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魔族が人間界で暮らす話。  作者: 縦縞 りょう
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1.魔族は冒険者になりたい。

縦縞たてじまりょうと申します。初投稿です。

小説を書くのは学生の時以来ですごく久々ですが、ゆるゆると投稿していきます。

よろしくお願いします。

 ここはレニグラート領内にある町、サンペチル。


 この町は、そこまで大きくもないが村と言う程小さくもない。

 特産は冒険者が持ち込んでくる素材だ。

 近くにある森で、そこまで強くないが質のいい獣の肉や毛皮、魔石、素材が取れる。

 かと言って新人が倒すには厳しい魔物もいるので、多少の経験がある冒険者が集まっている。

 薬草や鳥の卵の採取、護衛の依頼もあるが、割が良くて人気なのが獣狩りだ。


 サンペチルにある冒険者ギルドの前に、一人の女がどこからともなく現れた。

 周りには不思議と誰も居ない。


 女の見た目は、髪は艷やかな黒のウェーブで、その長さは胸までかかっている。

 陶器のような皺やシミの無い白い肌に、両目は濃い紫色で、少し釣り気味な目じりは気が強そうだ。


 鼻筋が通っていてフェイスラインは大人っぽく整っており、綺麗な形の唇は口紅の赤で色よく潤んでいる。身長は女性としてはかなり高い。上に身につけているのは黒い襟付きのシャツだ。シャツの胸元を下から押し上げる胸元は豊満と言えよう。

 その反面、腰のラインはスッキリとくびれており、腹筋など必要な部分には筋肉が付いていて余分な肉が見当たらない。鍛えているのか姿勢が良く、背中の筋肉があることが分かる。黒いシャツの裾は出しておらず、ベルトが見えている。

 下は濃い茶色のパンツスタイルで、尻はツンと盛り上がっていて脚が長い事を見せつけるかのようだ。靴はピッタリ目の黒のブーツで、少しヒールが付いている。


 紫の双眸は、冒険者ギルドの看板をじっと見上げていた。

 納得したように、その女は小さな笑みを浮かべ、重々しい使い込まれた木製のドアを開けて中に入っていく。


 中の様子はポツポツと人がおり混んではいない。

 受付が3つあり、受付嬢達が事務作業をしている。受付の右手の奥には軽食と酒を提供するカフェがあり、いくつかのテーブル席に冒険者らしき男たちが何グループか座っている。左側には関係者用の部屋と二階への階段が見えた。


 女は真ん中の受付に長い脚で大股に歩き近付いて行った。


「冒険者登録をしたいのですが」

「はい、ありがとうございます。

 登録料の銀貨ニ枚頂きますが、よろしいですか?」


 受付嬢はにっこりと営業スマイルを浮かべながら書類を出す。


 受付嬢の見た目は、髪はブロンドでクルクルと癖があり、両耳の下でお下げにしていた。

 目は明るい茶色で、顔立ちは幼さを感じる丸みがある。

 だが、意思のはっきりした大人を感じるので二十代だろうか。


 「ええ、お願いするわ」


 女はズボンのポケットから銀貨を二枚取り出して受付カウンターに置く。

 備え付けの羽ペンを(つま)み取ってインク壷に漬け、書類を書き込んでいった。


 書き終わった書類を受付嬢が受け取った。


「お名前はグレンさん。登録は初めてですね。

 後で初心者講習をお受けになりますか?」

「えぇ、受けるわ」

「かしこまりました。戦法は魔法が得意…と。字が綺麗ですね」


 文字を褒めつつ、書いてある項目をつらつらと目を通していく。


「種族は…魔族……???」


 椅子をガタンッ!と音を立たせながら大きめの声を出す。

 人間ではないエルフやドワーフも冒険者として登録する事があるため、種族を書く欄があるのだ。

 受付嬢はふー…と溜息をつき、精神を落ち着かせようとコホンと一つ咳をした。


「…グレンさん? 嘘を書いては駄目です」


 少し怒ったようにグレンを叱咤する。


「えーと、後々バレた時にマズイかなって思ったから正直に書いたんだけど…」


 グレンは眉を少し下げながら受付嬢に言う。


「本当に魔族なら何が目的なんですか?

