第二章 女は夜に勝負をかける
(6)女どうしの付き合い
「おい、沙織、菜摘、ちょっといいか」2階から大和の声。
「なあに」二人がやってきた。
「お前たち正月はどうするんだ」
「別に予定はないけど」
「どこか連れて行ってくれるの」
「お前たち温泉に行かないか。温泉入って、旨い物食って。どうだ」
「行きたーい」
「俺のとこのお客と行ってくれると助かる」
「なあに。接待旅行なの」
「別に接待ではない。逆にお前たちがお客だと思っているだろうが、早い話家族ぐるみの付き合いだと思ってくれればいい」
「相手は誰なの」
「遠藤組の会長の奥さんと、その頭の奥さん」
「何、遠藤組ってこの前のやくざ」
「そこのコンサルタントをやってる」
「ヤクザの顔と突き合わせながらの温泉て」
「来るのは奥さん二人だけだ。奥さんを捕まえておくと仕事がやり易い。小遣いも出すから」
「幾ら出す」菜摘が言う。
「これでどうだ」片手を広げてみせた。
「お金持ちと一緒でしょう。一本にして」
「分かった。一人一本だな用意してくる」と言って大和は出て行った。
「あなた一本て幾らなの」
「100万は欲しいでしょう」
「温泉に連れて行って貰って、その上にお小遣いを100万もせびるの」
「いい、姉さん。相手はお金持ちなのよ。これしたい、食べたいっていう時、私たちはお金が無いから無理って、みじめでしょう。それに彼の恥にもなるわ。分かるでしょう」
「分かったわ。私が貧乏性だから」
彼が帰って来た。紙袋から、2000万を台の上に置いて
「じゃあ、約束の一人1000万だ」
「1千万」沙織がびっくりしていると
「この位はないと、余裕をもってお付き合いできないでしょう」沙織の方を向いて、ペロッと舌を出した。
「で、行先だが、熱海温泉のあたみ石流亭。その数寄屋造り二間続き離れ客室にお前たちが一間。頭の姉さんが一間。組長の姉さんには、特別個室をとってある。飯は部屋で取っても、レストランで取っても良い」
「だが、ホテルで初めて顔を合わせではまずいだろうから、横浜のレストラン、シルバーベイを予約してある。メニューだが、おぼえておけよ」メモを見ながら、
「先ず沙織、ディナーアラカルトから季節の野菜とポーチド平飼い卵のガーデンサラダ、和牛フィレ肉のグリル100g 、 黒トリュフ入りクリーミーパルメザンリゾット、松の実のタルトとローズマリーアイスクリーム ドリンクメニューはスパークリングワインはローラン ペリエ ウルトラ ブリュット、フランス、ワインは赤のクスマーノ Ⅰ トルビ テッレ シチリアーネ IGT、イタリア」
「次は菜摘、同じく、ディナーアラカルトから神奈川産カツオのたたき焼き、みかんビネグレットとマスタードクリーム添え、和牛横浜牛サーロイン100g、クレソンサラダ、スモア風チョコレートガナッシュとローストブレッドアイスクリーム、ドリンクメニュードリンクメニューはスパークリングワインはシャトー マレスコ サン テグジュペリ、フランス、ワインは赤のアンセルメ ピノ ノワール トラディション ヴァレ ダオステ DOC、イタリア」
「ちょっと待って、こんなの覚えられるわけないじゃない。だいたいこれ何語なの」
「フランス語と、イタリア語と英語かな」」
「無理、絶対無理」
「これ位、さらさらっとやると、周りがすげーって思ってくれる。相手は酒は慣れれてると思うから、料理で勝たないとね」
「絶対無理よ、メモを見ながらでも出来ないのに、覚えられる訳がないわよ」
「沙織、どう思う」
「そうね、こんな事でぎくしゃくしたら、楽しいお食事会じゃ無くなるわね」
「分かった、何か方法を考えておくよ」
