第24話 デイル王子の選択
「今日中に王都に帰ろうと思うんだ」
次の日の朝、朝食の場でデリーが皆に言った。
皆の気持ちからすれば、岬の古城での戦いの疲れが気になるところではあった。
だがデリーとしては、早く王都に戻ってクエストの成果報告をしたいのだろう。今後の対策も検討しなければならない。
アバーの街には昼過ぎに到着した。
「馬車だとあっという間、楽ちんね」
昼食のため馬車を降りながらロナが言った。
「そうですわね。でも歩く旅も楽しかったですわ」
ロナの後から馬車を降りながらリズが言った。
馬車は、ちょうど日が暮れる頃に王都に到着した。
デリー達四人は到着後、真っすぐ玉座の間に向かった。
そして、王の謁見を賜った。
「デイル、ロナ、リズ、ゾフィー」
「「「「は!」」」」
「此度の立太子試練クエスト大義であった」
「「「「は!」」」」
「皆には色々と聞きたいことはあるが、まずは旅の汚れを落とし寛ぐがよい」
王の言葉には威厳があった。だが、その声は穏やかでデリー達四人を気遣っている様子がうかがわれた。
「明日また改めて呼ばれると思うけど、今日はゆっくり休もう」
「「「はい」」」
デリーの言葉に三人が答え、それぞれ割り当ての部屋に向かった。
ロナのフレイミン家、リズのアイスリー家、そしてゾフィーのホワイティア家、それぞれが王宮内に専用の部屋をあてがわれている。
「お疲れ様でした、ロナ様」
ロナが部屋に戻ると、既にブランカが待っていた。
「あなたもね、ブランカ」
そう言ってロナは勢いよくソファに腰を下ろした。
「ふぅーーやっぱり疲れてるのねぇーー」
「お行儀が悪いですわよ、ロナ様」
名家の令嬢らしからぬ格好でソファに座るロナを、ブランカがたしなめる。
「いいじゃない、私たちしかいないんだし」
「いつ誰が来るか分かりませんわ」
「その時はその時よ」
完全にリラックスモードのロナ。
「デリー様、いえデイル様が来られないとも限りませんわよ?」
ドアにちらりと視線をやりながらブランカが言った。
「まさか」
と、言いながらも心持ち不安な表情になるロナ。
「実はですね、ロナ様……」
と、ロナが座るソファに身を寄せるブランカ。
「なに……?」
秘め事を話すかのような素振りのブランカに、怪訝な顔をするロナ。
「私、ある情報を掴みまして」
「ある情報?」
聞き返しながらロナは座る位置をずらした。そしてブランカに横に座るように手でソファを叩いた。
ブランカはお辞儀をしてロナの横に座った。
ブランカの話では、明日立太子クエストの成功を祝って式典が行われるらしい。
それ自体は珍しいことではない。というより、あって然るべきであろう。
そして、デイルに協力したロナ、リズ、ゾフィーにはメダルが授与されるようだ。
「メダル?」
「はい、とても名誉なことですわ」
ブランカは自分が仕える主の栄誉に鼻高々の様子だ。
だがロナの方はというと、
「ふうん、そうなのね」
と、今ひとつ興味がないようだ。
そんなロナの様子を見て訳知り顔になるブランカ。
「実はですね、他にも情報があるのですよ」
「他にも?」
さして興味もなさそうなロナ。
「ええ、どうやらデイル殿下から何らかの発表があるようなのです」
「発表?」
興味なさげだったロナが反応した。
「どんな発表かは分からないの?」
「はい、我ら隠密メイド組合の調査網でもそこまでは……」
申し訳なさそうに答えるブランカ。
「そうなのね……」
ふうとため息をつくロナ。
「ですが現在の状況からの推測ならできます」
「どんな推測?」
「婚約発表です」
ブランカがドヤ顔で言った。
だが、ロナの表情は落ち着いていた。
「ロナ様は驚くと思ったていたのですが」予想外のロナの反応にがっかりするブランカ。
「私も思ってたし。デイル様が近いうちに決めるだろうって」
「それにしても落ち着いてらっしゃるのですね」
「そうでもないわよ」
それまでま俯き加減だったロナは顔を上げてブランカに笑顔を見せた。
「きっと、ロナ様が選ばれますわ!」
ブランカが請け負った。それは確信があってのことというよりは、ロナを元気づけようとしているようだった。
「そうだといいわね」
