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第一章 最悪の斜陽族

(1)強い男はしたたかに

大和は煙草を曇らせながら、夕闇の中を歩いていた。

「どこかで飯を食わなきゃあな」そう言えば昼飯もまだだ。とは言っても懐は寂しい。

「まあ、飯でも食ってから考えるか」目の前の小料理屋が目に入った。引き戸をガラガラと開け中に入った。

「いらっしゃい」女の声がした。

「何になさいますか」女がおしぼりと水を持ってきた。

「何か手っ取り早く食えるものを頼む」

「鯵の干物にご飯とみそ汁でどう」

「じゃあそれを頼む」水をグイっと飲みながら店内を見回した。なんかヤクザっぽいのが女将らしい年増と言い争いをしている。

「そこの兄ちゃん、じろじろ見てるんじゃないよ」ニヤニヤ下品な顔でこちらを見ながら言った。

「兄ちゃんこの辺の者じゃないね。それを食ったら早く帰んな。こちらは今大事な話をしてるんだよ」金でもせびっているのか、険悪な所に来たようだ。まあ、知らない店だし、関わりがないうちに食ってから早く帰ろう。だがチンピラ風の男が箸を投げた時、何本かがこちらに飛んできて体に当たった。

「ちんたら食ってるからそんな目に合うんだ。さっさと食って帰れよ」

「うちのお客さんに何するんだよ。客に手を出したら私も黙っていないよ」

「ほう、それじゃあ、これならどうだ」と言って、俺の頭にコップの水を掛けた。

俺は静かに立ち上がった。

「女将さん、これ帰ってきたらまた食うから、そのまま置いておいてよ。そこの若いの、礼儀を教えてやるから、ちょっと来い」先に立って外に出た。三人ともついてきた。

「これは喧嘩じゃない。礼儀指導だ」といって若い奴の腹に一発けりを入れた後、腕をねじり上げた。

「こいつ、何をするんだ。俺たちは遠藤組の者だぞ。どうなっても知らねえぞ」後の二人もかかってきたが、二人とも腹を蹴り上げた。倒れた所を三人とも再度腹を蹴り上げ、手向かい出来ないのを確認した後、これは指導料だ」と言って、三人の財布から万札だけ抜き取った。三十万程になった。飯の続きを食うために店に引き返した。

「大丈夫だったの。あの人たちは」

「悪かったって謝るから、帰れと言って、帰ってもらった」

「帰れって、連中それで帰ったの」

「ちょっと、強制的にってやつだけどね。じゃあ飯の続き」元の席で飯を食おうとした時

「それよりお祝いしなくちゃ。菜摘、ビールビール」

「いやビールはいい」

「おごりよ、おごり、他の人も飲んで、今日は店のおごり」

「いや本当にビールはいいよ」

「何遠慮してるのよ。私のおごりだって言ってるでしょう。菜摘、あなたもここに来て、店にあるだけ食べて飲んだら終わり。あなた名前は」

「高橋大和」

「強そうな名前。あなた、今日から私の紐にしてあげる」

「酔ってるのか」

「とにかく飲んで。私のおごりだと言ってるのに、文句があるの」と無理やり飲ませる。

本当に酒が弱いらしく、酔っぱらって寝てしまった。

客にも手伝わせて、二階のベットの寝かせた。

「今日はお店もしまいにするよ」と言って片付けを始めた。

「後、私は帳簿を付けたら寝るから、あなたも終わりにしなさい」

伝票を元に、電卓をたたいて、帳簿を付けていく。儲かりはしないが、何人かの常連もついて、菜摘と二人、生活するには何とかなるかなと思いながらお金を小型金庫に、帳簿を机にしまった。

二階に上がり、寝てるか確認のため寝室のドアと静かに開けて様子を見る。薄明りの中、何か動いている。音をたてないように近づいて、そっと布団をめくると、そこには 菜摘が裸で潜り込んでいた。