「姉さんご無沙汰してます」
「いらっしゃい。食事会の事どうなったの」
「そのこと出来ました。メニューなんですけど。その場だと良い物が出せるか、で、支配人が予約をして頂けたらというんですが」
「予約は入れているのじゃないの」
「そうじゃなく、料理のメニューの話です」
「そういえば、お店に行ったら、これは有るとか、無いとか言われる事あるわね」
「有っても、良い所が残っているかとか、良い所を取った残りだったりとか」
「分かったわ。どうしたらいいの。2コースをこちらで考えて選んで予約を入れるというのはどうでしょう」
「いいわ、でメニューを考えてあるの」
「1つ目が ディナーアラカルトから季節の野菜とポーチド平飼い卵のガーデンサラダ、和牛フィレ肉のグリル100g 、 黒トリュフ入りクリーミーパルメザンリゾット、松の実のタルトとローズマリーアイスクリーム ドリンクメニューはスパークリングワインはローラン ペリエ ウルトラ ブリュット、フランス、ワインは赤のクスマーノ Ⅰ トルビ テッレ シチリアーネ IGT、イタリア」
「2つ目が ディナーアラカルトから神奈川産カツオのたたき焼き、みかんビネグレットとマスタードクリーム添え、和牛横浜牛サーロイン100g、クレソンサラダ、スモア風チョコレートガナッシュとローストブレッドアイスクリーム、ドリンクメニュードリンクメニューはスパークリングワインはシャトー マレスコ サン テグジュペリ、フランス、ワインは赤のアンセルメ ピノ ノワール トラディション ヴァレ ダオステ DOC、イタリア」写真を見せながら説明した。
「何か難しいわね。私は1つ目が良さそうね」
「分かりました。詩織さんにも聞いておきます」
「こんにちわ、詩織さんはいる」
「あら、いらっしゃい。お店はもうすぐ開くから待ってて」
「じゃあ、お邪魔します」
化粧と着替えを終えて店に出てきた。
「今日は何。お店の売り上げの協力かしら」
「そうしたいけど。今日は例の食事会の事」
「店が横浜のレストラン、シルバーベイ。大輝に送り迎えを頼んであるから。で、メニューだけど、この中から選んで予約したいんだけど」
「姉さんはどっちにしたの」
「じゃあ同じの」
「これ内緒ですけど、こちらを選んでもらうと、同じだとまずいでしょう」
「じゃあそれでいいわ」
「有難うございます。大輝に宜しく。そういえば玲奈ちゃんは大人しくしてますか」
「スマホのゲームばっかりしてるわ」
「じゃあ、気分晴らしに飯に行かないかと言ってくれ。嫌でなければだが」
「聞いてみるね」と言って奥に行った。
すぐに二人でやってきた。
「行くって。この人お金持ちだからご馳走してもらいなさい」
「じゃあ、行こうか」タクシーを止め、 シルバーベイと言って乗り込んだ。
タワービルの6階に店はあった。
席に案内され、椅子に座るとボーイにちょっと支配人にお願いがあるんだけど、呼んでくれる」
「分かりました。暫くお待ちを」
すぐに支配人はやってきた。
「実は来週10日に予約を入れてる高橋だけど、」
「はい、承知しております」
「実は彼女たち、殆ど初対面でさあ。」
「事情は分かりましたが、我々はどうしたら」
「料理を予約しておこうと。そしたら、頼み方とか、どう選んだらよいかとか、迷わなくていいよね。細かいマナーを知らなくても、恥をかかないようにと。私も教えられるほど知らないし」と言ってメモを渡した。
「これで良いと思いますよ」
「じゃあ、後はお任せしても」
「承知しました」
「それと今日は私と彼女との食事をお任せでお願いできますか」
「嫌いな物はありますか」玲奈は首を振った。
