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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
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4.初心者教習を受ける。

グレンがギルドに戻ると、ダニエルから二階へ続く階段から一番奥の部屋へ行くよう案内された。


部屋はそれなりに大きいが、部屋の前方に黒っぽい大きな木の板が貼ってある。

そしてその板が見やすいよう並べられた長机が三台と、その机に沿うように置かれた椅子が六脚。

 必要であれば木の板にチョークで文字を書き込み、生徒に読ませるのだろう。


 机には教科書とメモ用の木の板、チョークが置かれている。

 この世界での紙はそこまで高級品ではないが、かと言って使い捨て出来るほど安いものでもない。

 識字率はそこまで高くはないので、文字が分からない人には口頭で、もしくは絵で説明する。


 色んな人が使ったのか、ある程度使い込まれた教科書だった。新人はここで冒険者としてのルールや知識を頭に叩き込んでから旅立つのだろう。


「あ、グレンさん…」


 振り向くと、ソフィと呼ばれていた受付嬢がなんとも複雑な顔をしながらグレンを見上げている。


「あらソフィさん、先程はどうも」


 グレンはにっこりと笑顔を見せながら言葉を返す。

 グレンの事を好き勝手に言ったので、ソフィは気まずいのだろう。


「その…先程は申し訳ありませんでした!」


 がばっと頭を下げるソフィ。

 ソフィの身長は155cmほどで、グレンは175cmあるので身長差が20cmもある。

 グレンはなんだか自分が虐めている気分になった。


「気にしてないからいいわ。

 冒険者になれるみたいだし、このくらいなんてことないのよ」


 グレンは遠い目をする。

 その目になんとも言えなくなったソフィは、小さく息をついた。


「…すみませんでした。その、ギルマスとか男性達が感激してました。

 最初から戦力になる!すごく美人!優しい!最高!!って」


グレンは腕を組み、首を傾けながら困ったような顔をした。


「…ええと、ごめんなさい、私人間からは美人に見えるのかしら?」

「へ?」


 ソフィは改めて背の高いグレンの顔から下までゆっくりと見た。

 かなり整っている顔立ちだと思うし、自分の顔と比べて輪郭はシャープだ。大人っぽくて色気を感じるウェーブの黒髪と口紅を塗った唇、長い睫毛(まつげ)がかかる紫の目は紫水晶のよう。眉と鼻はスッと通っていて全体的に涼やかさを思わせる。

 体に目を向けると、襟付きの黒いシャツを押し上げる胸の大きさは相当ある。

 それなのに腰まわりのラインは細くくびれているし、体も薄すぎず分厚すぎず。

 冒険者になるだけあって鍛えられた手足は長く、パンツスタイルが似合っているし、貴族が着るような派手なドレスも、着こなせると思った。


 大人になっても胸とくびれを得られなかったソフィとしては、正直かなり羨ましい。


「かなり美人さんだと思いますよ? どうしてですか??」


 ソフィから目を逸らしながら、グレンは困った顔のままだ。


「魔族は顔や体の造形を誉めないわ。強さは褒める対象なのだけど…。

 私と似たような形をした魔族なら、だいたいこんな見た目をしてるし」


 魔族って美人しか居ないの!?

 いや、この人が魔族って確定した訳じゃないんだけど!

 でも動きが人間離れしてたってギルマスは驚いてて、そして嬉しそうだったな…と、ソフィはブツブツと呟く。


「どうしたの?」

「いや、この顔でこの身長だと、良くも悪くも子供扱いされたり、絡まれやすくて疲れるんですよ…」


 死んだ目で答えるソフィ。

 もっと威厳とか貫禄みたいなものがあれば、受けなかったかもしれない理不尽があったり無かったりするらしい。

 グレンは納得したかのように目を細めてソフィを見る。


「そうなのね…。でも絡まれやすいのは分かるわ。

 女を大切にしてくれる人、蔑む人と極端よねー。ここのギルマスはいい人だわ」

「そうなんです!上司には恵まれました!」


 ソフィはダニエルを尊敬しているようだ。


「混んだ時に怒鳴ってくる人とか居ますけど、待つ時間がかかるのは私のせいじゃないのに困ったもんです。

 あまりに酷いとギルマスが出禁にしてくれるんですけどね」

「ああいうのって、小さくて弱そうな女の子を見つける嗅覚はすごいのよね。

 …滅びればいいのに」

「そうなんですよ! 朽ちればいいのに!

 って、すみません、愚痴ってしまいました。グレンさん聞き上手ですね!」

「そう? 聞いてて面白かったわよ?」

「うぅ…私今からグレンさんのファンです」

「ふふ、嬉しいわ」


 物騒な事を口にしつつ、二人は意外と話が合うようだ。一緒に小さく笑う。


「ふふ、それでは本題に入るんですが、初心者講習を始めますね。

 主に冒険者としてのルールをお教えします。

 メモ用の板は持ち帰ってもいいんですけど、販売用の教科書もあります。

 おすすめは教科書を買う方ですね。

 帰ってからも確認出来るので。そんなに分厚くもないのに一冊銀貨一枚かかりますけど、いかがですか?」

「教科書を買うわ。記念にもなるしね」


 魔族って記念とか気にするんですか…?

