プロローグ 少女A(エー)ちゃんと、妹と恋人
物語の主な登場人物は三人である。高校生の少女Aちゃん。その妹である中学生のA’(エーダッシュ)ちゃん。そしてAちゃんの恋人である、同級生女子のBちゃんだ。
年頃の彼女たちには、それぞれの事情というか、情事があって秘密があった。色恋沙汰には珍しくもないことである。そんな彼女たちの週末、周囲にまつわる、お話の始まり始まり。
「明日の日曜、デートはどうする? 私は映画を観たいんだけど」
『いいじゃない。生憎、私は午後から用事があるんだけどね。映画を観て、それから何処かでランチを食べて帰るプランでいいかな?』
「うん、オッケー。高校生だもん。お互い、色々と忙しいよね。じゃあ、また明日」
そう言ってAちゃんが電話を切る。彼女は自宅から電話をかけて、恋人であるBちゃんとデートの約束を取り付けたのだった。Bちゃんの用事とは何だろうと、ちょっと気になったが深くは追及しない。誰にでもプライバシーや秘密はあるのである。Aちゃんは現在、自身の秘密と仲良くしている真っ最中であった。
「電話、終わった? お姉ちゃん、息を荒げないで、よく話せたね」
「もう、悪い子なんだから。抵抗できないときに弄ってくるの、止めてよ。私たちの関係がバレちゃうじゃないの」
「大丈夫だと思うけどなぁ。Bちゃんなら案外、受け入れてくれるよ。きっと」
くすくす笑いながら、ベッドで妹のA’ちゃんが伸し掛かってくる。裸の姉妹は、じゃれ合って転がり合った。
「そんなリスク、負えるわけがないでしょ。今の時代、あっという間に情報が拡がっちゃうんだから。姉妹での秘めごとは、秘密にしてるから楽しめるのよ」
「まあ、秘密を持つのが楽しいっていうのはわかるよ。別に法律で罰せられるわけじゃないんだから、そんなにビクビクする必要もないと思うけど」
能天気な妹ちゃんである。Aちゃんは呆れたように首を振った。
「私は、そんなに図太くなれないの。悪党の才能があるのかしら、貴女。末恐ろしいわぁ」
「またまたぁ。小さい頃の私に、悪いことをしてきたのはお姉ちゃんのくせにぃ」
「くぅー、痛いところを突いてくるわね。そんな子には私が突き返してあげるわ」
姉妹で色々と、突き合って。小休止して、部屋の時計を見る。まだお昼であった。
「お母さんは、お友だちと泊りがけの旅行よね。帰ってくるのは日曜の夜、と。昔っから家を空けることが多いわよねぇ、お母さん。おかげで私は、貴女と仲良く過ごせるんだけど」
妹から突かれて疲れて、Aちゃんはベッドでうつらうつらとし始めながら呟いた。
「わかるよ。お姉ちゃんが昔、私に悪戯してきたのも、寂しかったからでしょ。いいんだよ、私だって寂しかったんだから。何にも問題なんかないってば」
「……そうも行かないでしょ。私たちはそれぞれ、別の恋人を作るべきよ。私も高校生になって、ガールフレンドができたわ。誠実な、一対一の恋愛関係を築いていくべきなのよ。私も貴女も、姉妹で依存しあう関係は、何処かの時点で終わらせなきゃ……」
いつしかAちゃんは寝息を立てていた。妹のA’ちゃんは、まだ元気いっぱいだ。
「裸で寝てると風邪をひいちゃうよ、お姉ちゃん」
丁寧に毛布を掛けてあげて、姉の寝顔にキスをする。ベッドから立ち上がって、衣服を身に着ける。寝室から出ると、妹ちゃんは自分のスマホを取り出した。