「ではご予算は」
「カードの限度内で。ただし今日はノンアルで」
「分かりました。」と言ってキッチンの方へ歩いて行った。
「ここ高そうね」
「高いだろうね。予約は内の会長の奥さんと、若頭の奥さん。それに私の奥さんみたいな人と、愛人みたいな秘書の四人で、仲良く食事をして頂く計画なんだ。女どうしが仲良くやってくれないと仕事に差し支えるからな」
「へえ、奥さんがいるんだ」
「それが、皆、金が好きで、買い物が好きで、若い時から、男に貢がせるのが得意と。最高だろう」
「最低な女」
「でも、その中の一人がしおりのママですよ。素敵な女性でしょ」
「男に頼る人生なんて嫌い」
「実質、全員私の稼いだ金で贅沢できる。でも、私がいないならそれでも良いと思ってる」
「前菜とスープでございます」
「おお来た来た。さあ食べよう」
「食事のマナーは知ってるか。俺はこういうとこ普段来ないからマナーは知らない。好きに食べるだけだ」
「メインディッシュでございます」
「こいつは旨そうだ」
「君も食べて。ううん、あそこの彼女。ちょっと待ってて」
「ダン・セレの優花さん、こんなとこでお会いできるなんて、ファンNO1003の高橋です。センターおめでとうございます。今度のコンサートも楽しみにしています。先日発売のDVD500枚買いました。少しでも力になれればうれしいです」
「いつもありがとう、1003番さん。これからも頑張りますから、宜しくお願いします。「こちらは」
「ディレクターの安田さん。今、お仕事の話をしてるから」
「でもあなたさっき、ホテルの予約してましたよね。どういう事ですか」
「てめえらには関係ないんだよ」
「関係ありますよ。あなたの会社、私の知り合いの会社ですから。いつでも首に出来るんですよ。真面目に仕事してください。ではお帰りを」
「くそ、金払わねえぞ」と言って、急ぎ足で帰った。
「あなた、こちらに来ませんか」
「良いですけど、ご迷惑じゃないですか」
「そんなことないですよ。ボーイさんあちら、こっちと一緒にして」
「お腹空いてない、空いてるよね。料理をもう一人分持ってきてくれる」
優花はお辞儀をして
「お邪魔します」
「いいのいいの、可愛いだろう。お兄さん、この人のファン会に入っているんだ。すごいだろう」
「みんな知ってるの」
「知ってる者もいる。仕事が忙しいからなかなか行けないけど」
「そんなことないです」
「何だ、あなた嫌われているわよ」
「アイドルはファンは大事にするけど好きではない。ファンは勝手にアイドルが好きで貢いで自己満足をしている。それでいいんだよ。ファンの王道。それよりさっきのディレクター、女の子を次々と食い散らかして、その上裸の写真を撮って売ってるという話だ。優花ちゃんも気を付けてね」
「はい、すいません」
「何これ、俺が優花ちゃんを虐めてるみたいじゃないか。玲奈ちゃんもそんなに冷たい目で見ないで」おどけて見せたが、二人には受けていない。
「二人が冷たいから涙が出てきた。ちょっとお花畑に行って来る」と言って立ち上がった。
「私、古川玲奈、宜しく」
「わたし、ダンサー・セレブレーションの河野優花です。宜しく」
「あなたも大変よね。あんなおじんの相手しなくちゃならないし。」
「いえ、チケット買ってもらったり、助かっています」
「アイドルって華やかで、派手で楽しいのかと思ったら、色々あるのね」
「でもやりがいはあるの。小さい頃は、父も母も仕事をしていて、家には誰もいなかった。私は塾通いばっかり。英会話と算数とピアノとバレーに水泳。それが塾からの帰りにたまたま、アイドルの人を見たの。すごい、光ってる。それを見て私もなりたい。そう思ったの。塾に行ってる振りしてスタジオに通った。歌も歌えない、ダンスも出来ない。みんなからは馬鹿にされたわ。それでも楽しかった。」
