第五章 餓鬼が蠢く裏社会
(18)月並みですけどお言葉に甘えて
「詩織さん、お久し振りです」
「この度は大和さんのお言葉に甘えて、来ちゃいました」
「玲奈ちゃんも、優花ちゃんもすっかり、レディーしちゃって」
「ママに選んでもらったのよ。良いでしょう」
「私までお相伴してもらって」優花が恥ずかしそうにしている。
「何恥ずかしがってんだ。ステージ衣装の方が恥ずかしいだろう。スカートは短いし、パンツは見えてるし。見ているこっちの方が恥ずかしいよ」
「いやらしい目で見ないの。ホント中年はしょうがないんだから」
「言っとくが、俺はまだ三十前だ。中年じゃない」
「中年じゃないって言うのが、中年なのよ」
「何だと、玲奈、もう一度行ってみろ」
「はいはい、遊ばない、人が見てるでしょう」
「今日は大和さん」大平村の女性陣が、パーティードレスで、華やかだ。
「おお、みんな揃って、奇麗処」
「そんなん言われたら恥ずかしい」芽衣が言った。
「紹介しよう。大平村の頑張り屋たちだ。こっちは、ママに愛人に娘たちだ」
「どういう事」顔を見合せた。
「まあ、徐々にわかる。それより、祝賀会を開かないとな」
「うちでやりますか」
「そうだな、今回は晴れの祝賀会だ。シルバーベイに聞いて見よう」
「内が六人に、君たちが五人でいいか。それで予約しよう。料理はお任せでいいか」
「じゃあ、会場の方へ行くか」
会場に入ると、写真や、カメラのフラッシュがまぶしい。その後インタビューが来て、忙しそうなので、壁際に移動した。
授賞式が始まり、知らない爺さんが演説をぶった後、症状の授与があり、早紀が最後に表彰された。
こちらでも祝賀会が催され、そこそこに引き上げ、シルバーベイに移動した。
シルバーベイでは準部が出来ており、全員席に着くと、食事会の始まりだ。
支配人がやってきて挨拶をした。
乾杯の後、料理の前で記念写真を撮り、早紀の賞状とサイン色紙を前に皆の写真と、店の者との写真が撮られた。
その後落ち着いた所で、自己紹介をした。
「玲奈、優花、この間のぬいぐるみは、この美咲が作ったものだ。しっかり礼を言っておけよ」
「有難うございました。大事にしてます」
「こいつらはアイドルをやってる。売れるように応援してやってくれ。おれもまあDVDを五〇〇枚買ってあるから、帰りにみんなに配ってやる。後は誰が続くかだぞ」
「支配人、大騒ぎをして悪かったな」
「ホントに悪いと思っていますか、高橋さん」
「いやあ、何時も無理を言って悪かったと思っているよ」
「それなら、お願いがあります。斎藤さんの絵を紹介してください。実は展示された絵を見に行きました。素晴らしかった。だからこの店に飾る絵をお願いしたい。」
「それは本人に」
「私の絵で良ければ」
「それと中山さんのぬいぐるみ、お願いできませんでしょうか」
「え、私のですか」
「お二人の才能はこれからもっともっと評価されるでしょうから」
「どういう物にするか、また後日打ち合わせするという事でいいかね」
「そうですね。今日は祝いの会ですから」と、礼をして立ち去った。
「そう言えば、芽衣、皆で組んでみるのはどうだといった、あれ、なんかしてるか」
「いえ、まだ何も」
「それなら、玲奈と、優花を入れて呉れんか」
「お二人は何を」
「玲奈は曲作り、優花は親アイドルだ。なんかの催しの時、皆で作品を出す。人の目に触れれば、作風が磨かれる。良い作品が出来るかもしれん。どうだ」
「皆で話してみます」
「いっそ、名前を付けて、例えば、そうだな、アートファイブとかレディースファイブとかな」
「それ面白そう」
「ものは全てやり方次第だ。楽しく騒ぐだぞ。それと桜田一家の組の就任式をやりたいそうだ。来月の日のいい日にとのことだ。細かい事はそっちで打ち合わせして決めてくれ」
「分かりました。有難うございます」
