こえろ限界
人が何かの行動をするとき、いろいろな壁にぶちあたります。
能力的な限界や、制度・慣習が問題になることもあります。
成長によって壁を乗り越えることや、回避策・代替策を考えることもあります。
もちろん、潔くあきらめることも選択肢としてありかと思います。
その森ではビワの木が白い花を咲かせていた。
小さなタヌキくんと、頭に王冠のようなものを乗せた白いおサルさんがいる。
二人の間にあるお皿には、焼きダンゴが乗っている。
皿の横には湯気のあがる湯呑も置かれていた。
「んとね。白猿さん。この間、『103万円の壁』を政府がなくそうとしているって、ニュースでやってたの。これってどういうことだろう」
「子狸くん。日本人の家庭では旦那さんがフルタイムで働いて、奥さんが家事や育児を担務することが普通だったんだ。まぁ、逆のパターンもあるし、フルタイムで共働きも家庭もあるけどね」
「家事や育児ってすごくたいへんなの」
「で、このケースでは奥さんは旦那さんの扶養に入って、医療保険料や年金の支払いが免除されている。今の時点は保険証は旦那の企業で発行されたものを使っている。で、保険証はマイナカードに移行予定だぜ」
「ふんふん。奥さんは働いてなければ給料は入ってこないけど、いろいろ免除されてることがあるんだね」
「それで、奥さんもパートやアルバイトで働いたとする。1年間の奥さんの収入が103万円以下だったら、給料に税金はかからない。超えてしまうと所得税がかかるんだ。これが103万円の壁だ」
「そうなんだ。じゃあ、11月まで働いて103万円に近くなったら、12月は働く時間を減らす人もでてきそうなの」
「実際にそれが問題になっているんだ。12月の忙しい時期に働くのを控える人がでてきて、人手不足になる。働く人はもっと稼ぎたいと思ってて、職場側ももっと働いてほしいと思っているとしよう。でも103万円の壁が足かせになるんだ」
「なるほど。じゃあ、これから法律が変わって、もっと長い時間働けるようになるんだね」
「ただ、話はそう簡単じゃないんだ。税金には控除という考え方がある。企業で働いているサラリーマンが所得税を払うことを考えてみよう。1年間働いた給料の合計から控除の金額を引かれて、その結果を基準に税金が計算されるんだ」
「えーと、パートさんの話じゃなくてサラリーマンの話だね」
「ざっくりいうと、この控除の金額が103万円だと思ってくれ。扶養に入っているパートさんは、働いた年収から103万円をひくとゼロかマイナスになる。だから所得税がかからない。で、政府でいま議論されているのは控除の103万円の金額をあげようとしているんだ」
「んとね。だとするとサラリーマンも税金が減って助かるの。みんな喜びそうなの」
「税金ってのは、やたら減らせばいいってもんでもないんだ。103万円の控除額を178万円に引き上げる案がでている。これをやると8兆円ぐらいの減収になって、区役所などの公共のサービスが立ちいかなくなるかもね。ついでに海外の投資家から見た日本円の信頼が下がって円安になるかも」
「そうなんだ。じゃあ、その控除ってのを全部のサラリーマンに適用するんじゃなくて、パートさんだけに適用すればいいと思うの」
「実際、それをこれから決めようとしてるんだな。ただ、パートさんが本当に年間178万円かせぐと、ほかの壁にもぶちあたるんだ。103万の壁より、その先の壁の方がリスキーなんだ。こういうのがある。下手すると旦那さんの扶養から外されて、すごく面倒なことになるぜ」
「うわ。いっぱいあるの。こっちの法律も変えないと、103万円の壁がなくなっても、働く時間は伸びないかも」
「小説家になろうでも、自作品の書籍化を望んでいる人も多いと思う。配偶者や親の扶養に入っている人の作品が書籍化して、年収103万円をこえた場合、やるべきことがいろいろ増えるかもね」