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第12話 放課後の刹那

 窓の外は曇天、止んだばかりの雨露が窓を濡らしていた。


「明日帰り早いんだって〜遊び行く?」

「アタシこの辺は土地勘ゼロなんだよね。なんかいいとこあるの?」

「大きめのデパートとかはあるけど、体動かせるとこ無くってさ〜」


 ホームルームが終わり、俺は戸締まり等の日直の仕事を済ませてから、席に戻り学級日誌の記入を始めていた。

 それと一緒になって、俺の席の周囲には四人の女子が放課後になってすぐに集まって来ていた。


 その頃、教室内に残る生徒は俺の席に集まる女子だけが残っている。


 うーん、おかしいな。

 俺昨日は入学式にすら参加出来なかったし、今日の朝は完全に浮いていたはずなのに……不思議な物だ。


「意外、美香さん運動できそうなのに」


 理由は分からないが桐谷さんは何故か俺の背後に立って、俺が学級日誌に記入している所を見ながら話をしている。


「よく言われるよ……雰囲気だけはアウトドア派だから」

「でも頭良い訳じゃないっていうね、ウチといっしょだ〜」

「ハルは見るからにバカじゃん」

「は?」


 仲良いね君たち。

 他の三人も、俺の席を取り囲む様な形で話をしているが、別に俺に話を振ってくる訳ではない様だ。


「花ヶ崎さんって、何の教科駄目なの?」

「一番ムリなのは英語かなぁ」

「あー……分かるよその気持ち。うちらも教えてくれる人がいるから何とかなってるだけだもん」

「こう見えて帰国子女だからね!」

「ハルは自分の事みたいに言ってるけど、これ梓のことね?そういう枠で受験してるし」


 普通に生活していて「帰国子女」なんて単語を耳にすることあるんだな。


「あ、じゃあ三人ってずっと一緒に来た訳じゃないんだね」

「私たちは幼馴染みなの。でも私がしばらく海外に居て……」


 今度は「幼馴染み」とか言う、あまりここで聞きたくない単語が話の中に聞こえてきた。


「え、どこどこ、何年くらい外国居たの?」

「えっと……5年かな、小学校の半ばくらいからロサンゼルスに」


 アメリカか。行きたいと思ったことは無いけど、野球とかアメフトとか観に行くのは面白そうだ。

 親の仕事で行ったんだろうけど、五年も何してたんだろう?


「梓が、わざわざ両親に日本の高校に行きたいって地元に戻って来たんだ〜。梓はウチのこと大好きだねぇ」

「別に幼馴染み目的で帰ってきた訳じゃないでしょ」

「そんな事ないよ?二人とも会いたかったもん。それで私一人で帰国して、受験して……って感じだから、こう見えて再会して一ヶ月くらいなんだ、私たち」


 妙に一緒にいる時間が長いのはそんな理由が背景にあったからなのか。

 良い話だとは思うが、生憎と彼女たちをあまり知らないのでソレ以上の感想は浮かんでこない。


「へえ〜じゃあ桐谷さんって一人暮らし?」

「うん。お婆ちゃんの実家に入る予定だったんだけど、帰国の前に亡くなったの。それで一人暮らし。自分で家事全部をこなすって、一人分でも大変なんだよね、最近はお婆ちゃん……っていうか、親って存在の大きさをすごく感じる」


 一人暮らしか、俺と同じだ。

 でも俺は休日のバイトにまで電車に乗るのが嫌で、ついでに登校も楽な場所に住みたくて一人暮らしをしているのであって、何か本当に特別な理由がある訳じゃないから、桐谷さんと比較するのは少しおこがましいかも知れない。