「そこでやりたいことを見つけたのね」
「やりたいこと、ううん、違う、自分を見つけたの。成功するかなんて分からないけど歌ってる時は輝いている気がするの」
「良かったわね」
大和が帰って来た。
「おお、話がはずんでいるね」と言って席に着いた。
「玲奈ちゃんも仲間に入れてもらえば」
「そんなに簡単じゃないでしょう」
「いっそ、詩を書くとか、作曲をするとかさ、同じ事をしなくてもいいだろう」
「駄目で元々、やってみたら」
「優花ちゃんが言うなら、やってみようかな」
「優花、こいつは友達がいない。寂しい奴なんだ。友達になってくれよ」
「玲奈ちゃんがいいなら」
「よし、決まりだ。ではそろそろ帰るとするか」勘定を済ませて店を出る。
(7)夜の女は化かし合い シルバーベイ
「ねえ、買い物に付き合ってよ」菜摘が甘えてきた。何か含みがあるのだろう。
「何買わせようってんだ」
「レストランに着て行く洋服よ。お姉も行くでしょう」奥にいる沙織に声を掛けた。
「何買うんだ」
「悩殺下着。すごい色っぽいの」
「何馬鹿なことを言ってる。そんなの買わねえぞ」
「良いわよ、下着は自分で買うから」ペロッと舌を出した。
「この日曜、午後からでいいか。じゃあ、皆で出かけよう」
「パーティードレス何て分かんないぞ」
「良いのよ、付いて来てくれて、お代を払ってくれたら」
「何だ、俺は財布か」
「脱がし方が分からないと困るでしょう。あなたそういうの不器用そうだから」
「何を言ってる。丸裸にするぞ」
「良いわよ。ねえお姉さま」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないの」
車を駐車場に止めて三人で歩く。
「これってデイトよね」
「三人のデイトか。どう見ても買い物だろう」
「買い物もデートなの」と言いながら、店に入った。引っ張られて店内を見て歩いていると、
「お気に入りのものはありましたか」
「食事に行くんだけどいいのない」
「お店はどちらですか」
「シルバーベイだけど」
「シックでいい身お店ですよね。それならこちらはどうでしょう」
「ちょっと派手じゃない」
「お店が薄暗いですから、派手目の方が生えますよ」
「じゃあ私これにする」菜摘が言った。
「もうひと方はこちら、シックで品のある落ち着いた色柄で、お似合いだと思いますよ」
「少し胸が開きすぎでは」
「これくらいの方が、落ち着いて、お付きの殿方にも高評価ですよ」
「分かったわ。これを頂きましょう」
店を出た所で、玲奈に会った。
「お、玲奈どこに行くんだ。優花も一緒か。飯は食ったか」
「飯代くらい持ってます。それほど極貧じゃあないですよ」
「じゃあ何か欲しい物はないか」
「それよりこちらを放っておいて大丈夫ですか。デイトでしょう」
「そんな直接的な言い方」優花の助け舟。
「こちらはどなた。ずいぶんお若そうだけど」
「こっちが俺がファン会に入っている河野優花さん、でこっちが不良娘の古川玲奈ちゃん。んで、こっちが俺の愛人の、佐々木沙織さんと、今井菜摘さん」
「へえ、お兄ちゃん案外持てるんだ」
「何を言う、こちとら泣く子も黙る横浜疾風怒濤族 雷の大輝の大親友の大和様だぞ」
「大輝ってだれ」
「クラブ詩織のママの旦那」
「複雑で分かんない。早い話、赤の他人でしょう」
「だから違うって。遠藤組の若頭だ」
「ええ、いやだ、ヤクザの仲間なの。」玲奈が大げさに言う。