「あなた何してるのよ」

「しー。起きるわよ。静かにして」

とにかくこちらにいらっしゃい」沙織は菜摘の手を掴んで引っ張って部屋を出た。

「あなた、何考えてるのよ」

「お姉と一緒よ」

「何を馬鹿なこと。彼とは今日あったばかりよ。どんな人かも知らないのに」

「何も知らないけど、ピンときたわ。相性が合うというか、」

「とにかく今日の所は何もしないで寝て頂戴。明日話をしましょう」

「分かったわ。お姉も手を出さないでよ」


朝起きると菜摘と大和は起きて、朝食を済ませて、コーヒーを飲んでいる所だった。

「おはよう、早いわね」

「おはよう。昨夜は世話になった。これは宿賃と飯代だ。取っておいてくれ」見れば10万ある。

「今日はどうするの」

「ちょっと用事があるが、それをすましたら、一度帰ってくる。」

「じゃあ、今後の事はそれからという事で良いわね」

「結婚してるとか、子供がいるとか」

「こんな流れ者に家族はいない。天涯孤独という奴だ。仕事は今のところ、無職かな」

「まあ、詳しい事は帰ってからという事で、ね」

「ああ、たのむ、おいしかったよなっちゃん」

「いつの間に仲良くなったの」

「お姉が朝寝坊してる間にね」



(2)悪い男が女には持てる

「じゃあ、ちょっとでてくる。昼過ぎには帰る」そう言って大和は出て行った。

タクシーを止め、遠藤組の事務所のあるビルの前で降りた。余り新しくはないが、頑丈な造りのビルだ。さすがに組が襲われないよう、セキュリティーの充実した建物なのだろう。エレベーター横の名札を見ると4階に事務所がある。

大和はエレベーターで4階に上がった。事務所の前で、警察に電話を入れた。

「今、遠藤組の事務所に若い男が無理やり連れ込まれたのを見ました。早く行かないと殺されちゃうんじゃないですか。」

「私ですか。私は通りがかりの者で、関わりたくないので。」と言って電話を切った。

「御免なさいよ」と言ってドアを開けて入って言った。

「何者だてめえは。」若者がどすを聞かせて行った。

「ああ、こいつは昨日の奴だ。何しに来た」事務所にいた若者が、5,6人が取り囲んだ。

「組長の遠藤さんはおられるかな」大和は静かに言った。

奥から出て来て

「何騒いでいるんだ。てめえらは」

「昨日の小料理屋の男です」

「何だ、仕返しに来たのか」

「話が有ってきました。先ずは応接室で静かに話しましょうよ。ここではろくに話も出来そうもないので」

「急に来てなに言ってんだ。会長に話が有るなら、それなりの挨拶があってからだろう」

「まあいい。ここじゃあ、確かに話はできん。なあ、素人さんよ」

応接室にぞろぞろ入っていった。

「お話というのを聞きましょうか」

「お宅、どこかの商社か不動産屋に地上げを請け負っているんだろうが、今のままでは無理ですよ」

「ほう、どうすれば良いのかな。」

「さっきあんたらが言ったじゃないの。それ相当の挨拶をしてからと」

「じゃあどうするのかな」

「まず1000万、払ってもらおうか。もちろんこれは今までの迷惑料と、怖がらせた慰謝料ってとこか」

「ほう、1000万ね」

「どうせお宅は5億位貰っているだろう」

「ところが、内も系列の下っ端で、そんなに貰ってないんだよ」

「じゃあ、上が5億で、お宅が下請けで、1億ってとこか」

「お宅素人じゃないね」

「会長、大変だ。警察です」

「お宅が何か若い男を連れ込んだと通報があってね。お前さん大丈夫かね」

「刑事さん良い所に来た。こいつらに昨夜店の金をとられたんです」

「お宅はどこの人。」

「小料理屋の早苗です」

「あそこは女の子2人でやってたと思うんだが」

「沙織姉さんの甥で昨日たまたま店に寄ったら、店を立ち退くか、金を出すかだと言って、店の金全部持って行ったのです。このままじゃ、店は倒産ですよ。何とか言ってください」

