第26話 新たなる戦い
最終話です!
「ふう……」
王宮内の自室のソファに座るロナの口から出るのはため息ばかりだった。
デイル王子の立太子クエストが終わって二週間ほどが過ぎた。
デイル王子の婚約者はゾフィーに決まった。
「デイル王子の立太子クエストで活躍して見初められて王太子妃になる!」
というロナの目標がなくなってしまったのだ。
「ふう……」
「またため息ですか?」
ロナにお茶を出しながらブランカが言った。声にはロナを気遣うような響きがあった。
「ため息くらいつかせて」
憂鬱そうな表情ロナが言った。
「模擬戦で気晴らしができたように見えましたが」
「まあね、でもそれはそれよ」
ロナの思いつきでやった模擬戦は思った以上に盛り上がった。
若手の剣士、闘士、魔術士、治癒士が集まってパーティ戦を行った。
非公式なものとはいえデイル王子も参加したので、参加者はいいところを見せようと張り切った。
とはいえ、実際は若者達のお祭りといった側面が強かった。
剣士、闘士は男子が多く、魔術士、治癒士は女子が多い。
男女混合でパーティーを組み、熱戦を繰り広げるうちに意気投合する者たちも出てくる。
「いつの間にかくっついちゃってた子もいたみたいね」
またしてもため息をつきながらロナが言った。
「ロナ様もモテていたではないですか」
ブランカが励ますように言った。
確かにブランカの言うとおりだった。ロナとリズは立太子クエストに参加したこともあり人気者だった。
男子の中には言い寄ってくる者も多かった。
「サインをするのに忙しかったですものね」
と、ブランカ。
「でも結局ザガルトはサインを受け取らなかったのよね」
やや憤慨したようにロナが言った。
「やはりゾフィー様の人気は凄いのですね」
「その気持ちも分かるけどね。私だってゾフィーさんが大好きだし」
ブランカにそう答えると、ロナは何かを思い出したように、ぱっとソファから立ち上がった。
「ちょっとリズの所に行くわ」
「はい」
ブランカは何も聞かずにロナに従った。
ロナもリズも王都内に実家の屋敷がある。だがクエストが終わっても実家には戻らず王宮に留まった。
(多分リズもまだいるはずだわ)
そう思いながらリズの部屋の前まで来ると、ちょうど扉が開いてリズが出てきた。
「リズ」
ロナの呼びかけにリズが振り返った。「ロナ」
リズは笑みを浮かべて答えた。
「今あなたのところに行こうと思ってましたの」
「よかった、少し話さない?お庭とかで」
「ええ、行きましょう」
ロナとリズは並んで王宮の庭園へと向かった。
少し離れてブランカとジョアナが着いてくる。
「やっぱり憂鬱よね……」
「ですわね……」
ロナとリズは庭園をゆっくりと歩きながらぽつりぽつりと話をした。
「それにしてもデイル様があんなに積極的だったなんて意外だわ」
ベンチに腰掛けながらロナが聞いた。
「クエストの前からゾフィーさんにアタックしてたんですものね」
リズもロナの隣に腰掛けた。
デイル王子がゾフィーにプロポーズした翌日、ロナとリズはお茶会をしようとゾフィーを誘った。
もちろん目的はデイル王子との馴れ初めを聞くためだ。
「それなら僕も」
とデイル王子も入ろうとしたが、
「これは女子会ですので」
「男子禁制ですわ」
と言って断った。
ゾフィーは恥ずかしがって中々話したがらなかった。
たが、
「今後の参考のために!」
「私も見習いたいですわ!」
と、ロナとリズの必死の説得、というよりは懇願にゾフィーは根負けした。
ゾフィーは聖女になるための修行として、現聖女である叔母に付き添って王宮に参じることも多かった。
そして、聖女の重要な責務である各地の防護結界の強化や張り直しにもゾフィーは随行した。
デイル王子も王族として聖女に同行することが多かった。
そうしているうちに、二人は少しずつ親密になっていったらしい。
ゾフィーとしては、自分は聖女になる身なので恋愛結婚などとは無縁であると決めていた。
もしデイル王子がホワイティア家の娘をと考えるのなら、ゾフィーの妹のエンマを選ぶべきだと思っていた。
