第21話 二人の連携
「許さない許さない許さない許さない……」
ロナとリズから浴びせられた侮蔑の言葉がよほど堪えたのだろう、ギョルウは取り憑かれたように同じ言葉を繰り返している。
「許さないぞぉおおおおーーーー!」
「リズ、気をつけて!」
ギョルウの目に危険な色を見たロナが警告する。
「そうですわね」
リズも同じことを感じ取ったようだ。
「お、お前達に神の恐ろしさを思い知らせてやる!」
そう叫んでギョルウは四角い装置に手を載せた、赤黒い光が魔獣へと流れていく。
残った魔獣は二匹。既に魔力を注入されて赤黒く光っている。
そこに新たな魔力が注がれ、より輝きを増した。
「「くっ……!」」
眩しさにロナとリズが目をそらした。
そして、次にロナ達が見た時、二匹いた魔獣が一匹になっていた。
「え……?」
「どういうことですの……?」
「ひゃはははーー!これぞ魔獣合成術!喜べ!お前達は神の御業を目の当たりにできたのだぁーー!」
それまでの熊の魔獣も三メートルはあろうかという巨大な魔獣だった。
しかし、今ロナとリズの目の前にそれよりもさらに大きかった。
四メートル、あるいは五メートルにも達しようかという大きさだ。
だが、大きさ以上にロナとリズをたじろがせたのは、その形態だった。
「な、なによ、あれ……」
「あ、頭が……」
そう、合成された魔獣には頭が二つあったのだ。
「どうだぁ、双頭の熊なんて見たことないだろうーー!」
ギョルウは自分が生み出した合成された魔獣が得意で仕方ないようだ。
「なんかあいつ見てたらムカついてきたわ!」
「ええ、この化け物を倒してギャフンと言わせてやりますわ!」
合成魔獣の気味の悪い姿に最初は気圧されたロナとリズも、子供のように浮かれるギョルウを見て怒りがふつふつと沸いてきたようだ。
「何だとぉーー神に向かって無礼なこと言うなぁーー!」
ますます子供のようになっていくギョルウ。
「わが下僕よ!その生意気な小娘どもを倒すのだぁ!」
「ウガァアアーーーー!」
ギョルウの命令に反応して双頭の魔獣がロナとリズに向かってきた。
((速っ……!))
合成され双頭になった魔獣は合成前よりも敏捷性が増していた。
そのため、ロナとリズの予想以上の速さで間合いを詰めてきた。
双頭の魔獣の鉤爪がロナとリズに振り下ろされる。
反撃の態勢が取れていなかった二人はギリギリのところで後方に跳び下がった。
「弱体化魔法は効きそう、リズ?」
「やってみないと分かりませんわ、けど……」
リズも自信はなさそうだった。
もし弱体化魔法が効かなかったとしたら、一手遅れることになる。
「それじゃ、攻撃魔法で牽制ができるかやってみて」
(多少でも気を引ければ隙をつける!)
そうロナは考えた。
「わ、分かりましたわ」
リズは一瞬考えて、すぐにロナの意図するところを理解した。
「炎の球よ!」
リズが短く唱えた。リズの両手から次々と小さな炎の球が放たれる。
威力よりも速さを重視した攻撃だ。
魔獣の注意がリズに向く。大きな腕を振りかざしながらリズに向かっていった。
リズは跳び下がって魔獣の攻撃を避けた。そして次の魔法を撃った。
それを横目で見ながらロナは右側から魔獣の横を擦り抜けた。
ザンッ!
ロナの剣が魔獣の左脚を斬り裂いた。斬り口から血が飛び散り、すぐに黒い砂となる。
魔獣の頭の一方がロナに注意を向ける。ロナは距離を取ろうと跳び下がる。魔獣の腕がそれを追う。
バンッ!
