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世界を起動させる  作者: 永瀬けんと
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訪れたチャンス

「ほんとにデートしてたんすかね、ただの男友達とかじゃ」

「女子たちはそんなの一瞬で勘づくだろ。どういう場所で会ってるかとか、相手の男との距離感とかでピンッてくるんじゃね」

「なるほど。でも、何で三又なんでしょうね。日ごろのストレスがすごいんすかね」

「女子たちの見立てだと、そういうストレス解消とは違うらしい」

 上手課長は容姿もよく、取っつきにくい性格でもないので、彼氏がいても不思議ではない。それでも、男三人は作りすぎだろう。

「へぇー、じゃあ、その女子たちの見立てってやつを聞こうじゃないか」

「あれ? 木崎クン、ずいぶん上からものを言うようになったじゃないか」

 しまった。立場が逆転してしまった。人は何かに執着すると、とたんに弱くなってしまう。

「石川先生! ご指導ご鞭撻、よろよろしくしくでございます!」

 おれはテーブルに自分のおでこをこすりつけた。それを見た大介はたいそうおよろこびになり、大口を開けて笑った。

「仕方ない、教えてやろう」

 笑いは強い。人の心を簡単に開けてしまう最強のツールなんじゃないかと思ってしまう。

「あのー、茶番劇はもういいですから、早く女性陣の見立てを教えて下さいよ」

 がっついてるのか、冷静なのかよく分からない高田ではあったが、さっきまでのおれと大介のやりとりはご指摘通り茶番劇で間違いなかった。どうやら、おれたち二人はだいぶアルコールに意識から何から持っていかれているらしい。この状態で日向に会おうものなら、鼻をひん曲げることができる臭いとかねちっこい言動やらによって、一瞬で嫌われちゃうだろう。

「あれらしい、品定めしてるんじゃないかって言ってた」

 おれなら、高田の欲望を増幅させるために、もうひとつ茶番劇を入れるが、大介自身はそんなことより早く三又の見解を話したかったようだ

「品定めですか?」

「上手課長三十九歳の親は超厳しいらしい。婚期遅れてんのは自分の問題じゃなく、親がオッケー出さないかららしいぜ」

「いまどき、そんな親いますかー」

「俺も知らねーけど、女子ネット信じるなら、いるんじゃね」

「一人何ヵ月も付き合ってからペケ出されてロスが出るより、三人並行で進めたほうが確率も上がるからって話っすか。もうそこまで来たら、結婚することが仕事になってしまいますね」

 もし、日向が男を連れてきて、結婚したいと言い出したらどうしようという妄想が、突然脳に浮かび上がった。上手課長は結構ダメ男を好きになってしまう傾向があることを、数年前にこれまた大介から聞いたことがあった。いまは上手課長の親がモンスター的な話になっている。だけど、そりゃダメ男を次から次へと連れてこられたら、父としてもたまったもんじゃない。

「あー、やべ。ションベンもれそ」

 大介は股間をさすりながら、急に立ち上がった。

「お前、どれだけ上手さんのこと話したくて、ションベン我慢してたんだよ」

 おれのつっこみを無視して、大介はさっさっと部屋を出ていってしまった。

 高田と個室で二人になった。おれはグラスのお酒を少し減らしてから、ズボンの右ポケットに手を突っ込んだ。硬い感触。あれから、ずっとUSBメモリーだけはポケットに入れたままにしていた。すでに訪れている日常。求めていた平和。しかし、ブラックアウト現象を見てしまったがゆえにできたグレーな心。いや、あのときは、完全に黒に染まっていた。ただ、いまの日常をどんどん過ごせば過ごすほど、白が混ざってきて、だんだん黒が薄れてきた。それでも、黒は消えてくれない。どれだけ白を足しても、真っ白になることはない。白くなっていく目の前の世界の中で、ポケットに入っているUSBメモリーという黒がずっと残っていた。

「高田あー、一方的プロレスやらねー?」

 大介はすぐに帰ってこない。この店は結構広いわりに、トイレは男女共用でひとつしかなく、さっきおれがトイレに行った際はちょっとした行列が出来ていた。

「木崎さん、どうしたんすか、急に。ていうか、一方的プロレスとか、嫌な予感しかしないんすけど」

 おれはポケット中でUSBメモリーのキャップを外した。

 これは好奇心なんだろうか。酒に枷をはずされ、自由になった怖いもの見たさがおれを操り始めている気もした。

「おお、鋭いねー、ではでは」

 おれはどっこいしょと立ち上がって、高田のところへ足を動かした。

「いやいやいや、僕、やるなんて一言も言ってないっすから」

 体を少しのけ反らせる高田だったが、おれはお構いなし高田の左半身から抱き付いた。

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