「何を与太話をしているんだ」

「待て、大輝、金庫から1千万持って来い。」

「分かりました」この男は吉田大輝、若頭であり、遠藤組の切れ者だ。

「有難うございます。流石は会長さん、話が分かる」ニコッとして立ち上がると

「では私はこれで、無事なうちに帰らせてもらいます。刑事さんもご一緒に」と言って事務所を出た。


昼には少し早いが近所の食事処 味平で昼飯を食うことにした。近所の様子も知りたかったのもあって、ここにした。

「ごめんよ」と言って店に入った。昼に近い時間なのに、客はいなかった。

「何にしましょう」

「鯖の煮たのがおいしいですよ」

「定食にできるかね」

「良いですよ、鯖定一丁」しばらくして

「おまちどう」ご飯とみそ汁と漬物が付いていた。

他に客がいないので、二人は客席に座ってぼそぼそと話をしている。

「もう私たちも年だし、何時までもお店をやっていけないでしょう。借金もあるし、ここいらが潮時じゃないかねえ」奥さんが言う。

「まあ、足腰が立たなくなったら、仕方ないが、それまでは細々とやって行くしかないじゃろうて」

こちらに気が付いて、声が小さくなったので。それ以上は聞こえなかった。

飯を食い終わったら、勘定をして、店を出て早苗に帰った。

「どこに行ってたの。ご飯はどうする」

「飯は済ませた。二人に話が有る。」と言って、店の椅子に座った。

「その前に御茶をくれるか」沙織がお茶を持ってきた。

「遠藤組の事務所に行ってきた」

「あそこはヤクザよ、危ない事はしないで。いざとなったら店を渡せばいいんだから」

「待て、話を聞け。この店は売ろう。ケチが付いたら先々上手くない。所でお食事処 味平を知っているか。」

「幸子さんのところよね。この店を開く時にもお世話になったわ。それがどうしたの」

「奥さんが、店をやめようってご主人に言ってた。借金もあるそうだ」

「そうは言っても私たちにはどうにもならないわ」菜摘が言った。

「それでだ、この店を5千万で売る。それで味平を買うんだ」

「ここは3千万だと言われているわ」

「契約金は3千万、裏金で2千万。合わせて5千万でここを売って、それで味平を買う」

「相手はヤクザよ。そううまくいくの」

「交渉は俺がやる。任せとけ。後は新太郎さんだ。早めに話をしに行きたい」

「私は良いわよ。ここより広くなるし、資金面さえうまくいくなら賛成よ」

「但し裏金の件は秘密だ。それと、あそこをおん出されると困るだろう。一階は坂田さんに住んでもらう。二階が二人の部屋だ。それでいいか」

「おじさんにも喜んで貰えると思う」

「じゃあ、さっそく明日にでも話に行こう。それと準備金だ」と言って五百万を取り出した。

「これどうしたの」

「奴らから、慰謝料として貰ったものだ。遠慮しなくていい」

「じゃあ遠慮なく」菜摘が二百万を取った。

「何であなたが取るのよ」

「私だって怖い思いをしたもの」

「良いじゃないか」

「おじさんいる」お店に入るなり言った。

「これは珍しい、二人揃ってとは」

「おばちゃんもここに座って」幸子が奥から出てきた。

「何よ、大事な話」

「じつわ、と言ってもおじさんたちも聞いているでしょうけど、内の店を売れって言われているの」

「相手はヤクザでしょう。怖いわねえ」

「それで二人で話し合ったの。ずっと睨まれているのも困るし、売ることにしたわ」

「そこで私たちも新しいお店がいるの。この店私たちに譲ってくれない」

「譲ってもいいけど、私たちもここを出たら行く所が無いし」

「一応予算を考えてみたの。私の店が三千万。銀行から二千万借りて、合わせて五千万。