「お前が言うな。そこで世話になってるだろう」財布から5万出して
「二人で飯でも食え」
「有難く、じゃあ、お邪魔虫は消えるとしましょう。行くよ、優花」
「すっかり仲良しだ。良かった」
「あの子たち誰、どういう関係」
「複雑なんだけど、玲奈はこの間痛めつけて警察に逮捕させた加藤組の頭の娘。もう一人が、店の地上げの元締め、四菱 常務の孫の優花ちゃん」
「何で仇のあなたと友達なの。」
「それがこの男のいい所じゃないの」
「予約はされてますか」
「高橋で予約しているはずだけど」
「高橋様でございますね。はい御連れ様がお待ちでございます。
シルバーベイのボーイに案内されて席に着いた。みんな揃った。
「ではお食事の準部を、宜しいですね」姉御が頷いた。
「私、皆さんとはざっくばらんな関係でいたいの」
「組の姉御の貫禄、極楽観音の久美っていうだけの事はあるわね。凄味が違うわ」
「菜摘、何てこと言うの」
「良いわよ、昔の事だし。でも何で知ってるの」
「お姉さんが初代総長、私これでも四代目なんです」
「ええ、あなたも極楽にいたの」
「お姉さんが総長やってた頃は、免許もない、ペエペエだったから知らないと思いますけど、美貌と度胸のすごい人で、皆のあこがれだったんです」菜摘が言う。
「そんな繫がりがねえ。まあ、元々は私は平凡なサラリーマンの娘なんだけど」
「今は私の姉御です」菜摘は興奮気味で言った。
「私なんて、昔から頭を追っかけてる、ただの追っかけ」詩織がはにかむように言った。
「初恋をずっと追いかけられる人ってすごい、あこがれちゃう」
「そうねえ、私なんか若い時から、力が全てだと思っていたから」
「それで組長の奥さんになった」
「誰もいない、一人の時、彼にレイプされたの。弟分に私を抑え込ませて」
「ひどい、最低」
「私はその時思った。私が強いと思っていたのは独りよがりだと。だから彼の、組の力を利用しようと。そして結婚したわ」
「すごい、とても真似できない」
「でも、思ったほどじゃなかった。組長たって頭下げてるばっかり。やはりヤクザも天下を取らないとね」
「でも、大和さんて、変わってるわよね」詩織が言った。
「家で若い子預かっているんだけど、その親から金強奪しているのよ。」
「あ、私たちこの間会ったわ」沙織が言った。
「お友達と一緒のとこ」
「えっ。お友達がいたの」
「地あげの元締めの娘」
「敵の娘同士なのね」
「そんな感じじゃなく、親友みたいな」
「まるで私たちの関係みたい」
「一つ聞きたいんだけど、姉さんとあなた達とはどういう繫がりですか」
「うちら、小料理屋を二人でやってんだけど、そこを遠藤組が地上げに来た。そこで彼がチンピラを伸しちゃったから、私等の用心棒兼、紐になってもらった」
「誤解のないように言うけど、彼に何もしてないわよ。それどころか慰謝料とか、迷惑料とか取られた」
「ああ、分け前貰った、確かに。ていう事は一番悪いのは大和なの」
「それなのに、皆大和が好きってこれ何でよ」
「大和の愛人二人が何言ってんの」
「まさに面白い関係かしら」
「これから皆さん、宜しくお願いしますね」
「今日は楽しかったわ。彼にごちそうさまって言っておいてね。それとまたミカン箱、お願いね。何ならリンゴでもいいわよって言っておいて」
「何のことか分からないけど、必ず伝えておきます」
「でもこれで旅行が楽しみ」
(8)支払いは現金で、想いは振り込みで
「おい、企業コンサルの高橋だな」
「あなた方は」
「加藤組の古賀浩之だ。覚えておいてもらおう」
「で、何の御用ですかな」
「内のしまで好き勝手されると困るのですがね」
「と言われても何のことか、分からないのですが」
