表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界ラブコメ】婚活はクエストで  作者: 舞波風季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

バレの村の温泉

 デリー一行(いっこう)は日暮れまではまだ間があるうちにバレの村に入った。

 村の入り口ではジョアナが待っており、

「宿はこちらです」

 と、皆を案内してくれた。


「あの臭い奴らも来たのかしら」

 ロナが村の中央の通りを歩きながら言った。

「さっきチラッと見かけました。村の(はず)れに向かっていったみたいでしたよ」

 と、ジョアナ。


「着替えたいなぁ……」

 デリーがボソッと呟いた。

 先ほどゾフィーの提案(という名の命令)でリズの水の魔法で服ごと洗われてずぶ濡れになったデリー。

 風と火の魔法を組み合わせた魔法である程度は乾かしてもらえた。

 とはいえ上着やズボンはそこそこ乾いたものの、下着まではしっかりと乾いてはいないようだ。


「どうせなら新しい服を買われては?」

 ゾフィーが言った。

「洗えばよくないかい?」

 袖や襟の臭いを嗅ぐデリー。

「乾くまでに着る服が必要です」

「あ、そうか」

「はい。それで今着ている服はしっかりと洗って予備にされればよろしいかと」

「そうだね、そうするよ」


「デリー様、服を買うのですか?なら私も!」

 デリーとゾフィーの話を聞いていたロナが言った。

「え、そうしたら(わたくし)も買いますわ」

 リズも追随した。


(ここでイメージチェンジしてデリー様にアピールよ!)

(この村では質素な服しか買えなそうですが、却ってそれがいいかもしれませんわ!)