「2階を私たちが使うから、奥の部屋はおばさんたちで使って。何だったら昼間は今まで通り、お店をやってもいいし」

「そうよ、そうしたらいいわよ。それに急に仕事辞めたらボケるって言うわよ」

「分かったよ、全て沙織ちゃんに任せる」

「ヤクザとはこの人が交渉してくれるの。」

「高橋大和と言います。これからは仲良くやっていきましょう。早速、手付金という事で、これ」鞄から五百万を出して、テーブルの上に置いた。

「これから何かをするにしても金が要るでしょう。だから準備金」

「この人、大丈夫なの。ヤクザじゃないの。」

「大丈夫よ、ねえ大和。企業コンサルっていうのよ。高橋企業コンサル」菜摘が大声で言う。

「ではそれで話を付けてきましょう」


(3)関東稲田会系遠藤組


「会長、話し合いに来ました。今日は小料理 早苗の依頼できました」

「あの辺りは新開発が始まるんだ。一人で頑張ってもどうにもならないんだよ」

「いや、売る方向で来た」

「そうかい、それなら仮契約書にサインを」

「いや、まず金額だが」

「金額は30坪で、坪100万、最高額の3000万。不服はあるまい」

「それが、こちらにもいろいろと事情があって。契約書はそれでいいんだが、裏金を2000万、付けて欲しい」

「併せりゃ5000万じゃないか。なにふざけていやがんだ」

「これくらいで怒られたら、話はできない。話はこれからだからな。コーディネーターの俺の取り分だが、1億出してもらいたい」

「一億、」

「そう一億、それにあんたんとこも、色々問題があったんだ。その苦労代としてもう一億出してもらえばよかろう」

「お前に一億、俺んとこに一億。難しかろう」

「こういうのが俺の本職なんですよ。私に任せてみませんか」

「こんなどこの馬の骨か分からん奴を、信用できませんよ」


「信用するとして、どうするんだ」

「稲田会を通しません」

「そんなことしたら本家に破門されちまう」

「本家の取り分はそのままなんだから、良いではないですか」

「なぜ取れると思うんだい」

「会長も、一億貰ったけど、出費もあったでしょう。だから後には引けない。先方は五百億ですよ。後に引けますか。引いたら死んじゃうでしょうね。ホントの話」

「分かった。お前に任せる」

「では、四菱の河野さんに面会の予約を」

「何で、河野さんと知っているんだ」

「こういうのが仕事だと言ったでしょう」

「まあいい、連絡を取ってみよう」

「それと車と運転手を用意して欲しい」

「おい、大輝」

「分かりました。私の車と、運転も私がやりましょう」


「仕事の前に、親密歓迎会という事で」クラブしおりに来ていた。

「ここのママはあんたのこれかい」

「まあヒモかな」

「いいねえ、こんな美人のヒモになれるなら、人殺しでもやっちゃうよ」

「なんて物騒なお方」

「物騒なんてもんじゃない。健太がこいつに殴られた。」

「健太さん、見かけだけだから」

「驚くのはこれからだ」

「翌日刑事を連れて来て1000万取られた」

「この人から慰謝料として1000万取ったの」

「違う、ヤクザの俺達が1000万取られたんだ」

「良く話が分からないんだけど」

「もともと小料理屋の地上げの話だったんだが、、いつのまにか間に入って、一億取るって言ってる」

「1億の小料理屋って有名なところなの」

「いや違う、その辺の店。3000万、いや値上げで5000万か」

「良いわねえ、で何が1億なの」

「面白いだろう。5000万の話をまとめてやるから1億出せと」

