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【異世界ラブコメ】婚活はクエストで  作者: 舞波風季


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第23話 恨みっこなし

 ガタン、ガタン、ガタン……


 目を覚ました時、ロナは心地よい揺れと音に包まれていた。


 ロナは薄暗い部屋で寝ていた。天井は低く湾曲している。


(ここは……馬車……?)


 ロナは数回(まばたき)きをした。


「目が覚めましたか?」


 聞き慣れた声にロナが顔を向けると、ゾフィーが穏やかに微笑んでいた。


「ゾフィーさん、私は……」

 そう言いながらゾフィーを見ると、彼女の向こう側にリズが横になっているのが見えた。


「リズ……!」

 ハッとして体を起こそうとしたロナの肩をゾフィーが支えた。


「リズさんには治癒魔法をかけてお薬を飲んでもらってます」

 そう言ってゾフィーはロナに小瓶を手渡した。

「ロナさんもこのお薬を飲んでください。回復が早まります」

「ありがとうございます」

 ロナはゆっくりと体を起こして薬を飲んだ。薬は味が濃く甘みが強かった。


 薬を飲み終わってロナはハッとして思い出した。

「デリー様は大丈夫ですか?」

「ええ、別の馬車で休んでいます」

「よかった……」

 ロナはホッと息をついて肩の力を抜いた。


「ゾフィーさんもかなりキツそうでしたけど……」

 デリーやリズほどではないにしてもゾフィーも相当の魔力と体力を消耗していたはずだ。


「ええ、騎士隊に随行していた治癒士に治癒魔法をかけてもらいました。それとお薬も貰って」

 そう言って微笑むゾフィーは殆どいつもどおりにロナには見えた。


 ロナはゾフィーと話がしたくて二言三言話した。だが薬が効いたのか程なくして横になり、寝息を立て始めた。



 再びロナが目を覚ましたのは、馬車が港街ニーヴに着いた時だった。


「着きましたよ、ロナさん」

 ゾフィーの優しい声でロナは目を覚ました。


「おはようですわ、ロナ」

 先に目覚めていたリズが静かに言った。

「おはよう、リズ」

 笑顔で返すロナ。


「と言っても外はもう暗いですけれど」

 リズは微笑んで言ったが、心なしかまだ声に元気がなかった。


「ここは……」

 馬車の(ほろ)を開けて外を見るロナ。

「ニーヴですわ」

 リズもロナに並んで外を見て言った。


 ロナとリズが馬車を降りると、

「ロナ様!」

「リズ様!」

 大きな声で呼びながらブランカとジョアナが駆けてきた。

 メグもすぐ後から付いてきていた、


「ブランカ、久しぶりっ!でもないか、ははは」

「ですわね、ジョアナに会うのも久しぶりな気がします」

 ロナもリズも仕えてくれているメイドに会えてホッとした顔になった。


「メグも元気そうね」

 ブランカの後にいたメグにロナは笑顔で声をかけた。

「はい……」

 はにかみながら答えるメグ。

「早めに戻ってもらったのは正解でしたわね」

 リズもメグに微笑みかける。


 そこにデリーがやってきた。

「お疲れさま、ロナ、リズ」

「「デリー様!」」

 ロナとリズは半ば悲鳴のような甲高い声を上げた。


 そしてすかさずデリーの両側に駆け寄り、

「もう大丈夫なんですか?」

「ご無理はなさらないほうがよろしいですわ」

 と彼の腕を取りながら顔をのぞき込んだ。


「うん、大丈夫。君達には迷惑をかけちゃったね」

 申し訳なさそうにデリーが言った。

「そんなことありません!」

「迷惑だなんて思ってもみませんでしたわ!」

 すかさず否定するロナとリズ。

「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいな」

 照れながらデリーが言った。


((きゃあーーーー!照れるデリー様カワイイーーーー!))