 人間を見下して襲い、殲滅するのが魔族と聞いてますよ?

 そもそも、この国に魔族は居ないはずでは?」


 受付嬢の声が大きくなっていく。

 個人情報となるので、人の耳がある中で情報を広げるのは良しとしないのだが、【魔族とは人間を虐げる者】と人間の間では通例となっている。

 仕方がない事なのかもしれない。


「えぇと、錬金術とか、植物の本を買うお金が欲しいから、冒険者として働きにきたの。それに、それはあなたの偏見よ。人間を襲う魔族しか人間に近付かないんだもの。

 人間と関わる為には、人間が居る所に行かないといけないじゃない?

 人間を襲わない魔族って、こっちで会う事はほぼ無いと思うわ。

 ほんと、魔族のイメージダウンしてくれちゃって迷惑な話よ…」


 グレンは右手を頬に当てながら左手は右肘を支え、困ったように息を吐いた。


「と、とにかく。嘘を書くなら冒険者には登録出来ません!」

「ぅええぇ…嘘じゃないって…そもそも魔族である事を証明って何をすればいいの?」

「それは…えぇと…」


 嘘と疑うものの、証明してもらう方法も分からない。

 なんせ、魔族が冒険者登録するなんて前例が無いのだ。


「角と翼を出せばいいかしら…それも幻術だって疑われたら、どうしようも無いわ。

 魔族らしい事をするとしても、人間の思う魔族らしい事って破壊でしょ?

 さすがに町を滅ぼすのはちょっと…」


 この自称魔族、町を破壊するのは嫌だという。


「おいソフィ。その自称魔族様を、俺がテストするってのはどうだ?」

「ギルドマスター!?」


 ギルドマスターと呼ばれたのはかなり大柄な男性で、髪は茶色の短髪。

 目は深い青。カフェで休憩していたようで、グレンの右側へ立つ。

 グレンも背が高いのだが、それでも少し見上げる程に高い。

 目じりに少し皺があるので年齢は40代くらいだろうか。

 受付嬢はソフィという名前らしい。


「テスト?何をするの?」


 グレンがギルマスを見上げながら問う。


「俺と戦えばいい。

 ぶっちゃけ、種族なんてのはどうでもいい。その欄に意味は無いな。

 冒険者は結果が全てだ。生きてここに戻れる戦闘力、任務をこなす力があればいい。

 もし本当に魔族なら、それなりに強いはずだ。

 町を滅ぼしたり、人間に危害を加える気が無いのなら、いい戦力になるんじゃねぇかと思ったのさ」

「で、でも!本当に危害を加えないか分からないじゃないですか?

 もし魔族だとしたらこの町が…」


 ソフィが青い顔をしながら、ギルマスに抗議する。


「もしその気なら、すでにこの町は壊滅状態になってるんじゃないか?

 俺が聞いたことがあるのは、気付いたらどこもかしこも火の海になっていたとか、数万人が大魔法で一度に死んだとか。相当物騒なことばかりだ。

 まぁ、そうなってないならこのヒトは魔族じゃないと思うがな」


 ギルマスは肩をすくめながら言う。


「そ、それもそうですね…って、そんなこと言って。

 出会った事の無い魔族と、ただ戦いたいだけなんじゃないですか?

