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第35話 妹

 地面に残る水たまりに軽く足を滑らせると、水面に映る自分の顔が揺れた。

 時刻は正午を過ぎたばかりだが、待ち合わせの時間を過ぎても俺を呼びつけた相手が現れない。


 ズボラな性格の人じゃないし、何かあったのかと思ってメッセージを送ったものの、返事どころか既読すら付かない。


 取り敢えず待ってるけど、いつになる事やら。

 今のところ俺は、真夏日の空の下で駅前のベンチに座って日向ぼっこしてる変な奴。

 もはや不審者ってレベルなんだけど……俺の方は俺の方で、ちょっと問題が起きていたりする。


「ねえおにーさん、いつまで待ち合わせの人待ってるの〜?」


 ……なんか、変な女の子に絡まれてるんだよな。

 急に「わ〜最近雑誌で見た人だ〜」ととんでもない棒読みで言ってきた少女だ。ガッツリ前髪を上げてるわけじゃないから、CMの人とは思われてないらしい。


 どことなく見覚えのある整った顔立ちはクールな印象を受けるが、口を開くとなんかチャラい。

 ボーイッシュなショートヘアとか大きなツリ目を見ていると少年の様に見えなくもないが、シャツを大きく押し上げる胸元に目をやるとそんな考えも消し飛ぶ様だ。

 短過ぎるショートデニムと薄手のカーディガンはファッションとしては目を引くもののいくら暖かいからと言っても、この時期に足を出し過ぎだろうと思わなくもない。

 何より、薄手のカーディガンに透けて見えるインナーの肩紐が気になって仕方がない。


 正直同年代には見えないくらいセクシーな格好して歩いてるんだけど……。いくらゴールデンウィークとは言えど、どういう目的があったらこんな姿で町中に姿を現すことになるのやら。


「あ、無視ですか。てか、さっきからどこ見てるんですか〜?」

「え……胸」

「わあ正直」


 だって動く度に目の前で弾むんだもん、目で追っちゃうのも仕方無くないかな。

 あと綺麗な素足が太陽で輝いてると眩しいんだよね。日焼け止めでも塗ってあんのかな。


「ね〜私が来てからもう2時間ぐらい待ってますよ、よくも飽きずに居られますね〜」

「別に……。家に居るとずっとなんかしらやってるし、こうやって何にもしないでぼーっとしてるだけの時間も悪くないなと思ってる」

「うへぇ……変な人」


 それに付きまとってるこの子も相当変だけど。


「……聞いて良いのか分かんないんだけどさ」

「はいはい」

「君いくつ?」

「え〜……じゃあ、おにーさんの一個下ってことで。おにーさんはいくつですか?」

「さあ?多分君の一個上じゃないか?」

「わお一本取られた」

「そんなつもりないけどな」


 全く、面白い奴だな、話してて飽きないタイプだ。嫌いじゃないけど、自分から積極的に関わる相手じゃないからちょっと新鮮だ。


 一人分くらいの距離を開けてベンチに座る少女と、互いに未だ名乗ろうとせずに他愛のない話を続ける。


「そう言えばおにーさん、私が話しかける前に女の人に話しかけられてましたよね〜。あれ誰なんです?」

「さあ、誰だろうな?」

「やっぱりモデルやってると逆ナンなんて日常ですか〜」

「君がやってるのも似たような事だけど」

「私はただちょっかいかけてるだけですよ〜」

「それをナンパって言うんじゃないの?」


 まあ具体的な定義なんて知った事じゃないし、この子の前に話しかけてきた人に至っては普通に知り合いで同じマンションに住んでる女子大生だったから、最早ナンパですら無かった。


