第四章 こんな時代だからこそ
(14)甘美な罠が獲物を狙う
「ごめんよ」と言ってドアを開けてどやどやと入ってきた。
「どなたですか」沙織が答えた。
「こちら高橋企業コンサルで宜しいか」
「はいそうですが」
「我々は神奈川県警の鎌田だ」と言って警察証を見せた。
「同じく佐久間だ」同じように警察証を見せる。
「同じく上野です」同じ動作をする。
「警察の方が何の御用でしょうか」
「高橋はいるか」鎌田が椅子に座りながら言った。
「出かけておりますが」
「何時頃帰るかね」
「さあ、何も言わずに出て行かれましたから」
「どこへ行ったかも分からないかね」
「どこかの喫茶店でウエイトレスを口説いているんじゃないでしょうか」
「仕事じゃないのかね」
「若い女を口説くのが仕事だと思っているような人ですから」
「そんなんで儲かるのかね」
「あの人は好きでやっているので、儲かるからやるのとは違うと思いますよ」
「相当稼いでいるという噂だが」
「噂と云うからには、誰が誰に言ったのでしょう。警察の方が言うには分かっておられるのでしょう」
「そう言われると困るのだが」
「つまり、鎌をかけたと」
「ますます困ったぞ」
「困っているようには見えませんけど」
「作戦が読まれていて、手も足も出ん」
「良い作戦がありますが」
「ほう、どんな」
「その後ろの方、あなた彼を飲みにでも誘って、直接聞かれてみては。案外素直に答えてくれるかも」
「なる程美人局か」
「ハニートラップです」女が言う。
「どう、良い作戦でしょう」
「罠にかかってくれる保証が無い」
「100パーセント掛かる罠なんてないでしょう」
「それに、彼女にハニートラップを掛けろとは言えない。どう考えてもパワハラだ」
「では、自由恋愛という事で」
「それは売春をごまかす時の物だ」
「じゃあどうします」
「まあ、今日は出直すとしよう。おい引き上げるぞ」と言って帰って行った。
「お構いもしませんで」
「いや、お気遣いなく」女が言ったが、
「お気遣いされませんで」と鎌田が言った。
「そこの喫茶店に入ろう」と言って中に入った。
「どう思う」水を飲みながら鎌田は二人に聞いた。
「どうって、何がですか」佐久間は聞いた。
「先輩が高橋の何に引っかかっているのか分からないのですが」
「どう見ても沙織の紐でしょう。」女が言う。
「紐なのに二人に好かれている」
「紐ですから、好かれなきゃ小遣いにならないでしょう」
「遠藤組の若頭の吉田ともあちこちで飲んでいる」
「チンピラですから、たかっているのでしょう」
「遠藤会長にも時々会っている」
「その辺の小物にこんな真似はできない」
「取り入るのがうまいだけでは」
「そういう奴は、蔑まれているか、下っ端には嫌われている。それが、悪くいう奴がいない」
「でも、犯罪に関わっているという話も聞きませんよ」
「最後の手段しかないか」
「最後の手段って何ですか」
「さっき、女将が言っていたろう。菜月、お前ハニートラップを仕掛けろ」
「何を言うんですか。無理です」
「大丈夫だ。おまえは顔が良くて、スタイルも良い。絶対ひかかる」
「警察がそんなことしていいんですか」
「大丈夫だ。奴はすぐ見破るだろう。だが、そこで奴は、知っててかかった振りをすのかどうかだ」
「どういう事ですか」
「こっちから仕掛けて、奴に迫られたら、菜月はどうする」
「どうするって」
「成り行きに任せて、そのまま抱かれるか」
「そんな訳ないじゃないですか」
「じゃあ、ハニートラップでしたってばらすか」
「だから私には無理です」
「だよなあ。刑事にしとくにはもったいない美貌なんだがなあ。それに、その武器を使う気もない」
(15)三度の飯より風呂が好き
「今日、警察が来ましたよ」沙織が言った。
