これは恋じゃない2 ※コンラード視点
唇を塞ぎ舌を絡ませている間にドレスの後ろのボタンをはずしていく。なぜこんなにボタンが多いのかと少しイラついたせいか、少し強くかんだ舌の痛みにセシーリアがびくりと震える。
ボタンをはずし終わり、唇と体を離すと一気にドレスとパニエを脱がせる。
隣国で主流のブラジャーとショーツにまた怒りがこみ上げる。身に着けるすべてが我が国の物ではなく隣国の物という事実が憎らしい。
ガーターベルトとストッキングに触れ何もないことを確認して留め具をはずしてショーツから抜き取り、ストッキングも足から抜き取る。
「も、これ以上はお許しを」
震える声で言われて手を止め立つように命じる。
「その下着も我が国の物とは違うな。どこまでも隣国に染まっているのか」
「ちがっ」
コルセットは苦しいから、クリノリンは動きにくいからだと言い訳する姿に愉悦を覚える。
まだ夜にもなっていない寝室に近い談話室で、婚約者とはいえほとんど初対面の男に服を奪われ、下着姿で目の前に立たされる。
さぞかし屈辱的で、恐ろしいことだろう。
「ああ、そうだな。この細さならコルセットなど必要ないだろう」
腕を伸ばして腰を掴んで触る。びくりと震え後ずさって足をテーブルにぶつけたようなので腰を引き寄せる。
座っている私のちょうど目の前に胸がくるため少し引っ張った程度で揺れるのが見える。
「私と同じ15歳だと聞いているが」
「左様にございます」
「それにしては随分と育っているな」
「ひっ」
胸に触れれば柔らかく、押せば返ってくる弾力に気を良くして形を確かめるように揉む様に手を動かした際、折手が滑ってブラジャーの中に指が入ってしまう。
その度に紅潮しながらもびくびくと反応するセシーリアにさらに気分がよくなる。
涙を浮かべた目と目が合った。これは俺のものだ。父上にだって、隣国にだって渡さない。
崩れかけた体を持ち上げ、膝をまたぐようにソファの私の膝の上に座らせる。
そして背中を支える手とは反対の手で首を掴む。
「いくら王家の血を入れたとしても所詮愛人の子だ。お前には我が国よりも隣国の血が随分濃く流れているように見える。妖姫の子が隣国の物を纏って隣国の習慣を実施して、城下の国民や王城の者を誑かす。母が謁見室から出て行った後の父の言葉がわかるか?」
必死に首を振るセシーリア喉を掴む手に力を籠める。
「いらないのであればすぐに言うように。それであれば私の公妾にしよう。あの容姿に実家の後ろ盾があればだれでも名だけでも妻にしたいと思うだろう。そうおっしゃった」
そう言ってセシーリアの体をソファに投げる。
「王家を混乱に落とし、隣国の侵略の手助けをする気か?」
「そのようなこと、考えておりません」
「どうだかな。私に会うというのに暗器を仕込むような女の言葉など信じられんな」
お前は私に会いたいと言っていたのにあんなに暗器を隠して本当に私の首を狙っていたのか?王太子妃の座を追われれば父が今度こそ逃がさないというのに。
「明日からは王妃教育が開始される。一週間後から学園へ通うことになる。覚えておけ、この宮の主はこの私だ。歯向かうことは許されない」
「かしこまり、ました」
「わかったのであれば服を着ろ。ああ、暗器は仕込むな、気分が悪くなる」
王妃教育は母が率先してすると言っていたが、たぶん無理だろう。
というよりも、母に会わせてはいけない気がする。
テーブルに用意されたもうとっくに冷めた紅茶を飲んで、少し頭がさえてきた気がした。
足元ではドレスとパニエやリボンをかき集め衣装室に行こうとするセシーリアの姿。
「ここで着替えろ」
「……かしこまりました」
背を向け、テーブルがあるため少し離れた位置で着替え始める姿をじっと見つめる。
動きが止まったのでどうしたのかと聞けば背中のボタンが留められないという。
こんな服、面倒なだけだと思いながらわざと背中に触れ時間をかけてボタンを留めていく。
リボンも結び付け、一回転させてその胸元をまじまじと見る。なるほど、これならよほど密着しなければ見えないだろう。
ソファに戻り、食事を再開する。
「隣国の習慣のアフターヌーンティーなのだろう。悪くない、学園に通っているときはできないだろうが、そうでない日は執務の合間にこの時間を取ることにしよう」
食べないのかという問いに緩く首を振ってまた向かいのソファに座ろうとしたので手を引いて隣に座らせる。
カチャカチャと耳障りな音はセシーリアのもつカップから聞こえてくる。未だに手が震えているようだ。
