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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
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2.冒険者ギルドに入るテスト。

「あの美人な姉ちゃんがテスト受けるのか?」

「ギルマスがやるんだとよ。見どころがあるんかね?」

「美人だからギルマスが直々にやってんじゃね?」


 と言いたい放題の冒険者達のつぶやきを聞きながら歩く。


「よし、ここでやるぞ。あとお前らの誰かが要らんちょっかい出すのを防いでるんだ、俺は」


 少し歩いた森の中に、木が取り除かれた広場があった。ギルマスは冒険者達に軽く反論する。

 ギルマスはギルドから持ってきた木剣を一本かついでいる。


「あえて聞かなかったが、獲物は無しか?」

「魔力で作るのよ」


 黒く揺らめく煙のような輝きがグレンの右手に集まると、片刃の剣のような形をとった。

 東方の国にある刀という種類の剣に似ているが、鍔が無い。

 刃の部分はとても斬れそうで、ヌラヌラと光を反射していた。


「ほぅ?そんな剣は初めて見るな」

「…ほんとは魔法で焼き払うのが得意なんだけど、使い勝手が悪くて」

「…お前さんに理性があって良かったよ」


 見た事の無い魔法だが、剣の形に固めた魔力量の密度と魔力操作の繊細さは、人間のそれとはとても思えなかった。そんな魔力量を魔法にして焼き払うなどされたら、狩りに出たとしても獲物は跡形もなくなるだろう。ましてや人間にそんな魔法を打たれたら消し炭になってしまう。


(魔力が目に見えるほど濃くて重い。得体が知れん…本当に魔族かもしれないな)


 口には出さないが、ギルマスは警戒心を高める。


「打ち合いがしたいから、その魔力剣?の刃は斬れないように潰してもらえるか?」

「ええ、分かったわ。確認しとく?」


 グレンは右手に持った剣を差し出す。魔力で出来た黒い剣だ。情報は貰っておいて損は無いので、ギルマスは黒剣の刃部分を軽く指で押す。刃は付いていない。意外と硬く、木剣どころか金属の剣で打ち合いも問題無さそうだった。刃だけを無くす、魔力の操作熟練度は相当のものだと感じる。


「あぁ、これなら大丈夫だ。さて、やるか」


 お互い広場の真ん中に立ち、ギルマスは武器を構える。

 が、グレンは構えようとしない。力を抜いて立っている。


「? 構えないのか?」

「これが構えよ」


 にっこりと笑顔を浮かべるグレン。


「そうか。じゃあ行くぞ!!」


 ギルマスは木剣を振りかぶり、上からグレンを真っ二つにせんとする。

 が、「ゴッ!!」と音がして木剣が止められた。

 グレンは右腕を上げ、ギルマスの木剣を受け止めた。ギルマスの本来の獲物は大剣なので、その膂力を込めた剣を、細い片腕だけで受け止められるとは思わなかった。


「身体強化魔法か!?やるな!」

「ありがと!」


 受け止めるや否や、グレンはお礼を言いつつ左手を握りこみ、ギルマスの肝臓部分を打たんと左下から抉るようにねじり出す。肝臓を打たれると内臓が揺れてダメージが響き、動けなくなる。


「おっと!」


 すかさずバックステップをしてグレンの拳を避け、すぐに前へ踏み込んでグレンのガラ空きの左半身へ木剣を滑らせる。生身の左腕で受ければ、木剣でもかなり痛いはずだ。


(そうくるわよね!)


 グレンは左手にも黒剣を出して、左手のみで木剣を受け止めた。

 付いてきた観客の冒険者達がざわついている。


「そんなのありか!?」


 ギルマスは思わず声にした。

 突然の二刀流。一刀流なら両腕の力を込めるので、片手ずつで扱う二刀流に押し負ける事は無いが、グレンは先程右腕だけで両手持ちの剣を受け止めた。

 しかもギルマスは大剣使い。とても重たい金属の塊を振り回す大剣使いの膂力にグレンは片手ずつで拮抗した。

 魔力剣もかなり硬く、しなやかで折れそうにない。

 片腕に両腕並みの力が備わっていて手数が増えるということは、グレンが有利になるのは明白だった。そして剣を振るう速度も速い。魔力で出来た黒剣に重さは無いのかもしれない。