 気になるが聞くに聞けないソフィであった。

 グレンから銀貨を一枚受け取り、教科書を渡す。


「ありがとうございます。では基本的な部分からお話します。

 質問があればすぐ聞いてくださいね!」


 グレンは机につき、買った教科書を開いてソフィの話に耳を傾ける。


 冒険者ギルドは本部が国営である。

 各町のギルドは領主をトップとしているが、複数の町を受け持つ領主もいるために、実質は町長や有力者が方針を決めている。


 冒険者には基本的に受付嬢が任務を振り分ける。

 任務をこなせば実績となり、実績ポイントを貯めて既定値を超えるとランクがあがる。

 ランクは低い方から木・鉄・銅・銀・金、プラチナ・ダイヤモンドの七種類のランクに分かれる。

 銅ランク以上から昇級試験が設けられる。銀ランクになれば担当者付きとなり、特別室で任務を受けられる。


 冒険者免許は身分証明書として使えるが、効力がある場所に違いがある。木・鉄は国内のみ、銅・銀は近隣国、金以上は同盟各国である。これは国を跨いだ任務のために設けられた。

 護衛任務等で関所を通る時、通行税は依頼者持ちである。

 緊急任務では強制的に参加となるが、実力があれば前線に送り込まれる事もある。通常よりも報酬金は多い。

 免許の再発行は手数料に金貨一枚かかる。かなり高いが「無くすのが悪い」と言う事である。


「因みに冒険者が任務を完了すると、その任務を振った受付にもポイントが付くんです。それが私達の実績になりボーナスに繋がります」

「へ〜、だから受付は女性ばかりなの?」

「…下心を利用してないとは言えませんね。やる気が出る人もいますし。ギルマスが受付嬢の面接してるんですが」


 ソフィがさらっと裏事情をこぼす。


「なるほど。それ聞いちゃっていいの?」

「いいんですよ。お気に入りの受付に行く人もいれば、関係なくバラバラに行く人も居ます。

出来れば一人に集中して貰うと、実力に見合った任務を振りやすいのですけどね。

ボーナスもそこまで違いが出るほどでは無いです。じゃないと辞める受付嬢が続出しますし」


 冒険者側はあまり気にする必要は無いようだ。

 先程ソフィは魔族みたいな体型になりたいと言っていたが、デカい自分よりもソフィの方がよほど男性の庇護欲を掻き立てそうである。


(適材適所ってあるわよねぇ…)


 グレンはしみじみと可愛らしいソフィを眺めた。

 次の話を聞こう。


 任務を失敗すると多額の罰金を払う事になるので、実力不足と感じれば早めに申告する。

 違約金は払う事になるが、罰金よりは安く済む。

 人気の無い任務ほど実績ポイントは高めな傾向がある。

 出来るだけ実力に見合った任務を振るが、命を落とした場合ギルドは責任を取らない。

 遺体の回収は出来ない事が多い。出来てもほぼ免許や遺品の回収どまりである。

 遺族がいれば、お見舞金を一定額渡す。


 冒険者間での問題は出来るだけ双方で解決する事。

 頼れる先輩を作っておくとなお良し。

 任務の交換はご法度。複数人で受ける時は一緒に申告すること。人数が増えても報酬は変わらない。

 パートナーのランクによっては上位任務を振る場合もある。

 誘拐、強盗、殺人その他罪を犯した場合は、免許剥奪の上で一生涯冒険者ギルドからの追放となる。


「おおまかにはこんな感じですね」

「任務の難易度は受付次第なの?低ランクでも危険な任務に着いたりするのかしら」

「"この人なら完了出来る"と受付が思うなら、難易度が高い任務を出す事は出来ます。でも今まで無いですね。実力を示さないと信用無いので」

「じゃあ強い魔物素材を売りに出せばあるいは?」

「そうですね、素材はギルドで買い取ってますので…どこからか買ってきた素材を買い取りに出してる可能性はありますが、そこまでしてメリットは無いです。実力のごまかしは命にかかわりますから」

「分かったわ」

「他に分からない事があったらいつでも聞いてください!」

「えぇ、ありがとう」


 これで講習は終わりだ。

 免許の受け取りは受付カウンターでするので、一階に下りる。後ろからソフィも付いてくる。


 ソフィは受付に潜り込んで、一枚の木目調のカードを取り出した。


「これが免許カードです。色でランクが分かるようになってます。ぜひ上のランクを目指してください。上になると特典もありますので」

「ええ、少しずつ頑張るわ。ありがとう。

 早速なんだけど、何か任務はないかしら?」


 グレンはお礼を言ってカードを受け取って…

 消した。

 カードを消したのを見たソフィは目を瞬かせるが、ダニエルから「たぶんあいつには色々と隠し玉がまだまだあるだろうが、さっきみたいに大騒ぎをしたら駄目だ。冷静にな」と注意されたばかりだ。


 ツッコんだら負けだと言葉を飲み込み、書類を捲る。


「定番の薬草採取か、ラピッド兎ニ匹の狩猟はどうです?」

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