7.ひとまず狩りをしておきます。
私の探知魔法には三人の男が引っかかった。
三人とも軽鎧を身に着け、それぞれ剣、バトルアックス、弓矢を装備している。
冒険者らしくみんなガタイが良い。
私が居る場所から数十メートル離れているので、近くは無いが遠くもない。
冒険者ギルドを出た時から後をつけられていた。
転移しても良かったのだが、何が目的なのか知っておきたい。
木陰に入ったのはわざとだ。
影で暗く見えにくくなるので接触してくるかと思ったが、距離を取ったまま近付いて来なかった。
反撃の準備として、黒刀を腕に巻き付けていたのだが…さてどうするか。
ギルドに入ったばかりで暴れるのは得策ではない。
このままスルーして狩りに行った方がいいか?
何もしてこないなら話し合いが出来るだろうか。
読心魔法もあるが、距離が遠いので魔力を余分に使う事になる。
しばらく彼らの方を見ていたのだが、本当に何もしてこない。
取った兎を横取りするつもりかも?と思い至ったので先に狩りをする事にした。
探知魔法の範囲を、山全体を覆うくらいに広げる。
一番近い所で三キロ先に四匹の獣が見えた。目当てのラピッド兎だ。
私は急に森へ飛び込んだ。
木の枝から枝に飛び移り、男達をあっという間に置いていく。
…付いてこれないなら最初からこうすれば良かった…変に警戒しすぎたかも。
意識を兎に戻す。
体が見えなくなる魔法を使い、気配を消して兎のいる場所へ転移した。
風景が変わり、倒木に寄り添って休んでいる兎達。
私は氷の矢を限りなく細く硬く針のようにして、兎のこめかみ、脳を狙って飛ばす。
ビクンッと体が跳ねたかと思うと、四匹の兎は動かなくなった。
「腕が落ちてなくて良かったわ…」
脳死状態にしたので心臓は動いている。血抜きの手間は肉屋さんに任せよう。
動かない兎を次々と収納していく。任務は兎二匹なのでこれでクリアしたが…。
ついでに猪型の獣であるワイルドボアか絹毛狐を狩りたい。
肉にもなるし、毛皮がそこそこの値段になる。狐は毛皮がかなり高く売れるはず。
この山に居るか分からないが、兎が居るなら狐も居る可能性が高い。
本当は自分で血抜きと解体をし、毛皮をなめすのが一番お金にはなるが手間がかかる。
私の場合は手間より数を獲った方が儲かると思う。探知と転移が時間短縮になる。
同じ獲物だと相場が下がるので、出来れば色々な種類を撮りたいところだ。
熊もいい獲物だが…探知を別の山にまで広げるてみると、今と別の離れた所に反応がある。
この山には居ないなら、初日から張り切らなくてもいいか。
男達は私が居た木陰から、少し山に入った所でウロウロしている。私を探しているようだ。
私目当てだったのは間違い無いみたいだが、目的が分からずじまいでちょっとモヤモヤが残る。
先に狩りをしてから考える事にしよう。
ワイルドボアの位置は、今居る場所から四キロほど離れた場所だ。
男達の位置からは七キロ近くも離れるので、そこまで警戒はしなくても大丈夫だろう。
私は兎の時と同じように転移した。
鼻先で土を掘り返し、餌を探しているワイルドボアが見える。
体長はニメートル弱、体高は1.5メートル。体重は二百キロくらいだろう。
大きくて立派だ。私は兎に飛ばしたものよりも太く、頑丈にした氷針を手の平の上に浮かべる。
ワイルドボアの毛皮やその下の脂肪は厚く硬いので、細い氷針だと刺さらなかったり、脳まで届かないかもしれない。
出来るだけ毛皮に傷を付けず、綺麗な状態で仕留めたい。毛皮に傷が付くと大きな商品に出来ないので価値が下がる。魔力を込め、一本の氷の針、針というには太いので杭を、弓で弾いた矢よりも疾く飛ばす。目を抉りながら侵入した針は無事に脳へ到達したようで、ワイルドボアはビクンッと体を一度跳ねさせて重々しく倒れた。私は大きく息を吐き、全身の緊張を解く。
ふぅ…。この緊張感も好きだわ。
昔は黒刀を振って獲物の首を落としたり、氷魔法で氷漬けにしていたが、気付かれると逃げられるか襲いかかってくるので時間がかかる。獲物に気付かれる前に倒した方がラクだ。それに、怒りで血が回ると血抜きに時間がかかるのか、肉の味が落ちた。出来る事なら美味しく頂きたい。
その事に気付いてからは、気配を消したり風景と同化する魔法に磨きをかけた。
氷の矢も太いままでは獲物をグチャグチャに引き裂いてしまう。
ちょうどいい太さを模索しながら、いかに速く飛ばすか練習した。
最初は下手で、氷針が脆くて刺さらなかったり、操作が甘くて当たらず獲物を逃したりと酷かったが長い間繰り返せば上手になった。
私はワイルドボアの四足を、魔力で作ったロープで縛り空間に収納する。
町周辺を千里眼で見て、町近くの木陰に転移する。
転移魔法は便利だが、突然馬車の前に転移したり岩の中に転移すると危ない。
馬車に轢かれたり、岩の中で動けなくなる。転移先には気をつける必要がある。魔界でもたまに事故が起こる。これを使える魔族は三割くらいで珍しくは無い。だが普段使う為には試験を受ける必要があるし、道路や侵入禁止区に転移してはいけないなど決まりがある。
転移魔法は人間には魔力が足りず使えない。と人間が書いた文献にあった。魔法式で消費する魔力の効率が悪いのかもしれないが、これまたダニエルが言っていたように誰もが使えるようになるとあちこちが混乱するだろう。
魔族は人間よりも魔力が多い。人間が無理やり転移魔法を使うと、魔力切れを起こして倒れるかもしれない。魔力を使い果たすと、死にはしないが体が重くて強烈な眠気に襲われる。
外で魔力切れを起こしたら、どうなるか分からない。
親切な人に拾われればいいが、そうでないなら…。
「ギルドに戻る前に、あの男達が何なのか確認しとこうかしら…」
町へ帰ろうと一歩踏み出そうとしたが、付けて来ていた男達を思い出した。今スルーしても後々来られて、あることない事言われるのは心情的によろしくない。町に魔法を放って消す気はこれっぽっちも無いが、イライラすると魔力が漏れてうっかり地割れさせるかもしれない。
狩りをして思い出したが、気配を消して空から様子を見てみようかしら?
人間は飛べないので、空を常に注意するのは難しいだろう。気付かれる可能性は低い。
私は気配遮断と認識遮断の魔法を自分にかけて、パンを食べた木陰近くへ転移する。
探知魔法を広げると、彼らは固まって少し奥の方へ移動している。ここから一キロちょっとだ。
まだ私を探してる?結構時間は経ってるのに…。私は翼を広げて空へ飛んだ。翼を羽ばたかせ、彼らの真上に浮かぶ。距離は十メートルほど。私の羽音は静かだが、念の為音が出ないようにをゆっくり羽ばたく。
その時、森の中を進む男達の会話が聞こえてきた。