出会い2
王都にセシーリアが来て約2年。夜会や茶会、特に学園では毎日各学年の上流貴族・下級貴族に分けての昼食会と続けていればセシーリアを中心とした派閥が出来るのも当然で、特に同学年の女生徒はセシーリアを崇拝すらし始めている。
「まあ、王太子殿下が食堂で召し上がるなんてお珍しい」
「本当に……まあ」
今日は3年に上がったセシーリアと同学年の上級貴族の令嬢3人との昼食会をしていると注文口に並ぶ殿下の姿が見えた。
普段はバスケットに詰めてもらっているのだが、今日はトレイを持っていることから食堂で食べるのだと判明し、どこの席に着くのかと思わず全員が視線で追ってしまう。
下級貴族の席についてはその席にいる子女が緊張してしまうだろうし、下手な上級貴族の席に座っても支障が出る場合がある。
無難なところとして同級生の席だが、あいにく埋まっているためそれも不可能。
そんな風に考えていたセシーリア達だったが、殿下のすぐ後にトレイを受け取り少し恥ずかしそうにして殿下の後をついていく女生徒に目を瞬かせる。
「あのお二人何か一緒の授業を受けていましたかしら?」
「さあ…セシーリア様はご存じですの?」
「……いいえ、特にお伺いはしておりませんわね。殿下からも、シンシア様からも」
そろそろシンシア様が入学して1年。接触を始めるころだとは思っていたが、いきなりこんな場面に遭遇するとは思わなかった。
物語では手に怪我をしているところを治してそのお礼に食事誘われたのが出会いとしか書かれてなかったけど…。
「お家の事情で食堂で注文が出来なくなったから、ライディーン様と一緒でない日はお弁当を持ってきてると聞いてましたのに」
「まあ、そうなんですの?」
「ええ、魔力でお支払いしていたそうなのですが滞納が続いて…」
「まあ…」
実際にそういうことになるとは聞いていたが、その処遇を受けたという話は初めて聞いた。
見ていると二人はシンシア様の同級生の下級貴族子息二人の席に座った。
「お気の毒に」
「本当に」
いくら食堂とはいえ婚約者のいる異性とよほど仲が良くない限りは同席しないのがマナーである。
同席する場合は婚約者も一緒にというのが常識であるのに、彼女は遠慮することも確認することもなく4人席の空いてる部分に座ってしまう。
殿下もシンシア様の向かいに座ったため、同席になった男子生徒は慌てて食事を食べて席を立ってしまう。
セシーリア達は優雅に食事を続けながらも殿下たちの様子を観察する。
楽しそうに会話をする殿下にセシーリアが心の暗い部分から笑いがこみ上げてくるのを感じた。
「婚約者でもない男女が、しかもお互いに他の婚約者がいるというのに、殿下は何をお考えなのでしょうか」
「きっと殿下がお怪我をなさってその治療をなさったのではないでしょうか?」
「え?」
「殿下の手からシンシア様の魔力を感じますので」
「お怪我を…。それでしたらお礼にと食事にお誘いしても、まあ……わからなくもないですが」
「殿下はお優しくいらっしゃいますもの」
そう言って柔らかく微笑むセシーリアに同級生たちは顔を見合わせてセシーリアがいいのであればと頷く。
(もっと大勢が見ているところで浮気してくださいませね、殿下)
「そういえば、皆様サマーパーティーのドレスはお決まりになりまして?」
「ええ、私はライトグリーンのドレスですわ」
「私はイエローベージュのドレスにしようかと」
「私はまだ決まっていませんの。セシーリア様は何色になさいますの?」
「そうですわね。半年前に隣国の大使より頂いた布がございますのでそれにしようかと思っております。薄紫のものですわ」
「薄紫……では私は淡い桃色の生地にしましょうかしら」
「まあ、きっとお似合いですわ」
ふふふ、と少女たちはどんなドレスの型が流行っているか、髪飾りがどんなものなのかを話し合う。
こうして情報を集めて他の令嬢とかぶらないように誘導するのもセシーリアの役割の一つだ。
確執がある令嬢同士が同じ色やデザインであれば争いの種になるし、下級貴族が上位貴族の令嬢と同じ色やデザインのドレスを身に纏えば謂れのない中傷を受けることもある。
もちろん仲の良い令嬢や姉妹がいる場合、わざと合わせることもある。