「ついでに、これだけ大平館は地域に貢献しているんだから、村長に、大平館を表彰しろって言っとけ」
「そんなこと言えませんよ」
「なぜだ」
「だって大平館は地域振興会の物ですよ」
「それがどうした」
「館長は誰だと思います」
「知らん。誰だ」
「私です」
「え、お前が館長か。お前は広報部長だろう」
「ええ、広報部長兼、館長です」
「お前は何でもやか」
「そうです。だから、自分を表彰しろって言ってるようなものですから」
「分かった。俺から言っとく」
「いいですよ」
「やってることの正当な評価を得るためには必要な事だ」
(19)派手な陽動と着実な仕事
「小料理屋早苗の女将だな。大人しくしろ。悪いが大人しく付いて来てもらう」
「人違いじゃないのね」
「そんな下手はうたねえ」
「あんたら何者なんだね」
「誰でも良かろう。黙ってついて来い」空き地のワゴン車に連れ込んだ。
「よし行け」
「おい、あれは小料理屋の女将じゃないか」
「そうですねえ。遠めに見ても色っぽいね」
「馬鹿言ってるんじゃない。あれは誘拐だ」
「刑事の前で誘拐ですか」
「涼太、車だ。急げ」
「ワゴン車に連れ込まれた」
「車はまだか。来たか、行くぞ」タクシーに乗り込むやワゴン車を追った。
「車のナンバーは見えるか」
「横浜○○の○○-○○です。本部、このナンバーの車を調べてください」
「沙織さんを誘拐するなんて、どういうつもりなんでしょう」
「組対、組なら、沙織を誘拐しないだろう。大和への恨みだろうな」
「誰なんですかね」
「恨んでいる奴が多すぎて、見当もつかない」
「こっちは倉庫街ですよ」
「ちょっと待て」スマホから電話をする。
「もしもし頭か、大和に言付けを頼みたいんだが」
「そうだ、急ぎだ。今沙織さんが何者かに誘拐されている。場所は横浜ふ頭の倉庫街だ」
「そう、そう。まあすぐに連絡が来ると思うが、驚かないよう、連絡を入れておくから、上手く対応してくれ。おう、警察には知らせていない。じゃあ変化があったら連絡する」
「鎌田さん、県警に連絡しなくていいんですか」
「まあ、落ち着け」
「これが落ち着いていられますか。殺されちゃったらどうするんですか」
「殺されはしねえよ。殺すつもりなら、ここまで連れて来ねえ」
「何が目的なんでしょう」
「先ずは金だろうな。ついでに、恨みを晴らせれば位だ」
「なぜ分かるんですか」
「どう見てもチンピラばかりだ。計画も何もねえ。行き当たりばったりだ」
「おい、連絡はついたか」
「連絡たって友達でもない大和の番号なんて知りませんよ」
「馬鹿、小料理屋の早苗に電話すりゃあいいんだよ」
「分かりました。さっそく」
「もしもし、早苗ですけど。お店は六時からですから、まだ開いてませんよ」
「そうじゃねえ、大和はいるか」
「大和さんは八時ごろでないと帰りませんが」
「連絡はつくだろうが」
「じゃあ伝えておきますが、あなたはどちら様でしょう」
「名前は言えねえが、沙織を誘拐したものだ。九時にまた電話するから待ってろと言っておけ」
「電話は切れました。これで良かったのですか」
「ああ、上出来だ。ああ、もしもし、鎌田さん、今電話が来ました。そちらはどうですか
」
「ああ、静かなもんだ。ただ、この倉庫は入り口が一つで、鉄製で頑丈だから破れねえ。金の受け渡しが唯一のチャンスだろう」
「零時に五億持っていくことになった。内部の様子とか、人数とかは分からねえのか」
「難しいな。広いからどの辺にいるのかも分からねえ」
「じゃあ金持って行くから宜しく」
倉庫に着くと鉄の扉を叩いた。中から扉が開き、外を見回した。
「誰もいねえな。おかしなことをすると人質の命はねえからな」と言って中に引き入れた。
「おい、金はどうした」
「車に積んである。あんなにたくさんあるんだ。俺じゃあ、運べねえだろ」
「それより女は無事か。会わせてもらおう。怪我させてねえだろうな」
「おい、トランクにカギがかかっているぜ」
