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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
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6.グレンの独白。

「ほんと、いい人達ね」


 グレンは木陰でパンをかじりながら、左目を怪しく光らせていた。兎狩りの前に遅めの昼食を取りながら、千里眼で二人を視ていたのだ。盗み見と盗み聞きはあまり良くないとは思いつつ、久々の人間界の情報は欲しかったし下手な行動はしたくない。心の中で謝っておく。


 氷の矢はもっと少ない方が良かったかしら。

 多少のインパクトがあると喜ばれるかと思ったんだけど…むしろ怖がらせてしまった気がする。

 本当は百万単位で出せるが、木どころか山が無くなりそうなのでかなり手加減していた。次から二十本くらいにセーブしておく。


 魔法は個人差が大きいから、ソフィが出来なくても串刺しなんてするつもりはない。結局教える事になりそうだから、さりげなく言っておかないと…何度も言うが、怖がらせるつもりは無い。

 私って加減下手くそね…。とパンを食いちぎる。


 空間収納が魔族特有の魔法というのは合ってる。使える魔族と使えない魔族はいるけど。

 あのギルマス結構魔法に詳しいわ。物を運ぶのが面倒くさくて、便利にしようと魔法を習得した。狩りをした後の獲物も大きくて置き場所に困ってたし。ソフィさんは魔力が少ないと言っていたので、教える前に出来るだけ魔力の効率化をしておかないと。と記憶の端っこに残す。


 ソフィさんの最初の態度は仕方がない事なので、本当に気にしてない…。ましてや魔族の証明なんて難しすぎるし、本来の姿を見せたら即逃げられる自信がある。

 私は本来、身長三十八メートルの巨人だ。角を出せばもう少し伸びる。コウモリみたいな真っ黒な翼もあるので、人間にとってデカい悪魔にしか見えないとなると、討伐対象間違いなし。

 今は小さくなる魔法を発動しているのだけど、それでも人間の女性にくらべれば大きかった。

 もっと背が高い女性もいるらしいし、気にしない事にする。魔族と名乗る事も出来るだけやめよう。

 じゃないと人間二人が土下座せんばかりに頼んでくるのが目に浮かんでしまう。



 …自分が強いのは、千年前に魔王を殴り人魔戦争を終わらせた時から分かっている。あの時は大陸の形が変わるぐらい暴れてしまったけど、人間の絶滅は防げたので良し…としてほしい。

 人間を滅ぼそうとした魔王が悪い。


 あの時私は怒ってたから記憶が曖昧だけど、怒りに震える私に魔王が顔を腫らして体中ボロボロで、泣きながら私に土下座したのは覚えてる。確か魔王が人間が住む大陸を欲しがったから、魔王が力を振るってそこに住んでいた人間達を焼き払ったのだ。

 それで私が怒り狂って、その大陸ごと魔王を殴ったような気がする。私のデカい拳をフルパワーで受けて潰れないのだから、魔王はさすがに丈夫だ。大陸は耐えきれずに一部が爆散しながら海に沈んでしまった。魔王の土下座中は他の魔族も居たんだけど、私を止めようとした魔族は居なかった。


「あんなにグレンが怒ったの初めて見たわ。趣味を奪われたのがよっぽど頭にきたんだなって思って止めなかったね。てかみんなアンタにビビりすぎてさー。

 くっそデカイ女が目を真っ赤にギラギラさせて、魔王を上から睨みつけてる仁王立ちのゲキオコ女巨人を誰が止められるよ? でもそんなアンタを見てたら『どっちが魔王だよwww』って面白くなっちゃって、私一人で笑ってたら魔王の側近達に必死に止められたわ。

『グレン様に殺されるからやめて!お願い!空気を読んで!!!』つって。

 てかアンタそんなに強かったの?インドアな本の虫が様付けされて魔王より強いってウケる〜あっはっは!!」


 とはあの場に居た友人の談。ノリが軽い。結局場を収めてくれたのはその友人だった。

「グレン、愚痴はたっぷり聞くからさー。これ以上暴れると人間が住む場所無くなるんじゃね?」と。


 私は本が好きだ。魔法理論や実践の本、錬金術の本、ポーションの作り方の本は何度も読んだし何度も作った。植物や動物の研究の為に山のような本を空間へ詰め込んでいる。いろんなジャンルの小説も読んでいた。しかし、戦争のせいで作者が亡くなったり、そもそも小説を書くような余裕が無くなった。あれもこれも続きが読めなくなってしまった。


