笑コラで見た幼馴染を見て思いついただけの短編
笑ってコラえてで思いついたってよく考えたら意味分からねえ。
「私たち、別れましょうか」
「は? え、ちょっといきなりなんでだよ」
デートの帰り道、いきなりそう切り出されて俺、早川祐介は戸惑いを隠せなかった。
「なんで? そんなの、自分が一番分かってるんじゃないの? そういうことだから、じゃあね、祐介くん。いいえ、早川くん」
「ちょ、ちょっと! ちょっと待ってよ千里!」
そう呼び止めたものの、彼女である、いや、たった今元カノになった早乙女千里は行ってしまった。
追いかければ追いつくような距離だったけれど、追いかけることはしなかった。
いや、正確にはできなかったというべきか。
「はぁ、また同じ理由……か」
高校に入ってから彼女ができたのはこれで5人目。
でも誰とも長続きしたことがないのだ。
今までで最長でも3か月。
告白されて意識しはじめてきた頃に同じような曖昧な理由で振られてしまうのだ。
「あぁ、もう何が悪いんだよ」
考えてみても、思い当たる節は全くない。
いや、実際には振られるたびに考えて、改善して付き合っても同じ理由で振られている。
自分が面白いとは思っていないけれど、相手に対する気遣いはできていると思うし身だしなみもそれなりなはず。
趣味はゲームだったりインドア系なことが好きだけど、外で活動することは嫌いではない。むしろ誘われたら知らない事でもほとんど行くようにしている。
それでもラインの返信が遅かったかなと考えて早く返すようにしたりデートが少なかったかなと頻繁に出かけてはみたものの、5度目ともなればもうどこを改善すればいいのか全く見当もつかない。
「はぁ、帰るか」
来るときは二人で楽しく歩いた道を、一人寂しく歩いて帰宅する。
沈んだテンションのまま夕飯も食べず、風呂だけ入りベッドに潜り込んだ。
ピンポーン! ポンポーン!
「祐介―! いるんでしょ! 祐介ー!」
そんな声に俺は起こされた。
「なんだよ、まだ夜じゃん……」
こんな風に乱暴に押しかけてくる相手を俺は一人しか知らない。
眠い目を擦りながら鍵を開けると、バッと玄関の扉が開かれる。そしてそこに立っていたのは予想通り、大量のお菓子とジュースを抱えた、幼馴染である佐藤灯里だった。
「なんだよ、灯里……。俺、寝てたんだけど」
「入ってもいい?」
「まぁ、いいけど」
そう許可を出すと、遠慮なくと言いながらずかずかと部屋まで入ってくる。
そしてそのまま当たり前のようにベッドの上に寝っ転がった。
今日の灯里は随分と機嫌が悪そうだ。
昨日学校で話をした時は明日はデートだといって随分と機嫌が良かったというのに。
まぁ、灯里がこうして家に押しかけてくるときの理由はほとんど決まっている。
それでも一応? 形式的に聞いてみることにした。
「それで? 今日は随分機嫌悪そうだけど何があったの?」
「彼氏に振られた」
「そうか」
「あーもう! こんなん飲まなきゃやってらんないわよ!」
そういうと、勢いよくコーラを開けてがぶ飲みする。
「一応言うけれど、そこベッドだからね?」
「あーそういうこと? はい、半分あげる。飲みたいなら直接言ってよ」
「違うけど?」
そう言ったものの、寝起きで喉はカラカラだ。
遠慮なく飲ませてもらう。
「てかさぁ。いきなり別れようってなんなの!? 朝はいい雰囲気だったじゃん! たった半日で私が何をしたっていうのよ!」
「そう言いながらポテチ開けるのやめない? もう一回だけ言うけれどそこベッドだからね?」
零れて汚れた布団を洗うのは灯里ではなく俺なのだ。
だから食べるのを辞めるように言外に伝えたつもりだったんだけれど、普通に一掴み。
「良いじゃない。祐介には私と違って、可愛い可愛い彼女がいるんだからさ」
「いや、別れた」
「いつ?」
「今日」
「なんで?」
「知らない」
「……ポテチ食べていいよ?」
「いや食うなよ!」
そう言うと、渋々といった様子でポテチを机に置いた。
食べる理由に使った彼女が俺にいないのだから、諦めたのだろう。
「というかさ、叶ちゃんだっけ? 実際のところなんで別れたの?」
「それ前の彼女。——まぁ別れた理由は俺が良く知ってる、らしい」
「何それ? 変なの」
「るせぇ。お前の方こそ、良太だっけ? なんで別れたんだよ」
「それ前の前の彼氏ね。——なんか俺よりいいやつがいるだろう? みたいな決まり文句みたいなことしか言われないんだよね」
「なんだそれ? 二股でもしてたの?」
まぁ、そんなことをしない誠実なやつということは幼馴染である俺が一番知っているけれど。
「するわけないでしょ? それよりも、祐介が知ってるっていわれるなら何か心当たりはないの?」
「今回はない。というか言われるたびに直してるからそろそろもう原因になりそうなことが一切思いつかない。灯里の方こそ自信喪失させるようなこと言ったりしてないの?」
「いや、そんなことは……あー、一回だけ比べちゃったかも」
「何と?」
「その、祐介と。詳しくは言わないけど気づかいしてくれるーって」
「なるほど?」
喧嘩の時に思わず言ってしまったみたいな感じなのかな?
