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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
11/12

11.土下座をされました。

飛び込んできたソフィは目を丸くする。


「えっ何事ですか!?ギルマスがなんで土下座を!?てかこの部屋明るい!」


 震えて縮こまっているが、全然小さくないギルドマスターの背中と、グレンを交互に見比べる騒がしいソフィ。ソフィの顔が真っ青である。グレンは思わずこめかみを押さえた。


「も、もしやギルマスが何かやって死刑宣告を…?」

「違うわよ!むしろ戸惑ってるのは私なんだけど?

 ダニエルさん、ソフィさんに説明してあげて。私今死神だと思われてるから……」

「すまない。感謝で心が震えすぎて思わず体が動いていた…」


 感謝の土下座らしい。


「ソフィ。信じられんかもしれないが、この雨はグレンさんが降らせてくれたんだ」

「……はい?今なんと?」





 冒険者逮捕と雨降らしの話を一通りきいたソフィは、ギルドマスターの横で同じく土下座している。

 グレンは足を組んで右手をソファーの背に投げ出し、顔を下に向けて左手で眉間をもみほぐす。


「どうしてそうなるのよ…」

「いや、もうグレン様というか神様というか…

 神々しくて同じ高さの椅子に人間が座ってはいけないような気がしまして…」

「横に同じだ」


 グレンは呆れながらジロリと二人を見下ろす。


「へぇ…?魔族なんて居るわけないって言ってなかった?」

「ふぐぅ!!」


 ソフィがビクゥッ!!と土下座のまま跳ねた。


「冗談よ。二人共、話しづらいわ。このままソファーに座らないなら雨止めるわよ」


 グレンは容赦なく土下座を止めさせる。


「「はい…」」


 気持ちしょんぼりとしながら、でも笑顔を滲ませながら、二人は土下座をやめてグレンの向かいに隣り合って座った。グレンも姿勢をもとに戻す。


 ソフィがポツポツと話し出す。


「その、水不足でほんとに悩まされてまして。

 飲み水代わりにエールやワインはありますけど、みんなそれ飲んでるから酔っ払ってて任務も失敗が増えてしまって。お洗濯もお風呂もまともに出来ないから、体を拭くのがせいぜいで…髪は水無し石鹸で洗ってました。

 子ども達はお酒飲めないから、泥のような水でも飲んでしまってお腹壊してます。遠くの井戸まで水汲みに行くのも大変だったんですよ。なので正直、感謝の土下座どころか全財産を捧げたい気持ちです」


 冒険者なら風呂に入れないのはよくあることだ。しかし、ソフィ達や町で働く女性には風呂に入れないのは辛いだろう。余るほど水が出せる魔法使いは王宮に居るだろうが、こんな辺境へ来てくれるとは思えない。

 ダニエルが腕を組みながら言葉を続ける。


「病院も酷いもんだ。怪我人の包帯や止血帯が洗えない。清潔魔法を使える者も居るが、魔法使いは少ないし、病人は医者に払う金が精一杯で報酬金まで払えない。症状は悪くなるばかりだ。

 冒険者としては、森の奥深くにある湧き水まで辿り着いても重みで帰りがキツいから、水汲み任務は不人気なんだ。狩りみたいに売れる素材も無いし。テストの時に治して貰った指は、湧き水を入れた樽で挟んだんだ。帰りの終盤だったからなんとか耐えたがドジってな…。

 雨を降るのを見て、今も震えが止まらない。

 本当にありがとう…ありがとう…」


 涙を滲ませて礼を言うダニエル。

 ソフィは頭をさげている。


 ギルドマスターが水を汲みに行かないといけないくらい水に困っていたらしい。

 全然知らなかったし、気付いていなかった。


「そこまで感謝する理由は分かったわ。

 ソフィさんは財産とっときなさいね?お金は大事よ。気持ちだけでいいわ。

 ダニエルさん、その樽も後で水を足してあげる。他にも樽があれば用意してくれる?水汲みの任務も全部私に回して。乾ききった土地の後に雨が降っても、すぐに生活用水にはならないから」

「すまない、助かる。樽は他のやつらに声をかけて集めておこう。任務は明日までにまとめておく。

 ソフィ!今日残業は出来るか?忙しくなるぞ!」


 今はもう夕方なので、任務をまとめ終わる頃には真夜中になりそうだが、ダニエルは黒い空とは真反対の晴れ晴れとした笑顔で言った。ソフィは涙目で深く頷いた。


「さて、この話は一旦終わり!