 魔王を殴ったのも、これから生まれるかもしれない人間達が作りあげる物を守るためだった。

 ぶっちゃけ私利私欲であり、続編が読めなくなってしまった八つ当たりである。

 でもいいのだ。あの時人間の数はかなり減っていたが、今は順調に増えて新しい国まで出来た。

 もっと早く殴ればと後悔はあるが、魔王があんなに容赦なく焼き付くすとは思わなかった。


 魔族が住む魔界でも本はあるが、人間ほどの多様性は無い。人間が作る本の方が面白い。

 ここ数百年は山の中で暮らし、戦争中に打ち捨てられた本を掻き集めて読みまくっていた。たまに外に出て食べる物を探したり、塩を作って人間に売り、現金を手に入れてお菓子を買ったりその材料を買ったり。自分が作った甘味を売ったりもした。

 そうしていると、ほとんどの本を読み終えたので人里に降りたのだが…。

 古い本ばかりだったので、新しい本が欲しくなった。


 千年前の金貨はあったが使える訳もなく、どうにか金を稼がねばならない。

 塩を売った場所は知らぬうちに廃村になっていたり、居なかった場所に人間が居たりと様変わりしていた。数百年でこうも状況が変わる事に慣れるのは早かったが、字や喋り言葉がコロコロと変わるのはやめてほしい。しかし、物を売っても余りお金にならないのに、本は結構高かった。

 そこで目をつけたのが冒険者だ。


 私なら、人間には難しい場所の素材を取ってこれるので売ればお金になるはず。

 免許を取る必要があると分かったので、飛び込んだのがあの冒険者ギルドだ。


 因みに私は魔界を追放された訳じゃない。

 あの時の魔王は今も魔王やってて、私が城へ挨拶に行くとめちゃめちゃ腰が低い。魔王の側近達も凄まじく腰が低い。魔王は普通の人間と大きさが変わらないので…ソフィさんに謝られた時もだけど、小さい人に謝られるとあの気まずさを思い出す。

 因みに、魔王に会う時は巨人モードで行けと友人に言われたので、堂々と魔王を見下ろしているのだが頭が高いとは言われたことが無い。


 一度魔王に私を魔界から追放しないのかと聞いたら、「あなたのファンが暴動を起こすので…勘弁してください」と涙目で言われた。


 いや、ファンとは…???


 友人曰く、

「魔界って強いヤツが偉いじゃん?だからあれ以来グレンのファンがめっちゃくちゃ増えたのよ。広めたの私だけど。魔界に住んでる人間にもファンは多いわよ。人間の味方だと思われてるから、人間を大事にしようって風潮が生まれて理不尽な事が減ったんだって。人間への犯罪も減ったみたい。特に子どもの誘拐とか恐喝とか…人間大好きな強いのが来たら殺されると思ってるかな。

 あとアンタを追放すると、魔王が臆病者って言われて権力が弱くなる。

 グレンは玉座に興味無いでしょ?ほとんど人間界にいるし。だから魔王としては、アンタとは波風立てずにいれば今の地位を維持出来るの。私もアンタら二人が喧嘩するのは勘弁してほしい。土地がいくつあっても足らんわ」


 最後の愚痴は聞かなかった事にする。

理不尽が減ったなら良かったが…友人のせいで、知らないうちにほぼ第二の魔王扱いされている。一度辺境の町に観光に行ったら、門番に土下座されたのはそのせいだわ…と心当たりがあった。逆に言えば、私が人間界にいるうちは魔族があまり来ないと言うことか…?人間を蔑む調子乗りが来てもムカつくだけなのでいい事にする。




 さて、そろそろ狩りに行きましょうか。


 その前に…私を遠くから監視する彼らをどうしようかしら?と私は現実を思い出した。

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