 ご機嫌そうな表情で俺の顔をずっと見ている隣の少女が何を考えているのかはあまり分からないが、しばらく話してて、ある程度今の状況は把握できた。


「ところで四ノ宮さん、君ずっと俺のこと見て楽しいか?」

「面白いですよ〜。よく分かんない相手をさり気なく気遣いながら時間潰してて、いい人だな〜と思ってます」

「……よく分かんない相手、ね」

「…………あぇ?ところで私、名乗りましたっけ?」

「ん?」


 軽く惚けて、戯けて見せようと思ったのだが、その前に後ろから声をかけられた。


「──あ、赤瀬くん……!」


 とても焦りを含んだ声色に振り向くと、普段のポニーテールを解いてハーフアップの可愛らしい髪型をした四ノ宮伊緒が居た。


「四ノ宮か、おは……じゃないな、こんにちは」

「やっほ〜お姉ちゃん、遅かったね」


 四ノ宮の顔を見るなり、楽しそうに笑った少女は……何処からか、四ノ宮のスマートフォンを取り出した。


「…………」


 愕然とした様子の四ノ宮を見てご機嫌そうに肩を揺らすと、四ノ宮の手を取ってそこにぽんとスマホを置いた。


「はい、満足したから返しますよ〜」

「……」


 いつになっても連絡が返って来ない理由に納得しつつ、それにしたって四ノ宮はあまりにも遅かった様な気がする。


「君、四ノ宮に何やったんだ?」

「え〜……あれ?そう言えば驚かないんですね。私この人の妹なんですけど」

「別に、大体予想着いてたから」

「え、こんなに似てないのに?」

「割と似てるよ」

「……そうですかね〜?」


 感情と表情が一致しないところとか、特にね。


「ま、大したことはしてないですよ〜。ちょっとゆうくんに足止めして貰っただけで」

「……はぁ……」


 四ノ宮は怒りを通り越して呆れた様子でため息を吐いた。果たして何かあったのか、疲れすぎて言葉もないようだ。


 俺がしばらく黙っていると、四ノ宮妹は少しだけ頬を引きつらせた。


「……な、なんか……怒ってます?」

「えっ、いや俺は別に構わないけど……。何と言うか、いたずらにしては度が過ぎるな……と」

「いたずらじゃないですよ〜。普段仏頂面決め込んでるこの姉が、最近妙に一人の男子にお熱を上げてるんで本気で気になったんですよ」

「……なんで知って……」

「そりゃ知ってるよ〜なんか部屋で盗撮っぽい写真をずーーーーっと眺めてるし」

「と、盗撮じゃない……」


 ……盗撮……ではないか、まあ。

 俺の部屋に居る時、四ノ宮はちょいちょい急にスマホ取り出して写真撮ってたり動画撮ってたりする。堂々と撮影してるから、盗撮だとは俺も思ってないよ。

 偶に着替え中とか撮ってるから、それには流石に苦言を言ったりするけども。


「え、でも、前完全にお風呂──」

「ちっ、違うから!!」


 突然、四ノ宮が妹さんに覆い被さる様な形で俺から距離を取った。


「でもそれ見て一人で……」

「バカ、言わないで!そもそも何で知って……!?」


 ……何話してんだ今度は?

 珍しく……もないか、俺が見てるときの四ノ宮は結構取り乱す事が多い様な気がする。


 妹さんと一緒に居るからだろうか、今日は随分と表情豊かだ。慌てたり恥ずかしがったり怒ったり、四ノ宮らしくは無いがとても普通の女の子らしい姿を見せてくれている。


 まあこう言うのも悪くはないか。結局、今日なんで四ノ宮に呼ばれたのかすら俺は分かって無いんだけど。


 四ノ宮も案外、家族の前では普通の少女なのかもな。

 前に見せてもらった母親とのチャットのやり取りも中々クセの強い物だったが、この奔放な妹さんを見た 感じでは、彼女の家族はこういうタイプが多いのかも知れない。


「……取り敢えず喧嘩はそこまでにしてさ、一旦どっか入らない?俺お昼ご飯まだなんだよね」

妹ちゃん降臨。


ところで赤瀬くんって「いやまあ」とか「別に」とかっていう陰キャっぽい口癖が多いんですよね。意識しないと本当に忘れそうになる……。

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― 新着の感想 ―
こういう、自分の強みを自覚して、好き勝手やる女子は、 大嫌いだったりします。痛い目に遭えば良いのに。
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