 ラピッド兎を取ってきたから任務完了したいのだけど、まだ受け付けてるのかしら?」


 このままだと崇め奉られて財産を差し出されそうなので、無理やり話題を変える。


「任務中だったのすっかり忘れてたな。ソフィ、書類取ってこれるか?」

「すぐに取ってきます!」


 笑顔でパッと部屋から飛び出していくソフィ。


「すっかりグレンさんのファンだな」

「イジったから怒るかと思ったけど、すごく素直ないい子よね」


(あんな時代が私にもあったかしら…)

 とグレンはぼやきながら、ラピッド兎を空間から一羽取り出した。


「ん?まだ温かいな」

「脳だけ壊したから体は生きてるわ」

「また何を言っているのか、俺にはよく分からんのだが…」


 遠い目をしてダニエルが言う。


「脳だけってどうやって?」

「ここから針を脳に刺したのよ」


 兎のこめかみにある、とても小さな穴を見せる。


「罠で取らなかったのか?この兎は足が早いだろう」

「罠を張るのにも通り道を探したり、罠にかかるまで時間がかかるわ。

 なるべく早く済ませたかったから、探知魔法で獲物を探して、風景同化、気配遮断、認識阻害の魔法を自分にかけて獲物の近くに転移。そこから氷の矢を針みたいに細くして飛ばしたの」


 一気に五つの魔法を使い、魔法三つ同時掛けの上転移という古代魔法、氷の矢をアレンジした魔法で兎を撃ち抜く。そんなのやろうとも思わないし誰も出来ないのだが。


「お前さんが狩りの神だと言われても納得するんだが」

「…違うわ。無駄に長生きだから練習しただけよ。暇つぶしにね」


 魔族は長命らしい。見た目から年齢が想像出来ないのはエルフ種がよく知られている。

 見た目は若いが実年齢はもっと上かもしれないと、ダニエルは心の隅に置く。


「生かしてるのは血抜きの手間を省いたのか?」

「ええ。捌くのは専門家に任せた方が、毛皮も綺麗に取れるから。

 あと解体すると血の臭いが鼻の奥から取れなくて…」


 兎4羽を床に並べ、四足を縛ったロープを掴んでワイルドボアを取り出す。


「書類取ってきました〜!すみません、下は暗いから手間取ってしまいました」


 ソフィが戻ってきた。

 グレンはひっそりと下の階にも光魔法を飛ばしておく。

 他の職員達なのかザワザワしているのが聞こえるが無視した。


「おお、ラピッド兎が四羽も!任務の倍とは流石ですね。え……それワイルドボアですか?」

「ええ、お土産獲ってくるって言ったからこれを」


「「……………。」」


 二人は目を丸くし、グレンが右腕で掲げているワイルドボアに釘付けだ。


(これ獲ったらまずかったのかしら…?)


「銅級に上げていいか?」

「異議なーし」

「え?」


 ダニエルは何やら書類を用意し始めた。


「銅級に上がる時に昇級テストがあるんだが」

「ワイルドボアが討伐対象なんです!」


 なるほど。昇級テストを自発的にやってしまったから、いっそのこと銅級に上げようってことか。


「あの。獲る現場とか、試験官が確認したりしないの?」

「そいつも忍び寄って倒したんだろ?試験官が邪魔でテストにならん。普通は背後から斬りつけたり、魔法を何度も放ってトドメを刺すんだ。もし誤魔化して誰かから買ったとしても、絶対に毛皮が傷んでる。この綺麗な毛皮が、お前さんが獲ったという証拠になる。一応、解体する前に試験官の資格を持っている二人に確認させるがな」

「ほんと、こんなにも綺麗な状態で獲られたワイルドボアは初めて見ました!」


 ソフィは嬉しそうに声を張り上げる。

 そしてふと、ワイルドボアを持ち上げるグレンの右腕に目を滑らせた。


「身体強化ってすごいですね!百キロ以上ありそうなのに片腕で軽々と…」

「え?今は使ってないわよ?」


 二人はピタッと固まる。


「なんだと…?」

「マジっすか…?」


 …さすがに驚かれるのにも慣れてきたわ。

 二人には魔族に慣れてもらわなくちゃ!

 ひっそりとグレンは左手を握りしめて、謎の奮起をする。


「ほら、魔族って基本的に力持ちだから…」

「…なぁ、俺の剣を止めた時って」

「あー。使ってなかったわね…お礼を言ったのはブラフというか、油断してくれたらラッキーかなと」


 ダニエルか机に体を預けて項垂れている。


「足払い避けて良かった…!膝から下が無くなるところだ!速くてギリギリだった!」

「さすがに加減はしてるから!ギルドマスターを教会送りにしたらマズイのは、さすがの私も分かってるから!」


 抗議の声を上げておく。

 なにやら全身が武器だと思われているフシがある。

 …ちょっと否定出来ないので気をつけよう…。


 ため息をついて、ワイルドボアを床へ置く。

 ソフィがくまなく観察し、左目に穴が開いている事に気付く。


「わざわざ目を狙ってるんですか?こんな小さなとこ…」

「そう。皮膚も毛皮も兎に比べて硬いから、柔らかい目を狙う。

 …コレを目から脳に向けて刺すの」


 ソフィの前に左手のひらを差し出して、人差し指だけを伸ばし、指先の上に猪用の氷針を縦に浮かべる。針と言っても直径一センチ、長さ二十センチを超えるので迫力がある。

 ソフィは大きな目を大きく見開いてそれを見た。


「これが…目に刺さって脳に……」


 色々と想像したのか、青い顔をして背をぷるりと震わせる。

 グレンは苦笑しつつも氷針を溶けるように消した。


「ソフィさんを串刺しにする気は無いから、安心して魔法を習ってね」

「……え?」


 ソフィはポカンとした顔でグレンを見上げた。

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