表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

第11話 幸先の悪い一日

 入学式の翌日、俺は朝から一人を謳歌していた。

 入学式に出てないのだから、当然と言えば当然なのだが、いざ教室に入ったら「誰こいつ?」と言う視線に晒される事になった。


 昨日は昨日で家に帰ってからは姉さんに鬼電された挙句、質問攻めにされたりと中々大変だった。


 ただ、同じクラスには俺の昨日の事情を知っている花ヶ崎美香という子が居たので、完全に孤立した、と言うのとはまた違った。


 昨日東出先生が話していた通り、今日は五教科の課題テストが実施された。花ヶ崎が何を考えているのかは分からないが、彼女は時間が空く度に俺の席に来ていた。


「ねえ赤瀬〜課題テストがムズ過ぎるんだけど」

「あぁ、やっぱりそう?受験から難易度上げすぎだと思うよ俺も。多分予習して来たかの確認もあるとかなんだろうけど……」

「それにしたってじゃない?」


 三限目の英語の課題テストが終わった後、花ヶ崎は周囲の目など気にもせずに俺の机に寄りかかっていた。


「あ、てか話変わるんだけどさ。さっき隣の子に聞いたんだけどね?」

「んー?」

「生徒会の赤瀬詩織って、赤瀬のお姉さんだよね?」

「え……そうだけど。なんで急に?」

「入学式の時に代表挨拶してたんだよ」

「……えぇ、姉さんが?」


 生徒会に入っている事は知っていたが、目立ちたくないとか言ってるくせにそんな役目をしていたのか。


「びっくりした、あんな綺麗なお姉さん居たんだね。たしか中学校違うよね?」

「姉さんは私立行ってたから違うけど……まあそれにしたって、良く気づいたな」

「私も隣の子に言われて驚いたよ……!苗字一緒だな〜とは思ったけど、雰囲気違い過ぎるし」

「あの人、俺と違って目立つもんな」

「あ、でも良く見ると顔は似てるかも。赤瀬ってパッと見の印象より、顔も性格もマトモだよね」


 それ聞くと寧ろパッと見の印象とやらがどうなっているのか知りたいところだ。

 少なくとも雰囲気が似てないのなら、姉とは正反対であろう事だけは想像に難くない。


「や〜うちのお姉ちゃんとは大違いだよ」

「年離れてるだろ、比べんなよ」

「寧ろ年離れてるから思うんじゃん。もっとしっかりして欲しいなって。昨日倒れたのとは別の話でね?これちょっと愚痴になるんだけど……」

「それは昼休みにして。チャイム鳴るから」

「あ、ホントじゃん。じゃ、あとでね」


 兄弟姉妹の愚痴なんて、本人に言ってやれば良いんだから身内の外に話さなくて良いんだよ。

 自慢なら幾らでも言い合ってやるんだけどな。


 うちの姉は今でこそ少しヤンチャ外見をしているが、それは悪印象になっていないらしい。

 金髪の混じった髪やピアスを当然の様に校内でも着けているのに先生達が許容してるおかしな状況を見る限り、それ以外の素行は良いのか、もしくは注意出来ないほど影響力があるのか……。


 もしそうなら、弟という話が広まるだけで悪目立ちしそうだ。


 姉の成績がいいのは良く知っているが、それにしても上っ面を気にして生徒会に入る様な性格じゃないことも知っているつもりだ。

 内申点なんて物を頭に入れて生活する人でもない。


 正直、積極的に行動するとは思えないので、誰かに誘われたんだろうけど……。


 ふと聞こえてきたチャイムの音で、仕方なく思考を切り替える。


 先生が遅れているのを良いことに、四ノ宮の席の周りにはまだ数人の男子生徒が残っていた。


 出席番号が一番なので俺の席は廊下側、一番前にあり、一方で四ノ宮の席は二列先の後ろの方。


 今日直接彼女に目を向けたのは、朝登校して教室に入った時だけ。だが周囲の話し声を聞いているだけで状況が分かる程度には彼女に注目が集まっている。

 なんせ星野がアイドルの握手会に居るはがしみたいな事をやってる訳だから。


 お陰で俺も話しかける機会は無さそうだ。

 こうなる様な予感はしていたので、準備はしてあったから別に良いけども。


 そう、俺は別にこのままでも全く構わないから良いんだ。

 問題はあっち、四ノ宮の方だ。


 今彼女が内心で何を思っているのか、俺には想像もつかないが……。

 冷静になって考えると、少なくとも心穏かでない事だけはよく分かる。


 自分は好きな人に話しかけることも出来ないまま、まだよく知らない男子生徒たちに囲まれて時間が過ぎていくのに、幼馴染みの花ヶ崎は隙を見つけては俺に話しかけに来る姿を見ている訳で……。


 一方でその花ヶ崎は、と言うと星野が幼馴染みの四ノ宮に付きっきりだから暇して俺の所に来てる訳で……。


 ……今更だけど、なんで俺は何処ぞの幼馴染み三人組の三角関係に割り込みさせられてるんだろ?