 ロナとリズは素早くデリー対策を練り始めた。


 ジョアナに案内された宿に荷物を置くと、デリー達は宿の主に教えてもらった服飾店に向かった。

 そろそろ店に着く頃、通りの先からデリーを呼ぶ声が聞こえた。

「デリーの兄貴ぃーー!」

 大声で叫びながら、無精髭が小走りで向かってきた。後ろにはスキンヘッドとニヤケもついてきている。


「ぐっ、あいつらぁーー」

 唸るように言うとロナは迷いなく剣を抜いた。

「あの臭い男達は遠ざけておかないといけませんわね!」

 リズも魔法発動の構えだ。


「「「ひぃいいーーーー!」」」

 ロナとリズの鬼気迫る姿に無精髭達は恐れをなして腰を抜かしてしまった。

「た、たた助けてくれぇーーーー」

「火はやめてくれぇーーーー」

「魔法で溺れるのはいやだぁーーーー」

 尻餅をついて後ずさる無精髭達に、

「「問答無用!」」

 と攻撃態勢に入るロナとリズ。


「だめだめだめだめ!」

 デリーが慌ててロナとリズの前に立って、両手を広げて二人を抑えた。

「でも、デリー様が臭くなったのはこいつらのせいです!」

「そうですわ、デリー様をあんなに臭くしたのですよ!」

 二人ともデリーを臭くされたのが相当頭にきたようだ。


「まあ、それはそうだけど、街なかで剣や魔法はだめだよ」

 なんとか説得しようとするデリーに、

「今だって臭いです、デリー様」

「ええ、臭いですわ、デリー様」

「うぐ……」

 と、案外容赦ないロナとリズの指摘に言葉に詰まるデリー。


「まあまあ、ロナさんもリズさんも落ち着いてください」

 ゾフィーが穏やかに言った。

「とりあえずその人達の話を聞いてみましょう、ね?」

「ゾフィーさんがそう言うなら」

「そうですわね」

 ロナとリズのゾフィーへの信頼感はかなりのもののようだ。


「そうだね、聞いてみよう」

 テリーはゾフィーの取り成しにホッとしてそう言うと、

「で、君達は僕に何か用事があったのかい?」

 と、尻もちをついたままの無精髭達に聞いた。


 デリーの言葉に無精髭はサッと姿勢を正して正座した。

 スキンヘッドとニヤケも無精髭に(なら)って座り直した。


「えっとすね、村の外れに温泉が湧いてるところがありまして、へぇ」

「「「温泉!?」」」

 無精髭達の言葉にロナとリズ、ゾフィーがすぐさま反応した。


「そうなんすよ、デリーの兄貴も喜んでくれるかと」

「あっしらがご案内しようと思いやして」

 スキンヘッドとニヤケが言葉を継いだ。

「そうだったんだね、それは、ありがた……」

 そうデリーが言いかけたところ、


「その温泉はすぐ近くなの!?」

「公衆浴場ということかしら!?」

「施設はきれいなの!?」

 女子三人組が無精髭を質問攻めにした。


「えっとすね……」

「その……」

「なんというか……」

 女子三人の鬼気迫る勢いに尻込みする無精髭達。

 明らかに怯えていて言葉が出てこないようだ。

「「「はっきりしなさい!」」」

 苛立った三女子がずいっと迫ると、

「「「はひぃーーーー!」」」

 と、無精髭達は悲鳴のような声を上げて土下座してしまった。

「まあまあ、とりあえず僕が話を聞くから」

 デリーは三女子をなだめるように言った。


 無精髭の話では、ここバレの村の外れの河原に温泉が湧いている所があるのだそうだ。

 そこそこの広さがあり村人や旅で訪れた人達が利用しているらしい。


「だけど浴場として整備はされてないそうなんだよ」

 デリーが言うと、

「ということは……」

 ロナが嫌な予感がする的な顔で言った。

「うん、囲いもないから女性は……」

 申し訳なさそうに言うデリー。


「そんなのひどいじゃない!!」

「断じて許せませんわ!!」

 物凄い剣幕で無精髭達を怒鳴りつけるロナとリズ。

「「「ひぃいいーー……」」」

 またしても尻餅をついて後ずさる無精髭達。


「いや、それは彼らのせいじゃないから」

 と、慌ててとりなすデリー。

「確かにこの人たちのせいではありませんね」

「だよね」

 ゾフィーが賛同してくれてホッとするデリー。無精髭達も恐れの表情が緩んだ。


「でも、せっかくの温泉に女性が入れないなんて不公平です。そう思いませんか、デリー様?」

 と言うゾフィーの声は落ち着いている。

 だが落ち着いているだけに有無も言わせない凄みのようなものが感じられた。


「そう言われても、僕には……」

 困惑するデリーに、

「お願いしやす、デリーの兄貴!」

「「お願いしやす!」」

 無精髭たちが地に頭を擦り付けて懇願した。


「うう、どうすればいいんだ……」

 いつの間にか追い詰められて脂汗を流すデリー。

「あの、デリー様」

 リズが呼びかけた。

「なんだい、リズ」

「その温泉、とりあえず見てみたいのですが、よろしいでしょうか?」

「それはいいけど、何か考えがあるのかい?」

「はい、上手くいくかは分かりませんが……」

 言葉の通りリズにしては珍しく自信なさげだった。


「それは私達も温泉に入れるってことね!」

 早くも決めつけてしまっているロナ。

「だから、分からないって言ってますのに」

 ムッとしてリズが言った。

「でも可能性はあるってことですよね?」

 ゾフィーもいい笑顔になって聞いた。

「ええ、あくまでも可能性ですけれど……」

 未だ自分の考えに対して半信半疑状態でリズが答えた。



 やがてブランカも合流し、デリーたちは宿屋に向かった。

「まずは服を買いに行きましょう」

 というゾフィーの提案で温泉の前に服屋に向かった。

「デリー様は外で待っていてください」

 と、ゾフィー。

「え、でも……」

「デリー様のお服は私たちで選びますので」

 異を唱えようとするデリーにゾフィーが言い渡す。

 そして、

「まだ、臭いますから、デリー様」

 とやけにいい笑顔で付け加えた。

「分かったよ……」

 しょんぼりするデリー。


(これがデリー様の操縦法ね!)

(しっかりと頭に刻み込んで置かなくては!)

