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断罪の宴 国王夫婦

 悲鳴を上げる国王をぼんやりと見つめる。

 他の人と違い、王妃は幻覚を見せられることはないが、見せられている人々の間に置かれている。


「リリアン!」


 どこまでも夢を追いかける国王の叫びに、夢に絶望するコンラードにいっそ殺してほしいと叫びそうになる。


「ソフィ!その子供はっ私はっ……リリアン、待て行くな。お前は私の物になるんだ!」


 その言葉の後絶叫が響き国王に猿轡がされる。一気に老け込んだ国王をぼんやりと見ているといつの間にかエリックが傍にいた。


「そんなに国王のほうが気になりますか、王妃様」

「……皆は?」


 気が付けば国王と王妃以外だれもいない。いや、国王と王妃だけが先ほどの場所から移動させられていた。

 いつの間に?転移魔法なんてないとリリアンが笑っていたはずだとぼんやりと考える。


「ここではない場所で断罪されていますよ」

「そう…」

「………リリーの慈悲は無意味でしたか」

「ええそうですわね。結局私は無駄にあがいただけでした」

「こんな蛆虫のどこがいいのか私にはわかりかねますね」

「どこが……と言われても、困りますわね。当時王太子であったこの人に嫁いだ時に決めたのです。この人を愛しぬこうと。そう思わなければ私は悲劇の主人公になってしまうでしょう?」