「お前ら、何かやったのか」
「何言ってるの、あなたでしょう」
「俺があ」
「なんか、がっぽり儲けているとか」
「儲けている訳ないだろう。遠藤会長に幾ら上納してると思っているんだ」
「幾らよ」
「なんだかんだで十億位は行ってる」
「それで姉さん大事にしてくれているのね」
「そろそろあそこ、」
「縁を切るの、寂しくなるわ」
「そんな訳ねえだろう。大輝もいるのに」
「じゃあ何なの」
「姉さんの小遣いが無くなるころだ」
「姉さん、美人だものね。美人総長」
「何々、あたしの事、噂してる」
「あんたじゃないよ、久美子姉さん」
「初代かあ。あの人には勝てない」
「しかし何で警察が」
「どこかの女に手を出したとか」
「商売にもならないことはしない」
「女に手を出したくなったら私に言って。只でいいからさあ」
「何、馬鹿な事いってるの。」
「ごめん、私はお姉の次でいいから」
「会長ご無沙汰です」
「おお、大和、暫く顔を見んかったがどうしてた。なんか悪だくみかあ」
「滅相もない。真面目一方のこの私が、何で悪事をするものですか」
「そう言えば、頭んとこの若いの連れて、ハジキの練習してきたんだってな。誰かやんのか」
「そうじゃないですよ。拳銃で狙われた時、慣れてないと動けないでしょう」
「なあんだ。安藤の野郎でも狙うのかと思ったぞ」
「そんな物騒なことしませんよ。そうでなくても最近デカがうろついていますのに。そうそう先にお土産渡しときます」旅行鞄を出した。
「いつもすまんな」
「それと会長にお願いがございます」
「なんだ。わしに出来る事ならいいぞ」
「そろそろ年度末。花見を兼ねて、組員総会というのをやりましょう」
「何だそりゃあ」
「今年の商売はこうでした、来年度も頑張りましょうとかいうやつです。普通の会社の、株式総会というやつです。」
「そりゃあ無理だ。そんな事をすれば警察に目を付けられるし、そもそも場所が無い」
「宣伝を兼ねて、今回は酒、料理、全て無料で、用意します」
「何が狙いだ」
「錆びれた温泉村がありますが、良い所なんですよ。でも客が来ない。それを利用したいと思うんですよ」
「まあ金がかからず、組員も喜ぶならわしは良いぞ」
「では、計画を練ってきます」
「村長、どうするんですか」
「限界集落のこの村をどうにかしようというのが不可能だ」
「道路を直そうにも金が無い。年寄りの世話も老々介護でどうにもならない。企業が無いから、若者の移住もない。」
「出来る事が何もない。消えていくだけの村。各地の集落も消滅集落化している」
「集団移転を計画を勧めるしかない」
「そこにこんな計画に賛成しろって、どうするんですよ」
「村長の決断で方針が決まるんですよ」
「始めは学校を使いたいから修理してもいいかだった」
「次は食事を作りたいから、給食室の手直ししてもいいか」
「次が、どうせなら泊まれるようにしたいと」
「別に問題は無かろうと許した」
「簡単な仕事を回してくれるようになった」
「結婚式をやりたいからお手伝いできる人をというから、人を集めたら、皆黒服で、警察の人かと思った」
「それがヤクザだった」
「都会で仕事が無い人、人付き合いが出来ない人、田舎に住みたい人が集まってきた」
「都会でバッチとかブローチとか作っていた人が、今、組のバッチを作ってる」
「会員証とか、身分証明証とか作ってる人もいる」
「そうしたら派出所が出来た」
「なんか、内職も増えて」
「来週には新年度組総会が開かれる。それに警察が大勢来る」
「田舎のお握りとか、うどんやカップラーメンまで売れる」
「それどころか、タケノコや、土筆、山菜まで売れる」
「こういうのをバブルっていうんだ」
旧学校の運動場に遠藤組の組員や家族が集まっている。