「梓はお婆ちゃん子だったから余計にね」

「うん。それと一緒に、二人が居てくれることにも、有り難みも感じてるよ」

「そんな事言っても何もでないよ」

「そっか〜。でも、大変な時に一緒に居てくれる幼馴染みが居るって、すごく有り難いよね」

「ふふっ、そうだね」

「その気持ち、すごくわかるもん」


 ……俺には分からない。

 花ヶ崎が、桐谷さんの気持ちが分かると口にした……その理由が分からない。

 仲良し三人組、幼馴染み、その程度の共通点だけでは納得ができない。


「美香さんにも幼馴染みが?」

「居るよ。そこと、そこの席に」


 桐谷さん達の友情と言うのは、今日のほんの数時間の内に見た姿、聞いた話だけでも納得できる、理解も及ぶ。


 なにせその友情の形はとても分かりやすい物だから。

 仲のいい女の子三人、幼馴染み。

 三人で居なければ成立しないのではなく、誰かが間に居なければ成り立たない関係でもない、変なカーストも無い。

 久しぶりに再会してからも、関係が当時と変わらないのだから感心するしかない、そんな気持ちの良い関係だ。


「あ、もしかして星野くん?あと……」

「四ノ宮伊緒、だっけ」

「めっちゃ可愛いポニテの子だよね!ウチもお話したかったのに男子が群がっててさぁ!」


 それと比較して、花ヶ崎と幼馴染みとの関係は、年月を追うごとに変化している。

 俺が知っているのはせいぜい中学校での三年間だけだが、それにしたって最初に見た時と比べて随分と変化した。


「星野も顔は良かったかもね。ただあの感じ見ると……。花ヶ崎さんは辛いね」

「分かる?分かるよね!?アタシの苦労分かるよね!?」


 ……真ん中に居るのが男子であり、かつ優秀で顔の良い星野であった事がやはり一番の違いか。

 ついでにその星野は四ノ宮に恋して──いや、恋をしているというより、もはや自分が四ノ宮と一緒に居るのは当然の事であるという絶対的な思いがあるんだろう。

 熟年夫婦みたいなソレなのかも知れない。


「ああ言う姿見る度に、好きになる人間違えたなって思うもん」

「「……」」

「え〜!それってラブなやつだよね!」


 驚きを隠せない様子の桐谷さんと秋村さん、それとは真逆に、春宮さんはすぐに目を輝かせて反応した。


 俺も流石に、普通に自分の気持ちを言った花ヶ崎に少しだけ驚いた。


「そだよ、こう見えてアタシも恋する乙女なんだな〜」

「意外、美香さんって面倒臭そうな人好きになるんだね」

「桐谷さ〜ん、ちょっと辛辣じゃない?まあ間違ってないけどさぁ。ずっと一緒にいるせいで、何で好きになったのか自分でも分かんないんだよね。いっちゃん……伊緒ちゃんに夢中になってる悠岐とか、散々見てきてるのに」


 言われてみればその通りだ。今までは「そういう物」だと思って自然に見ていたが……いくら顔と性格良いとか、基本的にハイスペックだとか、手先が器用でそこそこの女子力もあって魅力的だからと言っても、四ノ宮一筋な姿を一番近くで散々見てきた筈の彼女が惚れるっていうのも、凄い話だ。


 寧ろ、好きな人に一途な姿に惹かれたんじゃ無いかってくらいだが。


「ふへぇ〜……わっかんないもんだねぇ〜」

「花ヶ崎さんって四ノ宮さんの事はどう思っているの?」

「へ?普通に親友、だよ。いっちゃんはアタシの気持ち知ってるし、ああ見えて応援してくれてるから」


 客観的に見るとそれもそれで不思議な状況だ。

 なんで四ノ宮は自分を好きだと言ってる男に恋する少女を応援してるんだ。

 どこの目線から見てるんだよ。


「あの二人両想いじゃないんだ……」

「いっちゃんは……あれ?もう返事貰ったのかな……」


 ごめん、まだなんだよ。

 それどころか、今日の四ノ宮は「自分が告白した筈の相手が他の女の子に囲まれてキャッキャしてる所」を散々見せられている始末だ。


「返事?好きな人がいて、もう告白までしてるってこと?」

「そ、いっちゃんが好きな人を追い掛けて、そのいっちゃんを悠岐が追い掛けて、悠岐を私が追い掛けて、三人揃ってこの学校に入ってるから」


 何故かその先頭に俺が居て、俺は姉を追い掛けてこの高校に来てるっていうね。はっはっは、なんでだろうな。


 ……いや、待てよ?

