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第三章 艱難辛苦が飯のタネ

(10)信じられるは家族だけ

「二人ともちょっといいか。店は忙しそうだな」

「なあに、」

「そうでもないわよ。何か、手伝う事があるの」

「菜摘、お前、月に何日か、俺の秘書をやらないか。」

「いやらしい、秘書って愛人の事でしょう」

「何馬鹿な事を言ってるんだ。俺のそばで、パソコンを使ってる振りをしてくれればいい。お前は色白で、長身だ。黙ってればそれらしく見える」

「まあ良いわ。で、幾ら呉れるの」

「まあ待て。沙織、お前だが。俺の帳簿も頼めるか」

「別に構わないわよ」

「で、給料だが、月100万でどうだ」

「良いわ、決まり」

「じゃあ、タンス預金を見てもらおう」押し入れから段ボールを出し始めた。

「何よこれ」

「金だ」

「開けてみてもいい」

「良いぞ、どうせ今後は、沙織に管理してもらうんだから」

「ちょっと、幾らあるの」

「だいたい10億位だ」

「人が10円、20円て言ってる時に、」

「なんだ、10億、20億って、言うほど儲かりはしない。それに上納金とか配当金とか、そう言うのをケチると碌なことが無い。独り占めすると、恨まれたり、襲われたり、刺されたり、人が思うほど簡単じゃない」

「分かるわよ、分からないけど」

「じゃあ仕事だから、出かけてもいいか」上着を持って、さっさと出て行った。

「どうするのよ、これ」

「只の段ボールだと思ってたから平気だったけど、10億よ、10億」

「平気じゃいられないわね」

「とにかく押し入れに戻そう」


「おい大輝、お前拳銃は撃ったことあるか」

「ある訳ないだろう。そんな物があったら警察の抜き打ち検査で出てきたら、一発で組が潰れる」

「そうなのか、誰か撃った経験のある奴はいないのか」

「本家にはいるだろうが、末端の組員にはいないぞ」

「所で、逮捕歴とか、前科のいる奴はいるか」

「何人かはいるが、俺んとこはいない」

「それは良かった」

「誰か殺すのか」

「なぜだ」

「お前なら、邪魔者は殺せとか」

「俺は人殺しはしない」

「じゃあ何だ」

「訓練だ。拳銃の訓練をしておくといざとなった時、ビビらない」

「まあやってみたい奴はいると思うが、聞いて見るかい」

「どこでやるんだ」

「グァムで、元傭兵とか、軍事教官とかを雇って一月位かけて、本格的にやろうと思う」

「お前さんもやるのかい」

「俺はやらない。あんたと、手下が四、五人てとこかな。皆に予定を聞いておいてくれ」

「それと仕事の件だが、計画通りだ。準備を頼む」

「分かった。最終打ち合わせは、明日17時からで良いか」

「ああ、それで頼む」



(11)あるいは気高く挑発的な未来


ここは横浜港、倉庫街の一番奥の倉庫の裏。ライトを消して待っている。車が2台入ってきた。それでもまだ待っている。彼らの手前、50メートル位で、入り口の方向に向かって泊めて、ライトを消した。2,3分後にまた2台の車が入ってきた。先に来た車のライトが2度瞬いて、ライトが付いた。両方から2名の男が出て来てアタッシュケースを交換した。そこに最初の車が急発進で突っ込み、アタッシュケースを奪い取り、逃げる。慌てて他の車が追うが、逃げる車は右折、右折で建物の陰に停車した。少し前に同型の車が激走し、追跡の車をまいたようだ。あっという間の事で、何が何だか分からないうちに逃げられた。