「いくわよ!」


 グレンは声を張り上げ、二刀流の手数に加えて足技も織り交ぜていく。


 剣を振りながら突然ギルマスの視界から消えたかと思うと、ギルマスの筋肉で膨らんだ足にグレンは自分の長い脚で足払いをかける。鍛えられてはいるが女の足なので、グレンの足はそこまで太くない。しかし、とんでもない力が込められているのは腕力から推測出来た。ギルマスはそれを跳んで避ける。


 自分より大きな相手には、手の届く低いところを狙うのは定石だ。

 ギルマスはグレンより背が高い。人間は必ず足を付けていないと力が入らないので、足を狙い力のバランスを崩し、急所である顔や首を狙おうとしているのだろう。

 舞うように息つく暇も無く一撃一撃重い攻撃をしてくるグレンを、ギルマスはなんとかいなしながら声を張り上げた。


「分かった!テストは終了だ!」


 グレンはピタッと攻撃を止め、両手の黒剣を消す。

 開始時の位置に戻り「ありがとうございました」と礼をした。


「「「ぅおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」


 息を呑みながら見ていた観客達から声が上がる。

 あまり長い時間の打ち合いでは無かったが、グレンの剣舞は冒険者達に受け入れられたようだ。


「はぁ、あー、そんだけ戦えるなら十分だろ」


 汗を腕で乱暴に拭いながらギルマスは言った。

 息切れはしていないがなかなかの運動量だった。

 グレンは足技まで使っていたのに、汗一つかいてないのが末恐ろしい。


「途中で二刀流になるわ、とんでもねぇ腕力披露するわでちょっと焦ったぜ」

「私の武器を最初にチェックして貰ったんだし、おあいこってことでどう?」


 グレンは涼しい笑顔で返した。


「食えないやつだな」

「手の内は全部教えないものでしょ?

 金的狙うのがラクだけど、これはテストだからやらなかったわ」

「…そうだな。手段はここぞという時に使うもんだ」


 金的云々は華麗にスルーした。

 聞いていた冒険者たちが、黙ってそっと股関に手を当てているのが見える。エグい戦い方を心得ているのは伝わったので、グレンを出来るだけ怒らせないようにしようと心の片隅で誓う冒険者達だった。ここにいる冒険者達の中で、グレンに下手な絡み方をする者は居ないだろう。


 そういえば、書類には得意とするのは魔法と書いていたのを思い出した。

 ギルマスはグレンの使う魔法も見たくなった。


「魔法が得意って書いてたな?少し見せて貰ってもいいか?どの程度使えるか確認したい」

「いいわよ!攻撃魔法でいいかしら?」


 紫の瞳を嬉しそうに輝かせながら、グレンがギルマスを見る。

 剣技もなかなかのものだが、魔法の方が好きなのが見て取れる。

 ギルマスも魔法は多少の心得があるが、あの魔力で出来た黒い剣を見た後なので自分に撃ってみろとは言えなかった。


「あの木を狙えるか?」


 広場の隅、グレン達が居る広場から三十メートル先にそこまで太くない木が立っている。

 あえて狙いやすい太い木を選ばなかったのは、魔法が得意なら当てられると思ったからだ。


 魔力で剣を作れるくらい魔力の操作が出来るなら、これくらいの距離で当てるのも余裕だろう。


「もちろん。氷の矢にするわね」


 ギルマスは、ここで火の矢を選ばないのが状況を良く見ていると少し感心する。

 火の魔法は派手で見目が良いので、新人は使いたがる。しかしここは森の中だ。無事に一本の木だけに当てられても、風で火が流れて引火し、森に焼け広がる可能性がある。

 氷なら威力も見込めるし、目標付近の安全確認をしておけば目標から逸れてもほっとけば水になるだけで済む。


「あぁ、出せるだけの矢を当てて見せてくれ」


 ギルマスの言葉を聞いたあと、グレンは右腕を軽く上げる。手のひら側を目標に向けて右手の人差し指を伸ばした。と同時に、数え切れないほどの円錐状に尖った氷がグレンとギルマスの周りに出現する。


「こ、これは…!?」

「はい」


グレンが軽い声と同時にピッと人差し指を木に向けると、氷の矢が一斉に木に向かった。

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