ここ最近は瑠璃色のものが流行っているせいか、ドレスも濃い目の色が選ばれやすい。それにレースや光を反射する小さなガラス玉をつけて独自のデザインを作っていくのだ。
「そうですわ。今度の上級貴族令嬢の合同授業で皆様でデザインを考えるというのはいかがでしょう?それぞれお針子を一人連れてくるのですわ」
「まあ、素敵。髪飾りなど学年ごとにデザインと変えてお揃いにするというのはいかが?」
「いいですわね。いかがでしょうセシーリア様」
「素敵なアイディアだと思いますわ。他の学年の方にも伝えておきますわ」
そんな話をしているうちに食事は終わり、午後の授業へとそれぞれ向かう。
午後の授業の一つが教師の都合で自習になったのを利用し、各学年の上級貴族の令嬢に先ほどの内容を伝える手紙を書く。
もちろん直筆でサインを入れ、便せんに魔法で薔薇の刻印を入れる。
「お行き」
ふーっと息を吹きかければその便せんはグレーの鳥となり目的の人物まで飛んでいく。
返信は合わせて送った便せんに書いてセシーリアに届けるよう念じてもらえば今度は白い鳥になってセシーリアのもとに帰ってくる。
「器用なものだな」
「ラディ様、どうしてこちらに?」
「私のほうも自習になってな。少し話がしたいと思ってきたんだが、私のシアを連れて行ってもいいかな?」
殿下の言葉に同じ教室にいる生徒が勿論と頷かれ、殿下に手を引かれて歩いていく。
いったいどこに連れていくつもりなのだろうか。
「ここだ」
連れてこられたのは空き教室。小さなテーブルと大き目のソファが置かれている。
「あのラディ様、何か御用事でしょうか」
「座って」
「……はい」
セシーリアがソファの端に座ると中央に座った殿下に腰を掴まれ引き擦り倒される。
「なっ」
制服のリボンをとかれ、ボタンがはずされていく。
「お待ちくださいっ」
「黙れ」
ぐっと喉を掴まれる。
はだけた制服から黒いスリップドレスとその下のブラジャーが見え恥ずかしさに頬をそめる。
足を持ち上げられ、ガーターベルトがはずされ、暗器が落とされ、ストッキングがゆっくりと脱がされていく。
「……かはっ」
「ああ、絞めすぎたか。跡が残りそうだな、スカーフでも巻いておくといい」
「は、い」
コホコホと咳き込みながら返事をしている間にも足を肩まで押し上げられそこに乗せられたまま、制服のボタンをはずされていく。
視線を逸らせば落とされたストッキングに涙があふれそうになる。
「シア、お前は本当に気に入らない女だな」
「申し訳ん」
言い訳の途中で口を殿下の口で塞がれて、最後のボタンがはずされて制服の全面が捲られる。
「どうか、お許しを」
口づけの合間にそう言えば薄く笑われ腰を強くつかまれる。
腰の裏に手が回れば、そこにも仕込まれていたナイフがまた床に投げられる。
「制服に暗器を仕込む癖は直す気がないということか」
「護身用、ですので」
「護身?私の暗殺用の間違いではないか?」
「いいえ、そのようなことは」
そのまますっと腕をたどられ、袖口にある小さなナイフをはずされて床に落とされ、もう片方の袖口のナイフも同じように落とされる。
「こんなに暗器を仕込んでる女の言葉なんて信じられない。シアの言葉はいつだって偽りだ」
「いいえ、偽ってなどおりません」
「…どうだか」
そう言って肩に乗せていた足を高く持ち上げ、スカートで隠れる部分を舐めた後、がりっと噛まれ歯型が残される。
「いっ…」
「痛いか?魔物と対等に、いや蹂躙するような女でも痛覚があるのか」
「お許しを、殿下」
「ラディと呼べと何度言っていると思っている」
「ラディさ、ま」
「そうだ。お前は私の妻となりこの国の王妃になるんだ」
「は、い」
恐怖心で体が震える。白い結婚を貫かれるのだから抱かれることはない。最後までされることはない。
そうわかっていても、この恐怖は別物だ。魔物と対峙しているほうがよっぽどましだと思える。
体を這う手にゾクゾクと恐怖心が沸き上がってくる。与えられる口づけに恐ろしさのあまり頭が回らなくなる。
「シアは、私のものだろう。どうして私の思い通りにならないんだ」
だって、私は貴方のことなんて愛していないもの。
貴方はシンシア様とこれから愛をはぐくむのでしょう?お願いだから私を放っておいて。