マカロンという物を取ろうとソーサーにカップを戻した時にもまた音を立てる。
「ああ、そろそろ時間だな。シア、今日は楽しい時間が過ごせた。明日からの王妃教育に励むように。音を立てて茶を飲むような無作法ものでは、貴族の令嬢を招いての茶会など出来まい」
「申し訳ございません殿下」
「ラディだ」
「ラディ様」
「そうだ、必ずそう呼ぶように」
談話室を出ると、居間のすぐそばで待機していたのであろう侍女たちが一礼してすぐさま部屋に駆け込んでいく。
「姫様、ご無事ですか」
「着替えを…いいえ、入浴の準備をっすぐに!」
「すぐに準備をいたします」
まだ閉じていない扉から声が漏れ聞こえてくる。
完全が扉に閉まってしまえばその声も聞こえなくなり、部屋に残っている侍女に目を向ける。
無表情の侍女は感情を表に出すことなく、他人に主のことを言いふらすことなく、そして主に絶対的に忠誠を尽くすように教育され、選りすぐられたものだ。
令嬢が行儀作法の腰かけで王城に勤めているような生半可なものではない。
生涯主に尽くすと誓ったものだけが今この王太子宮に仕えている。
「監視しろ、隣国の物は私が許可しない限り許すな。今のところそうだな、アフターヌーンティーと下着は許す。ドレスなどまだ成長するのだろうしすぐに着れなくなるだろう、我が国の型の物が揃い次第捨てろ。アクセサリーは母親の形見の可能性もあるだろうから捨てることはないが、よほどのことがない限りこちらが用意したものを着けさせろ。化粧道具もこちらの物にすべて変えろ。家具も我が国の物が作った我が国の伝統を取り入れたものが揃い次第実家に返せ」
「かしこまりました」
矢継ぎ早に出した指示に無表情に侍女が頷くのを確認して王太子妃の部屋をでる。
外で待っていた侍従達が一礼しあとをついてくる。
自分の部屋に戻って談話室のソファに座ってやっと深く息を吐く。
部屋のつくりは王太子妃のものとほぼ同じ、執務室の面積が違うぐらいか。
目を閉じれば浮かび上がるのはセシーリアの顔と体。
吟遊詩人が謳うというセシーリアの容姿はどうせ誇張だと思っていた。
きめが細かく陶磁器のように滑らかな白さを持つ肌は触れれば吸い付きそうなほどで、細くくびれた腰に対して豊かな胸は弾力があり、それでいて柔らかくずっと触っていたい気持ちにさせた。
ドロワーズと違ってショーツから覗く尻はまろやかな曲線を描き、付けられたガーターベルトがひどく艶めかしいものに見えた。
震え、二重の紫の瞳が涙にぬれ、羞恥から青ざめているはずなのに頬は桃色に染まり、必死に私からの侮辱に耐えるその姿が煽情的だった。
ボタンを留めてやるさい、モスグリーンの生地の間から見えた背中はいつまでも触っていたいほどだったが、なんとか理性を繋ぎとめて留め終えた。
着替えが終わって震えているセシーリアがまた向かいのソファに座ろうとしたので腕を引き横に座らせる。
残る震えのせいでカチャカチャと音を立てて紅茶を口に運ぶ姿が必死すぎて笑いがこみ上げてきそうになった。
今頃は湯を使用しているころだろう。セシーリアもそうだが、侍女も魔法を使えると聞いている。
そういえばと思い出す。我が国では入浴と言えば暖めた部屋で浅く広い壺のようなものに湯を入れて足を浸し、10分ほどその状態を続けその後灰石鹸で髪や体を洗い浴槽の湯で流すというものだ。
しかし隣国では浴槽という陶磁器でできた中で腰を底に落とし足を出し胸の下あたりまでを湯に浸し、その状態で髪を洗い、上がってから泡の立つ石鹸というものがあり、その泡で体を洗い風呂の湯で泡を流すという。
そういえば持ち込んだ家具の中に浴槽というものがあった気がする。
少し考え、浴槽は残すように伝えることにした。全てをいきなり奪って実家に、隣国に逃げ帰られては困るからな。
考えてふと我に返る。
自分はなぜあんなことや隣国の物を捨てさせ我が国の者に染めようとしている?危険性を確認するため?あの肢体に、あの容姿に惹かれたのではなく?
違う。あれは私の妻となり王妃となる。そうなれば貴婦人令嬢の見本となり、国民からの信頼を得なければならない。だから隣国に染まった王太子妃では困るのだ。
それだけだ、そうに決まっている。父のようにあの少女に惹かれたのではない。
だから、これは恋なんかじゃない。この国を背負っていくものとしての当然の義務だ。
けれど、それでも思い浮かぶのは、ブラジャーとショーツだけを身に着け、震えながらも濡れた目でこちらを見てくるセシーリアの姿だった。