 この国が生まれた四百年前から、この国が魔族に襲われた事はありませんからね」


 冷静になったソフィが、口を尖らせながらギルマスを見上げる。


「はっはっは、バレたか!獲物一つ持たずにギルド登録に来るやつなんざ、普通は居ないからな。

 お前さんがここに入って来たときから気にはしてたさ。女性が来るのは珍しいしな」


 このギルマスは戦いが好きなようだ。

 確かに、グレンは冒険者になるには鎧も着ておらず、獲物となる剣や弓を持っていない。

 荷物を何も持っていないグレンは、戦闘をするようには全く見えない。

 そんな素人丸出しの女が魔族と申告し、受付に大きめの声で責められたら余計に気になるだろう。


「あなたは魔族に嫌悪感は無いの?」


 グレンは不思議に思い、ギルマスを見る。

 ソフィの口ぶりだと、魔族は人間にとって忌避するべき恐ろしい存在である。


「嫌悪感は…正直なところ、よく分からん。

 他の国で数十年ごととか、ごくごくたまに魔族に襲われて村が無くなったとか聞くが、遠すぎる話で実感が無い。

 警戒するに越したことはないだろうが、この国には四百年以上現れていないとなると、俺より上の世代、その前でも実感は無いだろうな」

「本当に魔族は居るのか?って感じかしら?」

「ああ、そうだ。で、そんな存在してるのかすら分からん魔族が、のこのことギルド登録しに来るってなんの冗談だと、誰もが思っても仕方ないだろう。

 しかも、種族名をバカ正直に書くのかってな」


 なるほど。ソフィが疑うのも仕方がない話だ。

 人間は短命だし、空を飛ぶ力も転移魔法を使うほどの魔力も無い。

 遠くのあやふやな情報を、自分の目で確かめに行く事も出来ない。いや、出来ないことは無いが金がかかりすぎて庶民には無理だ。

 実感が無いのも当たり前である。


「バカ正直に書くのは、私だって浅はかとも思ったわよ。

 でも、私が戦う所を誰かに見られる可能性は高いわ。

 隠れながら戦うのは難しいし…色々と目をつけられて、後から面倒になるくらいなら先に済ませておきたいのよ」

「なるほど。それは確かに一理ある。面倒事は早く片付けるに限るからな」


 魔族の戦い方は知らない。他の国で猛威を振るう魔族の所業を聞くと、普通の人間ではありえない強さであれば目立つのは(まぬが)れないだろう。


「それで? 魔族であることよりも、戦う力があるかどうかを確認する事になるのかしら?」

「そうだな。あからさまに戦えなさそうなヤツには、初心者講習の後に剣術の教室を案内する。

 でもお前さんは、何か戦う方法があるみたいだからな。

 魔族かどうかってのは、教会にある真実の水晶を触れば証明になる。だがなぁ…」


 ギルマスは顔を(しか)めた。

 同じく、グレンも顔を顰めた。


「魔族と表示された後が死ぬほど面倒くさそう…。

 魔族と悪魔って混同されてるのよね…全然違うのだけど…。

 領主やらなんやらが、私を討伐しようと全軍出撃とかされたら困るわ」


 グレンは苦々しく言葉を吐く。自称魔族は面倒な事が大嫌いなようだ。


「ふむ。それでだ。種族の証明はいったん忘れて、冒険者の資質を確かめるのが先決だ。

 書類は魔族のままで構わんよ。どうでもいいし」


 書類の項目をどうでもいい。と言いのけて良いのか?

 気にはなるが、ギルドマスターが良いと言うなら、彼の気が変わらないうちに話に乗っておく。


「マスターが寛大で良かったわ。

 あなたの気が変わらないうちにテストしてくれる?

 あと、お上に何か言われても私は責任持たないわよ?」

「はっはっは。もうテストは受かったも同然なんだな?

 何か言われる時はお前さんが何やらすごい功績を残した時か、やらかした時だから、その時に考えるさ。

 それじゃあ付いてこい。お前さんが本当に魔族なら町中でやると危ない。

 山の開けた場所でやろう」

「…そうね。気をつけるに越したことはないわね」

(さすがに人間界で、魔法を連発する気は無いんだけど…)


と小さな不満を抱えながら、ギルドマスターに付いて歩くグレンだった。


そしてその後ろ。

隣接するカフェから、受付に聞き耳を立てていた冒険者の男性達が席を立つ。

スタイルが良く、顔も綺麗で色気のあるグレンに興味津々だ。

全員でゾロゾロと付いていくのであった。

読了ありがとうございました。

もし宜しければ、いいね!とか評価頂けると嬉しいです。

テンション上がって筆が進むと思います。

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