そしてデイル王子にもそう伝えていた。
だがデイル王子は、ゾフィーに一人の女性として真剣に想いを寄せていたようだ。
そして、何度もデイル王子から真摯な気持ちを伝えられているうちに……
というのがゾフィーから聞けたことだった。
「私たちには始めから可能性が無かったのよねぇ」
「そうなりますわね」
ロナとリズはそう言うと、
「「はぁーー……」」
と大きなため息をついた。
そんなことをしていると、離れて待っていたブランカとジョアナの下に侍従が来た。
なにやら言伝をしているようだ。
「何を話してるのかな?」
ロナが見ていると、話し終わったブランカとジョアナがこちらに歩いてきた。
「ロナ様、リス様、デイル様がお呼びだそうです」
ブランカが言った。
「デイル様が?」
「何の御用かしら?」
ロナもリズも特に思い当たることは無かった。
「はっ、もしかしたら!」
デイルの部屋に向かう廊下でロナが思い出したように言った。
「何ですの?」
聞き返すリズ。
「私達に結婚式の挨拶をしてくれとか?」
「ええーーーー!?」
「どうするリズ、そんなこと頼まれたら?」
「どうするって言われても、できませんわ挨拶なんて」
ロナとリズの想像はどんどんヒートアップしていく。
「そうしたら私達も手助けしなくてはいけませんわね!」
「そうですね、招待客にサクラを潜入させて盛り上げましょう!」
ブランカとジョアナもノリノリである。
「忙しいところすまないね、ロナ、リズ」
ロナとリズが部屋に行くとデイルが笑顔で迎えてくれた。
「全然大丈夫です!」
「とんでもありませんわ!」
心持ち頬を赤く染めながらロナとリズが答えた。
王太子妃になるという望みは潰えたとはいえ、ロナとリズにとってデイルは未だに憧れの存在であるようだ。
「ゾフィーさんはいないのですね」
部屋を見回しながらロナが言った。
「うん、聖女様のお手伝いで忙しいみたいなんだ」
笑顔で答えるデイルだったが、その表情はどこか淋しげだった。
「それでご要件は何ですの?」
ロナを横目で見ながらリズが聞いた。リズの視線に気づいたロナは小さく舌を出した。
「うん、実は来週、オルタン王国から大使が来ることになっていてね」
オルタン王国はタルタニア王国の南東に位置する国だ。
タルタニアに比べると気候は温暖で乾燥している。
オルタン王国もしばらく前から魔獣の被害に悩まされているらしい。
そこでタルタニア王国の魔獣対策を参考にしたいと大使を送ってくる、とのことだった。
「そこで、ロナとリズにもオルタンの大使の謁見に立ち会ってほしいんだ」
「「え!?」」
デイルの言葉にロナとリズが驚いて声を上げた。
「僕たちのクエストでの経験が役に立つと思うんだ。その後の会議にも出席してほしい」
穏やかな笑顔で言うデイルだったが、その目には「反対は受け付けないよ」という色が濃厚だった。
「分かりました、デイル様」
「お役に立てるのであれば」
「ありがとう、期待しているよ」
気乗りしない様子のロナとリズに爽やか笑顔で返すデイル。
「大使に会うなんて億劫よねぇ」
「ですわね」
ロナとリズは廊下のバルコニーに出て、庭を眺めながら話した。
「きっと白髪か小太りのおじいさんよね、大使って」
「あるいは。髪の毛がさみしくて太った方とか……」
二人は頭の中でタルタニアの評議員の面々を思い浮かべている。
「「はぁああーー……」」
二人は憂鬱そうにため息をつくのだった。
そして翌週の謁見の間にて。
「こちら、オルタン王国の大使として来られた、リシャル=ラジャ殿下であらせられる」
デイルに紹介されて、リシャル殿下はロナとリズに向かって挨拶をした。
「お初にお目にかかります。オルタン王国第二王子のリシャルです。お二人の勇名はお聞きしました。是非とも詳しい話をお聞かせください」
歳の頃はデイル王子と同じ二十歳くらいであろう。
リシャルは「太陽の国」とも呼ばれるオルタン王国の王子らしく、小麦色の肌に白い歯が眩しい笑顔を見せた。
((やだ!イケメン!!))
