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第10話 相談

 高校を出た後、俺は助けた女性の意識が戻ったと聞いたことを思い出して、お見舞いをしておこうと搬送された病院へ足を運ぶことにした。


 東出先生の話によると応急処置をしていなければ亡くなっていたかも知れないとかなんとか。

 ただ、面会しようにも生憎と患者の名前を知らないから、それはどうしようか。事情を説明すれば何とかなるだろうか。


 それにしても、何となく見覚えのある顔だった気がしなくもない。ただそれを確認している余裕も無かった。そんな気がかりがあったから、一度会って話したい。


 病院に入ると、思っていたよりも人が多いエントランスの中を歩いていた時に見知った顔を見かけた。


 相手方も気付いた様らしく、スマホに落としていた瞳をこちらに向けて目を丸くしている。


「えっ、あぁ!」

「花ヶ崎?なんでここに……」

「いや、それこっちの台詞だよ!?学校来なかったじゃん、何かあったの?」


 中学校の……いや、これからも高校の同級生として一年を過ごすことになる花ヶ崎美香と鉢合わせた。


「病院来てるんだから、そりゃ何かしらはあったに決まってるだろ」

「その割には元気に見えるけど……?」


 それはそのとおりだ。俺に何かあったと言うよりも身の回りに色々あったと言う方が正しい。

 どう説明しようか迷っていると、花ヶ崎が先に口を開いた。


「アタシは、お姉ちゃんが大学行く途中で倒れて病院に運ばれたって聞いて、高校終わってからすぐに来たの」


 花ヶ崎がそんな妙に既視感のある話をした。


「それって……茶髪でショートヘアで眼鏡してる女子大生……?」

「えっ、うん」

「……俺、朝会ったよ」

「え?」


 俺は取り敢えず、朝から出会したトラブルについて一通り話していくと……。


「……それ、お姉ちゃんだね。間違いなく」

「やっぱそうか。なんか見覚えあったんだよ……。そうか、花ヶ崎が眼鏡するとあんな感じになるのか」

「そっかー……赤瀬が助けてくれたんだ」


 まさか知り合いの身内だとは。泣きそうになりながらでも助ける選択をして良かった。

 後で罪悪感を覚えさせられるのは御免だ、そんな事態にならなくてホッとした。


「あ、お姉ちゃんに会いに来たんでしょ?案内するよ」

「いや、いい。親御さんと話してるんだろ?変に気を使わなくて良いよ、なんなら助けたのが俺だって事は花ヶ崎の胸の中にしまっといて」

「……そんな事言われると、本当に誰にも言わないけど」

「それでいいって。恩着せたくてやった訳じゃないから」


 それにしても、見覚えのある顔だったことに納得が行った。

 心のもやもやはスッキリしたので、俺は正直もう帰っても良いのだが、花ヶ崎の表情はなにやら不満そうに見えた。


 ふと、花ヶ崎は何か思いついた様に微笑んだ。


「そうだ……ねえ、ちょっと話さない?」

「ん?構わないよ」

「じゃあ一旦外行こ」


 そう言う訳で俺達は二人で病院の外に出て、すぐ近くにあるコンビニに向かった。

 適当に飲み物を買ってから、病院の駐車場の端で

 紙パックのカフェオレにストローを刺す。


「別に奢らなくて良かったんだけど」

「いいのいいの。あ、流石これでチャラとか思ってないからね!」

「最初から貸し借りとか考えてないって……」


 ストローを咥えて、空いた片手でスマホを取り出して時間を確認する。


「てかさ、こうやって並んで話すの久しぶり?一年のとき以来だよね」

「それ以降同じクラスになってないもんな」


 同じクラスに居た時はほぼ毎日、くだらない言葉を交わしていた。


「今年は同じなんだし、機会は増えるね」

「どうだろうな?星野たちも一緒なんだし……」

「悠岐はアタシの事なんて眼中にないよ〜」


 あっさりとした様子でそう言った花ヶ崎の表情は、あまり見ていて気持ちの良い物では無かった。


「あ、そういや、何か話したい事あったんだろ?わざわざ外に連れ出したんだし」


 俺が話題を切り替えると、花ヶ崎はジロリと目を細めてこちらを見た。


「……赤瀬ってそういうとこ有るよね」

「知らないな」

「ま、良いけどね。そう、ちょっと相談があるんだ」

「……俺に相談?相手間違えてない?」

「合ってる合ってる、アタシの知り合いでは一番こういう相談しやすい相手は君だから」

「そうかぁ……?で、何?」


 花ヶ崎は口に入れていたクッキーを飲み込んでから俺に向き直り、ぱちっと両手のひらを合わせた。


「お願い!赤瀬……天文部入って?」


 それは相談というより、懇願に近かった。


「……俺バイトあるから、部活は無理だよ」

「それなら大丈夫、名義だけの幽霊部員だから!」

「なにがどう大丈夫なんだそれ……」


 とりあえず事情を聴かないと、話にならない。そう思って彼女の言葉の続きを待つ事にした。


「実はあと二人入らないと、天文部が廃部になるらしくってさ。去年は三年生が結構居て、そこに一年生が何人かって感じだったらしいんだけど、三年生が卒業しちゃって、しかも二年になってからほとんどが天文部から抜けちゃったみたいで……」

