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11 超越紅色

「目を見れば分かる。あなたは闇落ちしたレッドと違う。カスになったグリーンとも」


 こいつは俺の目をまっすぐに見つめるけど。

 闇落ち? カスのグリーン?

 茜音たちはなにも教えてくれていない。


「制服のままってことは、紅月は見学?」

「はあ? 生理じゃないし、そうだろうとピークの日でも戦うし。レッドの宿命だよね?」


 深雪に言い返したあとに、俺へとまた微笑む。

 その体からスカートがずり落ちる。セーラー服がはだけ落ちる。


「激戦だと疲れて制服のままでベッドに行っちゃうんだよ。靴履いたままだとお母さんに一時間は怒られるし、バイクをモスプレイに運ばせるの面倒だし」


 闇落ちとかの単語が瞬時に吹っ飛ぶ。この女は、俺の真ん前で白い下着姿で、バイクへと握った手を向ける。緑色の光に照らされながら、飛んできた布の袋から体育着を取りだす。


「着るのは魔法より手のが楽なんだよ」


 いそいそと着替えだす。

 敵も味方も彼女の行動を妨げない。



「……お待たせだね、巨大うじ虫。分かっていると思うが、あんたらが生き残るすべは人質の解放だけだった。だが時間切れだ」

 唐突にお蘭さんが啖呵をきる。

「全員揃ったからあらためて名乗らせてもらおうか。あたいは雪月花の仕切り役。紫苑太夫だ。女郎の姿を気取っていようが、今の世であちきなんて、小っ恥しくて使わないさ」

 その手に煙管きせるが現れる。

 

「私は雪月花の癒やし役。白滝深雪と呼ばれる巫女。ご存知の通り、攻めにまわれば銀世界を血に染めない、ほどですけど」

 その手にはすでに神楽鈴が握られている。


「まだ早いって」

 紅月が俺へ制服と靴を押しつける。

「この光邪魔!」

 コケライトに手のひらを向ける。緑色の発光が消える。

「変身!」

 学校指定の紺白ジャージへと着替え終わったばかりの紅月が、赤色の光に包まれていく。


 赤い十二単衣じゅうにひとえが浮かびあがる。すべてを見おろし名乗りだす。違った。歌いだす。


「背丈は平均。バストは並以下。だけど中身は規格外。私こそが真打ちの、夜空に浮かぶ紅月照宵。本名の竹生夢月たけおゆづきこそ、お気に入りの超越スーパー紅色レッドの高校三年生エイティーンだ! なんなら住所もSNSも教えてやろか? どうせお前ら歌い終われば消滅だしな。悪しきハートが消えて喜べ。私がいつか本宮だってぶっ潰してやる。輝夜姫かぐやひめがお相手してやる!」

 その手には何も現れない。


「気が済んだか?」

 お蘭さんが空へと言う。


「うん」

 紅月である竹生夢月が降りてくる。


 かぐや姫のコスプレらしき彼女は前髪ぱつんの長く垂らした黒髪で、しっかりとメイクしている。赤い口紅が際立っている。変身した竹生夢月よりスカシバレッドのが瑞々しくてかわいいかな。なんて思うけど、こいつは全身がかすかに発光していて、ステージでただ一人スポットライトを浴びているかのように、その容姿を闇に浮かばしている。


「じゃあ、終わらすね」

 紅月が右手を広げて前に突きだす。

「二十六夜!」


 彼女の手から三日月型の紅い光が無数に、いや甚大に飛びだす。人質がいるだろ!

 驚愕する糞エリートの顔が切断される。伏せて逃れようとした上級の背中がずたずたに切り裂かれる。下級など光が横を通過するだけで消滅していく。

 人質たちに向かった光の刃は、縛りつけた縄だけを切る。彼女たちが丸太棒から落ちていく。俺は救出に向かおうとするけど。


「順番間違えた。さく!」


 紅月の声とともに人質たちの姿が消える。


 一瞬だ。敵も救うべき人もすべてが消えた。巨大な芋虫以外は。こいつには紅い光はひとつも向かわなかった。


「上出来だ。あとはあたいと深雪に任せな」

「当然。私は拷問するのも見るのも嫌い。――ジジイ! 三十秒以内に来い! また落っことすぞ!」


 かぐや姫が空へと馬鹿でかい声を放つ。


『高度二千四百メートルで待機中。すぐに降りる』

 モスウォッチから茜音の憎々しげな声。

『碧菜っぱ、あほう少女に言ってやれ』


 小声がマイクに拾われている。スピーカーから響き渡っているし……音量上がってないか?


