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愛してると言って

「シシー、かわいそうに」

「ラディ様、私どうしてこんなことになってるかわからなくて…」


 兵士に無理やり連れてこられた王城の中にある宮の一つで、シンシアは涙を流してコンラードの胸に縋り付いていた。

 そんなシンシアを抱きしめ、コンラードは優しく髪を撫でながら大丈夫とささやく。


「私、どうしてここにいるんですか?どうして顔も知らない人と結婚なんかしなくちゃいけないんですか?愛人とかっうそですよね?」

「シシー大丈夫。私がなんとかしてあげるから、泣かないで」

「だって、だって。私はラディと結婚して温かな家庭を築くのが夢なんです。なのに、こんなのわけわかんないです」

「可哀そうなシシー」

「そうですよね、私可哀そうなんですよね?なのにお父様は私のせいって言うんです」

「大丈夫。ここにいれば私が守ってあげるから、だから泣かないでシシー」


 そう言って顎にそっと手を当てて上を向かせもう片方の手で涙をぬぐうと、コンラードは笑みを浮かべる。


「やだぁ。どうしてそんな作り笑いするんですか?ラディ様は私の前ならちゃんと笑ってくれるのに、ラディ様まで私に嘘をつくんですか?」

「ごめんねシシー。でも君が私の前でライディーンの話をするから」

「だって」

「シシー、黙って?」


 そっと唇の上に人差し指を当てて、今度はとろけるような笑みを浮かべる。


「ここにいれば私が守ってあげる。いやいやさせられた結婚だって考える必要なんかないよ。愛人だなんて思わなくていい。シシーは私の大切な人なんだから」

「でも、お父様が婚姻届けにサインをしたし、ここにつれて来た兵士さんも私がラディ様の愛人だって、この宮に住めることを光栄に思えって言ってたんです」

「悪い父親に兵士だね。でも、君の父親もどうしようもなくてした行動なんだ」

「どうしようもないって、ラディ様まで私のせいっていうんですか?」

「まさか。シシーは悪くないよ、この宮につれてこられたのはセシーリアが別の離宮に行ってしまってこの部屋が空いたからだ」

「え?」


 そこでコンラードは悲しそうに顔をゆがめてシンシアの頬に触れる。


「シシー、私はね今とても寂しいんだ。シアが私を置いてこの宮から出て行ってしまってとても寂しいんだ」

「置いていったって、ひどい…」

「私の大切な人として、私の傍にいて私を慰めてくれないかな?そのためには少し肩書が必要だけど、その肩書さえあればシシーは自由なんだ」

「可哀そう。ラディ様悲しいのね」

「ああ、とても悲しいし寂しい。シシー傍にいてくれるよね」

「でも、やっぱり…」

「否定しないでシシー。もしシシーが否定してしまったら君の実家は責任を取らされてしまうし、書類上だけとはいえその家も責任を取らされてしまうんだ」

「そんな…」

「私だってこんなことを言いたくない。だけど、王太子宮の空いた部屋に私が毎日悲しい思いをさせないようにと、陛下が決めたことなんだ」

「陛下が…」

「ライディーンではないけど、私もシシーのラディだ。彼を私に重ねて温かな家庭ごっこをしよう?」


 うっとりとした声でコンラードはシンシアの耳元にささやく。


「君は悪くない。この宮を出て行ったセシーリアや今回のことを決めた陛下が悪いんだ。ここにいて、私の傍にいれば今までと何も変わらない生活ができるんだ。ねえシシー、結婚のことも肩書のことも何にも気にしなくていい。ここでも学園でも、私の傍にいればいいんだよ」

「ラディ様…でもやっぱり」

「君の家が困ってもいいのかい?」

「だ、だめです」

「ああ、そうだ。気にすることはないけれど、ライディーンにも近づかないほうがいい」

「なんで?」

「だって、彼は君を捨てたんだ」

「嘘よ!」


 シンシアはコンラードの胸を強く押して距離を取る。強く首を横に振ると今言われたことを認めないと叫ぶ。


「嘘じゃないよ。自分を、自分の家を守るために君を捨てたんだ。そんな男のことを考えてシシーが泣くのは私は許せないな」

「うそよ。ラディは私をお嫁さんにしてくれるって昔から言ってたんだもの」

「嘘じゃないよ。君は裏切られたんだ」

「嘘よ。嘘だもん・・・ラディは私を裏切ったりなんかしないもの」

「シシー、私も君のラディだよ。私は君を裏切らない、君が私を裏切らず傍にいてくれる限り、私はシシーだけを見て愛してあげられるよ」


 聞きたくないとばかりに耳をふさいで首を振るシンシアの腕を取り耳から手を離させると、コンラードはそっとささやく。


「もしシシーが本当にライディーンを愛し続けるなら、余計に接触してはいけないよ」

「え?」

「シシーを裏切ったライディーンは今は只の幼馴染でしかない。書類上とはいえ、そのライディーンに裏切られたせいだとはいえ、伯爵夫人になったシシーが特定の伯爵子息と親しくしてしまえば、その子息にもその家にも、実家にも書類上の夫と家にも不幸が訪れてしまうかもしれない」

「そんな……。で、でもラディ様はこうして傍にいてもいいならラディも」

「私は特別だから。シシーが私の特別だから許されているんだよ。私以外は駄目なんだ。シシーにはもう私しかいないんだよ」

「私はラディを愛してるのに、どうしてそんな意地悪を言うんですか」

「ああ、可愛そうなシシー。優しいシシー。裏切られたのにそんなに想うなんて、君は本当にいい子だよ」


 そっと頬に口づけてからコンラードはシンシアの瞼の上にそっと自分の手を置いて目を閉じさせる。


「シシーは何も悪くない。でも優しいシシーならわかってくれるよね?私の傍にいることが、シシーの大切な人たちを不幸な目に遭わせない唯一の方法だって」

「わか、りません」

「わかってシシー。でないと、君の愛する人たちが不幸な目に遭ってしまう。愛してるなら私の言うことを聞いて。そうすれば私が守ってあげる」

「こんなのおかしいです」

「うん、でも仕方がないんだ。何も心配しなくていいんだ。ただこの宮で私と一緒に暮らせばいい。学園でも今まで通り私の傍にいればいいんだよ」

「でも、愛人なんておかしいです」

「まだそんなことを言うんだね。シシーはそんなこと気にしなくていいんだよ。愛人なんて他人がただ言ってるだけなんだから気にしなくていいんだよ」

「愛人じゃ、ないの?」


 そっと瞼の上から手をはずして量頬を包み込むように手を当てると、コンラードはうっとりとほほ笑む。


「君は私の大切な人。ただそれだけだよ、いいね」

「…………私はっ、幸せな温かな家庭をっ」

「私と家族ごっこをしよう。君の愛するライディーン、ラディの代わりだと思えばいい。幸せで温かな家族ごっこをしよう」

「…ラディの代わり?」

「そう。彼の代わりに私を愛して、彼の代わりに私と幸せになろう。そうすれば、そうある限り私はシシーを大切にしてあげる、守ってあげる。……愛してあげる」

「私ラディを愛してるのよ?」

「そうだね。私がシシーのラディになってあげる。ほら、言ってごらん。私のことを愛していると」

「ラディ様を…」

「違うよ、ラディだ」

「ら、ディ…」

「そう、いい子だね。ほら言ってシシー」

「らでぃを、あいしてるの」


 どこかうつろな目でそう言ったシンシアに、コンラードはとろけるような笑みを浮かべてからその唇を自分のもので塞ぐ。


「私も愛しているよ、シシー」

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