でも、そんなことで別れるような話には……いや、確かに元カレと比べられたらかなり嫌になるかもしれない。
いや灯里と付き合ったことはないんだけれども。
「というか、祐介のタイプってどんな女の人なの?」
「俺のタイプ? そうだなぁ……」
少しだけ考えてみる。
実際、容姿はそこまで重視していない。
友達ではなく付き合うとなると、一緒にいる時間は自然と増えるし話をすることも自然と多くなるから。
「一言でいえば、一緒にいて苦にならない人?」
「ふむふむ。もう少し詳しく!」
「俺ってインドア寄りの人間でしょ? だけど外も嫌いじゃないみたいな性格だから、なんか行動力があって色々な場所に誘ってくれるような人と自然と合うんだよね。後は趣味が合うっていうのは必須かも。ゲームとか漫画が嫌いって言われても多分その趣味を辞めることはできないと思うからさ。まぁ、簡単に言えば灯里みたいな人? こうやって押しかけてくる行動力あるし漫画読みはじめたのも元々灯里から色々薦められた結果だし」
言葉にするとすんなり出てきたけれども、俺のタイプは灯里みたいな相手だったのか。
まぁ灯里は小さい頃から一緒にいることが多かったし、こうして今も家にやってくるくらいには関りがある相手でもある。
無意識のうちに影響されていたのだろう。
思い出してみれば、今までの彼女にもどこか灯里のような性格や趣味を持っていた気がする。
「逆にお前のタイプってどんな人なの?」
「私は、そうだなー」
灯里の彼氏、いや、元カレを何人か知っているけれど、余り共通点はなかったような気がする。
容姿で選んでいるようには見えなかったし、趣味も一貫性が無かったような覚えがある。
「私のタイプは一言でいえば優しい人、かな?」
「もっと詳しく」
「私って、思い立ったが吉日! みたいに即行動! みたいな性格してるでしょ? 突然ショッピングに行きたい! ってなったり、記事で見たご飯屋さんに急に行きたくなったり。そんな急な無茶ぶりにも付き合ってくれる優しさだったり、でも私を甘やかすだけじゃなくてダメなことはダメだってちゃんと言ってくれるような、簡単に言えばそう! 祐介みたいな人? ……あれ?」
「へぇ。そうなんだ。……ん?」
なんだか、聞き逃せない言葉が聞こえた気がしたし、聞き逃して貰えないようなことを言ってしまった気がする。
少しだけ整理してみよう。
俺のタイプは灯里のような人だと、今言葉に出すことで初めて判明した。
そして灯里のタイプは俺のような人だということが語られた。
「なぁ灯里。俺のことってどう思ってるの?」
「どうって、幼馴染で親友だと思ってた……けど」(ベッドから起き上がってベッドの上に正座。女の子すわりだと可愛い)
「俺もそう思ってたんだけれども……」
幼いころからずっと一緒にいて、今まで特に男女として意識することなく過ごしてきたけれども灯里はれっきとした女子で幼馴染補正抜きで可愛くて、俺のドタイプときた。
無意識のうちに灯里は親友としての枠に入れてしまっていたわけだけど、俺は灯里の良いところも悪いところもほとんど知っている。そしてそれは灯里にも言えること。
で、そのうえで俺は灯里が、灯里は俺がタイプだったことがたった今判明したのだ。
「ねえ灯里」
「な、なに?」
「提案があるんだけどさ。俺たち、付き合ってみない?」
「私も同じこと考えてた」
「そっか。じゃ、じゃあよろしくね」
思わず、見つめ合う。
それがどうしてだかおかしくて、同時にぷっと吹き出してしまった。
「「ふふっ。あははっ!」」
ピンポーン! ピンポーン!
「祐介ー? 起きてる? 入っていい? 入るわよー!」
ガチャリと入ってきたのは勿論灯里。
「いや、入ってくるなら聞くなよ……」
「そんなことよりも聞いてよ祐介!」
「そんなことって……」
「友達に祐介と付き合うことになったって言ったら、付き合ってなかったの!? って言われたんだよ! 酷くない?」
「酷くない、というか……俺も言われた。やっとかよって」
「そうなの?」
「うん」
思わず顔を見合わせて笑いあった。
これからは、親友から恋人になった灯里を大事にしていきたい。
「なんか今までとあまり変わらないね」
「そう? 前はこんなことしなかったと思うけど」
そう言って、そっと灯里を抱き寄せる。
「確かに。これからもよろしくね? 祐介」
「ああ、よろしくね」
至近距離で数秒見つめ合い、目を閉じた灯里にそっと口づけを落とした。