ロナとリズは一目でリシャルに魅せられてしまった。
その後は会議室に場所を移して具体的な協議に移った。
リシャルによれば、オルタン王国でもパーティを組んでの魔獣討伐を考えているとのことだった。
「わが国で魔獣の被害が出始めたのはここ一、二年です。なので、剣士や魔術士が貴国ほど育っていないのです」
「そこで、タルタニアから剣士と魔術士をオルタン王国に指導者として派遣しよう、という計画が持ち上がったんだ」
リシャルの話にデイルが言葉を継いだ。
「ということは……」
「もしかして……」
ロナとリズは、期待に胸を膨らませてリシャルを見た。
リシャルはそんな二人の期待に応えるかのように、笑顔を広げて言った。
「はい、是非とも我が国においでいただけないでしょうか、ロナ=フレイミン嬢、リズ=アイスリー嬢」
「「はい、喜んで!!」」
喜色満面で答えるロナとリズ。だが、そんな二人の頭の中では既に新たな計画が動き出していた。
(新しい恋のチャンスだわ!私って恋多き女ね!)
(隣国の王子様のご妃様ってロマンチックですわ!)
こうして、ロナとリズのオルタン王国への派遣が決まったのだった。
そして、オルタン王国への出立の日。
ロナとリズは王都の城門の前で皆の見送りを受けていた。
「姉さん、気をつけて、ね」
ロナとの別れに、ついさっきまで大泣きしていた弟のラティが、涙が残る声で言った。
「留守番は頼んだわよ、ラティ」
そう言ってロナはラティをギュッと抱きしめた。
「おおーーリズ、愛しの妹よ!またしても僕を置いて旅立ってしまうのだね!」
いつも通りの大仰さでリズを抱擁しようとする兄のフロス。
「行ってまいります、お兄様」
すまし顔でそう言いながらリズは、いつも通りフロスの抱擁をサッと躱した。
「僕も近いうちに行くことになると思う」
デイル王子はそう言ってロナとリズと握手を交わした。
「私も行くわ」
ゾフィーは涙をこらえているのか短く言うと、ロナとリズを交互に抱擁した。
「ゾフィーさん、デイル様をお願いします」
「デイル様にはゾフィーさんが必要ですわ」
晴れやかな笑顔で言うロナとリズに、
「そうね、しっかりと見ておくわ」
ゾフィーはイタズラっぽく微笑んで答えた。
そしてタルタニア王国を発って三日後、ロナとリズを乗せた馬車はオルタン王国の王都に着いた。
付き添いとしてブランカとジョアナも来ている。
ロナとリズは王都の城門前で馬車を降りた。
「さあ、いよいよね」
「そうですわね」
ロナとリズは大きな城門を見上げながら落ち着いた声で言うと、お互いの顔を見た。
ブランカとジョアナも降りてきて、それぞれロナとリズの横に並んだ。
「ロナ様、今度こそ王子様を!」
両拳を胸の前で握りしめながら、真剣そのものの顔でブランカが言った。
「リズ様の魅力で王子様を!」
両手を組んで祈るような顔でジョアナが言う。
ロナとリズはそれぞれ頷いて答えると、城門をくぐり王宮へと勇ましく進んでいった。
王宮の前でリシャル王子が出迎えに出てくれているのが見える。
「リズ、改めて勝負よ」
リシャル王子に笑顔を返しながらロナが言った。
「望むところですわ、ロナ」
そう答えるリズもリシャル王子に笑顔を送っている。
ロナとリズは進みながらお互いの拳を軽く打ち合った。
ここに、ロナ=フレイミンとリズ=アイスリーの、リシャル王子を巡る新たな戦いの幕が切って落とされたのであった。
――――おわり――――
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