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【異世界ラブコメ】婚活はクエストで  作者: 舞波風季


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第13話 強敵

 その魔獣はテラスの突端に二本足で立っていた。

 夜とはいえ多くのランタンの灯りのおかげで、魔獣の姿もはっきりと分かった。

 ランタンの光に照らされている身体は鱗に覆われており、ギラギラと光っている。


 足元には水たまりができており、今海中から上がって来たことが分かる。

 手には恐ろしげな鉤爪があり、指の間には水かきが見える。

 それだけでも十分に恐ろしいが、何よりも恐ろしいのは顔だった。


 それは鱗で覆われたカエルという形容が最も近い。

 嫌らしく開いている口には鋭く尖った無数の歯が見える。


「これは……変な魔獣どころの騒ぎじゃないね」

 そう言うデリーは困惑しながらもどこか楽しそうだった。

「なんだか楽しそうですね、デリー様」

 デリーの様子を見てゾフィーが言った。

「楽しい?まあ、そうかもね。恐い気持ちが半分だけど」

 デリーはそうゾフィーに返すと、

「皆、気をつけて戦ってくれ。無理はしないように!」

「「「はい!」」」


 テラスは幅が七、八メートルあるがテーブルや椅子が置かれている。動き回って戦うのは難しそうだ。

「牽制してみますわ」

 そう言ってリズは精神を集中し、

「炎の球よ!」

 と唱えて右掌を突き出した。

 リズの手のひらから炎の球が飛び出し、鱗の魔獣の胸に命中した。


「ギギギィイーー!」

 それほどのダメージは与えてはなさそうだったが、魔獣を苛立たせるのには十分だった。

 苛立った魔獣は、近くにあるテーブルや椅子を右に左に弾き飛ばした。

 魔獣が暴れたおかげで邪魔だったテーブルや椅子が無くなった。


「よしっ!」

 ロナはこのチャンスを逃さずに一気に魔獣との間合いを詰めた。


 ザンッ!


 ロナの剣が魔獣の胴体を逆袈裟に斬った。

「ギィァーーーー!」

 苦しそうに奇声を上げながらも、魔獣は鋭い鉤爪をロナに向かって突き出してきた。


 ザンッ!ザンッ!!


 目にも止まらぬ速さでロナの剣が魔獣の両腕を切り落とした。


「ギャギャァーーーー!」


 腕を切り落とされて悲鳴を上げる魔獣。切り落とされた腕はテラスの床で骨と砂になっている。


「とどめよ!」


 既に魔獣の背後を取ったロナが、魔獣の背に剣を突き立てた。


「ギギッーー……」


 断末魔の鳴き声を上げて魔獣は砂と骨になった。


「この一匹だけかしら」

 ロナは剣を構えながら海面に目を凝らした。

「油断はできませんわね」

 リズも周囲に目を配っている。


 すると、ロナ達がいるテラスの反対側が騒がしくなった。

「こっちにも出たぞ!」

「逃げろーー!」

 人々の叫びと板敷きのテラスを駆ける音が響き渡る。

「今度はあっちか!」

 デリーは振り返って言うと、すぐさま駆け出した。


 すると、四、五人の男がテラスに駆け込んできた。

 そして反対側に出た魔獣を取り囲んだ。

「あの人どこかで……」

 デリーの後について走り出したロナが呟いた。

「衛兵隊ですわ!」

 同じく走り出したリズが叫ぶように言った


 駆けつけてみると、衛兵隊の中でも際立って大きい男が鱗の魔獣と対峙している。

 手にしているのは幅広の大剣だ。

 他の隊員はテラスにいた人達に被害が及ばないように壁を作っている。


「うっわ、あの剣重そうーーてか、あいつ選抜戦で私に負けたやつじゃない、名前忘れたけど」

 壁を作っている隊員のそばに来てロナが言った。

 ロナの言葉に大男の肩がピクリと動いた。

「失礼ですわよ、ロナ……!」

 リズが囁き超えで言った。

 だが、リズの囁きも大男に聞こえたようで再び彼の方がピクリと動いた。


「ギギギィイーーーー!」

 魔獣が恐ろしげな鉤爪を大男に向かって振り上げた。

 大男は大剣をゆっくりと上段に構え、一瞬止まった。


 ザンッ!


 次の瞬間には大剣は振り下ろされ、魔獣は左肩から袈裟斬りにされていた。

「……!」

 断末魔の鳴き声を上げる間もなく魔獣は黒い砂となって崩れ落ちた。


(うっわ、マジ強いわこいつ!)