「そりゃあ当たり前だろ。無事かどうかも分からないで、金を渡せるか」
「おい女を連れてこい」
「沙織、無事か」
「私は何ともないけど」
「今そっちへ行く」
「ちょっと待て、トランクのカギを渡してもらおうか」
「いいぜ、ほら」と言って、ボスらしい男の前にカギを投げた。
「その間に詩織の所へ行って、ロープを解いた。
「さあて、お楽しみの時間だ。おうい、鎌田さん良いぜ」
「突撃」の声に十人程の警官がかけり込んできた。
「騙したなあ、汚ねえぞ」
「全員逮捕したか」
「全員確保しました」
「では連れて行け。沙織さんも事情調書を作らなならんので、県警まで来てもらう事になるが、良いかな」
「分かりました」
「疲れている所すまんな」
「それにしても警察の動きが早すぎて、驚いているんだが」
「それは鎌田さんが」それを制して
「警察の事情を話すわけにはいかん」
「そりゃあそうだ。だが、今回の事で、鎌田さんを見直したぜ」
「まあ、実力を出せば、こんなもんよ」
「何はともあれ、鎌田さんには恩に着る。何か俺に出来る事があったら言ってくれ」
「まあ、いいってことよ」と、三人は警察の車に乗り込んで、帰って行った。
(20)目はうつろで口は半開きのまま
「お邪魔しますよ」と言って中へ入った。
「どちら様でしょうか」秘書が答える。
「先生に高橋が来たといってくれ」
「面会の予約はされているでしょうか。私どもは聞いていないのですが」
「取り次がないで私を返したら、あんた首になるよ」
「少々お待ちください」少しして
「第一秘書がお伺いするそうです。こちらへどうぞ」
「面倒だな」と言って着いて行く。
応接室に通されたので、ソファーに腰を掛ける。初老の男がやってきた。
「第一秘書の竹田でございます。今日は先生にどんな御用で参られましたか」
「こいつらの前で話してもいいのか」
「あなたたち、外へ出ててください」
「竹田さん、危険です。こいつ、何をするか分かりませんよ」
「何をするか分からないのはあんたたちなんだよ。今日はそのお灸をすえに来たんだ」
「良いから出てて」竹田が強く、低い声で言った。皆はしぶしぶと出て行った。
「で、御用は」
「横浜ふ頭の件と言えばわかるかな」
「あれは彼らが勝手にやったこと、先生には関わりがありません」
「文屋さんがそれで納得してくれればいいですけど。何せ刑事が聞き込みに来るでしょうし。早く法務大臣か、官房長官に泣きつかないとレポーターが来ちゃうよ」
「お前が説きつけてるんだろうが」
「またまた、私にそんな力はありませんよ」と言って笑った。
「で、どうするんです。官房長に頼ると、借りを作っちゃうでしょう」竹田は黙っている。頭の中は高速で回っているのだろうが、どこに借りを作るかだ。悪いことに、法務大臣は他の派閥だ。その時、部屋でノックされた。
「竹田さん、警察の方が来られましたが」
「入ってもらってくれ」私が言うと、竹田が慌てた。
「隣の部屋に待たせておけ。で、どうしろと」
「またまた、恐喝の種でも作ろうというの」
「どうすれば」
「そうねえ。片手ぐらい奥さんが揉んでくれたら、痛みは和らぐんですがね」
「分かりました。またこちらから連絡します」
「ではいい返事を待ってますよ」と言って部屋を出た。隣の部屋のノブを回して顔をのぞかせて、
「鎌田さん、珍しい所で会いますなあ。国家権力で、善良な市民を虐めちゃだめですよ。いや、こちらも国家権力か。でもこちら人気商売なんだから、お手柔らかにね、じゃあお先に」というだけ言ったら帰って行った。
鎌田は竹田と話したが、何も進展はなかった。
「どうせ上からストップがかかるだろう」と言って、鎌田は大きなあくびをした。
「そう言えばおふくろさんの件はどうなった。やはり山梨に帰るのか」
「それですけど、大丈夫みたいです。ちょうど予約の空きが出て、そこに入り込めそうなんですよ」