 なんか違う。

 四ノ宮にとって元々第一志望だったこの高校の受験をしたその日に偶然俺の事を見つけた……って、手紙に書いてあった筈だ。

 追いかけてきたと言うよりは、結果的にそうなったと言う方が正しい。


 話に若干の違和感を覚えて考え込んでいると、少し話が跳んで聞こえてきた。


「……てことは、星野くんは四ノ宮さんに好きな人が居ることを知らないであんな感じなんだ」

「でもさ、あんなの見た後に四ノ宮さんに告白されても、YESとは言い辛くない?」

「絶対渋ってるっしょ」

「どうかなぁ……」


 うんうん、よくわかったね。

 でもあの手紙を読んでしまうと、NOとも言い辛いんだ。

 そもそも彼女を嫌ってる訳じゃない。

 寧ろ四ノ宮に多少なりとも好感を持っているのは事実だし……なにより、何だかんだ彼女を見て来て苦労を知っているから、四ノ宮が「隣に居て欲しい」と言うのであれば、支えてやりたいと思っている。

 あの手紙を読む感じでは圧倒的に熱量に違いはあると思うけれども。


 何にしたって、星野に隠れてコソコソと伝える方法を模索してるのはシンプルに彼が怖いからだ。


 話を聞きながら内心で考え事をしている内に学級日誌を書き終えた。

 顔を上げると、秋村さんと目が合った。

 そして行き場をなくした視線を無理やり動かすと、時計が目に入ってくる。


「……君ら、帰らなくて良いのか?」

「え?……あっ!?やば、バスくるじゃん!」

「待って準備してない…!」


 秋村さんと春宮さんが慌てて帰る準備を始めたところ、それを見て桐谷さんが微笑みを浮かべた。


「相変わらず忙しないなあ、二人とも」

「昔からこんな感じなんだね」

「ふふっ、ずっとこんな感じかな。それじゃ、私も二人と一緒に帰るね」

「うん、また明日」

「あーっ!梓が先行っちゃった!」

「ちょっとぉ!ハルまで置いてかないで!!?」


 慌ただしく教室を去っていく三人を見て、花ヶ崎は楽しそうに肩を揺らして微笑んだ。


「いいなぁ……」


 花ヶ崎がポツリと呟いたそんな台詞。返す言葉が思い付かなかった俺は聞こえなかったフリをした。

 帰り際なのに騒がしいことこの上ない三人組だったが、残していった空気感は実にしっとりとしている。


「私も帰ろ」


 残った彼女も帰る準備を始めたので、俺も同じ様に荷物を片付けて、そのついでに少し彼女へ話しかけた。


「あのさ」

「なに〜?」

「さっきの話って本当?」

「さっきのって、どの話?」


 いくつか聞きたいことはあるが、真面目に聞いてみたいと気になった話は一つだけだ。


「花ヶ崎ってさ、本気で四ノ宮のこと親友だと思ってるのか?」

「……」


 正直、二人の関係値や今まで見てきた姿があるから、親友という言葉を疑うつもりはない。疑うつもりはないが、何かが引っかかった。


  まあ、簡単なことだ。

 なんであえて「親友」という言葉を選んだのかが気になった、それだけだ。


 そしてそんな違和感は合っていたらしい。花ヶ崎はどこか照れた様な、困った様な苦笑を浮かべた。


「赤瀬ってそういうところ、あるよね」


 それはどう言う意味で言ったんだろう。

 彼女は意味もなく教室内を歩き回り、教卓に腰掛けてソワソワした気分を落ち着つかせていた。


 花ヶ崎が視線を向けているのは間違いなく俺に対しての筈だが、その瞳には俺の姿が映ってない様に見えた。

メインヒロインの肩身が狭い。それはそうとちょっと今回のお話は気に入ってます、特に主人公が全然喋らないのに、内心がうるさいところとか。


ところで最近、エピソードの感想を頂ける事が増えて本当に有り難いのですが……なんか、返信ができないです。

別のエピソードの感想が混ざって表示されたりしてて、改善するまで返信無いです。


まあでも、このお話が面白かったら感想コメントとかフォロー、レビュー等をよろしくお願いします。

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