#他のクラスの子(2/3)
「私ね、秋山さんのライブを観てみたいの」
さと子はそんなことを急に言い出した。
「えー? だって友達じゃないんでしょ? 誘われてもないから行けないし、仮に行けてもめっちゃキレられそうじゃない?」
私は行かない方が身のためだと説得した。
「情報によると、クリスマスの時期にライブがあるらしいの。そのライブハウスに偶然を装って入ったらいいんじゃないかと思って。お願い奈緒、一緒に行ってくれない?」
「何てことを言い出すの。私はバンドとか興味ないのに。軽音部の仲間と行けばいいじゃない」
「だってみんなその頃は彼氏とデートでしょ」
「……そうだけどさ……もう、しょうがないな」
クリスマスに合わせたように、みんなに彼氏が出来た。家族でクリスマスを過ごすと思ってた私は、断り切れずなんだかわからない人のライブに行くことになってしまった。
「奈緒、ありがとう! ジュース奢るね。いちごミルクでいいよね。買ってくるー!」
ジュースで釣られたみたいで、なんかモヤモヤするけど、クリスマスを一人で過ごすよりいいか。
〜〜〜
で、まずは偵察じゃない? 私はいちごミルクを片手に、さと子と一緒にE組の前をひとまず素通りしてみた。
「たぶん窓際の一番後ろの席よね」
お互いの意見が一致したところで、私たちは来た道を引き返すように、今度はゆっくりE組の教室を覗きながら歩いた。
イヤホンを付けて音楽雑誌を読んでいるショートヘアの子。まさにイメージしていた通りの女の子がそこにいた。その佇まいを見ているだけでもオーラがあり、かっこいい。
「へえ、ああいうタイプの子、この学校にいるんだー」
私がこの学校に入学して初めて見たタイプの子だった。私の周りには可愛い、綺麗なお姉さんタイプばかりだったから。秋山さんのように独自の世界観に入っているような人はいない。
確かに近寄りがたい感じだなと思った。だけど変な人ではないと思う。そんな印象。
「なんかね、聞いたところによると、右耳にピアスがいっぱい付いてるみたいなの。それで、この前生活指導の先生に捕まったらしいんだよね。でも秋山さん、先生にガツンと言って黙らせたらしいよ」
「えー! あのめっちゃ怖い鬼教師を黙らせたの? すごいね」
「なんか、案外うちに秘めた信念を持ってるタイプなのかな」
「へー、かっこいいね」
何と言って黙らせたのかは知らないけど、それ以来学校にはピアスは付けてこないと決めているようだ。右耳にピアスの穴がいっぱいあったら、それは秋山さんだと認識すればいいんだと思った。