「その老人ホーム、二年は無理だと言われていたんだろう」
「そうなんですけど、急に連絡が来て、入れることになって」
「お前、裏からなんかしたか」
「馬鹿なこと言わないでください。ちゃんと定期な入会金も、入所料も払いましたよ。ただ運が良かったんですよ。向こうの方もそう言ってましたよ」うれしそうに涼太は言った。
(21)しなやかでセクシーで
「奥様、お願いがあってまいりました」
「あれ、大和、えらい改まって、どうしたの。大和のお願いを断るわけがないじゃない」「ちょっと問題がありまして」
「聞いているわ、大変だったわねえ」
「沙織も、明るくは振舞っているんですけど。ちょっとね」
「あれ、大和、意外と優しいんだ」
「茶化さないでくださいよ。それで息抜きを、いや、気分転換をさせてやりたいんですよ」
「気分転換ねえ」
「ハワイなんかどうかと思って」
「分かったわ。私が引率してあげる」
「本当ですか。助かります」
「どんと任せて。で、他のメンバーは」
「頭んとこの姉さんと内のはねっ返りと若いのを二人」
「男はだめよ。旦那が許さないから」
「もちろん女です。それでは来月中ごろ。十日位は開けても大丈夫ですかね」
「ええ、良いわ」
「じゃあそれで予定を組んできます。あ、忘れてました。これ、年度末という事でいつもの」
「有難う。頂いておくわ」
「ではこれで」と言って大和はお暇をした。
鎌田崇は山梨にいた。珍しく非番で旅行にでも着ているのか、一人であった。甲府駅で降りて、タクシーで行き先を告げた。着いた大きな建物の看板には介護付き有料老人ホーム、あかり苑と書かれていた。
「事務長さんに会いたいのだが」と言って面会を求めた。事務長はすぐに現れた。
「どんな御用でしょうか」ニコニコしながら聞いた。
「ちょっと込み入った話なんだが、じっくり話せる場所は有りますかな」
「じゃあこちらにどうぞ」と言って応接室に案内した。
「佐久間さんが入院しているはずだが」
「ええ、おられますよ。それが」
「予定では二年ほど後になると聞いたんだが」
「急に空きが出来て、ちょうどすぐ入れるのが佐久間さんだったので、連絡して入居という事になりました」
「じゃあ、その前の予約者には全て連絡されたと」
「連絡は入れていません。すべての方の事情は聞いていますので、後は私の判断で」
「その判断に左右されたものはないと」
「何が聞きたいかおっしゃってもらえないと答えようがありません」
「例えば、金が動いたとか」
「賄賂ですか。そういう事はありません。それに、賄賂を出すくらいなら、もっと高い所に行けばいいだけですから」
「それはそうですよね。ところで高橋企業コンサルの方がこちらを訪ねていると思いますが」
「ああ、高橋さんなら来られましたよ。何でも今度横浜に老人ホームを作るのに、うちを見本にしたいと。まあ全国から見学に来られますから」
「寄付とかは」
「受けましたよ、個々のシステムとかいろいろ提供するのに、寄付先からと言えば、提供し易いですから。別に違法じゃないですよ。後ろ暗い事もありませんので、帳簿にも出してありますから」
「その帳簿を見せてもらっても」断られるかと思ったが、
「よろしいですよ」と言って見せてくれた。殆どは無くなった入所者からであるが、桁が二つ違っているものがあった。寄付元は高橋コンサルとあった。税務署が調査しても、幹事長やら、有象無象が関わっていて、最後は利益なしになるシステムになっているのだろう。
「いえいえ、何かあるとかじゃないんですよ。何んと言っても大物総会屋の元社員だったもので。何かあるのかなと思っただけですよ。ではわたしはこれで、お邪魔しました」
「邪魔するよ」
「あら、大和さんお久しぶり。ママ、大和さんですよ」
「おお、大和、何用だ。緊急か」
「あんたじゃない、ママに用があるんだ」
「今回は大変だったな」