「アメシロちゃんだ」

 竹生夢月が目を細めて笑っていた。ジャージ姿に変わっている。余計な化粧も消えて、見つめる人の鼓動を高める素顔で……。


『た、たわむれはやめたまえ』


 司令官の狼狽した声で我に返る。


『この機体の守備力は我々に不相応なほどにきわめて高い。そのため修理に要するエネルギーは莫大だ。二度と月明かり(・・・・)を当てないでくれ』



「さてと、いつまでも凍って身動きできないままだと風邪ひいちまうな」 

 お蘭さんが煙管を一口吸う。

「人の姿に戻してやるから服を着るがいいさ」


 吐きだされた煙は紫色で宙に漂いながら膨らんでいき、巨大な蛇へとかたどられる。


「焼石の居場所。それだけ教えてくれたら、楽にしてあげますよ」

 深雪が神楽鈴を一度だけ鳴らす。


 紫の大蛇を引き連れて、二人は微動だにしないコケライトへと歩いていく。


「見ないほうがいいよ。助けた人はあそこ」


 知らぬ間にバイクにまたがっていた竹生夢月が空へと拳を向ける。

 漆黒のモスプレイが音もなくいた。発したサーチライトが闇に浮かぶ三人を照らす。


「バイクだと帰るのが面倒なんだよ。ミカヅキにすればよかった。じゃあね」

 竹生夢月がヘルメットをかぶる。エンジン音とともに去っていく。


 茂羅の最初の悲鳴を聞きながら、俺はモスプレイへと飛んでいく。林越しにバイクのライトが遠ざかるのが見えた。

 紅月の靴と制服を抱えたままだった。


 ***


「完全に意識を喪失していたから、三人の判断でイエローは撤収させた。お前も飛び道具には気をつけろ。それと突入の際にイエローと離れたな? あのシチュエーションは散開すべきでない」


 シートに座るブルーに説教される。コスプレしたエロい女教師みたいだ。人質だった人たちは毛布をかけられて床に寝かされている。アメシロがモニターの前から顔を向ける。なるほど止まり木があるのか。


「四人の情報はさきほど届いた。いずれも捜索届はまだでていない。大宮、上尾、行田に籠原。見事にばらばらだから、籠原在住の人から順次解放していく。駅で意識を戻して、あとは記憶ないまま自力で帰宅してもらう。

……記憶を消すのは本人の脳にリスクが発生する。でも布理冥尊も彼らを洗脳できなくなる。一石二鳥だ」


「アメシロとレッドは解散するがいい。このオウムは試験勉強をしたいそうだし、レッド君は精神的疲弊が激しいだろうからな。その七面倒な任務を果たすのは比較的元気なブルーと彼女だ」


 操縦席にはショッキングピンクの女の子がいた。


「レッド、遅れてごめん。僕がいたら苦戦しないで済んだのにね」

 俺へとサムズアップする。修羅場が一段落したからか、隼斗も呼びだされていた。


「人質を一人救出したから、ポイントは37。戦闘に参加しなかったピンクには与えられないけど、彼女はこの後の任務で1ポイント得られる。――本来ならば三等分だけど、イエローは離脱したからほかの二人の半分。だから……、ブルー計算して」

「私とレッドが14でイエローが7。残りはストックして、後始末が完了後にピンク」

「ほほお、ひさしぶりに素晴らしい数値だな。ではスカシバレッドよ、ゆっくり休むがいい」


 与那国司令官あかねがいうばかが手にする筐体のボタンを押す。……まだだろ、問いただしたいことが群馬の山ほどにある。なのに意識が薄れていく。



 *****



「お兄ちゃん、土曜日だからっていつまで寝ているの! もう九時だよ。お母さんは今日も仕事だから、ひのきがお兄ちゃんの朝食作ったんだからね。目玉焼きが冷めちゃうよ!」


 妹の声に起こされる。俺は自分のベッドで熟睡していた。


「……なんで靴履いて服のままで寝ているの? なんでセーラー服を抱きしめているの! お兄ちゃんの大変態!」


 高校一年生の桧がパジャマにエプロンをかけて、愛くるしい顔を赤らめている。

 かぐや姫の制服と靴を抱えたままで、相生智太に戻っていた。

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