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気苦労王アーデルベルトの画策

約10,000文字/全4話で完結します。

気軽にお読みください!

気苦労王アーデルベルトは考えた。

そうだ!この国の人間と聖女が婚約すれば万事解決だ!―――と。

それこそが自分の治世を平穏なものにする一助となると信じて。


聖女の伴侶探しの幕が切って落とされる―――。




         ※ ※ ※




 アクリメント王国は、10年前に突如出現した魔王なる存在によって、常に平和を脅かされてきた。魔王の生み出す瘴気から次々生まれ出る魔物たちは、翼や牙、鋭い爪を持ち、地上でもっとも脆弱で数の多い存在「人間」を狩った。




――魔王からの解放は突然訪れた。

 聖女の放つ魔王を打ち滅ぼす唯一絶対の聖魔法が大気を揺るがす轟音とともに、天空に向かって伸びる眩く清廉な一条の光の柱となって暗雲を貫いた。後にその光景の意味を知った人々は歓喜し、勇者となった王太子と聖女を賛美した。




 それから数日後のアクリメント王国、王城の国王執務室へ、扉をノックする時間も惜しい様子で、溢れんばかりの喜色を満面に浮かべた宰相が飛び込んで来た。


「陛下!朗報です!ついにアルス王太子が魔王レイドルを討ち果たしたと、早馬による報せが参りましたぞ!ひと月前のあの光の柱です!!あれが聖女様が魔王を倒された魔法だったのです!」


 10年前の即位以来甚大な魔王と魔物による被害の対策に頭を悩ませ続けてきたアクリメント王国の国王アーデルベルトは待ちかねた朗報に、知らず椅子から腰を浮かせた。僅かに膝が掠めた執務机の上で、置かれたガラス瓶に収まった胃の丸薬がカラリと音を立てる。

 連日の様に魔王とその眷属の魔物対策に頭を悩ませる国王が、昼夜問わず詰めて居る執務室へ飛び込んで来たのは、冷静沈着を常とする宰相ブルクハルトであるはずなのだが、今は興奮を隠そうともせず頬を上気させている。若干息が弾んでいるところを見ると、一報を受けてすぐに執務室まで早足で王城内を歩き抜けてきたのだろう。


「本当か!!でかした、それでアルスは‥‥いや、我が国の戦士たちは無事であろうな!?」

「王子殿下は勿論、皆様ご無事とのことです!聖女様のご尽力により、一人も欠くことなく、健やかでいらっしゃるとのことです!」


(おぉ‥‥!神よ!いや聖女よ、我が息子を、この国をお助けくださり有難うございます―――!!)

 アーデルベルトは、まだあどけなさの残る息子アルスの面差しと、突如異界から召喚されにも拘らず、この世界のために戦うことを決意してくれた、強い意志を宿す黒い瞳の聖女の凛とした姿を思い浮かべ、心の中で祈りを捧げる。


「それは重畳!よし、あ奴らの帰還に間に合うよう、至急『戦勝祝賀会』の準備をするのだ!」

「ははっ!!」


 10年前、先代国王や妻を魔物によって失い、なし崩し的に国王の地位を得てしまったアーデルベルトの治世は、先代からの引継ぎも中途半端、臣下との信頼関係も即席で、魔物だけでなく人間同士でのいざこざにまで胃を痛める日々の連続だった。さらに1年前、まだ13歳でしかない一人息子が、大賢者である先代魔導士長から勇者の宣託を受けたがため魔王討伐に向かわせる事となり、親としての心痛も重なった。だから、その息子アルスが魔王を倒し、無事に帰還する報は、幾つもの憂い――胃痛の種が取り除かれることをも意味していた。


 けれど、魔王は未来永劫その存在が失われているとは言い難い。魔王討伐後ひと月を経ているはずの今も、魔物による被害は数を減らせど無くなってはいないのだから、その中から新たな魔王が出ないとは言えない。だから、国民と自分の心の平穏の為に、聖女には変わらずこの国に留まり、魔王の脅威に備えて欲しいと望み、考えた。


(そうだ!この国の人間と聖女が婚約すれば万事解決だ!)


 『戦勝祝賀会』の晴れやかな舞台で大々的に国王直々に、救国の聖女がこの国の伴侶を得ることを発表すれば、聖女人気も追い風となって彼の治世に対する支持率もアップするだろう。そう考えて、実行した。



聖女帰還―――それが新たな心痛、いや胃痛の種になるとも気付かずに‥‥。




         ※ ※ ※




 今までにない上機嫌で、私室のソファーで寛いだ様子をみせる国王の前に、眉間に深い皺を刻んだ宰相が現れて一礼する。

 聖女一行の王城までの帰路、『戦勝祝賀会』での婚約発表に間に合わせるため、彼女の希望する婚約者の条件の聞き取り調査(ヒアリング)を行ったその結果の報告が書かれた書簡が彼の手にはある。


「陛下、聖女様が結婚相手の条件として3つを重要事項として求めておられます!ひとつ、溺愛してくれること。ふたつ、美男子(イケメン)であること。みっつ、高位貴族であること。この3つのうち一つでも欠けている場合、この話は無かったことにと仰っておられます。」

「う‥‥うむっ。――‥‥っったたたた‥‥。」


 苦々し気な宰相の言葉に、アーデルベルトは、胃がキリキリ痛み出す、と同時に巻き起こった吐き気と悪寒に襲われる。

(何てことだ!ただでさえ、聖女様の20歳という年齢は行き遅れの部類に入ってしまうのに‥‥。いやしかし、美しく、気高い姿は凛として年齢を感じさせないほど愛らしさもあり尊い。行き遅れは失礼か。―――いやいやいや、それは今はいい。高位貴族は無理だ!彼らは余程のことが無い限り、政略的に問題の無い相手と幼少期に婚約を結んでしまうのが常識だ。その中から婚約者を出せだとぉ!?)


 アーデルベルトは仕舞い込んでいた胃痛の丸薬を、再び取り出したのだった。

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