「人数が足りなくて存続できないと。てか、なんで花ヶ崎がそんな話するんだよ?天文部とか興味あったのか?」


 俺から見ていた限りでは、花ヶ崎にそんなイメージはない。

 中学校では図書委員とかやっていたし、手芸部の裁縫で作ったショルダーバッグだか何かがコンクールで賞をもらっていた程度にはインドアな印象のある女の子だ。


「えっとね、中学校でお世話になった先輩に頼まれちゃったから断りづらくて。それでアタシは入るんだけど……まだあと一人どうしようって」

「……そこに都合良く俺を見つけたと」

「言い方は悪いけど、そう」


 彼女の言い分は分かった。

 ただ、いくつか疑問が残る。


「……星野たちに頼めば?」

「悠岐にはもう断られた」

「なら、四ノ宮は?」


 花ヶ崎の頼みなら、幽霊部員くらい簡単に受けそうな物だが……。


「実はね、いっちゃ…伊緒ちゃんには好きな人が居るんだよ」


 ふむ。………うん?


「……いや、それ」

「言いたいことは分かるよ?中学校で散々見てきたもんね、でもね……これは悠岐じゃないの」


 いや、知ってるけども。


「誰かは教えてもらってないんだけど……。アタシね、親友の恋路を邪魔したくないの。たとえ幽霊部員であっても、もし他の部活に将来の彼氏くんと入りたい、みたいな感じになった時に困るでしょ?だからね、いっちゃんの邪魔にならない様に、天文部には誘えないの」


 物凄く良い友情だと思う。さすが、十年以上も付き合いのある幼馴染みは違うなって。

 でもね、その将来の彼氏くんとやらはほぼ間違いなく俺なんだよ。

 というか、具体的に誰なのかって知らないのか。


「てわけで、お願い赤瀬!」


 彼女の言い分を聞く限りでは、俺は四ノ宮からラブレターを貰った事を話した上で断るべきなのだろう。


 ……けれど、俺は知っている。


 花ヶ崎美香という女の子は、普段の明るい様子からは想像がつかないくらいに大人しくて、交友関係がかなり狭い少女だと言う事を。


 彼女が世話になったという先輩は、恐らく中学校で一緒に図書委員に居た人だろう。

 その先輩は周囲に馴染めない花ヶ崎に気を遣って、様々な手助けをしたに違いない。そんな光景が容易に想像できてしまうくらい、この少女は内気な子だ。


 それに、四ノ宮がまだ親友であろう花ヶ崎に話していないのに俺から話をするというのも、少し憚られると言う物だ。


 しばらく考えを纏めてから、俺は小さくため息を吐いた。


「はぁ……。部活の申請とかは勝手にやって良いよ。木曜日は基本的に空いてる。あとはまあ……なんか、集まりとかある時は連絡してくれれば、可能な限りは行くよ」

「……えっ、ホントに良いの?」

「バイトの時間を邪魔してまでって言うなら話は別だけど、要は名前貸すだけで良いんだろ?」

「う、うん」

「なら良いよ」


 この話は受ける理由も断る理由もある、つまりは平行線だ。だから感情を優先した。


 こう言ってしまうのは彼女に悪いが、少なくとも俺は花ヶ崎美香という女の子を「幼馴染み三人組の不憫枠」だと思っている。


 不憫な女の子を放置しておくのは忍びないから、彼女の頼みはあまり断りたくない。


 そんな小さな小さな良心を優先した。


「その……ありがと。なんか、ごめんね、姉妹揃って迷惑かけちゃって」

「だから別に良いって。俺と花ヶ崎なんて大した仲じゃないんだから、嫌なら嫌って言ってるよ」


 そう言って、俺は空になったパックを潰す。


「そういう言い方されるとちょっと気になる。アタシ、赤瀬とは結構仲良いつもりだったんだけど」

「君の仲良いってハードル低いんだな」

「そっちが友達とかのハードル高過ぎるだけじゃなくて?」


 俺達はそんな言い合いを軽くした後、連絡先を交換してから別れた。


 流石に胸を張って友達だと言えるような間柄では無いかも知れないが、俺にとっても花ヶ崎は「割と仲の良いクラスメイト」だった。


 これからは普通に仲の良い部員同士になれる事だろう。

メインヒロインの風味がする……気のせいか?

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― 新着の感想 ―
読むのが苦痛。面白くなるかと期待してみたけど出てくる登場人物が現状10話までで主人公含めて9割が魅力を感じないしなんなら性格、人間性又は脳に何かしらの疾患を抱えてるんじゃないかってくらい不愉快。とくに…
 気のせい気のせい。
ここから話がスタートしてたら間違いなくメインヒロインの器
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