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【異世界ラブコメ】婚活はクエストで  作者: 舞波風季


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第16話 岬の古城

「今日も魔獣が多いわね」

 今日何度目かの魔獣との戦闘を終えてロナが言った。

「北に行くほど魔獣が多くなるというのは本当ですわね」

 と、リズ。


 この日、漁港で一夜を過ごしたデリー達一行は朝早くに宿を出た。

「できるだけ早く岬の古城に着きたい」というデリーの意向に沿ったものだ。

 皆の気持ちも同じだった。ここ数日で魔獣の脅威を皆が肌で感じている。


 とはいえ、旅を始めた頃よりも随分と手際よく魔獣退治ができるようになったのも事実だった。

 慣れてきたというのも勿論だが、メグの存在が大きかった。

 魔獣の接近を感じ取ったメグがロナ達に教えてくれる。

 そのおかげで、魔獣を目視できる前に戦闘態勢に入ることができるのだ。


 デリーの推測では、魔獣の巣窟はニーヴ半島の突端の岬の古城だ。

 禍根を断つためにはそこを叩かなくてはならない。


「そういえばあの人達は大丈夫かしら」

 ゾフィーが心配そうに言った。

 昨日助けた三人組のことだ。彼らとはその日の朝、村を出るところで鉢合わせた。


「昨日はありがとうございましたぁ」

 頭を掻きながら妙にへりくだってリーダー格の男が挨拶してきた。


「見た目はそこそこ冒険者っぽいのにポンコツなのよね、あの人達」

 ジト目で言うロナ。

「私たちより実践経験もありそうなのに、変ですわね」

 リズもなにやら腑に落ちない様子だ。


「君達は凄い人たちに囲まれてるからねぇ、そう思うのも仕方ないかもしれない」

 と、デリー。

「あの人達も頑張ってると思うわよ」

 ゾフィーも二人をなだめるように言った。


 そんなこんなで、その日も多くの魔獣を退治しながら次の漁村に着いた。

 そこは前の日の村よりも更に小さい村だった。

 村の入り口を騎士隊員が守っている。


「魔獣退治お疲れ様です!」

 騎士隊員が敬礼しながら言った。

「警備お疲れさまです」

 デリーも頭を下げて丁寧に答えた。

「はっ!」

 再度敬礼する騎士隊員。


「デリー様のこと知っているみたいね」

 村に入って入り口を振り返りながらロナが言った。

「昨日の村は入口に立ってはいませんでしたわ」

 と、リズ。

「魔獣の被害が増えているのかもしれないね……ん、ゾフィー、なにか気になることがあるのかい?」

 立ち止まって深刻な表情をしているゾフィーにデリーが言った。


「もしかしたら、魔獣()けの結界が弱まってしまっているのかもしれません……」

 暗い表情でゾフィーが言った。

「ゾフィーなら結界を張り直すことはできるのかい?」

「はい、叔母のお手伝いをしていましたので、小規模なものなら」

「なら、やってもらおうかな……」


「そうしたら私もゾフィーさんと一緒に行きます」

「私もお供しますわ」

 と、ロナとデリーが申し出た。

「それは教会の人に手伝ってもらうから大丈夫よ」

 微笑みながら答えるゾフィー。


「でも……」

「私たちも……」

 不満げなロナとリズ。

「あなた達はいざという時のために待機してもらっていたほうがいいと思うわ」

「そうだね、この前のニーヴの時のようなこともあるかもしれないからね」



 その夜もブランカが手配した宿に泊まった。宿と言っても倉庫にベッドやテーブルなどの家具を置いただけの簡易なものだったが。


「明日からは今までより厳しい旅になると思う」

 テーブルを囲む皆にデリーが言った。

「明日には岬の古城に着くのですか?」

 ロナが聞いた。

「そうだね、急げば着けると思うけど……」

「焦らないほうがいい、ということですのね?」

 デリーの言葉にリズが継いだ。


「うん、一旦手前で野営をしてからにしようと思うんだ」

 デリーの言葉に皆が頷いた。

「それでは明日に備えて今夜は早めに休みましょう」

 というゾフィーの言葉で皆が席を立った。



 次の日の朝、ゾフィーは昨日回りきれなかった箇所の結界の張り直しをした。

「ゾフィーさん、大変そうね」

「ですわね、なにかお手伝いできればいいのですけれど」

 ロナもリズも心配そうだ。