 数日ぶりにデリーを惚れ直すロナとリズだった。


「もう大丈夫そうですね、デリー様」

 後から降りてきたゾフィーがデリーの顔色を見ながら言った。

「うん、ゾフィーさんのおかげだよ、ありがとう」

 持ち前の爽やかイケメン笑顔で応えるデリー。


「今日は宿のお部屋で夕食にしましょう」

 ブランカが言った。

「いいわね、それ」

「ゆっくりできそうですわ」

 そう言ってロナとリズは笑みを浮かべて互いを見た。



 仲間内だけの夕食は和やかに、ゆったりと時間が過ぎていった。


「古城にいた魔獣は全て倒してくれたんだね、ありがとうロナ、リズ」

「い、いえ……」

「そんな……」

 改めてデリーに感謝されてロナとリズはドギマギしてしまっている。


「「ふふん!」」

 照れてしまっている本人たちの代わりに、ブランカとジョアナがドヤ顔をしている。


「でも、ギョルウがどうなったのかは分かりません」

「ですわね、あんな姿になったとあれば……」

 顔を曇らせるロナとリズ。


 ギョルウが自らを魔獣化させたことは既に話してある。

 魔獣化によりギョルウの肉体は大きく強靭になった。

 魔力も増大していた。単純な魔力量ではリズを上回るだろうとリズ自身も言っていた。


「彼がまだ生きている、ということも十分考えられるってことか……」

 デリーも眉根を寄せて思案顔である。


 ギョルウは自ら放った魔法をリズにはね返された。

 そしてその魔法を食らって吹き飛ばされた。

 並の魔獣なら魔法を食らった時に黒い砂と化していただろう。


 だがギョルウは、吹き飛ばされたとはいえ魔法を受け止めた。

 それだけ魔法攻撃に対する耐性を持っているということだ。


「これからも十分に注意していこう」

 自らに言い聞かせるようにデリーが言った。


 その後はこれまでの旅での楽しかったことを皆で話した。

 総じて楽しい旅だった。

 最後に厳しい事態に陥ったものの、皆の力で乗り越えることができた。


 まだ旅の疲れが残っていたので、その夜は早めに切り上げて皆部屋に戻った。



(なんだか眠れないわね……)


 妙に目が冴えてしまって、ロナはベッドで体を起こした。

 疲れているのは間違いない。寝付けないのは、昼間に馬車で眠ったていたからかもしれない。


 部屋はロナはリズとゾフィーの三人部屋だ。

 ロナが二人を見ると静かに眠っている。


(夜風に当たれば……)


 そう考えてロナはベッドを降りた。

 宿の二階のこの部屋にはテラスが備え付けてある。窓の脇の扉を開けるとそこそこの広さのテラスに出られる。


(剣の稽古もできそうね……)