「この後、お風呂を頂いて、宴会となります。ここの従業員は素人の方ですから、クレーム一回に付き一万から五万の罰金となります。暴力については組長からの注意から、重い物は破門という事もありますので、気を付けてください。それと今回は、他のお客様もいらっしゃいますので、ご注意ください」
順番に部屋に入って、荷物を置いてから、風呂に行く者や、周辺の散歩に出る者。
派出所も十人体制で気を張っている。
「売店に行ってみるか」
「こんな田舎に何があるの。見に行くだけ無駄無駄」
「これ、組の黒バッチと銀バッチがあるぜ。身分証まである」
「黒が五万で銀が二十万。ちょっとまた、奥にあるのは金バッチじゃねえか。なに百万か」
「おい、兄ちゃん、これ本物か」
「裏を見ると点が打ってあるでしょう。これを見て頑張りましょうっていうバッチですよ。失くした時の予備にもなるし。但し、金バッチは組長の許可証が要ります」
「俺、黒一つ」
「じゃあ俺は銀一つ呉れ」
「毎度ありイ」
「おい、あれ」
「ありゃあ駄目だ。あれに手を出すと破門だ」
「だよなあ。残念」
「あんたら何よ、じろじろ見て、気持ち悪い。」
「無視しろ、イケイケ。」
「何無視してんのよ」
「いや、ごめんよ」
バチン
女は男を思いっきり叩いた。
ちょっとよろめいたが、
「すまねえな」と言って風呂の方に歩いて行く。
「芽依、どうしたのよ。相手はヤクザよ。何かあったらどうするの」
「分からない、けど、まだ震えているわ」
「とにかく部屋に帰りましょう」
「今の一発で、迷いやらが吹っ飛んだ」
「昨年は逮捕者もなく、無事、一年を過ごせました。一重に皆様の努力の結果でございます。では会長に一言お願いします」
「まあ、何だ、皆もよく頑張ってくれた。そこで、功労者として、大和と、大輝に金バッチを与える」
「ちょっと会長」
「何だ大和」
「私は組員じゃないんですから貰えませんよ」
「そうなのか、じゃあ大輝」
「有難うございます」
「それと、井上健太、近藤拓海、金子達也 。三人には銀バッチを与える。大事にするように」
「有難うございます」
「どうしよう、俺、売店で買っちゃったよ」
「普段は買ったやつ付けて、余所行きの時は本物を付ければいいんだよ」
「ああそうか」
「では頭に乾杯の音頭をお願いします」
「分かった。皆さん乾杯の用意は宜しいでしょうか。では組の繁栄を願って、乾杯」
「カンパーイ」
「じゃあ、俺、菜々子の所へ行くから」
「じゃあ、俺、あゆみが待ってるから」
「姉さんグイっと一杯。」
「ねえねえ、こんなに派手にやって大丈夫なの」
「大丈夫でしょう。だって、隣は警察ですよ」
「だから、なんでわざわざ警察の隣にしたのよ」
「違いますよ。村と話して許可を取って、旅館を開業したら、警察が来たんですよ。それも、警察立ち寄り場所って指定されちゃって」
「悪い事さえしなけりゃ、大丈夫ですよ」
「何考えているのやら」
「ではそろそろプレゼントの時間ですよ。これは十八歳以下が対象のゲームです」
「並んで並んで、はい、カードを位枚ずつ取ってください」
「では一番の方から、カードに番号が書いてあるでしょう。何番でしょうか」」
「12番」「12番は大当たり、会長賞です。商品は、スマホに1年間の使用料付。はい取りに来て。次は誰ですか。」
「8番」「8番は特別賞。野球のボールとバットと、グローブセット。はい取りに来てください。次の方はどなたですか」
「1番」「1番は奥様賞です。図書券5万円分。どんだけ本が読めるんでしょうか。取りに来てください。はいどんどん行きますよ。」
「6番」「6番は、んーとノートパソコンです。その次の方」
「3番。」「3番、ええと、何ですかねえ。箱の中身はなんだろなっと。なに、これ」
「画材セットだと思います」
「何それ、まあいいです。次」