「十分に悲劇の王妃ですよ。リリーは最期まで貴女の心配をしていました」

「私にはもったいない友人でしたわ」


 溜息を吐く王妃にエリックも溜息を吐きながら国王を蹴り上げてろっ骨の上に足を置く。


「この蛆虫に貴女の息子はそっくりだ」

「そうですわね。叶わない夢を見続けて…」

「違いますよ。本当に愛する女性が傍にいるのに間違えている」

「まるで私を愛しているみたいに言いますのね」

「貴女の婚約はこの蛆虫の希望だったじゃないですか」

「ただ身近にいた令嬢で一番身分が高かっただけですわ」

「貴女は本当に卑屈だ」


 こんな蛆虫のせいで、と言ってエリックは国王の肋骨を足で踏みつけて折る。


「がはっ」

「起きなさい蛆虫」

「が……ぎざま゛」

「お久しぶりですね。もう二度と会いたくはなかったですけど、まあいいでしょう」


 エリックは一度足を離してもう一度肋骨を踏み抜いて医療魔法をかける。


「きさっま…。よくも私のっ前に…」

「ああ、貴方の話を聞いてやるつもりはないんですよ。でもリリーの遺言があるのでね、仕方がないですよね」

「リリアンがどうした!」

「私の妻を呼び捨てにするな蛆虫が」

「ごがっ」


 思わずといったふうに今度は鳩尾を踏みつけ、エリックはにこやかに笑う。


「ぎじゃまが、わだじのっリリギャンを、うばっだ」

「はあ?隣国からやってきた皇女は貴方に会う前から私の妻でしたよ。貴方の父親がちゃんと承認したでしょう?」

「あ゛んな、のうなじがっ」

「あっははははは。能無しは血でしょうに、ねえ王妃様?」


 話を振られて王妃はこくりと頷く。


「きざまっ裏切るのかっ」

「もとより私のことなどなんとも思ってないでしょう」


 もう疲れてしまいましたと王妃は力なく首を振る。


「リリーの遺言です。王妃の名前を憶えていたら慈悲をかけてあげますよ」

「王妃の名前?」

「エリック様……やめて」

「駄目ですよ。リリーの遺言です」


 王妃は真っ青になりガチガチを歯を鳴らして震え始める。


「シェランだ!」

「それは家名でしょう?王妃の名前ですよ、忘れたんですか?」

「シセル、ソニア、ソフィー、カリン、リヴィ…」

「それは愛人の名前ですよね。本当に忘れたんですか?」

「やめて。陛下は私の名前なんてもう忘れていますから」

「最後に呼ばれたのはいつ?」

「……結婚式の最中ですわ」

「だそうですよ。あと5秒以内に思い出せればいいですね」

「………ルイーゼ、違う。リンだ!そうだろう!」


 国王の言葉に王妃はゆっくりと首を横に振って静かに涙を流す。


「エリック様、お願いですからっもう」

「リリーの最期の慈悲も無意味でしたね。リリアン王妃様」

「……リリ、アン?」


 エリックの言葉に国王が目を見開く。


「そう。王妃は偶然にもリリーと同じ名前で、そのせいかリリーとすぐに友情を深めた」

「お願いエリック様…私をこれ以上みじめにさせないで」

「リリーはね、慈悲を与えるけれど決して優しい女ではないんですよ。王妃との間に深い友情があっても、事実を突きつける残酷な女だった」

「知ってますわ。リリー様はいつだって……私の欲しいものを持っていましたもの」


「リリアンだと?違う。私のリリアンはお前などではない」


 国王の言葉に王妃は涙を流しながら震える。


「貴方が最初に求めた"リリアン"は王妃様ですよ。リリーの登場ですっかり塗り替えられたみたいですけどね。可哀そうに、家が決めた逆らえない、拒めない婚約に必死に光を求めようとしたのに、ほんの小さな光はより強力な光に塗りつぶされた」

「貴様のせいだ、貴様が私のリリアンを奪ったんだ!」

「我が家とのつながりをより強固にしようとしていた公爵家の思惑を無視して王妃を婚約者に選んだのは貴方だ」

「な、に?」

「この国の"リリアン"は本来は辺境伯である我が家に嫁に入り、その子供が王家に嫁入りすることで国の力を維持しようとした祖父達の代の計画は貴方のせいで延期され、隣国の"リリアン"が私に嫁いできたことによって狂ってしまった」

「やめて…」

「知らぬ、そんなこと私は知らぬ」

「説明した貴族を、重臣を殺したのは貴方なのにそんな言い訳は通じませんよ。国王陛下は私が苦しめて殺します」

「お、王妃。リリアン助けっ」

「貴方は私のことをそんな風に呼びませんでしたわ」

「……王妃には、現実を今一度自覚させてから、自害を」

「それもリリー様の遺言ですか?」

「ええ。『アンはこの国の私だから、最期は誇りを持ったまま。でも現実を自覚させてから死なせてあげて』と」

「酷い人…」


 王妃はそう言って涙を流し、エリックが差し出した剣を受け取る。


「私は、どこまでも報われませんわね」


 そう言って一気に喉を剣で突き刺すとその場に倒れこむ。


「アン!?」

「ああ、今更思い出したんですか?まあ無駄ですけどね」

「アン、アン!アン!アンッ!」


 うつぶせに倒れこんで血を流す王妃を目にして狂ったように動けない体で必死に手を伸ばす国王にエリックは王妃に渡したものとは違う、切れ味の悪い剣を腹に突き立てる。

 ぶちりと皮膚が無理やり押しつぶされる音がして国王がびくりと跳ね上がる。


「煩いですよ蛆虫が」


 ぐちゃぐちゃと何度も腹を突き刺してかき混ぜるように剣を動かす度に国王の体が痙攣するように跳ね上がりうめき声とも悲鳴ともわからない声が漏れる。


「私のリリーにしつこく言い寄って。何度殺してやろうと思ったことか。おまけにセシーを自分の愛人にしようと計画して、万死に値する」


 エリックはそこまで浮かべていた笑顔を消して無表情になって血まみれになった剣を腹から引き抜き、今度は股間に突き立てる。


「ぎゃぁぁっぁぁぁ」

「リリーを目にしたことも許せない。話したことも許せない。触れたことも許せない。欲情したことも許せない。リリーは私の妻だ、私の伴侶だ。貴様がどうにかできる存在じゃない」


 剣を突き立てたまま、国王の胸に足を置いて片腕をひねっていく。

 ブチブチと肉の千切れる音がして、最後に骨が砕ける音と共に腕が千切れる。


「があっ」

「死ねよ蛆虫」


 無表情にそう言ってエリックは国王のもう片方の腕も同じようにねじって引きちぎる。

 少しでも長く苦しみが続くように血が流れすぎて死なないように医療魔法をかけ、精神が壊れないように調整しながらじわじわと追い詰めていく。

 もう死なせてくれという国王に、無表情に「もっと苦しめよ蛆虫」と言って苦しみを長引かせ、最後に王妃が別の男に抱かれている幻覚を見せ、絶望の中でとどめをさした。

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