「ちょっと話に付いていけない。3000円の洋服買うのに手数料が1万円て話なの」

「そうだ、悪どいだろう」

「顏は怖いけど、良い男ねえ」

「どこが、完全に悪役だろうが」

「稼ぐ男はヒモよりいいのよ」

「良いママだ。だが、それより仕事の話だ」

「あら、お邪魔かしら」

「いや、あんたアルバイトしないか」

「いくらくれるの。金額によっちゃあ、やるわよ」

「そうだなあ、あまり多くは出せないけど、500万でどうかな」

「あなた、旦那の前で、体を差し出せと」

「いや、ある男に会いに行くんだが、その時秘書役をやって欲しい」

「それだけで500万なの」

「話が命がけだからな」

「良いわよ、面白そうだもの」

「それはそうと、小料理屋を前もって調べた時は、あんたの名前はなかったと思うんだが」

「そりゃあそうだろう。あの日初めて飯を食いに行ったんだから」

「常連じゃないのか」

「箸箱を投げて来て、睨んだらコップの水を頭からかけられた」

「それで1000万取られた。高い物についたものだ」

「お陰でいいお友達になれたのならいいじゃない」

「俺たち友達か」

「友達より、戦友になりたいな」

「戦友か、それは良い。それでこれからどうする」

「面会の段取りが付いたら3人で乗り込む」

「俺達であってくれるかな」

「そりゃあ、会いたくなるようにする」

「どうするんだ」

「河野匠は娘が弱点だ」

「娘を誘拐するのか」

「誘拐は犯罪だ。ねえママ、犯罪を犯す奴はお尻ぺんぺんだよねえ」

「でも、この人ヤクザですよ。悪い事できないヤクザ。良いカッコしいのヤクザ」

「これでも二十歳まではこの浜で、暴走族の頭を張っていたんだ。泣く子も黙る疾風怒濤族 雷の大輝と言えば有名だった。」

「まさかと思うけど、詩織さんその頃からじゃないよね」

「この辺の娘は皆ファンだったんですよ。そりゃあカッコよかった」

「で、ファンに手を付けたと」

「まあ、いやらしい」

「いやらしいのはこいつだ」

「俺の悪口かい」

「ヤクザを良い奴だという奴はろくな奴じゃない」

「でもこの人はそんなひどいことしないし、素人には手を出さないから」

「だから、 ヤクザを良い奴だという奴はろくな奴じゃない」

「まあひどい」と言って皆で笑った。

「冗談はさておき、日程が決まったら連絡をくれ」



黒のセダンが横に止まった。

「よく来てくれた」

大輝は黒のスーツに黒シャツ、黒ネクタイ。黒でないのはダイヤのネクタイピンだけ。

「良いネクタイピンじゃないか」

「就職祝いだと言って詩織が買ってくれた」

「何だ、自慢か。寝言は寝て言え」

「この人服装とか、おしゃれの感覚がずれてるから」

「知らねえよ」

詩織も黒のひざ下のスカートスーツで、ダイヤに鎖が付いてキラリと光った。

「何だ、ツインルックじゃないか」

「ええ、分かります」笑いながら言った。

「話は全て俺がする。詩織は黙って、それらしい身振りをしてくれればいい。大輝は黙って後ろに手を組んで身動きせず立ってろ」

「へいへい」

「まあたいへんね。そんな大役、あなたに出来るかしら」

「では行くぞ」


「常務取締役の河野さんに取り次いでもらえませんか」

「お約束はありますか」

「連絡を入れておるはずだが」と言って、思わせ振りに詩織に顔を向けた。詩織は頭を縦に振った。

「河野常務がお会いになるそうです。お部屋にどうぞ」

「ありがとう」と言ってエレベーターに向かった。ドアが開いて詩織が12階のボタンを押すとドアが閉まり、静かに上昇し12階に着いて、ドアが開き、皆は部屋に向かって歩いた。さあこれからだ。