 剣士のロナはついそんなことを考えてしまう。


 緩やかな風がテラスを流れていた。

 ロナは両腕を柵に載せて月明かりに照らされた港街を眺めた。


 しばらくそうしていると、扉を開ける音がした。

 ロナが振り返るとリズがそこにいた。


「あ、起こしちゃった?ごめんね」

 ロナは声をひそめて謝った。

「いいえ、多分あなたと同じです。なんだか眠れませんの」

 リズも声をひそめて答えた。


 ロナの横に並んでリズも柵に両腕を載せた。


「あなたにはまだちゃんとお礼を言ってませんでしたわ」

 しばらく夜の街を見てからリズが言った。

「助けていただいて、ありがとうございました、ロナ」

 やや照れくさそうにしながらリズが言った。


「それは私も同じよ。どうもありがとう、私を守ってくれて、リズ」

 返すロナも照れくさそうである。


 ギョルウが放った強力な魔法をリズが反射魔法で守ってくれたのだ。

 残りの魔力と体力の殆どを使って。


「そういえば、最後にはザガルトに助けてもらったの」

「ザガルト?」

「うん、選抜戦の決勝で私が対戦したでっかい騎士隊員」

「ああ、あの方が……」


 その時のリズは意識が朦朧(もつろう)としていて覚えていないようだ。


「お礼にサインをあげるって言ったのに、

 いらないとか言うのよ」

 頬を膨らませるロナ。

「うふふ、そうしたら私と二人でサインを書いて押しつけてしまえばいいですわ」

「いいわね、それ!」

 ロナが答え、二人でクスクスと笑い合った。


 笑いが収まるとしばらく二人は無言でいた。


「ねえ、リズ」

 ロナが静かに呼びかけた。

「なんですの、ロナ」

「この旅が、デリー様の立太子クエストが終わったら……」


 先を続けそうな気配があったのでリズはロナの次の言葉を待った。

 だが、ロナは言葉を止めたままだった。

 リズが見ると、ロナはなにやら言葉を探しているように視線を上に下に動かしている。


「終わったら、なんですの?」

 言葉に迷っているロナに助け舟を出すようにリズが聞いた、


「うん……終わったら、デリー様はどうするのかな、って……」

「デリー様が……?」

「立太子してクエストも終わったわけだし、その、何ていうか……」


 ロナにしては珍しくはっきりしない。そんなロナに、

「お妃様選びをするのか、ということですの?」

 リズはズバリと言った。


「ま、まあ、そういうことなんだけど、随分とはっきり言うのね。リズにしては珍しいわ」

「あなたこそ思ったことをはっきり言わないなんて珍しいですわ」

「そうかも……そうね、あはは」

「ふふ」


 二人で笑い合うと、リズが表情を引き締めて言った、


「白状しますと(わたくし)、このクエストで活躍してデリー様に見初(みそ)めていただくのが目的でしたの」

 リズはしっかりとロナを見ている。


「やっぱりそうなのね。私もよ。クエストで活躍して王太子妃に選んでもらうのが目的よ」

 先ほどまでとは違い、ロナは落ち着いた声で言った。


 二人はじっとお互いを見ている。

 言ってみればこれは互いへの宣戦布告である。

 いずれ修羅場に発展する事態も起こりうる状況だ。


 だが、二人の目には敵意の色は全くなかった。


「もし……」

 ロナが沈黙を破った。

「もし?」

「うん、もしデリー様が私たちのどちらかを選んでも、恨みっこなしにしようって言ったら……だめ?」

 自信なさげにロナが聞いた。


「いいえ、賛成ですわ。私も同じことを考えてましたし」

 穏やかな表情でリズが答えた。


 ロナの表情から緊張が消えた。そしてロナは溜めていた息を吐き出した。


「よかったぁーーーー命の恩人のリズに恨まれたくないもんね」

 ロナの顔は晴れ晴れとしている。

「ええ……て、ちょっと待ってくださる?なんだかあなたが選ばれるのが確定しているような言い方に聞こえるのですけど」

 リズが異議を唱える。


「あら、だって私のほうがかわいいもん」

 恥ずかしげもなく言うロナ。

「なっ……!デリー様は私のような知的な会話ができる淑女がお好みですわ」

 リズも負けていない。


「あら、それって、かわいさでは私が勝ちって認めたってことね」

 ドヤ顔のロナ。

 だがリズも負けてなかった。

「そういえば、私が美人だから敵わないってあなたが言っていたと聞きましたわ。ジョアナがブランカさんから聞いたって」


「なっ……それ盛りすぎよ!中々の美人とは言ったけど」

「あら、それでは私が美人なのは認めますのね」

 今度はリズがドヤる番だ。


「「むむーーーー!」」


 そんなことをやっているとドアを開ける音がした。

「二人ともこんな遅くに何をやっているの?」

 ゾフィーがドア越しに顔を出した。


 会話が熱を帯びて声が大きくなってしまっていたようだ。

「ああ!ごめんなさい、ゾフィーさん!」

「すみません、お騒がせしてしまいましたわ!」

 振り返って九十度お辞儀で謝るロナとリズ。


「あなた達は私よりもずっと危なかったんだから、しっかり休まなきゃだめよ」

 優しいながらもしっかりお説教をするゾフィー。


「「はい……」」


 しょげかえるロナとリズ。


 だが、俯いた二人の顔には不思議と満足そうな笑みが見えた。


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