 ロナとリズは、デリーとの結婚生活十カ条(仮)にしっかりとメモするのだった。



 村の服屋には王都の店のような(あで)やかな服はなかった。

 だが品揃えはロナ達が思っていた以上にバリエーションに富んでいた。

「結構たくさんあるねぇーー」

 あちこち目移りしながらロナが言った。

「そうですわねえ」

 リズも気に入った服がいくつもあるようだ。


 ゾフィーは店の外を指しながら店員に話をしている。

 店員は頷いて店の外に向かった。

「何を話してたんですか?」

 ロナが聞くと、

「デリー様の服を選んでくれるように頼んだの」

 と言いながらゾフィーは自分用の服を物色し始めた。

 何から何まで手際の良いゾフィーにロナとリズは感心しっぱなしだった。



「あんた達は五メートル以上離れて!」

「もし近づいたら風魔法で吹っ飛ばしますわよ!」

 温泉への道を案内しようとする無精髭達にロナとリズが通告した。

「へい……」

 ロナたちには決して逆らってはいけないことを骨の髄まで思い知らされた無精髭が力なく答えた。



 宿から歩いて三十分ほど行くと林があった。

「ここを抜けると河原に出ますんで」

 無精髭が小径(こみち)の入り口を指しながら言った。

 小径を五十メートルほど歩くと林が開けて河原に出た。

 川の淵から湯気が立っているのが見える。


「あれが温泉ね!」

 ロナが走り出した。

「誰もいないみたいですわね」

 周囲を見ながらリズが言った。

「そういえばそうだね。他の人がいてもおかしくないのに」

「さっきまではいたんでやすよ」

 デリーの言葉に無精髭が答えた。


「ですがデリーの兄貴達に入ってもらおうと思いやして」

「俺たちがたむろしてたらいなくなったんでやす」

 スキンヘッドとニヤケがドヤ顔で言った。


((((くさ)いのが役に立ったのね)))

 ロナとリズ、ゾフィーは思ったが、あえて口にはしなかった。


「それで、リズが考えてたことってどんなことなんだい?」

 デリーが聞いた。

「温泉の周りに壁を作れないかと思ったのですわ」

 湯気が立っている淵に手を見て回りながらリズが言った。 


「壁って、魔法で?」

 ロナが聞くと、

「ええ、土の魔法で地面から壁を立ち上げるのです」

 リズは温泉に手を入れている。

「すごいじゃない!」

「でも、土の魔法はお庭でしか使ったことがないので、ここでうまくできるか分からないのです」

 しゃがんで河原の砂を手ですくいながらリズが言った。


「リズさんならできると思いますよ」

 励ますようにゾフィーが言った。

「ありがとうございます。できるだけのことはやってみますわ」

 ゾフィーの言葉に励まされてリズが微笑みながら立ち上がった。


「それでは」

 リズは目を閉じて精神集中に入った。

 これまでも、リズが魔法をかけるところはロナも見てきた。

 だが今回は今まで見た時よりも時間をかけて集中している。

 それだけ難易度が高いということなのだろう。


「大地よ!壁となれ!」

 両掌を前に差し出しながらリズが鋭く唱えると、淵の周囲の砂が盛り上がり始めた。

「く……!」

 歯を食いしばるリズの額を汗が流れている。


「リズ……」

 思わず駆け寄ろうとするロナの肩をゾフィーがそっと押さえた。

 やがて砂の壁は二メートルほどの高さになって止まった。

「ふうーー……」

 リズが腕を下ろして大きく息を吐いた。


「リズ!」

 ロナが駆け寄ってリズの肩を支えた。

「とりあえず、今の(わたくし)にはここまでが精一杯ですわ」

 力なく微笑みながらリズが言った。

「素晴らしいです、リズさん!」

 ゾフィーもふらつきそうなリズの肩を支えて言った。


「それではレディーファーストということで、ね?」

 ゾフィーがとってもいい笑顔でデリーに言った。


 ゾフィーの笑顔にデリーも笑顔で応えた。その顔には「降参」と書いてあるようにロナとリズには思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