第20話 腕の見せどころ
「ふうん、中々やるもんだねぇ」
魔獣の半数以上を倒されてもギョルウは余裕綽々といった様子だ。
「まあ、魔術士のお嬢さんはかなりキツそうだけどぉ」
とことん憎らしいギョルウに、
「この野郎ぉーー!」
と悪態を投げつけてロナが斬りかかろうとした。
だが、盾となっている熊の魔獣が立ちふさがる。
魔獣の鉤爪がロナを襲う。
ガキィーーーーン!
ロナの剣が魔獣の鉤爪を弾き返す。
ズドンッ!
デリーがすかさず魔獣の横っ腹に拳を叩き込む。
鉤爪をはじき返され拳の一撃を食らった魔獣はよろけて倒れた。
「我が剣よ、炎となりて敵を貫け!」
ロナが唱えると彼女の剣は炎を帯びた。そしてロナは倒れた魔獣の額の中心に、炎の刃を突き刺した。
「グゴッ……!」
熊の魔獣は唸り声を上げて動かなくなり、黒い砂となった。
「ふん、どうよ、私の魔法剣の威力は……はぁ、はぁ……」
ギョルウを睨みつけて威勢よく言うロナ。だが、強力な技を使った影響で息が荒い。
「なるほどなるほど、魔法剣を使えるとは大したお嬢さんだ、うんうん」
魔獣が倒されたのに少しも焦る様子がないギョルウ。
「はぁ、はぁ……ほんっと、ムカつくわね、あいつ……!」
「落ち着くんだ、ロナ」
「でも、デリー様」
納得のいかないロナ。
そんなロナの肩にゾフィーが手をかけた。
「そうよ。ロナさんにも治癒魔法をかけるわね」
「あ、ありがとうございます、ゾフィーさん」
「残りはあと三匹だ。そろそろ降参したらどうだい?」
ニヤケ顔のギョルウにデリーが通告した。
「降参?僕が?ひゃははは!何言ってるのぉ、そのセリフそのまま返してあげるよぉ」
「そうか。それじゃ、いくぞ!」
デリーが攻撃の構えに入る。彼の両拳が明るく光りだした。
「ほう、王子様も拳に魔力を込められるんだねぇ」
そう言うとギョルウはテーブルの四角い装置に手を載せた。装置から赤黒い光が延びて魔獣を包みこんだ。
「こっちも次の手を打たせてもらうよぉ」
「デリー様、魔獣にも魔力が!」
ゾフィーに治癒魔法をかけてもらったリズが警告した。
「分かってる!」
そう言うとデリーは一気に魔獣との間合いを詰めた。
魔獣の大きな手がデリーに振り下ろされる。
デリーはそれを両腕で受けると、思いっきり捻りを加えた。魔獣の腕が引き千切られ、肩口から黒い砂が噴き出した。
「やりましたわ!」
リズが叫んだ。
「私たちも続くわよ!」
ゾフィーに治癒魔法をかけてもらいながらロナが叫ぶ。
だが魔獣は腕を斬り落とされながらも、もう一方の手でデリーを横殴りに攻撃してきた。
その攻撃をデリーは身体の前で両腕を交差させて受けた。
魔獣の攻撃は凄まじかった。デリーは魔力で強化された腕で防御をした。
にもかかわらず彼は後方に弾き飛ばされてしまった。
「「「デリー様!」」」
ロナとリズ、ゾフィーが悲鳴に近い声を上げる。
「大丈夫だ」
弾き飛ばされながらもデリーは倒れずに持ちこたえた。
「私たちも援護しますわ、デリー様!」
「いや、リズ、君達は魔力を温存しておいてくれ」
デリーの様子は決して余裕があるようには見えなかった。
だが、デリーはパーティーリーダーらしく、皆に不安を与えないよう努めているようだった。
「ひゃはは!強がらないでお嬢さん達に助けてもらったらどうだぁい?」
「大きなお世話だ」
蔑みに満ちたギョルウの言葉に言い返すと、デリーは再び魔力を充填した。
今度は手だけではなくデリーの身体全体が魔力の光りに包まれた。
「デリー様、そんなにしたら……」
ロナへの治癒魔法を終えたゾフィーが顔を青くして言った。
おそらく無意識であろう、ゾフィーは手を差し出してデリーを止めようと一歩踏み出した。
だが、デリーは既に魔獣の懐に飛び込んでいた。
最大限に魔力を充填したデリーの拳が、魔獣の胸に炸裂する。
「グガァアアーーーー!」
デリーの拳の威力は凄まじく、魔獣の胸に大きな穴を穿った。
胸にポッカリと空いた穴から魔獣が少しずつ黒い砂へと崩れ始めた。
だが既に、魔獣の残っていた手がデリーの背に振り下ろされていた。
「ぐあっ……!」
三メートルを超える巨大な魔獣の掌がデリーの背に打ち下ろされる。
その強烈な一撃は強化されたデリーの身体でも支えきれなかった。
何とか倒れずには済んだものの、デリーは床に両膝をついてしまった。
「「「デリー様ぁーーーー!」」」