「11番」「11番はこれはでかい物ですね。何でしょうか。自転車ですねえ。あなた乗れるの。え、乗れないの、練習する、頑張ってね」
「5番」「5番は、1等賞です。またでかい箱ですねえ。中身は天体望遠鏡ですねえ。頑張って、宇宙の勉強してください。未成年者の方は飲み物と食べる物を持って、部屋に引き上げても良いですよ。次奥様方は、姉さんの前に並んでください。ご苦労賞として、金一封が出ます。それをもらったら部屋に引き上げても、ここで飲んでてもお好きなように、どうぞ」
井上健太と近藤拓海と金子達也の三人は少し飲みすぎたようで、ベランダの椅子に座っていた。
「一年前には考えられないよなあ」
「そうだな。上納金が稼げず、頭も姉さんから金貸してもらって、組長が稲田会長から仕事を回してもらったけどうまくいかないし、にっちもさっちもいかないで困ってた時、大和の兄貴が現れた。今考えたら、お助け神だった。」
「うちのあゆみも愚痴ばっかりだったのに、最近じゃニコニコ顔だぜ」
「その点、菜々ちゃんは大人しいし、可愛くて、運が良いよな」
「お父さんのとこに行っても、すげえ良くしてくれてさ、困っちゃうよ」
「何が困っちゃうよだ。兄貴がいなかったら、お前に嫁なんか、来てはねえよ」
「うん、そうだと思う、だって、彼女が出来たことなんて無いもの」
「あら、さっきのお兄さん」
「「何だおめえらか。心配しなくてもおめえらに手を出したりしねえよ。こっちも、嫁と一緒なんだ」
「さっきは御免。実は、東京で男に騙され、商売やってたのも、潰れちゃって、イライラしてたの。ホントに御免」
「これからどうするんだ」
「彼女に、一緒に死のうって言ったら、嫌だって言うし」
「こんな美人が死ぬ事は無いだろう」
「借金は残ってるし、部屋代もないし」
「おい、お前ら、浮気してると母ちゃんに言うぞ」
「大和の兄貴か、脅かさないでくださいよ。これこれで、行くとこが無いって言うし、相談に乗ってたんですよ」
「本当に行く所が無いの」
「多分帰ったら、借金取りが待ってるし」
「幾らくらいあるの」
「5百万位」
「ちょっと待ってて」
「ここに一千万あるから、清算していらっしゃい。で、後はここで働きなさい。その気があるなら村長にも話しておくけど、どうする」
「そんな大金貸してもらっても、返す当てもないし」
「まあ、二人でじっくり話し合ってごらん」
「自分たちは地獄にいると思っているかもしれないが、大和の兄貴がこうしたらと言って不幸になったやつはいない。まあ、風呂にでも入って、じっくり泣いて来い。そして立ち上がれ」拓海が、笑顔で言った。
(16)夜が深まるほど君は素敵に
「旅館大平館を基盤に地域活性化事業を展開していくうえで大事なのは新しい人材だと思うんです」石川芽依と村上彩香が新しく地域振興会役員に着任していた。
「この村に有る物を使って、有能な人材に新しい事業を展開するお手伝いをすることが大事なんです」
「使える空き家も、物置も作業場もある。持ち主との連絡は、私たちでやればいいんです。やりましょう」
「焼き物、彫刻等の芸術系、野菜、果物、酪農品のブランド化。動物、魚類の養殖。やりたい人の法的、資金的の協力をすることで、夢はどんどん広がります」
「今日は新人を一杯連れてきたぞ」大和が芽衣に言った。
「画家 斎藤早紀、バイオリン制作 千葉和彦、漫画家 酒井彩花、ぬいぐるみ作家中山美咲、山菜料理家 藤原晃、魚類養殖 鈴木直人、宜しく協力を頼む。皆、有力な新人だ」
それぞれに家と作業場が与えられた。
急に新人が増えたことで、仕事が回らなくなり、旅館を彩香が、新人を芽衣が世話係と、手分けすることにした。
「大輝、分かったか」
「ああ、奴は結婚詐欺師だ。今も五、六人と付き合って騙そうとしている」