「店に急げ」男が告げた。もう一人がスマホで電話をしている。

「予定通りだ。上手くいった。後は例の場所に集合だ」と言って切った。

「薬は海にまいておけ」


クラブしおりの前に男たちは全員集まった。車から荷物を下ろし、裏の駐車場に止めた。

「詩織、店を閉めろ」

「分かった」

「それと女は奥に行かせろ。飲み会は後だ」大輝が詩織に言う。

テーブルの上に置かれたアタッシュケースを開け、舎弟4人に1千万ずつ、大輝に2千万を渡した。女たちを呼んだ。

「例によってこれは使用料だ」と言って1千万を詩織に渡した。

「これはダンマリ賃だ」と言って、百万ずつ渡した。

「では祝賀会だ。出せるもの全部持って来い」ニコニコ顔で、女たちに言った。

「私、札束を持ったの初めて」一番年上の女が言った。

「うちで札束を持ってるのはママ位よ」

「私だって無いわよ」

「嘘ばっかり、前に多分1千万の束を無理やりバックに入れてたのを見たもの」

「あんたはいつも良く見てるわねえ」

「それはそうと、家の借金は減ってるの」

「何だ、借金があるのか」

「親の借金がね」

「お父さんが保証人になったばっかりに、大きな借金を抱えて。お父さんがやってた工場も、家も売って、それでも二千万位残っているのよねえ」

「二千万何て返せないわよ」

「お前、名前は何という」大和が聞く。

「山下菜々子 と言います」

「お前、恋人はいるか」

「いえ、以前お付き合いしていた人はいたんですけど。借金の事を聞いて別れたんです」

「おい、達也、どう思う」

「どうって、可哀そうだと」

「誰がそんなことを聞いてる。そうじゃない。お前が代わりに払ってやるとか、そんな気はないかって聞いてるんだ」

「ええ、私がですか」

「そうだよ。その代わり、菜々子、お前達也と結婚してやれ」

「そんな急に言っても」同じホステスの七海が言った。

「一生返せないだろ。それなら世界を変えてみろ。案外良い奴だぞ」

「わかりました。宜しくお願いします」

「達也、ここに1千万、後は頭に泣きつけ。可愛い舎弟の為だ。気持ちよく貸してくれる」大輝の方をポンと叩く。

「そこまで言われたら断れねえな」

「よし話は決まった。明日、結納金だと言って、この金を持って行け」

「良かったわねえ、菜々子ちゃん」七海が泣いている。

「何で七海が泣いているのよ」

「だって私、こういうのに弱いのよ」


あるアパートの一室の前、チャイムを押した。

「おはようございます。」

「寒かったでしょう。早く入って」

「分かったから、引っ張るな」

「お父さん早くして。お母さんもお茶は後でいいからこっちに来て」

「今日は急にお時間を設けて頂き、有難う御座います」

「そんなに硬くならなくてもいいわよ。こちらが金子達也さん」

「初めまして、こんな所でごめんなさいね」

「娘さん、菜々子さんを私に下さい」

「お前、急に、わしは何も聞いてないぞ」

「達也さんは内の事情を知っているの」

「大丈夫よ。全て話してあるわ」

「じゃあ、一緒に頑張ってくれるのね」

「ちょっと待って、順番よ」

「順番って、何」

「これ」紙包みをテーブルの上に置いた。菜々子が中身を出して、見せた。

「これが私の出来る限りの誠意です。宜しくお願いします」

山下夫婦は顔を見合して、

「まあまあ、御茶も出さないで御免なさいね。朝ご飯は食べたの」

「いえまだです」

「じゃあ、何にもないけど食べていきなさい」借金地獄から抜け出せるという安心感から、また幸せを取り戻せると感じている。

「菜々子手伝って」二人は台所に行った。

「仕事は何をしてる」

「高橋コンサルという所で働いています」

「そこで何をしているんだ。」

「まだまだ使い走りで、周辺調査とか、聞き込みとか、近所の挨拶回りとか、最近は法務局で謄本取ったり、分権図を書き写したりとか、分かりませんよね、こんな仕事」

「いや真面目にやっているならいい」

「お父さん、虐めたら承知しないわよ」

「いやわしは」

「はいはい、ご飯にしますよ。何にもないけど食べてね。」

「有難うございます。頂きます」

「ご飯がすんだら出かけるから」

「分かったわ。片付けは良いから、楽しんでいらっしゃい」と言って二人を見送った。

「俺、うまくやったかなあ」

「お父さんはあんな人なの。頑固で、意地っ張りで。人は良いのよ。だから騙されたのだけど」


(12)この世から葬り去るために


遠藤組三人に、大和と菜摘が空港にいた。グァムに拳銃とナイフの実践訓練に行く。

「俺、飛行機初めてだ」

「俺なんか飛行機も、海外も初めてだよ」

「それより菜々子ちゃんは大丈夫なのか、一人にして」

「アパートが、なかなか片付かなくて。その間に奇麗にしておくからって」

「でもまさかだよな。達也が結婚できるとは」

「兄貴たちだって結婚してるじゃないですか」

「俺達は只の同棲だ。一緒に住んでいるだけ。俺達みたいな者はいつ死ぬか分からない。だからなあ。」

「お前ら何無駄話しているんだ。ここからは気を引き締めておけ。拳銃で自分の足を討たないようにな」大輝がニヤニヤしながら言う。

空港を出た所で男が待っていた。

「コーディネーターの酒井さんだ。今回の世話をしてくれる人だ。日本の方だから、困ったことは何でも相談しろ。」

「ではホテルに直行しましょう。街中ではなく南の郊外の海の側にあります」

ホテルと言ったが、コテージ式の崩れかけの小屋のようだった。

「ここに四人で住んでもらう。飯も自分で作る。但し、おばちゃんが手伝いに来てもらうが、基本は自分の事は自分でやる。明日朝から訓練に入る。今日はゆっくり、体を休めておけ」一応冷蔵庫があるが、酒類はない。部屋に電気もついている。風呂はないが、シャワーはあるようだ。