「だからママに頼みがあって来たんだ」
「大和、冷たいぞ、俺に頼めよ」
「頭、酔ってるの」
「早くから来て飲んでるの」
「何かあったのか」
「あったって。あんたに会長を取られたって」
「なんで、奥さんならともかく、あんなゴツゴツしたのなんていらないよ」
「大和さん、こいつ何とかして、」
「こいつはどうでもいいの。ママ、来月店休めない」
「休んでどうするの」
「聞いていると思うけど、気分転換にハワイでも行って来たらどうかと」
「メンバーは」
「姉さんとママと、うちの二人と、あのチビ二人も行き詰っているみたいだから、あいつらとで、六人で」
「結構大勢なのね。ツァーみたい」
「まあ、引率者かな」
「大和さんの頼みじゃ断れないものね」
「店はジャンジャン客連れて来てやるから心配しないで」
「心配なのは店よりこいつ」
「大丈夫、何ならバーテンダーでもさせる」
「頭に、ビール持って来いなんて言えない」
「こき使ってやりゃあ良いんだ、って、菜々ちゃんまだ働いてたの」
「ここが一番気が休まるから。それに楽しいし」
「そうよ、一番若手なんだから、引き抜いちゃだめよ」とみんなが笑った。
「それでどうかな」
「良いわ、その間は七海に頼むわ。いい」七海にきくと、七海は頷いた。
「じゃあこれはママの借り賃だ」と言って、一千万の束ねられた束を出した。ママが、
「有難うございます」と言って受け取った。
そこへ刑事の鎌田が現れた。
「何んとここは景気がいいな」と言って、隣の席にドカッと座った。
「今日はお一人で」
「ああ、今日は俺は非番なんだよ」
「それは御愁傷さま」
「何かは分からないが、山梨の事は有難うよ」
「いえ、よくご存じで」
「いや、それだけだ。またな」と言って出て行った。
「何だいあれは」
「何でもないよ。では沙織のこと頼むね」
(22)だから私は音楽を辞めた
「お前、ちょこちょこ、何やっているんだ」鎌田が、菜月に聞いた。
「実は、私の育った施設が潰れそうなんです」
「あかり苑だろ。市の施設じゃないのか」
「いいえ、市から補助は有りますが、基本は親がいれば親に請求が行きますが、後は寄付で賄われているんです」
「だったら、補助金を増やしてもらえばいいだろ」
「市も予算が無いと、逆に減らされているくらいで」
「他の施設はどうやっているんだ」
「ボランティアさんと色んな催しをして、寄付を集めるんですけど」
「そんなんで寄付が集まるんかい」
「大抵は百円だから、百人集めても一万円。手間がかかる割には金額は大した事は無い」
「そうだろうな。俺も年末の寄付だって、百円しか出したことが無い」
「何十万単位のお金が必要なのに、集まるのは数万円」
「他に何か金集めの方法はないのか」
「あったらやってますよ」
「まあそうだろうな」
「最近は親がいない子供より、虐待されている子どもなどが増えてて」
「今子供の虐待や、面倒をみない親が問題になっているもんな」
「どこかにドカッと寄付してくれる人いないかな」
「まあ気長に頑張りな」
「寄付をしたいと」
「手続きとか」
「いえ、別に。現金とか、小切手とかをお持ちいただければ」
「じゃあ、これを」と言って小切手を出した。銀行小切手なので、問題はなさそうだ。
「じゃあ、領収書を発行して」
「金額は、ええーと」
「一千万、いえ、一億です」
「え、一億、一億ですか」
「はい、今できるのはこれくらいですから」
「税金の控除が出来ますので、これに住所とお名前を記入してください」と言って、用紙とボールペンを差し出した。
「ご寄附は、「特定寄附金」としてすべて所得控除の対象となります。法人(会社等)からのご寄附につきましては、特別損金算入限度額の寄附金として損金算入することができます。税額控除を選択されると所得税額が少なくなり有利となります。一方、所得税率の高い方は、所得控除を選ばれると還付額が大きくなる場合もあります。