部屋をノックすると

「どうぞ」と声がした。

皆で部屋に入ると、机に座ったままこちらを見た。

「どうしても時間を取ってくれという事で、こうして会うことにしたんだが、」

大和は秘書の女性を見て、目礼をした。

「大丈夫だ。心配しなくてよい。で、話とは」

「例の土地買収の件ですが」

「あれは稲田会の会長に話をしている。君たちと話はしない」

「稲田会はそのままで、こちらはこちらで」

「何を言っているのか分からないが」

「本当に分かりませんか。それとも私が分かりませんか」

「君に会った事は無いと思うが」

「豊洲の件ではお世話しました」

「五十嵐君の所の」

「思い出してくださいましたか。では、我々のやり方も思い出してくれましたか」

「五十嵐先生は引退したと聞いたが」

「後を継いで静かにやっております。それより、こちらの件ですが、良いお孫さんに恵まれて」

「孫に手を出したらただじゃあ置かんぞ」

「大丈夫ですよ。先日も5000円のチケット200枚、100万を出しておきました。これで立ち位置がセンターに決まりましたかね」

「有難う、決まったと連絡が来た。君だったのか。ファンが付いてて、今度ファンの集いをするそうだ」

「ああ、連絡来ましたよ。我々、皆で行きますよ」

「それは止めてくれ。ヤクザが来たら大変なことになる」

「大丈夫。常務のいやなことはしませんよ。学生を集めて行かせます」

「そうしてくれれば有り難い」

「それで商売の話ですけど」

「ああ分かった。どうすればいい」

「まず私の所に1億、遠藤組に追加で1億でどうでしょう。500億に比べたら微々たるものでしょう」

「小料理屋がごねてるそうだが」

「いや、全て解決しますよ。五十嵐先生の名にかけて常務の顔を潰すようなことはしません。ではこれからもお付き合いの程宜しくお願いします」と言って握手をした。

「ああ、たまには普通の服装で、お孫さんのコンサートに行ってあげると、悩みが解消しますよ」と言って笑って部屋を出て行った。

「遠藤の会長には大輝さんから報告しておいてください。じゃあまた」と言って車を降りた。

「大和さんってすごい人ね。でも、企業コンサルって、何をする人なの」

「俺に聞くなよ、あの人の事は何も理解できねえ。でもいいアルバイトになったろう」

「そうね、お店の赤字が埋められるわ」とうれしそうに笑った。


「今帰った」二人は駆け寄ってきた。

「どうだった」

「5000万で話が付いた。後は味平さんとこだ。今から出かけよう。話は早い方が安心するだろう」

二人は大和の後を追いかけた」

「おじさんいるう」そういって中に入る。相変わらず、客はいない。

「おお、さっちゃんになっちゃん。」

「この間の話、決まったって」

「金だ」と鞄から5000万をテーブルに出した。

「ちょっと、こんな所に出さないでよ。誰が見てるか分からないでしょ。この辺も今は物騒なんだから」

「確認してもらわなくっちゃならんからな」

「確かに5000万、ばあさん座敷の押し入れに入れとけ」

「借金があるんでしょう。さっさと返しちゃいな。そうしたら安心でしょう」

「親子丼作るから、食べて行ってくれ」ニコニコしながら言う。

「じゃあそうしよう」


「会長、追加の1億、話が付きました」

「話が付いたのか、それで」

「それでって、」

「ああ、金はいつ入る」

「2,3日中に2億が振り込まれると思います」

「そうか、そうか。お前飯は食ったか。」

「朝から走りっぱなしで、何にも食ってません。」

「腹減ってるだろう。久美子、何か食べさせてやれ」

「いやいやいいですよ、姉御に面倒掛けられませんから。ではあっしはこれで」と言って家を出た。

「待たせたな」少し行った喫茶店に詩織を待たせていた。

「とにかく何か食べに行こう」

「じゃあシャルレに。あなたの奢りで」