そう言ってロナは笑顔を見せた。そして思い出したようにブランカに聞いた。
「このことはジョアナも知っているの?」
「はい、ジョアナも知っております」
ということはリズも知っているということだ。
ロナは立ち上がると、扉へ向かいかけた。
「ロナ様、どちらへ?」
「リズのところへ……」
そう言いかけてロナははたと立ち止まった。
「ううん、やっぱりやめておく」
自分に言い聞かせるように言うロナ。
ロナは再びソファに座って考えを巡らした。
(私を選んでもらいたい、でも……)
ロナは、自身にもはっきりとは分からない心の奥底の感情と葛藤した。
一方、リズも自室でジョアナから話を聞いていた。
「そうなのですね、デイル様が婚約者を……」
昨夜ロナとも話したことだ。リズ自身も予想していた。
「殿下はきっとリズ様をお選びになりますよ!」
自信満々に言うジョアナ。
「そうかしら……」
微笑みを返したものの、リズの表情には自信と呼べるものは見られなかった。
(デイル様に選ばれたい、ですけど……)
名家であるアイスリー家からは過去に王家に嫁いだ女性もいた。
なので今回のクエストの話がある前から、リズはデイル王子に憧れていた。
『……もしデリー様が私たちのどちらかを選んでも、恨みっこなしにしようって言ったら……』
昨夜のロナの言葉が思い浮かんだ。
(私の本当の気持ちって……)
「リズ様?」
ソファに座って考え込んでしまっているリズにジョアナが声をかけた。
ジョアナの声にハッとして、リズは立ち上がって扉に向かった。
「リズ様、どちらに?」
「ロナの……」
と言いかけて、リズは立ち止まった。
(ロナと何を話すと言うのかしら……)
リズは自らに問いかけた。
そしてリズは、再びソファに腰を下ろし自分の世界に没入するのだった。
次の日は立太子クエストの達成記念式典が行われた。
ロナ、リズ、ゾフィーの三人はクエスト達成に多大な貢献をしたとして、王からメダルを授与された。
式典の後は祝賀会だ。
デイル王子の周りには祝いの言葉を伝えようと王国の有力者が群がった。
「デイル様も大変ですわね」
「そうね」
リズとロナは飲み物のグラスを手にして、離れたテーブルから様子を見ていた。
二人ともとあることで頭がいっぱいだったが、敢えて口にはしなかった。
だがお互いを気にしている様子は隠せず、時折チラチラと様子を伺っている。
「そういえばゾフィーさんはどこに行ったのかしら?」
キョロキョロと辺りを見回しながらロナが言った。
「そういえば見えませんね。お酒を取りに行ったのでしょうか?」
ゾフィーが酒好きなのはほぼ間違いないというのがパーティーメンバーの共通認識だ。
そんなことを話していると、カランカランとベルを鳴らす音がした。
会場にいた者は話すのをやめ、ベルを手にした侍従に注目した。
「お集まりの皆様、ご注目ください。只今よりデイル王太子殿下からお言葉がございます!」
侍従に紹介され、デイルが前に進み出た。
「この度、私、デイル=タルタンは無事立太子クエストを達成することができました。ですがそれは、私の力だけでなし得たものではありません。むしろ、私の力など微々たるものです。パーティーメンバーとして同行してくれた三人の仲間の力こそが、クエスト達成の原動力でした」
続けてデイルは、クエストでの出来事を多少の誇張を交えながら話した。
「そして私はクエストを終えてあることを決心しました」
デイルはここで一呼吸置いて祝賀会場を見回した。
「それは、将来私の伴侶として望む女性を選ぶということです」
デイルの言葉に会場がざわついた。
ロナとリズはデイルに注目しながらも、無言でお互いの存在を痛いくらいに意識していた。
(とうとう来たのね……)
(この時が……)
ロナとリズは静かに息を飲んだ。
(リズ……)
(ロナ……)
なぜかロナとリズは、心の中でお互いの名を思い浮かべていた。
「私、デイル=タルタンは……」
会場内が静まり返る。そしてデイルの次の言葉を待った。
「……ゾフィー=ホワイティアに結婚を申し込みます」
「「え?」」
ロナとリズは予想外の名前を聞いて呆気にとられた。




