「ここが異世界と繋がった部屋なんです。さあ、どうぞこっちに来て下さい」


 リナさんにそう言われて僕も一緒に進む。部屋の中を進むとまた扉があってそこを開くリナさん。


「皆さん、お待たせしましたーっ!! 日本の優秀なマーケターの方をお連れしましたよーっ!!」


「おおっ!」

「やったっ!!」

「きたきたーっ!!」


 まだ僕には見えてないけどその部屋からは喜びの声が聞こえてきた。とにかく歓迎されてるのは分かる。


「リナーッ、やっと連れて来たか! 何処だ?」


「こっちに来て下さい春夏冬さん」


「は、はい!」


「さあ、ここがアーキン商業ギルド本部です。私たちは春夏冬さんを歓迎しますっ!!」


 リナさんに言われて僕は職場の方に挨拶しようと出ていった。そして……


「えっ!? 皆さんそれはコスプレですか?」


 思わずそう言ってしまった。だって獣耳に、エルフ耳に、髭モジャさんがいたし、服装もスーツじゃなくみんなバラバラだったから……


「リナ、お前ちゃんと説明したのかっ!?」


 僕の第一声を聞いて厳ついオジサンにリナさんが怒られていた……


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