「内の商売の邪魔し腐って」若いしが言った。
「どうです。御茶でもしながら話をしませんか」
「分かった、行こう」
「ここでも」
「わしらはどこでもいい」
「じゃあ、ここにしましょう。で、詳しく聞きましょうか」
「お前、四菱の河野さんに悪さしてるだろう」
「ちょっと待って、河野さんは稲田会でしょうが」
「内も噛んでるんだよ。なにせ大企業だ。」
「それでどうしたんでしょう」
「内に仕事を回してくれなくなった」
「それが私のせいだと」
「そうだよ、分かってんだろう。お前のとこの組長が店に入りびたりじゃねえか」
「ちょっと待ってよ。分かるやつ呼ぶから」
「何事でしょうか。こいつらが手を出してきて困っているなら我々が」大輝が言う。
「それじゃあ、組との戦争になるでしょうが。それより、遠藤さん、こちらのクラブに入り浸りだと」
「何戯言、言っているんだ」
「クラブ月姫だよ」
「それがどうした」
「河野さんがこれにやらせている店だ」と言って、小指を立てた。
「河野さんの店なら通っても不思議じゃないでしょ」
「いや、会長は河野さんの店だと知らない。単にママが気に入って通ってる」
「じゃあ、河野さんがそれを気にして」
「いや、周りが四菱の仕事を一手に引き受けるための投資だと思われてる」
「しかし会長も美人の奥さんがいるのに」
「A5の肉も毎日だとマグロも食べたい」
「久美子さんに言いつけてやる」
「止めてくださいよ。困りますよ。知らん顔しててください。」
「古賀さん、そういう訳だ。仕事上の事じゃない」
「古賀さん、大輝、仲直りに仕事しないか」
「盃じゃないのか」
「俺は素人だぞ。両方4人ずつ、8人でやる」
「大仕事なのか」
「仕事は大した事は無い。30分で終わる。ただ相手が大物だ」
「何をやらせるんだ」
「まあ、言ってみれば恐喝かな。民自党幹事長、阿部欣造から頂く」
「そんなことして大丈夫なのか」
「大丈夫なようにする。何せ対立ヤクザの二つが絡む恐喝だからな。それに表に出せない金だ」
「組長に相談しないと」
「組長は知らない。で、金は持っていく。これがいいんだ。細かい日時が決まったら連絡する。くれぐれも漏らさないように」
「よし揃ったな、では行くぞ」時間は真夜中2時。2台の車で出かける。
「ビル地下の駐車場に車を止め、エレベーターで16階に上がる。一番奥の部屋のカギを静かに開け、音をさせないように入っていく。
「静かにしろ」拳銃を持った男たちが、金庫に札束を移し替えていた男に言った。
「誰だ」
「誰でもいい。田中建設と丸三商事の企業献金だな」
「誰の金を奪おうとしているのか知っているのか。只では済まないぞ」
「良いんだよ。おい、こいつらと金庫と金の写真を撮れ。動画もだ」
「さあ、続きを話してくれ。よし、金を段ボールに詰めろ。終わったらここを出るぞ。こいつらはガムテープで固定しろ。よし行け」5分で終わらせ出て行った。
「うまくいったな。」
「よし、まずはしおりに行け」大輝が店のカギを開けた。金を店に運んだ。
「先ず、加藤組の組長さんに3億、分けて段ボールに詰めてくれ」一億ずつ三つの箱に詰めてガムテープで封をした。
「次に遠藤組に3億、但し箱は2億と1億に分けて詰めてくれ」箱3個に分けて入れるのだからそのまま詰めて封をした。
「ではお前たちの分け前だ。先ず大輝3千万、取ってくれ。古賀5千万。後の皆、一人1千万ずつ取ってくれ。残りは旅行鞄に詰めてくれ」テーブルの上の札束が片付けられる。
「この店の使用料だ」と言って大輝に2千万を渡した。
「古賀さん、明日午前中に会長の所に持っていくから、事務所にいてくれ。その後遠藤組に行く。手違いの無いように」