ロナ、リズ、ゾフィーが絶叫する。
魔獣は半ば黒い砂に崩れながらも再度デリーに攻撃しようとした。
だが、崩折れてしまうかに見えたデリーの両足はしっかりと床を踏んでいた。
そして強化された膝のバネを生かして跳び上がり、魔獣の顔面に拳を叩き込んだ。
魔獣は唸り声も上げられずに頭を吹き飛ばされ、一気に黒い砂と化した。
「やった!」
快哉を叫ぶロナ。
だが、デリーは再びその場に膝をついてしまった。
「今だ下僕たちよ!王子を叩きのめしてしまぇーー!」
ギョルウの命令に残った二匹の魔獣がデリーに襲いかかる。
「させませんわ!」
そう言うとリズは両手を突き出し、
「雷光よ!」
と素早く唱えた。
リズの両手からジグザグの光が延び二匹の魔獣に達した。
「「ギガガガ……!」」
雷撃に痺れて魔獣の動きが鈍くなる。
すかさずロナとゾフィーがデリーに駆け寄った。
そして二人でデリーの腕を取り、床を引きずって魔獣から引き離した。
「デリー様……」
リズも駆け寄ってきた。
デリーは目を瞑って動かなくなってしまっている。
「ゾフィーさん、デリー様は……」
半ば泣きそうになりながらロナが聞いた。
ゾフィーはデリーの額や首筋、胸や手首に手を当てて言った。
「気を失っています。魔力も体力も限界まで使ってしまったのでしょう」
「回復できますわよね?」
魔獣の動きを気にしながらリズが聞いた。
「それが……」
珍しくゾフィーが口ごもった。
「ゾフィーさん……?」
ロナがゾッとしたような表情で聞いた。
「私もかなり魔力を使ってしまったので、デリー様をどこまで回復させられるか……」
ゾフィーがうなだれて言った。
「でも、このままでは」
リズは魔獣の動きに神経を使いながら言った。雷撃で鈍くなった魔獣の動きが戻りつつあるのだ。
今攻撃されたら魔獣を倒すどころかデリーとゾフィーを守りきれるかすら怪しい。
「おやおや、王子様が倒されて万事休すかぁい、ひゃははははーーーー!」
勝利を確信して嬉しくて仕方ないといった様子のギョルウ。
そんなギョルウに怒りのひと睨みをくれてからロナが言った。
「ゾフィーさん、デリー様をお願いします」
「はい、勿論ですけど……」
ロナの言わんとするところが今ひとつ理解できない様子のゾフィー。
「そうですわね、ゾフィーさんにお願いしますわ」
リズにはロナの意図が分かったようだ。
「リズさん……?」
そう言ってゾフィーはリズと、そしてロナを交互に見た。
「ゾフィーさんはここから逃げてください、デリー様を担いで」
「ええ!?」
ロナの言葉に驚くゾフィー。
「私が筋力増幅の魔法をかければゾフィーさんでも担げるはずです」
と、リズ。
「でも、それでは……」
不安いっぱいの表情のゾフィー。
「私とリズで魔獣を抑えますから」
「ええ、私達で時間を稼ぎますわ」
ロナとリズが毅然と答えた。
「なにやら小癪な策を弄しようって魂胆みたいだねぇ、まあ無駄なあがきだろうけど」
そう言うギョルウはわざと時間をかけているようだ。
ロナ達が苦しむ様を見る愉悦に浸って楽しんでいるのは明らかだ。
「猛き力をこの者に!」
リズがゾフィーに向かって唱えた。
「さあ、これで大丈夫なはずですわ、ゾフィーさん」
リズに言われてゾフィーはロナの手を借りてデリーを背負った。
「すごい、本当に……!」
半信半疑な様子だったゾフィーが驚いて言った。
「それじゃ、お願いします、ゾフィーさん!」
「お願いします!」
ロナとリズに託され、
「はい、お二人も無理はしないでくださいね」
そう言って二人を心配そうに見ると、ゾフィーは小走りで扉へと向かった。
「王子を逃がして君達が残るとはねぇ、それは僕も思いつかなかったよ」
ギョルウの言葉に嘘はなさそうだ。
「さあ、後は私達が相手よ、この頭のおかしい引きこもりの変人野郎!」
嫌悪と憎悪を最大限に込めて言うと、ロナは剣を構えた。
「ええ、気色悪くて悍ましい外道には鉄槌を下さなければいけませんわね!」
リズもいつでも魔法を放てる体勢で言った。
「な、ななな何だとぉおおおおーーーー!」
二人のうら若き乙女に痛烈な侮蔑の言葉を浴びせられ、ギョルウは頭を掻きむしって悔しがった。
「さあ、ここからが腕の見せどころよ、リズ!」
「勿論、負けませんわよ、ロナ!」
そう言ってロナとリズは不敵な笑みを交わした。