 ロナは心底驚いた。

 速さと戦術がものをいう選抜戦ではロナが勝った。

 だが、真正面からの真剣勝負だったらどうなっていたことか……


「衛兵隊の方々に来てもらえてよかったですよ」

 デリーが大男に言った。

 デリーを見た大男は一瞬顔色が変わった。だが、すぐに落ち着いた表情になり、

「いえ、こちらこそ来るのが遅くなってしまい申し訳ありません」

 と丁寧に頭を下げた。


「いやあーーさすが衛兵隊ねぇ」

 わざとらしい明るさでロナが言った。

「ありがとうございます」

 大男は丁寧に礼を言い、

「ザガルトと申します。あなたには負けましたけれど、ロナ嬢」

 とさりげなく付け加えた。

「あ、そうだったっけぇ、あはははーー」

 ロナはこの場は笑って誤魔化そうと決めたようだ。

「私も有名になったものねぇ、サインいる?」

「いりません」 


「僕は冒険者のデリーと名乗っている者だよ」

 デリーがザガルトに自己紹介をした。

「はい、衛兵隊のザガルトです。よろしくお願いいたします」

 ザガルトはデリーの正体に気づいているようだが、敢えてそのことには言及はしなかった。


「この街で魔獣が出たのは初めてかい?」

 デリーが聞くと、

「はい、街なかでは初めてです。街の近くで退治されたことはありましたが」

 ザガルトが答えた。

「だとしたら、街の警備の強化が必要かもしれないね」

 口調は穏やかだがデリーの目は真剣そのものだ。

「はい、明日の朝一番で王宮に使いを出して衛兵隊の増援を要請します」

 デリーの言葉を厳粛に受け止めてザガルトが答えた。


「魔獣が以前よりも増えてきているということなのでしょうか?」

 ゾフィーが心配そうに聞いた。

「うん、そう考えて行動したほうがいいと思う」

「それならば、今後の計画をよく練る必要がありますわね」

 と、リズ。

「そうだね。宿に戻って改めて話し合おう」


「デリー様」

 ザガルトがデリーに呼びかけた。おそらくは無意識であろう、上官の指示を待つ気をつけの姿勢になっている。

「ええと、ザガルトさんには明日話しに行くよ、衛兵詰所に」

「かしこまりました」

 デリーに答えて踵を鳴らして敬礼しそうになるザガルト。

 そんなザガルトにデリーは目配せをした。

 ハッとした顔になったザガルトは慌ててデリーにお辞儀をして、隊員達に指示を出し始めた。


「あの、デリー様」

 ロナ達に声をかけて宿に戻ろうとしたデリーにルイーザが呼びかけた。

 デリーが振り返ると、

「この子、メグが何がお役に立てませんでしょうか?」

 と聞いてきた。


「メグちゃんが……?ああ、そういえば……」

 魔獣が現れる直前のことを思い出してデリーが言った。

「ええ、この子は元々感が鋭い子で、以前街の外に出た時にも同じようなことがあったんです」

 メグの肩を抱き寄せながらルイーザが言った。


「君は魔獣が近くにいるのが分かるのかい?」

 デリーが微笑みを浮かべながらメグに聞いた。

「魔獣、なのかは分からないけど……嫌なモノが近くにいると、分かります、なんとなく……」

 言葉を探しながらメグが言った。


「なので、この子をデリー様のお供に連れて行かれればお役に立てるのではと」

 ルイーザが言った。

「でも、危険ですよ、とっても」

 デリーは表情を引き締めて言った。

「はい、承知しています。それにこれはメグの希望でもありまして」

「「「え!?」」」

 ロナ達が驚いて声を上げる。


「あたし、悪いことをしちゃったから、お役に立ちたいんです、デリー様の」

 そう言って(うつむ)き加減だったメグが顔を上げた。

 そしてしっかりとデリーの顔を見ている。


「じゃ、一緒に行こうか」

 デリーが笑顔で答えるとメグの表情がぱぁっと明るくなった。

「いいんですか?」

「危険ですわ」

 ロナとリズが異議を唱えると、

「僕たちで守ってあげればいいさ」

 とメグの頭を撫でながらデリーが言った。


「ロナ様、ロナ様」

 ブランカがロナにヒソヒソ声で呼びかけた。

「なに、ブランカ?」

「デリー様は、もしかしたら……」

「もしかしたら?」

 そばにいたリズとジョアナも気になって寄ってきた。そして興味津々といった様子で聞き耳を立てている。


「幼女趣味なのではないでしょうかっ……?」

 とブランカ。

「幼女趣味……?」

「まさか、そんな……」

 ロナとリズは信じられないといった顔をしてデリーを見た。


 いつの間にかメグはちゃっかりデリーの腕に縋りついていた。

 デリーはそんなメグを嬉しそうに見ている。


「デリー様、やっぱりメグを連れて行くのは危険です!」

(いろんな意味で!)

「そうですわ、何が起こるかわかりませんもの!」

(いろんな意味で!)

 ロナもリズも必死である。


「そこは僕達みんなで協力し合えば……どうしたの、メグ?」

 そう言ってデリーがメグを見ると、彼女はしくしくと泣いていた。

「わ、私、デリー様にいけないことしちゃったから、役に立ちたくて……」

 そこまで言うとメグは声を上げて泣き出した。


「ほらほら、泣かないでメグ。お姉さんたちには僕から話しておくから、ね?」

 メグの涙にもらい泣きしそうになりながらデリーが言った。

「はい……」

 メグは泣きながら小さく頷いた。


「ロナ様、あの子、強敵ですわよ」

 メグの様子をじっと見ていたブランカがロナに囁いた。

「うん、私もそんな気がする」

 ロナの目も真剣だ。


「リズ様、油断大敵ですよ」

 ジョアナもリズに小声で計画した。

「そのようですわね」

 リズもメグのことを強敵認定したようだ。


「あらあら」

そんな中、ゾフィーはいつもの聖女笑顔で皆を見ているのだった。


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