#ライブハウス(2/3)
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会場に集まるお客さんたちは、出演者の知り合いがほとんどなのかなあ。ワンドリンクとは言っても、二杯目三杯目と飲み物を追加して、すでに良い気分で談笑している。年齢層は様々だけど、私たちが最年少かな。みんなお酒を飲んでいる。
バンドのライブ会場だから、みんな音楽好きだっていう感じは伝わる。
周りを見渡してみたけど、出演者たちの姿はまだ見えない。裏の控え室で待機してるのかな。
すっかり日も暮れて、窓の景色は良い感じの夜景になっている。合わせて会場の照明も落とされ、舞台脇に置かれているクリスマスツリーや、会場の壁に飾られた装飾ライトの明かりだけになった。
静かに舞台上に何人かの人が歩いてきた。と同時に会場から拍手と僅かながらの声援が聞こえた。小さい会場だからこそのアットホームな雰囲気でライブをするんだなと思った。
「皆さんこんばんは。僕たちはノーザンボーイズです。全員北国出身の大学生バンドです。本日はアッキーさんにこのクリスマスライブに呼んでいただきました。ありがとうございます。今日は最後まで楽しんでください。よろしくお願いします」
そんな挨拶で最初のバンドの演奏が始まった。
今日はどうやらアコースティックライブらしい。観客もノリノリで盛り上がるようなライブではなく、客席に座って静かに音楽を楽しむようなライブみたい。私たちにとってはその方がありがたかった。
観客を見回してみても、私たちの学校の生徒らしき人はいなかった。かえって目立っちゃうかなと心配はしたけど、客席は真っ暗だから大丈夫だよねとさと子と二人で確認しあった。
最初のノーザンボーイズの演奏が終わって、次に出てきたのはギターを抱えた男の人。一人で弾き語りの形で演奏していた。歌手を目指しているらしい。
その次に出てきたのは女性だった。この人も一人で電子ピアノを弾きながら歌っていた。
さて、いよいよお待ちかねのアッキーズバンドの登場。私とさと子はドキドキしながら舞台を見守った。
出てきたのは三人。男の人二人と、秋山さんと思われる女性一人。
舞台に照明が入り明るくなったところで、ドラムセットの位置を整えながら、そこに座る男性が挨拶をした。
「どうもー、アッキーズバンドのアッキーです。今日は来てくれてありがとう。今日はいつもと違った大人な雰囲気の会場でね、夢見る真面目な若者たちの演奏を聴いてもらいました。僕たちが出てきたからね、みんな肩の力を抜いてね、リラックスして聴いてください。よろしく!」
と言ってカウントを取り演奏を始めた。今まで出てきた出演者とは違って、演奏し慣れてる感じがした。最初の挨拶通り、無意識のうちにリラックスして聴いていたぐらい。
自然と体を揺らしながら聞き入ってしまった。素人の私でもわかるぐらい、このバンドは凄い。
「私、帰りにこのバンドのCD買おうかな」
私はさと子に声をかけた。さと子も集中して聴いていたから、やっぱり他のバンドと何か違うんだろう。
「初めて聴いたけど、秋山さんのバンド、凄くいいね」
さと子はすっかり夢中になっていた。
秋山さんの様子はここからではよく見えなかったんだけど、やっぱり教室での姿とは違っていた。ぱっと見た感じでは、今歌っている人が秋山さんだと気づかないと思う。
なんと言っても歌声が凄くいい。秋山さんの声を今まで一度も聞いたことがなかったけど、初めて聞いたのが歌声っていうのはなんとも不思議な感じ。ちょっとハスキーな感じで、低音から高音まで伸びやかに歌い上げる。独特な歌声だけど、独自の世界観を表現している感じがした。
これがあの時教室にいた秋山さんなんだ。あの雰囲気はここで表現するためのものだったんだと気づいたら、納得できる。私と同い年なのに、こうやって上手く自分を表現できるって凄いなと思った。