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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
3/12

3.テスト終了。

『ズドドドドドドドォッ!!!!バキバキバキメキィ…!!!!』


 と、氷は次々と木に突き刺さり、へしゃげて折れて裂ける。

 嫌な音を立てながら木はボロボロになった。

 木が原型を留めて無くなった為、撃ち切ってない氷を浮かべたままにグレンが話す。


「…ちょっと木がかわいそうになってきたわ。終わってもいいかしら?」

「あぁ…」


 ギルマスは呆然としながら返事をした。

 グレンが右手を握ると、氷は陽炎のように揺らめいて消えた。

 観客は…全員目を丸くして、声が出ないようだ。


 ギルマスも驚きが隠せない。

 人間が出せる氷の矢は並みの魔法使いなら十本、上級魔法使いでも百本だ。しかしそれを目標にぶつけるとなるとかなり難しい。百本出せたとしても、操作して当てられるのは二十本から三十本だ。グレンは百本以上の氷を出し、寸分たがわず木に向けて撃った。

 そして余った氷を消してみせた。


 出した魔法を無効化するのも実は難しいのだ。

 無効化するのにも同じ量の魔力を使うか、魔法を霧散させなければならない。

 普通なら出した魔法はせめて向きを変えて空に撃ち放つか、氷ならその場にガラガラと落とす事になる。

 どうしてもという時でなければ、消す為の魔力は節約した方がいいというのが人間の常識だ。

 また、霧散させるには魔法を解除させることである。複雑に紡がれた毛糸を解くようなものなので、これはこれで繊密な操作が必要となる。かなりの集中力が必要だろう。


 グレンとギルマスの他に人は居なかったのだから、そのまま氷を落としても問題はなかった。

 数多の氷をわざわざ消したグレンは、魔力が有り余っているのか、それとも人間が出来ないような集中力を無意識で持っているのかもしれない。


「…お前さんもしかして本当に魔族なのか?」

「さっきからそうだって言ってるんですけど…」


 ガックリと肩を落としながらグレンは呟く。

 すごく強いのに大人しい魔族だ。


「いや、すまん。さっきの氷の矢の量もすごいが、わざわざ消したのはなんでだ?

 出した魔法の始末ってものすごく大変なはず。しかも出すのも消すのも無詠唱ときた…」

「魔法の後処理は出来ないと、魔族とは呼べないわ。

 無詠唱なのは、詠唱すると相手に手がバレるでしょう?それに、無詠唱なら発音できない言葉の魔法も使う事が出来るわ。精霊魔法とか龍族魔法とか」


 さらりと言っているが、人間の常識的にめちゃめちゃ難しい事を言っている。

 この女は気付いてないんだろうか。

 あの氷魔法だけで多数の魔物の暴走であるスタンピードを止めれるくらいの戦力だ。人間の戦争にも有効だろう。焼き払う方がラクとも言ってたのは納得だ。


「はぁ―――とんでもねぇやつが来てしまった」

「ちょ、打ち合いで合格って言ったんだから、冒険者免許は頂きますからね?登録料も払ってるんだから!」


 しゃがみ込んで両手で顔を覆うギルマスに、グレンは左手を細い腰に当てながらジト目を向ける。


「そうだな。戻ったら初心者講習を受けてくれ。その後免許カードを渡そう。

 経験が無い場合は腕が立っても、全員ランク最下層から始めて貰うことにしてるからそこは了承してくれ」

「ええ。元々下から頑張ると決めてたから問題無いわ」

「そうか。それじゃ、ようこそ冒険者ギルドへ。ギルドマスターのダニエルだ」

「こちらこそ、よろしくお願いするわ。ダニエルさんとお呼びしても?」

「ああ、構わんよ」

「どうも」


 ギルドマスターのダニエルは立ち上がって右手を差し出した。

 グレンも右手で握り返し、握手をする。


「そうそう、左手を出してくださる?」

「ん?」

「指を痛めてるでしょ」


 ギクリとした。


「…よく分かったな」

「顔には出さないようにしてたけど、左手側のガードが甘かったわ。

 あまり力が入らなかったでしょう?打ち合いのせいで酷くなったんじゃない?」


 昨日重い荷物を下ろそうとした時に、うっかり薬指を挟んでしまったのだ。打ち合いのときはこっそりカバーしていたのだが、グレンの観察眼には驚いた。結構な負担をかけたからか、今は脈動に合わせてズキズキと痛みがぶり返している。


「利き手じゃないからバレると思ってなかったな。何をするんだ?」


 左手を差し出し、眉毛を下げながらダニエルは聞く。

 痛む場所を改めて見ると、左手薬指の先が膨らみ、爪が青紫になっていて人間の肌としては嫌な色になっている。


「ヒール」


 グレンは右の人差し指と中指を立て、ダニエルの指の上でくるっと円を描いた。薄い緑色をした光の粉が指へと降り注ぐ。グレンに詠唱は必要ないが、何をしているのか分かりやすくするためにわざわざ口にしたのだろう。青紫だった指の色が、周辺の肌の色と同じ色に戻りするっと痛みが無くなった。


「杖も無しに回復魔法が使えるのか…。

 すまん、ありがとう」


ダニエルは目を見開きながらまじまじと、指を曲げたり伸ばしたりして治った所を見ている。


「おおおぉいギルマス!!俺もグレンさんに回復してもらいてぇ!ずるいぞ!!」

「くそっ羨ましい!!俺らのグレンちゃんが!!」

「クールビューティーで背が高いから、グレンお姉様ってお呼びしたい!!!」


 どこからか出したハンカチを噛み締めながら羨ましがる男性の冒険者達。

 相変わらず言いたい放題である。そこにダニエルが言い返す。


「やかましい!いつからお前らのになったんだ!あと馴れ馴れしいぞ!」

「面白い人達ね」


 口元に手を当てながらクスクスとグレンが笑う。


「あー、俺もグレンさんと呼ばせてもらおう。

剣技も攻撃魔法も出来て回復も使えるとなると、色んなパーティから引っ張りだこだろうな。

女性で回復役はかなり人気になるだろうが、中には下心で近付いてくるやつも居る。ハーレムのごとく女ばっかり入れたがる奴もいるかもしれん。

十分気を付けてくれ」

「あら、魔族を案じてくれるの?」


 グレンは冗談めかして返す。

 今度はダニエルがジト目でグレンを見つめる。


「俺は真剣だ」

「…ご忠告感謝するわ。ソロしか考えてないから大丈夫よ。下手にパーティ組むと魔法でうっかり巻き込みそうだし、後衛でヒールばっかさせられるのは嫌だもの」


 肩をすくめながらグレンは言う。


「あと、ヒールは無料でやったら駄目だ。普通なら教会に寄付してやってもらうもんだから、神父の仕事を奪う事になる」

「あら、そうなの?じゃあ今回は私が酷くさせたみたいだし、わざわざギルドマスターにご教示頂いたお礼ってことにしましょ」

「…すまん。神父より高い値段で受けるって事にすれば、どうしてもって奴以外は来ないだろうがな」

「お金に困ったらそれもありね」


 ワイワイガヤガヤとギルドへの道を引き返して行くダニエル、グレン、その他冒険者達であった。

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