朝早くに酒井が来た。

「こちらインストラクターのジョージさん。元アメリカ海兵隊、新人教官だ。今日から皆さんを訓練する教官だ。一日六時間、週五日、ナイフと拳銃の実弾訓練だ。油断すると怪我をする。私からは以上だ」

「皆さんはナイフは使っても、拳銃は初めてでしょうから、実戦形式で、厳しく特訓しましょう。拳銃は大きく分けて二種類あります。リボルバーとオートマティックです。始めはリボルバーから始めます。撃つ前に分解組み立ての練習をします。銃は命を取る武器です。その時武器がトラブルを起こしたら死ぬのはあなたです。結構トラブルがあります。一番は物の嚙み込み、砂とかゴミね。次が弾の詰まり。分解出来れば問題ない。午後から実践ね。では始めましょう」

スミス&ウェッソン(S&W)社のNフレーム。.357マグナムが一人一丁ずつ皆に配られた。

分解する手順が教えられた。部品をなくさないよう、一人ひとり箱の中で行う。分解した順に並べておく。その後逆の順番に組み立てていく。午前中は途中休憩をはさみながらこれを繰り返す。午後はナイフの訓練だ、と言っても初めは段ボールで作ったナイフだが。体の動きを覚えるためだ。途中で相手を変えながら練習する。練習が終わり、シャワーと飯を済ませたら皆バタンキューだ。それでも一週間を過ぎた頃から体が楽になった。

教官の車で街に繰り出そうという事になり、ジョージをガイドにして飲み歩く。

二週目からは外での実弾訓練だ。実際に何発も打つと、撃った反動で肩が痛い。ナイフは木製に変わった。それでも緊張する。

三週目に入ると拳銃が変わった。オートマティック製だ。分解組み立てが複雑になった。それとナイフが本物になった。

四週目になると相手がナイフや拳銃を持っている時の対応の仕方が加わった。

こうして長い研修が終わった。最後の日は休日としてホテルにいても良いが、買い物に出てもよいとした。


全員成田に着いた。

「明日は休みとしますが、明後日から仕事を開始します。では解散」

「大輝、時間良いか」

「次は何をやるんだ」

「実はな、ずっと奈々ちゃんとこの事調べていたんだが、」

「どういう事だ」

「ある男が友人を保証人に大金を借りる。借りた金を持ってどこかに逃げる。保証人に債権者が来て身ぐるみはがす。残りが借金になる。」

「よく聞く話だ」

「よく聞く話か。金借りた本人は借金の前は仕事が順調ではない」

「借金するほどだ」

「返せる見込みの無いのになぜ借りた」

「返せると思ったんだろう」

「貸す側はどうだ」

「返してくれると思ったんだろう。そうでなければ貸さない」

「大金を貸すくせにそんなに査定が甘いのか」

「返せなくてもいいと思ったから」

「何か欲しい物があった。だから金を出した」

「でも友人の工場は抵当に入ってて、旨味が無い」

「それで奴らが手に入れたのは、菜々子のとこの工場」

「抵当にも入っていない、仕事は順調」

「手に入れたかったのは菜々子のとこの工場」

「保証人は罠」

「これは詐欺だ。騙されたんだ」

「そういう事だ。どうしたらいいと思う」

「同じ目に合わせてやりたい。敵討ちだ」

「まだ達也に言うなよ」


「分かりました。金を貸したのは新川金融。桜田一家安藤組の安藤健太郎の企業舎弟です。でも取り立ては森山組の森山金融ですよ。ここも桜田一家です」

「臭いな」大輝が言った。

「マッチポンプだな」

「しかしひどいな、騙しといて、その上借金で責め立てるなんて」

「だが証拠が無い」大和が呟いた。

「もう少し調査が必要だ」


達也が大輝に相談を持ち掛けた。

「実は、菜々子の親父の友人が跡取りがいないので工場を止めようかって言ってるんですよ」

「今は不景気だしなあ」

「そうじゃないんですよ。あそこは特殊な仕事で、トンネルを掘る機械って知ってますか。その先に付いてる刃があるんですが、それがすごいんです」

「どうすごいんだ」

「例えばですよ、青函トンネルを掘るとしますよね。一般の工場の刃だと一台一式二百として十組だと二千個必要なんですが、そこのを使うと一組と少し、まあ三百もあれば足りるんです。その上交換が必要ないから、工期がさらに短くなる。ただ、小さい工場ですから五年待ち、つまりトンネルが出来るかどうかは、その工場次第なんです。」

