表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! -   作者: 文野さと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/35

22 夜を征くのです! 少尉さん

 三人は草深い、夜の道を走る。

 国境のこの辺りは村も人影もなく、風だけが吹き(すさ)ぶ辛い旅路だった。アンの前後を2馬身ほど空けて、二人の将官が守ってくれている。

 アンは今夜の相棒である自分の馬に尋ねた。

「七十二号、私のこと覚えてる?」

 話しかけながら立髪をなでてやると、馬はぶるんと鼻を鳴らした。

「そう、ありがとう。あなたは私より目も鼻もいいはず。ごく最近、この道を馬や馬車が通った気配はあるかしら? ゆっくり探って教えてちょうだい」

 七十二号は小さく(いなな)くと、しばらくだく足で進んだ。

「ケインさま、このまま真っ直ぐ北へ進んでください」

「わかりました。船でかなり北へと下ったので、かなり距離は稼げているはずなのですが、何かわかったら合図ができますか?」

「七十二号を先頭に立たせます」

 アンはそう答えた。馬を信頼しているのだ。

 三人は目立たない分厚く長いマントを羽織り、体を低くして進んだ。

 防寒のためもあるが、兵士たちは自動小銃を隠し、アンは女であることを隠す意味もある。前線はもっと南の方だが、もしかしたら斥候や、脱走兵がいるかもしれないのだ。用心はしすぎることはない。

 アンは出がけにケインから渡された短銃(ピストル)の重さを意識した。それは上着の深いポケットに入っている。撃ち方は後方の病院にいた時に習った。

 どうかこれを使わずにすむことを祈るばかりだ。

 あたりは真の闇だった。

 灯りは先頭のケインが持つ、小さな電灯が、馬から離れた棒の先に吊るされている。万が一狙撃された時の用心である。

 二時間ほど進んだ時、七十二号が耳をぴんと立てて立ち止まった。

「七十二号? どうしたの? お腹が空いた?」

 茶色の雌馬は、藪と見分けがつかない、小さな草を踏みつけただけの道に入ろうとしている。

「ケイン様!」

 アンは思い切ってできるだけ小声でケインを呼んだ。彼はすぐに引き返し、七十二号が見つけた道を照らす。

「こんな道があったのか。地図にも載ってない……草が()ぎ倒されている。たくさんの馬が通ったようだが、確かに(わだち)の跡がある。この幅は農耕用の馬車ではないな……かなり深い。重い荷物を積んでいるようだ。しかも、まだ新しい」

 ケインは地面に光を近づけて入念に調べていた。

「間違いない。これはラジムの使節団のあとだ。二頭立ての馬車が一台。護衛は四人と言うところか」

「ケインどの」

 マルクが拾い上げたのは、何かの包み紙の切れ端だった。

「これは、チョコレートの包装紙……上等なものだわ」

 アンはわずかに残った模様から、有名な高級菓子店のマークを見つけた。それは普通の兵士や一般庶民が、こんな辺鄙(へんぴ)な場所で食べるものではない。

「どうやら、馬車の中で携帯食を食べて、何かの拍子に包み紙が飛んだものでしょう」

「そのようです」

「アンお嬢さん、お手柄です。この先に奴らはいる。この悪路だ、そう遠くへは行ってないはず。あなたはここから川岸まで引き返してください。マルクをつけますので」

「いいえ。これだけでは、まだだめです。せめて遠くからでも使節団の姿を見つけなければ!」

「お嬢さん、あなたがそんなことをする必要はない。ここからは兵士の仕事です」

 しかし、ケインの声は僅かに弱い。早期に見つけ出せる確信がないのだとアンは思った。そこがつけ入る隙だ。

「決してお邪魔にはなりません。お願いです。もう少しお役に立たせてください。馬は基本群れをなす動物です。きっと仲間の元へ行こうとする。私は馬の様子でわかるのです」

「し、しかし……」

「時間が惜しいです。行きましょう!」

 これ以上反対される前に、七十二号にまたがってアンは進み出す。ケインもマルクもそれ以上は何も言わなかった。標的は確実に捉えるべきなのである。


 待っててください、少尉さん!

 私はあなたまでたどり着くわ!


 時刻は真夜中時過ぎと言ったところか。冬の夜はまだまだ長い。

 三人を取り囲むのは押し潰しにかかるような、曇った夜空と、冷え切った夜風、そして荒涼とした起伏の多い国境の闇だった。

 黙々と進むうちに、七十二号が鼻を鳴らし、足を早めた。

「近いようです!」

 細い道の両脇は斜面になっているので進むしかない。アンが馬の首に身を伏せながら神経を研ぎ澄ませた。

 不意に馬が棒立ちになる。

「何かが来ます!」

 アンが、二人に叫ぶのと同時に、何か大きなものが上から滑り落りてきた。




ちょっと短めですみません!

週末乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 真の闇の中、アンちゃんは少尉さんの足跡を探す。 ちょっと想像すると、・・こわい。 昔は、「本当に真っ暗」って結構あったので。 いきなり上から降ってきたのは!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