「よし、加藤組の事務所だ」大輝が台車を下ろし、箱を3つ積み込んだ。二人は事務所に入り、
「古賀さんはいるかね」
「おはよう、高橋さん、さあ入って入って」先頭に立って、会長室のドアをノックした。
「古賀です。お客さんを連れてきました」
「おおはいれ、ええ、どちらさんかね」座ったまま二人の顔を見た。
「遠藤組の若頭の吉田さんと高橋さんです」
「おい古賀、何でお前がこいつらとつるんでいるんだ」
「お土産持って、誤りに来たっていうのに追い返すわけにもいかんでしょうが」と言って、箱をデスクの上に並べた。
「なんだこれは」
「会長の好物です」と言って、箱を見た。
「何だ、ミカンか、。俺は酸っぱい物は嫌えだ」
「でもこれは好きでしょう」と言ってガムテープを剥がした。中を覗き込んだ加藤はニヤリとして
「幾らあるんだ」
「3億で」
「内の会長は見栄っ張りで気が小せえから、行きたくないというんで、私が代わりに来ました。これからも宜しくという事で」
「いや、分かってくれればいいんだ。俺も大げさにしたいんじゃないんだ。まあ、これからは仲良くな」
「はい宜しくお願いします」と言って大輝は深くお辞儀をした。
「では失礼します」後の事は古賀に任せて、部屋を出た。
「次はお前ところだ」
「大丈夫ですよ。出かけないように連絡していますから」
「遅かったじゃない。朝から待ってたわよ。お前たち荷物を運んで」何も言わないのにお土産があると思っている。
「さあ奥で会長が待ってるわよ」先頭をどんどん行く。
「何を朝からバタバタしているんだ」
「気がせいているのはあなたでしょう」
「まあまあ、お二人とも、喜んで貰って本当、有難いと思います」その間に台の上に段ボール箱を並べた。会長に二箱、姉さんに一箱。
「これは会長に、これは姉さんに」と言って箱の蓋を開けた。
「来週には熱海ですから衣装代に」
「やっぱり気が利くわねえ。内の男どもはちっとも気が利かないから」と言って自分の分を部屋に運ばせる。
「それより会長、クラブ月姫のママはまずいですよ」
「流石耳が早いな」
「そうじゃないですよ。四菱の河野さんのこれですよ」
「そうか、道理でなびかないと思った。」
「他からクレームですよ」
「それならそれで何でお前ら何も言わんのだ。それは迷惑かけたな」
「姉さんの耳に入る前で良かったですよ」大輝が首をすくめて見せた。
「来週には女同士の旅行なんですから、くれぐれもゴタゴタさせないでくださいよ」
「おい、大輝。これから用事があるんだろう。早く行け」
「そんなに、追い出さなくても」
「そうじゃない、機嫌の良いうちに帰らないと、無茶を言うに決まってる」
「はいはい分かりました。おい帰ろう」二人は家を出た。
(9)女豹の夜は忍び足 あたみ石流亭
組の若い者が車であたみ石流亭まで送ってきた。
「ずっと楽しみにしていたのよ」久美子が言った。
「そのネックレス素敵ですよね」
「これ、どうしようか迷ってたんだけど、思い切って買っちゃった。」屈託なく笑う。
旅館は豪華で、久美子と詩織が個室、沙織と菜摘が一緒で別室であった。個室はダブルベット、別室はツィンベットが2つ。お風呂が付いているが、大浴場は本館にある。朝食も本館でバイキング。
地下には居酒屋、バー、ラウンジ等、遊べるようだ。
「大浴場にみんなで行こう」菜摘がみんなを誘った。
「いい湯だったあ」と言って出てきた。
食事は詩織の部屋で皆ですることにした。海の幸や旬の食材を活かした本格的な和食で、会席・天ぷら・寿司など、豪華版だ。
「流石は大和、旨そう。さあ皆、座って座って」