 やがてゾフィーの結界張り直し作業も終わり、岬の古城へ向けて出発した。

 今回は野営も一晩以上ありそうなので、荷物運び用に馬も一頭手配した。


 この日は昨日にもまして魔獣との遭遇が多かった。

「なるべく魔法を使わずに戦おう」

 デリーが皆に指示した。

 魔法の発動は体力と精神力を消費する。日に数回程度ならそれほど負担になることはない。

 だがこの先のことを考えたらできるだけ魔法は控えたほうが得策だ。


 岬の古城まては一日で行ける距離だ。だが、ここは無理をせず早めに休み、休む時間も長く取った。

 やがて一行は遠くに古城が見えるところまで来た。

 その気になれば日暮れ前にたどり着けそうな距離だ。


「この辺りで野営をしよう」

 辺りを見回しながらデリーが言った。

「あそこの木立はどうですか?」

 ブランカが指差して言った。

 見たところ四本か五本の木が小さな林を形作っている。

「うん、テントを張るのによさそうだね」

 野営用に帆布(ほぬの)も馬に積んである。早速皆で野営の準備を始めた。


 その夜も念の為火は起こさずに、夕食もパンと燻製肉のみにした。

「温かいものが欲しいけど……」

「仕方ありませんわね……」

 物足りなそうなロナとリズ。


 見張りには二人ずつ立つことにして早めに休んだ。

 最初に見張りに立ったのはロナとリズだ。

 月を見上げると遠くに岬の古城が見える。


「明日はあの古城に攻め込むのね」

「そうですわね」

 ロナとリズは囁くように話した。

 夜は小さい音でもよく響く。自然声も小さくなる。

「強い魔獣がいるのかしら」

「邪悪な魔法使いかもしれませんわ」

 お互いの言葉に思いを馳せて二人はしばらく無言で月を見あげていた。


「ねえ、リズ?」

 しばらくしてからロナが口を開いた。

「なんですの?」

「これが終わったらどうするの?」

「これが、とは?」

 ロナの言わんとするところがいまひとつ分からない様子のリズ。


「立太子クエストよデリー様の」

「ああ、そういうことですか」

 やや早口で言うロナにさらっと答えるリズ。

「そういう、ロナさんはどうするのです?」

「え、私?私は……その」

 リズに切り替えされて言葉に詰まるロナ。


(ううーーどうしよう王太子妃の座を狙ってるって言っちゃおうかしらでもまだそれは言わないほうがいや今言っておいたほうが牽制になるのではううーー)

 頭の中で猛烈な速さで考えを巡らせながらも逡巡(しゅんじゅん)するロナ。


「実を言えば(わたくし)、デリー様の妻になりたいと思っていますの」

 リズが落ち着いた声でロナに告げた。

「……え?」

 意表を突かれて言葉を失うロナ。


 だが落ち着いて見えるリズも内心は心臓バクバクだった。

(どうしましょう、思わず言ってしまいましたわ!)


「ふーーん、奇遇ねぇーー実は私も王太子妃になりたいと思っているのよ」

 ロナは最初の衝撃から瞬時に立ち直り、すぐさま反撃に転じた。

「……え?」

 今度はリズが意表を突かれる番だ。


 一瞬の沈黙。


「あらぁーーあなたのような脳が筋肉でできている女性がデリー様の心を射止めることなんてできないと思いますけれどぉ」

 沈黙を破ってリズが言う。


「あなたみたいに取り澄まして上品ぶった人こそデリー様の好みじゃないと思うわぁ」

 ロナも負けていない。


「王子様の妻になるということは王族の一員になるということ、何よりも気品が大事ではないこと?」

「何言ってるのよ、何よりも大切なのは信頼関係よ、デリー様は私を信頼してくださってるわ」

「まるで私よりもあなたの方がメリー様の信頼が厚いような言い方ですのね」

「当然でしょ、私はいつも先陣を切る役目を任されているんだから」

「それも私の魔法での支援があってこそですわ」

 

「「むむむむーーーー」」


 お互いに譲らないロナとリズ。


 しばらく睨み合っていた二人だったが、

「まあ、もうすぐ分かることだわ」

 とロナが心持ち肩の力を抜いて言った。

「ええ、明日以降の活躍次第ですわね」

 リズも溜めていた息を抜いて言った。

 そして二人はまた月を見上げながら、とりとめもない話を始めた。


 こうして、クエストの最終地点を前にした夜が更けていった。



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