「やはりな。相当騙しているんだろうな」
「コックだというのも、店を持っているのも、本当だが、店は赤字だろう」
「博打で取り上げるのが手っ取り早い。」
「それじゃあまたやるだろう。懲りさせないと」
「さすが一誠さん、持ってる人は違いますねえ」
「こんなもの、丁か半かの二分の一だ。簡単だよ。次は大きく賭けるよ」
「また勝っちゃいましたよ、何て憑いているんだ」
「お前も賭けちゃあどうだ」
「とっくに負けて、スッカラカンダ」
「情けねえな。ほらこれやるよ」10万を男に渡した。これまで、五百万は勝っているだろう。気が大きくなり、掛け金が百万単位になってきた。
「さあこれでどうだ」勝ち金全てを賭けた。だが初めて反目がきた。彼はここで止めるべきだった。しかし一度負けただけだ。掛け金が多いから、一千万借りたが、すぐ無くなった。
「一度勝てば元は取り返せる。賭博の負けは賭博で取り返す」ここまで来たら止められない。負けはとっくに億を超えている。
「一度精算してもらわないと、これ以上は貸せません」賭場の男が言う。
「大金を持って歩いてる訳ないじゃないか。こんな金なんて無いよ。」
「じゃあ、この借用書に名前を書いてもらいましょうか。ああ、拇印でいいですよ。何時取りにまいりましょうか」
「何時ったって、そんなに簡単には用意できませんよ。暫く待ってください」
「そんなには待てませんよ。では連絡を待ってますから」
「洋子さん、事故を起こしてしまって、どうしても一千万必要なんだ。お願いだよ、幾らでもいいから」
「あなたのこれまで幾ら貸したと思っているの。いい加減にしてちょうだい。」
「ごめんください」
「ああ、裕子さん。どうしてここに」
「貴方が呼んだんでしょう」
「ちょうど良かった。裕子さん事故でお金が必要なんだ。一千万程用意できないかな」
「貴方これはどういう事、この人はだれ」
「黙れ、金が用意できない者はこれまでだ。とっとと帰れ」
「ごめん下さい、一誠さんはいらっしゃいますか」
「麻衣子まで、どうしてここに」
「この女は誰、どういう事か説明してちょうだい」
「これって、結婚詐欺なの」
「私のお金返してちょうだい」
「私は二千万出してるのよ、二千万」
ドアが開いて、数人の怖そうなお兄さんがやってきた。
「金を返してもらいに来たぜ」
「昨日の今日で返せるわけないじゃないか」
「おい、金が返せねえなら、この店をもらうぜ。おい、権利書を探せ。一誠、ここに署名しろ。実印はどこだ。よし帰るぞ。では皆さん、ごきげんよう」と言って出て行った。
呆気に取られている間に、男たちはいなくなった。
「今回はえらく簡単でしたね」
「人を騙そうとしている奴は、自分が騙されるとは思っていないからな」
「店を始末したら、賭場の連中に5千万、お前たちが一千万ずつ、芽衣に五千万だな」
「はい、助かります。」
「おい、拓海、お前も結婚したらどうだ。それ位の金はあるだろう」
「へい、頭からも、同じこと言われました」
「まあ、お前たちの気持ち次第だからな」
芽衣と大和が向かい合って座っていた。
「要らぬお節介だけど、一誠から取り戻してきた」
「こんな金、いらない」
「そう言うな、汚い金でも、いざという時、人を助けられることもある。村の債券とか、基金とかにしてもいいし」
「分かった。使い方を考えてみる」
「最近変わった事は無いか」
「有機農法とか、それで育てた鶏とかをやりたいって人が最近増えてる。でも、普通じゃないやり方って難しいのよね。それから、ナマズの養殖とか、ジャンボ田螺とか、変わったことやってる人が増えてるわ」
「ナマズとかうまいのか」
「食べたことないから分からないけど、田螺は蝸牛よりましだと思う」
「お前に変わったことはないのか」