寄附金控除を受けるためには、必ず確定申告をしてください。確定申告の際には当施設が発行した領収書、税額控除に係る証明書(写)が必要です。」
「分かりました」
「子ども達がより安心して安全に快適に過ごすために大切に使わせていただきます。どうもありがとうございました」
「新聞とかに話をしますか」
「貴方様の要望に従います」
「じゃあしないという事で」
「高橋様、分かりました。そうします」
「頑張ってくださいね、皆さんのご苦労を応援してます。では失礼して」男は去って行った。
「一億ですよ、一億。ある所にはある物ですね」
「そんなこと言わないの。銀行に連絡して取りに来てもらって」
「分かりました」
「ねえ菜月、あかり苑てあんたん所よね」
「はいそうですけど」
「大金を寄付して言ったやつがいるって」
「へええ、良い人ですね」
「一億だって」
「一億」
「何か犯罪の匂いがするでしょう。今、二課が動いているって」
「相手は」
「高橋何んとか」後ろにいた鎌田が身を乗り出してきた。
「高橋コンサルか」
「そうそう、それ」
「奴がどうして」
「高橋って、例の奴ですよね」菜月が言った。
「ええ、菜月、知ってるの」
「二課が何か言ってきますかねえ」
「まあ、そうだろうな。俺との関わりはすぐ分かるだろうから」
「でもどうしてですかね」
「高橋があかり苑と関わりなんて、聞いたこともないですよ」
「あかり苑の内情はどうなんだ」
「補助金も減らされて、銀行融資を頼んだって聞きました」
「取ったとか、強請ったとかなら分かるんだが、寄付してやつに何の得がある」
「可哀そうに思ったとか、知ってる人がいるとか」
「可哀そうかどうかは分からないが、身内か、知人が関係してるのは違いない。何んとか探れないか。調べておくか」
「内が動くと、、二課に怒られますよ。そうでなくても、縄張り意識が高いんですから、あそこは」
「関係が浮かんでこない。生まれもこっちじゃないし、総会屋の時もここには来ていない」
「四課が何か掴んでないですかね」
「世間話でちらっと聞いて来い。鎌田には知られるなよ。あれは凶暴だから、何をするか分からん」
「若い女に聞いてきます。これでも私は、若い女に人気なんですよ」
「くれぐれも気取られるなよ」
「分かってますよ」と言って四課の前の自動販売機の前で、菜月を待っていた。ちょうど出てきた菜月に、
「おお、菜月、元気にしているか。先輩に虐められてないか。四課はガラの悪いのが多いからな」
「そんな事もないですよ。皆さん、女には甘いですから」
「女に持てない男の集まりだからな。それはそうと、鎌田さん、高橋って男を調べてるだろう」
「鎌田さんと同じブ男なのに、女に持てるのが気に入らんとか言って」
「鎌田さんらしいな。何か情報が入ったら知らせてくれないか、晩飯おごるからさ」
「分かったわ。レストラン予約して待ってて」
「おお、頼りにしてるぞ」
「じゃあ」と言って帰って行った。
鎌田が陰から覗いている。菜月が部屋に入るや、腕を引っ張って奥に言った。
「奴は何か言ってたか」
「高橋さんの事、何か分かったら知らせてくれって」
「つまりは何も掴んでいないという訳か」
(23)派手な着物の恥ずかしがり屋
「姉さん、荷物持ちましょうか」
「お前たちが荷物は持ってやりなさいよ。ホントに気が利かないんだから」
「玲奈と、優花は二人だけで先に行かないの」
「詩織さんはお土産の買いすぎよ。店の子の買って来たんでしょう」
「私、肌が焼けちゃって、大丈夫かな」優花が言う。
「化粧でごまかせば大丈夫よ」
「組の車を回してきますからちょっとお待ちを」
「大輝さんごめんなさいね、運転手で使っちゃって」
「いえいえ、内のがお世話になって」
「早く荷物を積んで、行くわよ。乗って乗って」
「じゃあ姉さん。親父に宜しく。おい、安全運転で行けよ」姉さんの車を見送って、