「菜摘、慌てないの」
「では、これからの皆の商売繁盛にカンパーイ」久美子が言う。皆で
「カンパーイ」ビールを飲みながら食事をする。詩織が久美子にお酌をしようとしたら、
「自分の事は自分でするわ。気を使わないでいいわよ」
食べるだけ食べて、
「私ウィスキーの水割りが欲しいわ」
「わたしはブランディーにする」
詩織がウィスキーとブランディーのボトルとアイスボックスとミネラルウォーターを頼んだ。
「久美子お姉は慣れてるでしょうけど、こんな贅沢は初めて」
「大和に感謝」
「ホントよねえ」
「彼が内に出入りし始めてから、内の組が明るくなったわ」
「内もよ」
「彼は周りを明るくする才能があるわ」
「金回りも良くなったし」
「どこから手に入れてるのかねえ」
「うちらの業界は、それを聞いちゃいけないの」
「詩織ちゃん処も、お店大変でしょう」
「ずっと赤字だったけど、最近は彼がお金を入れて呉れるようになったの。そうしたら店も繁盛しちゃって」
「忙しい事は良い事よ」
「あなたたちの店はどう」
「良くも悪くもない感じかな」
「あの時は迷惑かけました」
「いいの、いいのって、良い事は無いけど、そのお陰で彼と知り合ったんだし」
「彼が来てから店は大きくなるし、お小遣いも呉れるし」
「それ言ったら、私等も同じよ」
「お店使ったからと1千万くれるのよ。気を使ってくれているんでしょうけど、考えられないわ」
「それ言ったら、何でか分からないけど、服買うのに金がいるだろうって、会長でなく、彼が1億呉れたわ」
「え、1億」
「そうよ、だから無理だと諦めていたネックレスも買えたわ。3000万するのよ。こんな事でもないと一生買えないわ」
「さすが極楽観音の久美姉さん。私じゃ震えてしまうわ」
「私たちだけの時は組の事は忘れて付き合って欲しいの。ホントの友達になって欲しいのよ」酒を飲みながら言った。
「総長はみんなが友達になって欲しいと思っているわよ」
「組長の奥さんだからよ。私が言うのは損得なしてお付き合いしたいの」
「損得なしの付き合いなんてないんじゃないの」
「詩織さんの前だけど、今までは、組の稼ぎなんて大したことなかったわ。それなのに旦那はあちこち飲み歩いて、借金抱えて」
「それは下が頼りないから」
「違う、上が商売を考えて儲かる仕事をさせればいいのに。見栄ばっかりで、稼ぎ方を知らない」泣きそうな久美子。
「そう気が付いたのは大和を見てから。」
「えっ、だって、大和とはそんなに会ってないでしょう」
「そうよ、でも、あなた達とも会える。こんなこと言える人は今までいなかったわ」
「そうね、私もそう」沙織が言った。
「私の人生にも人に誇れる物が無い。お金もないし、地位もない。人が困っても助けられない。同情するだけ」
「大和ってすごいわよねえ。だって、お金の価値が一桁違う」
「何をしてるか分からないけど、いつの間にかみんな彼に付き従っているわ」
「始めは敵対している者が、いつの間にか仲間になってる」
「沙織さん、菜摘さん、どうやって彼を手に入れたの。彼は何者」
「仕事の事は何も話さないから、何も知らない」
「彼はお金を稼いでくれる。でもそれ以上に幸せをくれる」
「そうね、ここにいるみんな、いえ、それ以外にも、彼の周りの人はみんな幸せになってる」
「私たちがこんなご馳走を食べて、美味しいお酒が飲めるのも全て彼のおかげ」
「カンパーイ」大騒ぎしながら飲んで食って。部屋が離れなので遠慮なく大騒ぎがっ出来る。久美子は案外酒は強くない。一番強いのは、商売柄もあるのか、詩織だ。
二泊三日の贅沢三昧が終わって、組の者が迎えに来た。