「私、斎藤さんの絵のモデルをやっているのよ。自分じゃない自分を見ている気がする。なんか新鮮な感じ」
「他人を助けている時が一番充実しているものだ」
「大和さんかっこいい」
「茶化すな。まあお前も頑張れよ。まあ、モデルやってるところも見たかったけどな」
「残念でした。ヌードじゃあないですよ」
「それでも画家に描きたいと思わせる魅力があるんだろ」
「それならいいけど。」
「でも最近のお前は輝いているよ」
「有難う」
(17)もっと強く抵抗できていれば
「登校拒否の生徒を集めた、特殊学校をやりたいんですけど」
「村長、何かお願いがあるって来てますけど」
「私はこういう者ですが、ここに新しく義務教育学校の設立をしたいと考えております。対象児童は、もちろんこの村の子供も含めて、都会でやっていけない者を対象に全国から集めて、開きたいと思うのですが」
「ちょっと待ってください。担当者を呼びますから、石川君に連絡を入れて、至急こちらに来てもらってくれ。すぐ来ると思いますから、しばらく待ってください」
芽衣がやってきた。
「急ぎの用事って何ですか」
「こういう方が来られているんだが」北村友美と名刺には記されていた。
「こちらに空いている校舎を使って学校を開きたいと思ってます」
「どういう種類の学校ですか」
「学校にいけない子を対象に、義務教育の学校で、小中高を考えています」
「まず、こちらに住所を移して頂きたいと思いますが、宜しいですか」
「学校許可はこちらの教育委員会になりますが、宜しいでしょうか」
「その辺は村長に動いて頂きますし、校舎は旧中学校、体育館も小さいけどありますので、現児童数が、12名いますので、合併という事ですと、補助も少しですが出ますので、出来れば来期に間に合うように手続きして頂ければ、どうでしょう」
「それはこちらも願ったりかなったりで」
「急ぐ方は、すぐに転入でもいいですよ」
「はいありがとうございます」
「町長と検討の結果、先生免許取得者の退職者を採用し、体験学習の拡大で、農家や、若い芸術家の協力、転入児童は基本、寄宿舎で生活という事でお願いしました」
「議長、議会の方は良いかね」
「既に話が通してあります」
「付近の地域の方の協力は」
「喜んで協力するそうです」
「先生は今、小学校が2名、中学校が1名、計3名ですが、小学校1名、中学校1名の2名増やして全部で5名でやって頂くという事でお願いしましょう」
「村長、新聞社から、日展に入賞した斎藤早紀さんにインタビューをしたいんですがと、問い合わせが来てるんですけど」
「住所を教えて置けば、勝手に行くだろう。そんなことまで、わしに聞くな」
「テレビ局が撮影に来ても良いかと、問い合わせが来てますが」
「斎藤さんの事だろう。勝手に行けよ」
「いえ、鈴木直人さんって言ってますけど」
「鈴木って、鯰屋か」
「そうです」
「だから、勝手に行けよ。なんで俺に聞くんだよ」
「その場に、一緒にいてくれないかと」
「その為の石川君だろう。彼女に回せよ」
「村長、おお騒ぎになってますよ」
「今度は何だ」
「受け付けた石川さんが、絵のモデルだそうですよ。それで、テレビ局がいっぱい来て、上司の方って、村長ですよね」
「これはどうなってるの」
「村長、大変ですよ、石川君の絵、いや、斎藤さんの絵が、総理が見て、総理大臣賞にするって、テレビで言ってますよ。これってテレビ局が押しかけてきますよ。既に来てますけど」
何が何だか分からないけど、役場にまで押しかけてきて、てんやわんやの大騒ぎの末、台風は過ぎ去った。
「大騒ぎだったな、ご愁傷さま」
「そうですよ、私が描いたんじゃないのに、二人で並んでって」
「二人とも魅力的な若い女性だ。テレビもその変なおじさんより、若い女性の方は映えるだろう。」