「言ってることが難しくて良く分からねえ」

そこへ大和が奥から身を出してきた。

「トンネルが出来るのを待ってる人が大勢いるのに、その工場が止めたら困ってしまう」

「そうなんですよ。役所や業者が続けてくれって言ってるんですよ。どうにかならないですかねえ」

「ならない事は無いと思うぞ」

「大和さん、今はそんなことしてる場合じゃないですよ。奴らを放っておくんですか」

「いや、これを奴らの餌にする」

「そうじゃなくて助けてあげてください。良い人なんですから」

「だから跡取りを作ってやればいいんだろう」

「工場を潰しちゃあだめなんですよ」

「分かっているよ。心配するな」大和は笑っていた。


「組長」

「おお、翼か。どうした」

「森山がいい話を聞いて来たんですが」

「組長は吉川製作所って知っていますか」

「知らねえな」

「トンネルを掘る機械なんですが、その部品を作ってる会社で、社長が年なんで、畳もうかって言ってるらしいんですよ」

「どこがいい話なんだよ」

「商工会やら県会議員やらまで動いているんですよ」

「何で議員が動くんだ」

「吉川製作所が止めたら日本中のトンネル工事が止まるらしいですよ」

「工事が止まってどうなるんだ」

「国の補助金が出てるんですよ。大臣まで話が行って、大事になってるらしいですよ」

「つまり金が出てるのに工事が出来ない」

「国から出た金は期限内に使ってしまわないと困ると」

「そんなうまい工場なら、俺たちが手に入れられないですかね」

「手に入ったら好きな値段で売れる」

「ね、良い話でしょう」

「だが、手に入れるつてがねえ」

「つては有ります」

「というと」

「忘れたんですか、山下鉄工所」

「山下がどうした」

「元々は山下鉄工なんですよ」

「どういうことだ」

「山下は金が要るから、従業員に銀行から金を出させて、代表の吉川に売った。」

「元が山下鉄工なら何とかなるんじゃないですかね」

「しかし、山下は我々の顔を知っている。」

「ダミーを立てればいいんですよ」

「ダミーに接触させてみるか」


「はじめてお目に掛かります。武田鉄工所の武田孝太郎といいます。こちらは県議の井上さん」

「県議会議員の井上です。」

「それはそれは、わざわざ起こし下されて、有難うございます」

「私は国土大臣からこの問題を解決するよう仰せつかっております。だが吉川さんの事情も分かります。今、日本中の中小企業は跡継ぎ問題で困っている。その企業にやりたい人を引き合わせることで、従業員を助けることも出来る。私はここの従業員も助けたい。」