「じゃあ、俺達も帰るぞ」皆車に乗り込んで、小料理屋によって沙織たちを下ろして、帰る予定だ。
「店は変わったことはなかった。それだけが心配で」
「こんなに長く空けた事は無かったからな。店の事なんか忘れて楽しんでくればいいんだよ」
「貴方は大丈夫だった。寂しくはなかった」
「何を人前で言ってんだよ。聞かれるだろうが」
「若いの二人は疲れて、寝ちゃったみたい」
羽田から横浜まで渋滞のため、思ったより時間がかかり、沙織たちも寝てしまった。
「実はな、どうも警察が動いている。旅行の前来ただろう」
「何か大和さんと話して、すぐ帰ったわよ」
「今は、二課が動いている。何か別件のようだが、何にしても何もしゃべるな。大和さんが何かある時は俺達が被らなきゃならない」
「何かとお世話になっているものね」
「俺達もだが、組が世話になっている。不甲斐ないが、大和がいないと組はやっていけない」
「ウフフ」
「何がおかしい」
「実は、うちの店も同じよ。それに、店の子がやっていけるのも、大和さんのボーナスのおかげ。だから、警察に売るような事は無いわ」
「まあ、大和さんの事だから、大丈夫だと思うけど」
沙織の家に着いた。
「沙織さん、菜摘さん着きましたよ。」荷物を降ろすのを手伝って、
「どうもお世話になりました。おやすみなさい」と言って別れた。
ふと見ると、優花たちも起きたようだ。
「優花はどうする。遅いから内に泊まっていったらどうだ」
「そうする」床は寝ぼけ眼で言った。
マンションについて荷を下ろしたら
「店に寄ってみるか」
「そうする。土産も渡したいし」
「じゃあ行くぜ」店まではすぐだ。
「いらっしゃい、ママ、いつ帰って来たの」
「只今、今着いたとこ。これお土産。チョコとか変な物より、こっちの方がいいでしょう」と言って小さな小箱の入った紙袋を三人に渡した。
「ねえ、開けてもいい」明日香が聞いた。
「いいわよ」詩織は言った。細長い小箱な中にはネックレスが入っていた。
「七海にはイエローゴールド、明日香にはホワイトゴールド、菜々子にはピンクゴールドにしたの。新作ジュエリーよ」
「ママ、素敵。付けてみてもいい」三人は首に付けてお客に見せて回っている。
客の中にお節介な者がいて、ハワイの店は高いが、ネットで買えるといって、調べると、同じ商品が百二十万と出ている。それを見て客が騒ぎ始めた。
「ママ、これ」
「そうよ、みんな頑張ってくれてるもの」
そこへ大輝が車を置いて店に来た。
店の中で騒ぎが起きているのを見て菜々子に聞いた。
「どうしたんだい」
「ママのお土産がすごい高いもので」
「幾らだ」
「百二十万」
「そりゃあ良かったな。それだけみんなの働きを評価しているということだ」
皆が大輝を見ている。
「それで何か問題があるのか」
それを機に雰囲気が戻った。
「じゃあ、私は家に帰るから、皆後お願いね」と言って、大輝と店を出て、車で帰った。
マンションに帰ったら、玲奈たちはまだ騒いでいた。
「まだ寝てねえのか」
「勝手でしょう。それに、女性の部屋を勝手に開けないで」
「俺んちのドアを開けて何が悪い」
「お姉さんちでしょう」
「もう、ほんとに、口では勝てないな」
「鎌田さん、聞きました」
「何騒いでるんだ」
「例の件で二課がストップがかかったって」
「どこからだ」
「分かんないすけど、上から、事件性も無いのに関わるなって」
菜月がやって来て
「鎌田さん、課長が、高橋コンサルには関わるなって言ってましたよ。何かあったんですかね」
「俺は何もしてねえよ。菜月、お前だろうが」
「私が何したって言うんですか。ずっと鎌田さんについているだけじゃないですか」
「鎌田さん、一人で何してるんですか。教えてくださいよ。鎌田班じゃないですか」
「だから、何もしてねえよ」
「どこへ行くんですか」
「どこも行かねえよ。ちょっとたばこだ」