「何を言う。お前の方が大金持ちだ。俺は強盗に合わないようガードマンだ」と言って笑った。しかし色々あるのはこれからだった。これから怒涛の運命に巻き込まれた。



(4)半ぐれ集団との戦い

「妙なもの見つけたんだ。ちょっと調べたいんだが、何人か人を回してくれないか」

「急ぎですか」

「なるべく早い方がいい」

「ちょっと待ってください。連絡とってみますから」

「電話であちこち連絡を取っているみたいだ。

「4人程都合がつきました。今からここに来ます」

「それは良かった」

4人が集まったので大輝の車に乗り込んで、山手のアパートに来た。

「ここで何が始まるのですか」

「この辺はどこの縄張りだ」

「桜田一家系の加藤組の勢力地です」

「まあいいです。ここから窓の外を見てください。ああ、カーテンを開けないように」

「向かいのマンションだ。4階の一番左の部屋。入り口のエレベーターも良く見えるだろう」

「何なんですか」若いのが愚痴るように言う。

「1日10万でバイトしないか」

「何をするのかにもよります。組に迷惑かけられませんから」

「見た目より真面目なんだな」

「そんな事は無いですけど、最近は裏バイトとか、何させるか分からないのがありますので、用心しているんです」頭の大輝の顔を窺うように答えた。

「ビデオカメラであの辺の出入りを調べる。怪しい奴は尾行して、やさと名前を調べる」

「入り口と玄関、顔がはっきり移るカメラとパソコンを調達して来い。それと食糧と飲み物だ。但し酒は厳禁。」

「尾行するのに、バイクと自転車も用意できるか。では宜しく頼むぞ」


「どうだ様子は」様子を見に来た大和と大輝が聞くと拓海が言うには

「毎朝来る男がいて、付けて行くと港のマンションに行くんですよ。調べてみたら、そこは加藤組頭の古川雄太。で、奴らがやってるのはオレオレ詐欺」

「じゃあ、奴らが悪いことして稼いだ金を、俺達で奪わないとな」大和がニヤリとして言った。

「まず、古川を抑えて、毎日持ってくる金を俺達が奪う。マンションに住んでいるのは何人だ。急いで調べろ。」

「古川は愛人と二人で住んでいます。」

「良しさっそく討ち入りだ」


「もしもし、宅配便です。受け取りに印鑑をお願いします」

「はいはい、待ってください。」ドアを開けると男たちが女の口を押えて、音をさせないように奥に押し入った。

奥で男はテレビをつけて、新聞を読んでいた。

どっと入り込み男を抑え込んで両手と、両足を縛って、ガムテーップを口に張った。

「おい、女も逃げないように手足を縛っておけ」

「若くていい女じゃないか。女の趣味がいいじゃないか」女が暴れる。

「要らんことを言うな」

「おい猿轡を外すから騒ぐなよ」と言って、男の猿轡を外した。

「お前らこんなことしてどうなるか分かっているのか」男は低い声で、脅すように言った。

「では身元から話してもらおうじゃないか」その間に、身分証になる物を探した。

「隠しもしない。俺は加藤組の若頭、古川雄太だ。」

「女はお前の愛人か」女の方を見ながら

「あれは俺の娘だ」

「嘘つくな、娘があんな大きいはずがねえだろ。皆で回すぞ」そう言って脅す。

「雄太さん、あんたも正直なならないと大人しく話が出来ない」

「本当だ。本当に娘なんだ」

「じゃあこうしよう。ホントの娘だと証明出来たら女には手を出さない。俺達も鬼じゃないからな」

「そこの娘の鞄に学生証が入っているはずだ」

「おい、それを持って来い。女、顔をよく見せろ」顔をグイっとこちらを向かせた。

「なる程本物みたいだな。古川玲奈、間違いないか」女が首を縦に振った。

「分かった、騒ぐなよ。猿轡を外してやれ」

「どうするんで。このままという訳には」

「分かっている。別の所に娘は移そう。騒がれても困るしな」

「おい、玲奈ちゃんを詩織の所に連れて行け。絶対逃がすな。お前が付いてろ。玲奈ちゃん分かっているよね。1週間だけ我慢してね。連れて行け」足のロープを外し、手は縛ったまま、コートを上から羽織らせた。