「この工場を見て頂いた感想はどうですか」

「掃除も行き届いて、従業員のやる気や気概がそこに現れている。この会社はこれからも、いや、これ以上に伸びる会社だと感じた」

「それでどれくらいの値の物か」

「会社の株の六割を所有していると聞いているが」

「六割あると株主を気にしなくてよいからな」

「十億でどうでしょう」

「まあ、それだけあると余生を楽しく過ごせる」

「ここに四億、名義書き換えがすんだら、残りの六億で宜しいか」

「では契約書に署名捺印を」

「株を持っているのは私個人ですから、社長ではなく、吉川孝弘で宜しいか」

「宜しいですよ」

「これで社長業も肩から降ろせる。楽しく畑で野菜を作って余生を送るとするか」

「まあ、今までご苦労されたでしょうから、そのほうが宜しいでしょう」

「では手続きは専門家の方に任せるとして。書類の不備があったらいつでも来られてください」

「はい、名義書き換えが完了しましたら連絡します」

「では、お邪魔しました」と言って武田と井上は帰って行った。


三日ほどして

「社長の吉川さんはおるか」

「ちょっと待ってください。お呼びしますから」

「ちょっとどなたですか。社内で騒がれると困ります」

「社長を呼べと言ってるんだ。おい、吉川、居留守を使っているんじゃないよ」

「私が吉川だが」

「お前じゃない、社長を出せと言っているだろう」

「だから社長の吉川だ。」

「社長の吉川ですが、どこかでお会いしましたか」

「お前が、もうちょっと年食った吉川だ」

「年食った吉川でございますが」

「俺達は騙されたんだ。帰るぞ。奴らを探すぞ」

「静かに、皆、落ち着いて、持ち場に帰って」

「何だったんですかね」


三日前

「吉川社長、山下さんからお話を聞いて一度お会いしたいと思っていました」と言って名刺交換をする。

「いや、山下さんがこの会社の礎を作られた方ですから、私なんか、たいしたことないですよ」

「社長、武田様と、井上様が来られましたが」

「ああ、すいませんねえ。私のお客です。悪いとは思ったのですが、時間が無いもので、こちらに来て頂いたのです」

「なんかうちの事ですか」

「いやいや、別件で。そういえば、同業者ですので、少し、見学させてやってもらえませんか」

「良いですよ、田中君案内してやってくれるか」

「それと、応接室を三十分ほどお借りできますか」

「吉川さんの知り合いだ、宜しいですよ」

大和たちは応接室に移動した。

程なく吉川たちが案内されてやってきた。

「武田鉄工所の武田です」

「吉川です」

「県議の井上です。宜しく」と言って名刺を交換したが、小声で武田に

「写真より老けてるな。よぼよぼだぜ」

「年を取った社長の写真なんて、若い時の写真に決まってますよ。見栄ですよ、見栄」

握手をして、にこやかに、株を譲る契約は進んだ。署名捺印も終わり、無事金の受け渡しが終わり、帰って行った。

だが、署名人も実印も偽物だった。社長役の人間も借金に解放されて見知らぬ所に行った。



「達也、奈々ちゃんには黙っていたんだが、」と言って、お父さんが詐欺で会社を取られ、借金を背負わされていたこと、今回その仕返しをしたこと、そして配当として一億を持って来ていることを大輝が二人に話した。

「どう分けるかは二人に任せる。これを機に足を洗ってもいい」

「みんなで相談します」



(13)嫌がられようが拒まれようが


達也は菜々子のアパートにいた。

「俺は高橋企業コンサルに務めているって言いましたけど、実はそこは総会屋なんです。」

「総会屋って何」

「企業や会社の悪いことしてる人や人を騙して商売してる人を脅かしたり、警察に密告したり、早い話、皆が思っているような仕事じゃないんだ」

「でも、真面目にやっているんだから良いんじゃない」

「で、今回親父さんの借金していた新川金融や森山金融を調べていたら、奴らは詐欺で騙して、金を儲けていたという事が分かったんです」

「奴らは俺を騙したのか」

「はい」と言って事件のあらましを話した。

「と言っても、俺は関係者になるんで、調査には加われなかったんですけど」

「借金をした当人が詐欺の一味だったんです。それで、一部金を取り戻したので、持ってきました」

「取り戻したって、少し、涙金でしょう。私たちの苦労はそんなもので取り返しは出来ません」菜々子は涙を流していた。

「いや、悪いのは俺だ。騙されたのは俺だからな」

「で、どれくらい返してもらったの」

「これだ」と言って、紙袋を開けた。重そうに持ってきたものだ。

「まあ見てくれ」と言ってテーブルの上に札束を並べた。

「幾らあるのよ」菜々子が言った。

「一億」

「何て言ったの」

「だから一億。こんなものじゃあ、恨みは晴れないだろうけど」

「これを全部貰ってもいいの」

「山下家への詫び料ですから、所長が言ってもらってくれたものですから、受け取ってください」

「有難うございます。本当に何とお礼を言ったらいいか」

「じゃあ、俺は帰りますから、菜々子もゆっくりして来い」と言ってアパートを出た。

皆泣いてて居た堪れなかったのだ。


夜遅く、菜々子はアパートに帰って来た。

「ご飯まだでしょう。お弁当買ってきたわ」

「有難う。一緒に食べよう」

「じゃあ、お茶入れるわ」

「今回の事で良く分かった」食べながら言った。

「兄貴たちは菜々子の話を聞いて、おかしいと感じた。でも俺は運の無い者はそんな物だろうとしか思わなかった。俺は世間を甘く見てる。いや、軽く見てるのかもしれない」

「当の私たちが分からないことを、達也が分からなくて当たり前じゃない。大和さんや、大輝さんがすご過ぎるのよ」

「俺も早くああなりたい。そして人助けをしたい」

「私も頑張るわ」

「疲れたろう。もう寝よう」

「うふふ。今夜はたっぷりサービスしてあげる」

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