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第14話 なにか違う

 店に入ったらすぐに出てきた男性の店長。

 ボディービルダーにも見紛う様な筋骨隆々とした肉体をワイシャツとエプロンで着飾っている。

 俺の顔を見ると、厳格な雰囲気は一瞬で消え去り朗らかな笑顔とラフな口調で接してきた。


「なんだよ弟くん、彼女さんと来たのか〜?」

「違いますよ才羽さん……」

「いやいやどうかなぁ。ウチの娘もキミのことは気に入ってるから」


 はあぁ、と俺がため息を吐く横で、花ヶ崎がちょいちょいと肩をつついてきた。


「し、知り合いなの?」

「おっと失礼。お客様だもんな、キミたしかオープンの日にも来てくれていたね」

「あ、はい」

「理桜君はね、私が安心して娘を差し出せるくらいに信頼している男の子だよ」

「手に余るんで勘弁して下さい」


 俺に雪さんの面倒を見れる訳が無いだろうに。


「でもこの子は彼女さんじゃないんだろう?」

「そうですけどね、男女の関係と恋愛をイコールにしないで下さいよ」

「そこはイコールだろう。君は下心がないのに女の子にコートを貸してあげたりするのか?」

「下心が無くても友達にコート貸すくらい普通でしょ。もし仮に俺にそういう気があっても、花ヶ崎の方に無いんで、今回は関係ないです」


 というか、こんな話をしに来たんじゃない。

 それどころか才羽さんと話がしたくて店に入った訳でもない。


「それより、席に案内して下さいよ」

「好きに座りなよ、君がエスコートしてるんだろ?」

「はぁ〜……。何で俺に対してはこうも適当なんだこの親子は……」


 オープンして一週間程度しか経っていないが、飲食店は初めてじゃないからか、客足が少ない状況でも落ち着いているようだ。


 俺は諦めて、花ヶ崎の手を取って店の奥に移動した。

 花ヶ崎を席に座らせて、メニューを手渡しながら俺も対面に腰を下ろす。


「そう言えばバイトやるとか言ってたね、ここだったんだ」

「それどころか、ここのメニュー半分は俺の考案なんだよ。さっき言ってたカプチーノとかまさに、豆とか淹れ方とか俺が才羽さんに教えた奴だしな」


 さり気なく教えてあげると、花ヶ崎は少しぽかんとしてから顔を赤くした。


「……まって、それ超恥ずかしいんだけど!なんで先に言わないの!?」

「俺が話す前に語りだしたのそっちだろ……。まあ、俺はここの人とちょっと縁があって──」


 さっきの店長は才羽裕二さんという、元々レストランのコックをやっていた人だ。

 なので、基本的な洋食やスイーツはとても良いものを提供できるが、コーヒーや紅茶は専門外らしくあまり精通していなかった。


 だからそっちの方面に詳しい人の話が聞きたいとボヤいていた事を耳にした才羽さんの娘、雪さんは以前に何度か姉さんを訪ねてうちに来た際に出てきたお菓子や軽食、紅茶の事を思い出して俺に目を付けた。


 その後、才羽夫妻は俺が茶葉を取り寄せたり豆を買って挽いたりコーヒーを淹れたりするのが趣味だということを、雪さんと姉さんを経由して知ったことで、喫茶店のメニュー作成やコーヒーの淹れ方を教えて欲しいと頼み込んできた。


「へぇ……。レストランの人だったんだね。ボディビルダーとかじゃないんだ。なんで喫茶店やろうと思ったんだろ」

「今の奥さんと会ったのが喫茶店らしいよ。結婚する時に二人で仕事辞めて喫茶店を開きたいって話をしてたんだとさ」

「……なんかいいね、そういう話。ちょっと憧れるよ」

「まあ、その奥さんはまだ会社辞められなくて、店の運営と会社の仕事の板挟みで大変なんだけどな」


 俺が才羽さんの奥さんである才羽(あや)さんに会ったのは合格発表の日が最後だったが、あの時は徹夜四日目で、冗談抜きに死にそうな顔色をしていた。


「俺が協力したからオープンする目処が立ったのは良いけど、才羽さん一人ではどうなるか分からないってことで、もう少し手伝ってくれって頼まれたんだ」

「……ねえ、アタシ赤瀬が淹れるコーヒー飲みたい」


 花ヶ崎が急にそんな事を言い出した。


「別にいいけど……何が良い?」

「オススメは?」

「メニューにはない。多分材料はあると思うけど……」

「えー……それ値段どうするの?」

「俺持ちって事で良いよ、ちょっと待ってて。才羽さんどうせ聞いてたんでしょ、キッチン借りるよ」

「君たちホントに付き合ってないのか?」

「付き合ってないですよ……」


 今日の内にあと何回同じ質問をされることになるんだろう?