反対側からリズが炎の球を撃つ。魔獣のもう一方の頭がリズに注意を向ける。そして腕を振り上げながらリズに迫る。
ロナに向かおうとした魔獣の身体が反対側に引っ張られる。
すかさずロナが魔獣の脚に斬撃を浴びせる。
そしてリズが反対側から炎の球を放つ。
「小賢しい攻撃をしてくるねぇ」
苦々しげにギョルウが言った。
「でも、そんなことじゃ僕の下僕には勝てないよぉ」
そんな小馬鹿にしたように言うギョルウを睨みつけるロナとリズ。
「頭くるわね、ほんとに!」
「でも、悔しいけどあいつの言う通りですわ」
ロナとリズは再び魔獣と距離を取り、二人肩を並べて対峙した。
「ここは一か八か最大魔力で攻撃しましょう」
魔獣を睨みつけながらリズが低い声で言った。
「あなたの口から一か八かなんて言葉が出てくるとは思わなかったわ」
横目でリズを見ながらロナが言った。
「どうやら、あなたの脳筋が感染ってしまったみたいですわ」
口の端を上げながらリズが言った。
「脳筋言うな!でも一か八かってのは私も賛成よ」
歯を見せて笑うロナ。
「あなたならそう考えると思ってましたわ、ロナ」
「でもね、少し工夫してみない?」
「工夫?」
聞き返すリズにロナが耳打ちする。
「あのさぁ、いつまでそうやってるのかなぁ、僕だっていつまでも付き合ってやる義理はないんだけどぉ」
イライラを募らせるギョルウ。
「ああ、ごめんごめん、ちょっと変な奴の話で弾んじゃってさあ、あはは」
「ええ、変な人の噂話ってついつい盛り上がってしまうものですから、おほほ」
わざとらしい明るさでロナとリズが言った。
「変な……?」
怪訝な顔のギョルウ。
「ああ、気にしないで、敢えて誰のことかは言わないでおいてあげるから」
「そうですわ、考えればすぐに分かることですけど、あえて口にはしませんわ」
そう言うと、ロナとリズは顔を見合わせてクスクスと笑った。
「ま、まさか、お前らぁ、僕の、僕のことを笑ってるのかぁーーーー!」
ドンッとテーブルに拳を叩きつけてギョルウが言った。
「あら、バレちゃったみたいね」
「仕方ありませんわ、本当のことですもの」
困ったわ、という顔でギョルウを見るロナとリズ。
「もう手加減してやらないからなぁーーーー!」
ギョルウの叫びに呼応して魔獣が突進してきた。
それを見てロナとリズは、おふざけモードを切り替えて素早く構えた。
「さあ、いくわよ、リズ!」
「いきましょう、ロナ!」
ロナとリズは手を繋ぐと、ロナは剣を持った右を、リズは左手を前に突き出した。
そして二人は声を合わせて唱えた。
「「紅蓮の炎よ、怒涛となりて、憎き敵を、撃ち滅ぼせ!」」
繋いだ二人の手が赤く輝いた。
その輝きがロナの右手とリズの左手に流れていく。
そして、ロナの剣とリズの掌から渦巻く炎が噴き出した。
二筋の炎は互いに絡み合いながら、魔獣に向かって伸びていった。
「グガァアアーーーー!」
雄叫びを上げる魔獣の胸に炎が命中し、魔獣が炎に包まれる。
同時にロナはリズと繋いでいた手を離し魔獣に突進し、跳び上がった。
リズは両手を組んで前に突き出して唱えた。
「疾風よ、鋭い槍となりて、敵を貫け!」
リズの魔法の槍が一陣の風のように飛び出した。
「いやぁああーーーー!」
跳び上がったロナが空中で剣を振るう。魔力を帯びた剣が光る。
剣の光の筋が魔獣の二つの首の根元で煌めく。
ズンッ!
リズの放った風の槍が魔獣の胸を貫いた。
ゴロン!ゴロン!
ロナが斬り落とした魔獣の首が床に転がった。
「え……?」
呆気に取られるギョルウ。
「やっったぁああーーーー!」
着地したロナは、剣を掲げて叫んだ!
「やりましたわぁーーーー!」
リズも両手を突き上げて喜んでいる。
リズに貫かれた胴体も、ロナに斬られて転がった首も黒い砂となった。
ロナとリズの見事な連携技で魔獣は倒されたのだった。