「それだけじゃないんですよ。今、ウナギが高いでしょう」
「完全養殖が難しいらしいからな」
「ナマズって、肉質が似てるらしいんですよ」
「そうなのか、先々はかば焼きって言ったら、ナマズかもな」
「その二つのインタビューを私にするんですよ。」
「そりゃあそうだろう。担当広報だ。」
「広報なんか受けてませんよ」
「まあ、全部の担当だ」
「村長は逃げて、卑怯なんだから」
「俺でも、村長の汚い顔より、ギャルの方がいい。だいたいあの汚い顔を見ていたら気分が悪くなる」
「そんなこと言ったら、テレビで言ってやりますよ」
「そうだ、言ってやれ」
「大和さんが村長の悪口を言ってるう」
「それはまずいだろう」
「大丈夫。言いませんから」
「それは助かる。それはそうと、お前ら二人と、斎藤、酒井、中山と五人で組んだら人気が出るだろう。やってみればいいのに」
「酒井さんはそういう集まりに行ってるけど、中山さんは、作品が売れたことないって。才能が無いって自分で言ってる。」
「他の者の作品の隣に飾ってみればいいのに。売れるよ、絶対。そういうマネージャーとか、コーディネーターとかをお前さんがやればいいのさ」
「才能のある人は自分がヒロインじゃないと我慢できないのね」
「他人に乗っかるテクニックを身に付けなくっちゃ。でも4個ほど貰っていくけどいい」
「世話になってるやつと世話してるやつに」
「なによそれ。変なの」
「ママ、玲奈いるか。」
「いますよ。ちょっと待ってて」
「何、ママ」
「お、いたな。お土産だ。もしかしたら有名になるかもしれない、人形作家の作品だ」
「あ、可愛い」
「ああ、素敵ね。私も欲しいわ」
「ええ、ママも欲しいの。こんな不細工な奴」
「女の子は、こういうのが好きなの。もう一つは私が貰ってもいいの」
「駄目だよ。これは優花のだ。渡しておいてくれ」
「わかったわ。でも、おじさん、変な人に知り合いがいるのね」
「芸術家集団がいてさ、その中の一人だ。才能は有るんだけど、アピールが足りない」
「一個どのくらいするの」
「作家さんが一個ずつ作るんだから、十万単位だろう」
「貴方は、幾ら払ったの」
「いや、貰って来たんだから、只だ」
「おお、嫌だ。人には大金払えって言うくせに、自分は只なの」
「金よりも、環境とか、機会とか、アイデアとかを与えているんだよ」
「それより、絵を描いてるやつがいて、この度日展に入賞したらしいんだ。それで授賞式に行くんだけど、お前らどうする」
「私行きたい。そういうのに慣れてないといけないから」
「授賞式にか」
「私の歌が売れるかもしれないでしょう」
「まあ、そうだな。可能性はある」
「ママも一緒に行こう」
「私はそういう、晴れがましいのはちょっと」
「ホント皆、意気地が無いんだから」
「着ていく服もないし」
「服なんて買えばいいでしょう。ホント、金持ってるくせに、ケチなんだから」
「そうだ、そうだ、もっと言ってやれ」
「おじさんが一番ケチでしょう」
「俺はケチか。それにおじさんじゃない」
「おじさんじゃないって言う人はおじさんなの」
「玲奈には負ける」
「大輝、大平村の絵描きが賞を貰う式典に、玲奈とママを連れて行きたいのだが、着ていく服が無いとかいうんだよ。お前買ってやれよ」
「詩織はあまり派手な所には縁が無かったからな。それに俺がヤクザだから人前に行くのを嫌うんだ。」
「ヤクザの嫁なら、人がうらやむことをさせてやれよ」
「大和さんとこはどうするんだ」
「二人とも連れて行くぞ。応援団は賑やかな方がいいだろう。それに、こういう機会でもないと、洋服を買ってやる事もない」
「ちょっと気張ってやりますか」
「派手でなく、高級な奴がいい」
「鞄とか靴とかも」
「この際気張ってやるんだな」