 俺は何度目かのため息を吐いてから、店のキッチンに入った。


 それから十数分ほどしてから、俺はトレイを持って花ヶ崎の座る席に戻った。


「お待たせ致しました、こちら特製のカフェオレとパンケーキです」

「……なんか、様になってるね」

「こう見えて、接客は才羽さんに一発オーケーもらってるからな」


 花ヶ崎の前にカフェオレとパンケーキを置き、トレイを片付けてから自分のウィンナーコーヒーを持って席に座った。


「ねえ、これって黒ゴマだよね」

「香りが良いから分かるよな。こっちのパンケーキは俺のサービス」

「あ、ありがと……。ね、アタシ赤瀬に黒ゴマのスイーツが好きとか、言ったことあったっけ?」

「一回だけ聞いたことある」


 三年くらい前の話だが、しばらく関わりが無くて忘れていても、こうして話をしていれば以前にどんな事を話していたか、くらいは自然に思い出す。


「……ほんとに、そーゆーとこだよ……。いただきます」


 口癖という訳じゃないだろうけど、俺のどういう所に対して何が言いたいんだ。

 びっくりするくらいこっちに全然伝わって来ないぞ。


 言葉の真意を問う前に花ヶ崎がカップを手に取ったので、俺は何も言わずに大人しく窓の外に視線を移した。


「これは……確かに、趣味のレベルじゃないね」

「…………」

「赤瀬?」

「……ん?」

「えっ、どうかしたの?」

「あ、ごめん。外に星野を見つけたから……」


 窓の外を指差すと、星野と四ノ宮が肩が触れ合う距離で並んで歩いていた。

 俺達からは後ろ姿しか見えないが、遠い距離から後ろ姿を見ただけでも分かるのだから、本当に目立つ二人だ。

 あの様子だと、駅に直行して帰宅するだろう。


「……ほんとだ」

「手を繋いでるってより、星野が一方的に掴んでるだけなんだな……。なんか……む、虚しくないのかあれ」


 それはともかく、何処となく四ノ宮が元気なさそうに見たのは気の所為だろうか。疲れてるようにも見えたが……。


「そこはほら、どっちも慣れてるから」

「ふーん……。色々知った上で傍目から見てると、ちょっと不憫だな」


 それはそうと、あんな光景に慣れきっているのは花ヶ崎の方も同じだった様で、彼女はとくに気にする訳でもなくパンケーキに舌鼓を打っている。


 もし俺が関わらなかったとして、星野と四ノ宮の関係がちゃんとした恋に発展する可能性ってあったんだろうか。


「……あれ見て思い出したんだけど、俺達店に入るまで四ノ宮の話してたんだよな」

「え、あっ、そうだったね」

「何話してたっけ」

「ずっといっちゃんと一緒にいると自信を無くすって話」

「あぁ、そっか」


 歩き去って行った星野と四ノ宮の二人をボンヤリと思い浮かべつつ、ここに来るまでにした話を思い返す。


「……花ヶ崎に惚れられるって、冷静に考えると羨ましいな」


 口を衝いて出たそんな言葉は、カシャンッ!という耳障りな金属音に遮られた。


「うわっ、大丈夫!?」

「ご、ごめん!大丈夫!フォーク落としただけだから……。って、そうじゃなくて!!赤瀬は急に何言ってんの!?」


 言われてみれば確かに、何言ってんだ俺。

 四ノ宮にラブレターを渡されてる俺が口走る様な事じゃ無かったかも知れない。

 花ヶ崎が驚いているのはそんな意味ではないが。

 星野が現状に気付けば、寧ろ嫉妬心を抱くのは彼の方だろうに。


 ……ってか、本当に冷静に考えて、どうなってんだこの状況。


 花ヶ崎にとっては、好きな人が幼馴染みの女の子と仲良く帰宅する現場を目撃している状態。

 四ノ宮にとっては、好きな人が幼馴染みの女の子と仲良く放課後デートをしている状態。

 これは俺が悪いけど……いや、別に悪くはないか。


 唯一、星野にとっては「いつもの幼馴染み三人」ではなく「好きな人と二人きり」という状態が続いているから寧ろ好都合なのも、不思議だ。


 ともかく、人のことを言えないという前提を理解した上で、それでも思ってしまったんだから仕方ないだろう。俺は花ヶ崎に惚れられているのに、他の女と手を繋いで帰る様な星野が素直に羨ましい。


 人のことは言えないけども!


「あ、アタシだって、別に惚れたくて惚れた訳じゃないし。感情なんて自分でどうにか出来る、物じゃないし……」

「いや、俺別にそんな深いこと考えて言った訳じゃないんだけど。思った事素直に言っただけで」

「そ、それはそれでじゃないかなぁ!?」

「なんだよ、星野のことを羨ましいって言う男なんて山程見てきただろ」

「赤瀬が言うのは……なんか、違うじゃん!」


 なんで……?

 俺にだって可愛い幼馴染み二人と当たり前の様に毎日を過ごしてる奴を羨ましいと思う感性はあるのに。


「あ、赤瀬ってさ……その気になれば彼女の一人や二人すぐに作れるでしょ?なのに悠岐のこと羨ましいとか、アタシがどうとか言うのって、変っていうか……」


 俺は花ヶ崎から一体何だと思われてるんだ。


「俺の事を一匹狼とか言ってたのはそっちだろ?」

「で、でも!赤瀬が適当に女の子口説いたら大抵はコロッと落ちるでしょ!」

「いや……。なら聞くけど、花ヶ崎が星野の事を好きだって知ってる俺が、それを承知の上で君に『彼女になって欲しい』とか言ったら、付き合うのかよ?」

「そ、それは……」


 花ヶ崎はすこし俺の言葉を反芻したあと、耳まで真っ赤になった顔で目を泳がせながら呟いた。


「っ……当たり前、じゃん……赤瀬、だし」


 これは、聞くんじゃなかった。

 赤くなった顔を隠すように俯かせた目の前の少女に、なんて言葉をかければ良いか分からなくなり、俺はただ生クリームが乗ったコーヒーに口をつけた。


「…………甘い」

うーん、甘い。

 どうしよう、美香と理桜のイチャイチャ書くの楽しい。メインヒロインがすっかり蚊帳の外なのは大丈夫だと思いましょう。


 でも、美香も悠岐の幼馴染みだからタイトル詐欺にはならないですね(暴論)

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― 新着の感想 ―
本当に短編の2人よりこの2人の方が甘々なんですけど(笑) もう付き合っとけよお前ら
もう全部貰っちゃってよ♪
メインヒロインが誰だか、分からなくなっていましたが、 今回の話で、美香がメインヒロインだということが、よく分かりました!!!
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