「さあ、ではおじさん、お仕事だ」雄太をしがったまま、ソファーに座らせた。

「あんたら、オレオレ詐欺をやっているよね。その金を頂こうという訳。先ずは金庫を開けてもらおうか」と言って、金庫の前に引っ張っていく。

「さあ開けてもらおうか」

「お前ら、分かっているのか、これは組の金だ。逃げられやしない」

「逃げられないのはお前だ。人質もいるしな。さあグダグダ言わんと、さっさと開けろ」

「分かった」金庫の暗証番号を入れた。

「カギはどこだ。」

「机の一番下の引き出しだ」

「あった、あった。これだな」と言って金庫のカギ穴に入れて回した。

「お、開いたぞ」と言って金庫の扉を開けた。

中には大金が積んであった。札束を数えて

「2億8千万だ」

「まだ足りねえな。まあ明日も頑張ってもらおう」

「長くは無理だろう。1週間位だな」

「明日、朝連中が来たらどうするんだ」

「おい、どうやって受け取るんだ」

「阿部というのが今日集めた分を持ってくる」

「どうやって受け取るんだよ」

「チャイムが鳴ったら俺が直接受け取るんだ」

「間違いないんだな」

「間違いない」

「違ってたらお前を殺して逃げるだけだ。そうなると娘が可哀そうだが」

「そうならないように気を付けるんだな」

その夜は交代で寝た。朝7時に阿部というのが来た。古川が金を受け取り、阿部は帰って行った。

「このまま何もなければいいがな」

日によって違うが約3000から5000万程を持ってくる。


4日経った時大和が言った。

「そろそろだな。目標には届かないが、無理すると碌なことが無い。片づけて引き上げよう」

「こいつはどうします」

「人殺しは趣味じゃない。縛ったまま転がしておけ。明日には誰か来るだろう」

「じゃあ、掃除だ。何も残すなよ。ゴミも残すなよ。よし引き上げるぞ。」そう言って帰って行った。

「このままでは済まさねえ。痛い目に合わせないと気が済まない」縛っているロープは簡単には解けなかった。


車に引き上げた大和は電話をしていた。

「警察ですか。○○マンションの4階の408号室でヤクザか半ぐれが何かやってます。怪しい人が出たり入ったりしてます。今はやりのオレオレ詐欺のアジトじゃないですか。調べてください。私ですか、匿名で、善良な市民です」と言って切った。

彼らの正式な事務所はないので、クラブしおりに行った。

「では特別ボーナスを渡す」と言って段ボールから、井上、近藤、金子の3人に1千万ずつ、大輝に2000万、そして詩織に1千万を渡した。

「詩織さんにも迷惑かけた。では娘を連れて来てくれ、返しに行くから」

「おお、大人しくしていたか」と言って頭をなぜた。五月蠅そうに手を払い

「しっかり顔を覚えたからね」

「早く忘れた方が良いぞ。ろくな事は無い。じゃあ行くか」

玲奈を大輝の車に押し込んで、古川のマンションに行くと、警察が来ていた。

「こりゃ、まずいな。どうする。どこか行くとこがあれば送っていくが」

「行くとこなんてない。友達もいないし」

「じゃあ詩織ママの所で落ち着くまで居候するしかないか。それでいいか」玲奈は頷いたので、店の方に引き返した。ママに預けて、会長の元に車を回した。



(5)お礼がてらの挨拶


「会長、この度はお世話になりました。そのご挨拶に、参りました」

「えらい殊勝だな」

「いつもこんなですよ。それはさておき、仕事が済みましたので、お礼がてらの挨拶に」

「まあ上がれ。おい、悪たれがお礼だとよ。まあ、顔を見て、覚えておけ」

奥さんがにこにこしながら出てきた。

「まあ、お茶も出さないで」ポンポンと手を鳴らすと住込みの舎弟が出てきた。

「さっさとお茶を出して差し上げて」

「じゃあ、その前に用を済ませて、その後顏見せという事で」

「おお」

「では、お礼という事で、これは些少ですが」と言って段ボール箱を台の上に置いた。それの上のガムテープを剝がして、中を見えるようにした。

「幾ら入っておる」

「一本です」

「そうか、有難く頂いておく」

「では膝を崩していいですか。苦手なんですよ」

「内では、あんたは舎弟じゃないのだから、ざっくばらんでいいですよ」

「そんなん言われたら来る度に段ボールを、持ってこなくちゃいけないじゃないですか」

「段ボール箱でなくても、専用の鞄でもいいのに」

「これは参った」

「これがこんなに機嫌がいい客も珍しいんだぞ」

「まあ、あなた何て言う事を言うの」

「でも会長の奥さんがこんな美人だなんて、いい目の保養をさせて頂きました」

「まあ、なんて冗談がお上手」

「許せ、こいつは世界で一番自分が美人だと、本気で思っている奴だからな」

「本当ですよ、会長の前でなかったら、よだれが出てるところですよ」

「あなた奥さんは」

「奥さんではないんですが、女性とは一緒に住んでるんで」

「例の小料理屋の」

「いや、そういうのが案外掘り出しもんなんだぞ」

「奥様は正月はどうされるんです」

「正月は組の者があいさつにくるから、家を開けられないの」

「じゃあ、明けてから、温泉どうです。内の奴を一緒に連れて行って貰えれば、それを機に仲良く家族ぐるみという事で」

「いいわよ。」

「吉田さん、詩織さんも一緒にどうですか」

「いやあ、うちは」

「そんなの無しですよ。そんなん言ったら内も行かれない」

「そうですよ。詩織ちゃんも挨拶に来た、あの時以来よ。一緒に行きましょう」

「大輝、お前もそろそろ上さん孝行をしなくちゃいかんぞ」

「分かりました。話してみます」

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