 ふと、突然隣の席で集まって話をし始めた女子生徒達が視界に入って来た。

 俺は、とくに理由もなく彼女たちの声に耳を傾ける。

 隣の席は真面目そうな女子が座っており、そこに小柄なギャルと色々デカいギャルが寄りかかっている。


 小さい方は俺の後ろの席の子だったかな。


「先生遅くね?」

「どうしたんだろ、テスト時間短くなるとか勘弁して欲しいんだけど。ただでさえ全然分かんないのに」

「それアッキーが馬鹿なだけっしょ」

「は?いやアンタ人の事──」

「他のクラスも先生来てないのかな」

「あ、三組自習になってるって。なんかトラブってんのかな」

「…………」


 当たり前の様にスマートフォンを取り出して隣のクラスと連絡を取り合っているところを見て、俺は思わず苦笑する。


 そもそもスマートフォンを持ってからの歴が薄い俺にとってSNSの広大さは少し足を踏み入れ辛い環境に感じているので、彼女たちの様にインターネットのそこかしこから交友関係を手に入れる術を持っていることには素直に感心してしまう。


 入学前に先んじて交友関係を作っておくのが当たり前なのかな。


 まあ、果たして隣で話している三人組が、高校からの付き合いなのか、それ以前からの付き合いなのかは知る由もないだろうけど。


 また少し時間が経って、この教室内だけでなく別の教室にまで少し喧騒の波が広がってきた頃。

 俺は欠伸を抑えながら、頬杖を付いて眠気と戦っていた。


「…………」

「ねえ赤瀬くん」

「んー……っ!?」


 まさか隣の女子たちがこっちに話を振ってくるとは思ってなかった俺は、適当な生返事をした後に慌てて顔を上げた。


「もしかして寝てた?ごめんね?」

「いや、寧ろホントに寝るとこだったから助かった」

「あ、そう?」


 話しかけて来たのは集まっている女子たちの中心、俺の隣の席の少女だった。

 名前は確か──


「それで、桐谷さんなにか?」


 そう、俺の記憶が正しければ彼女は桐谷きりや(あずさ)だ。隣の席だから一応頭に入れていた。

 色々デカいギャルっぽい喋り方の人とちっこい方は分からない、ごめん。


「赤瀬くんって日直でしょ?職員室行ったとき何か聞かなかったの?」

「一応、朝行ったときに騒ぎになってたから、何かがあったのは知ってるけど……話聞いたりはしてな──」


 ──ピーンポーンパーンポーン


 ふと、校内放送のチャイム音が聞こえてきた事で、校内の喧騒が一瞬にして静まり返った。


 校内放送で流れたのは「一年生全クラスで行われる予定だった課題テストの内、数学と社会の二教科が明日へ延期される」という内容だった。


「え、だる」

「先生来ないってことは範囲ミスとか、かな?」

「さっきまでのテストもムズイと思ったんだよね〜。今頃一年担任総出で問題作り直してるとか思うとオモロ」

「それガチトラブルだし。てかハルもムズイって思ってたんじゃん!」

「午後どうすんだろね〜」

「6時間目に新入生歓迎会だから……。明日の予定入れるとか?」


 ぼんやりと話を聞いていたら、桐谷さんがこっちを向いている事に気付いた。

 もしかして、俺に明日の予定を聞いているのだろうか。


「えと、明日はほぼ健康調査と身体測定だけど」

「え、そっか。なら明後日は?」


 いやいや、なんでこっちに聞いてくんの?昨日貰った書類見てないのかな。


「……普通に授業開始、それと体力測定」

「じゃあ予定の先送りとかじゃないっぽいね〜」


 桐谷さんがそう言ってこちらから目を離したのでそっと息を吐く。

 やっと向こうの会話から離れられそうだと安堵したとき……。


「アカギってマメだね、よく予定とか確認してるわ」


 ……え、それもしかして俺?


「誰それ?赤瀬くんだよ」

「あれ?アカギリクでしょ?」

「だから誰なのそれ?赤瀬理桜だよこの人」

「昨日居たっけそんなの?」

「昨日は居なかったけど、そのアカギって人も居なかったじゃん」


 桐谷さんとデカい方のギャルが俺の事を話している一方で、ちっこい方が俺の席に近寄ってきた。


「赤瀬ってなんで昨日居なかったの?」

「その前にごめん。あのさ、俺キミの名前知らないんだけど」

「うち?秋村弥生。そっちのデカパイが春宮飛鳥」


 小さい方が秋村、大きい方が春宮。

 よし、ちゃんと覚えておこう。


「で、なんで昨日居なかったわけ?」

「強いて言うなら厄日だったから」

「……?」


 詳しい事は説明しても信じてもらえなさそうだ。


「俺にとって昨日は、夏休みなのに雪が積もった時くらい、衝撃的な一日だったんだ」

「何その、人が壁をすり抜ける確率、みたいな例え」

「トンネル現象って奴か。いや、量子力学は中高生の分野じゃないだろ……」

「今どき、アニメ見てればそんな話題いくらでも出るっしょ。うちアニメ見ないけど」

「えっ、なになに!アニメの話!?」

「うあぁ……オタクはこっちくんな……」

「いーじゃん、アタシ今期はね〜──」


 やばいなぁ、愉快な女子高生に目を付けられた気がするぞ。


 結局、桐谷さんに加えてその友人二人、秋村弥生と春宮飛鳥との話は4時間目の授業時間が終わるまで続いた。


 昼休みになってからは花ヶ崎と時間を過ごしたが、昼に弁当を食べている最中で、担任の東出先生が教室に来るなり、平謝りをしていたのが妙に印象的だった。

この主人公、男子生徒と絡ませ辛いんだけど……。

ところでメインヒロインは………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
作者が愚痴る主人公・・・ ジワル~
メインヒロイン(仮)と主人公の熱量が違い過ぎて不憫この上ねぇ。 でも実際、両思いでもなきゃこんなもんよねぇ、とも。
「今の美香は、悠岐と居るのが当たり前」 「まあ……幼馴染みだし?」 「だから、一旦引いてみる、とか」 「押して駄目なら、的な奴?」 「…………そう」 「具体的には?」 「……悠岐じゃない男…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