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09 囚われの俺

茂羅もらさん、申し訳ございません。生け贄を奪われたうえ、配下をほぼ壊滅させてしまいました」

 俺をぶら下げるエリートが私服へと頭を下げる。


「遅れた私にこそ責任がある。焼石様には私から伝えておく。……だが、お前が手にするのは、すべてを帳消しにする手柄かもしれない」


 私服の男が俺の前に立つ。エリートよりはるかに背が低く小太り。ゴルフ場の帰りに立ち寄った上流もどきの中年サラリーマンにしか見えない服装なのに。


「美人だが騙されるな。蛾どもは男だ。遠目には綺麗に見えても、醜く卑しい虫けらだ」

 俺を不快そうに見る。


 他の敵は二手に分かれる。一方は丸太棒へと女子高生を引きずる。若い男は持ち上げられて運ばれている。

 もう一方はブルーとイエローを囲み奇声をあげる。

 俺は身動きできず男たちに眺められる。


「俺は男でもかまわない。そもそもバイだしな」

 運転席から降りたエリートが近づく。ベレー帽の下のマスクから好色な目が覗く。


「まだ無理だ」と私服が俺の胸をつかむ。

 触られた感触はない。股間も触られるけど。

「鉄の感触だけだ。こいつらの服は貞操を守るシールドが張られている。エロいことを考えた相手に発動する。何のためだと思う? この女の体を、それを操る男から守るためだ。転生しても戦いもせず、おのれを裸にして眺めぬようにな」


 そうだったのか。いつか試してみようなんて、誓って微塵も思ったことないと思うけど。


「でも、ここは剥き出しだ」

 エリートが俺の脇を舐める。

「いい匂いだが、ちょっと塩辛いな」


 そう言って煙草臭い顔を近づけてくる。俺は必死に顔を背ける。蹴り上げた太ももをさすられる。


 タタタタと掃射音が響き、男どもが顔を向ける。ブルーたちを囲った敵の一人が倒れ、残りが伏せる。匍匐前進を躊躇している。


「本物の女どもが来る前に済ますぞ。お前は青虫と黄色い芋虫を消せ。連れ帰るのは赤い毛虫だけでいいから、貴様はしっかり抑えとけ。私は生け贄どもを優しく速やかに説得する。

昨夜は刀根とねが消された。私など奴らに太刀打ちできない」


 私服男が黒いマントを体にかける。半裸の姿になる。緑色の体が発光して山中の広場が照らされる。男は縛りつけられた三人へと歩いていく。


「モスはモスでも、茂羅さんは苔だ。ヒカリゴケの精霊であるコケライトだ。……俺もいつか精霊の力をさずかりたいよな」


 俺をぶら下げたままのエリートが言う。俺はもがくだけだ。肩からの血が右半身を濡らすだけだ。エリートの顔の前に運ばれる。


「体が弱まればシールドも消える。そしたら帰り道に荷台で楽しんでやるからな。猿たちにも回してやる」


 ……捕らわれずに散れという意味がよく分かった。俺は空を見る。モスプレイは薄情にも現れない。オウムも助けに飛んでこない。

 ついで仲間たちを見る。イエローは失神したままだ。銃を持つ上級はすでに消えている。さすがブルー。冷静な判断。でも彼女の懸命な弾幕を、この子の脇を舐めた糞エリートがあざ笑うように弾いていく。糞野郎の手にグレネードランチャーが現れる。


 俺は絶望の目で、コケライトの光に照らされた生け贄たちを見る。猿ぐつわの女子高生だけが目を開けていた。眼鏡の真面目そうな女の子が、俺へと唯一の希望の目を向けていた。


 このまま負けてたまるか! まだまだもがいてやる!

 捻られた腕を必死に曲げる。肘鉄を食らわそうとする。


「傷が広がるぞ」


 そう言ってエリートは片手をはずし、俺の肩の銃創を指で弾く。気の遠くなる痛み。でも悶絶ついでに片手を束縛からはずせた。籠手をエリートの顔へと向ける。

 いつでも散ってやる。だが人を守るために、まだ戦ってやる!


「喰らえ!」


 矢が赤く燃えた。眼球に突き刺さる。

 エリートが絶叫して俺を落とす。そいつに蹴りをいれて向きを変える。


「喰らえ! 糞野郎!」


 この子には、こんなシチュエーションならば汚い言葉がきっと似合う。グレネードランチャーを構える糞エリートに続けざまに矢を放つ。糞は背中に矢を彼岸花の群生みたいに生やして前屈みに倒れる。


「糞(あま)め!」


 エリートが目に刺さった矢を抜きとる。その手に抜き身の軍刀が現れる。


 対抗するように、俺の手にもソードが現れる。赤く輝くスピネルソードだ。振り降ろされる刀の下をくぐり、エリートの首へと赤いソードを――、蹴り飛ばされる。

 エリートの手にピストルが現れる。


 俺は転んだままでソードを投げる。力なく飛んだソードはエリートが片手で持つ刀身をたやすく折り、心臓に突き刺さる。

 膝を落とすそいつからソードを抜き取り、俺へとランチャーを向ける糞エリートと対峙する。

 発射された砲弾を、スピネルソードが弾く。糞のつらに怯えが湧きでたのがマスク越しでも分かる。

 糞へとソードを構え駆けだすなり、光に包まれふっ飛ばされる。


「蛾は夜に光を浴びると元気になるのか?」

 コケライトの声が寄ってくる。

「違うよな。光に誘われ力尽きるまで飛ぶだけだ」


 強烈な光に目を焼かれたみたいで、緑色の体がよく見えない。それでも光弾をソードで弾く。よろめきを耐えて立ち上がる。


「油断しやがって……。レッドはいずれ頂点。それが相手だ。しっかり抑えとけと言っただろ。だからお前たちは猿山のボス止まりなんだ」


 コケライトが心臓をえぐられたエリートに手のひらを向ける。植物が発するような優しい光が飛んでいく。それを見る俺の目まで回復する。


「あ、ありがとうございます」

 エリートが立ち上がる。俺へと憎しみの目を向ける。矢が刺さったはずの目が開いている。


 コケライトは糞エリートにも黄緑色の光を授ける。

 俺は復活したエリート二人と幹部一人に囲まれる。


「うるさいし眩しいわで眠れたものじゃない」

 女の声がした。

「お陰で昼酒の酔いは随分醒めたが、まだ頭がガンガン痛い」


 奴らを乗せてきたトラックの幌から誰かが飛び降りる。

 コケライトが光弾を放つ。


「変身前の体に手荒なことをするんじゃないよ」


 素手ではたき落とした光に照らされて、地味な浴衣姿の女が浮かび上がる。


「昨夜はお前たちの仲間の返り血をたっぷり浴びちまったから、伊香保の湯へと女一人で精進落としに来てたのさ。しかし、おらんさんのすぐそばで悪事を働くとは、運も尽きたな、布理冥尊め」


 背高い女はタオルを肩に雪駄を鳴らしながら、広場に入ってくる。化粧は落としているけど二十代半ばぐらい。はだけて谷間が見える胸もと。ふたつの山はでかくて下着をつけていない……。

 傷をおった身であろうとそんなところばかり注視する俺を、彼女は見る。


「いいものを見させてもらったよ、二代目の赤モスちゃん。――さて、宿の浴衣を汚すのも申し訳が立たぬから、変身させてもらおうか」


 彼女の体がコケライトよりはるかに強烈な光に包まれる。……紫色の光。


「雪月花の花。お蘭だ。またの名を紫苑太夫しおんたゆう


 光の中から花魁おいらんが現れる。

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