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男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜  作者: 棚ん
二章

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10話 師匠のタロウ

 頭を鷲掴みにしたタロウの師匠、アニカから、タロウは必死に抜け出そうと暴れる。

 だが、外から見ててもタロウの頭からミシミシという音がでているように見えるアイアンクローから抜け出すことは難しいようだ。


 暴れる人間を完全に封じ込めてしまうなんて、もしかしたら俺より力が強いかもしれない。

 その力強さに思わず、女性でもここまで鍛える事ができるのかと感動を覚えた。

 女でありながら男であるタロウの師匠をやっているだけはある。

 もしかしたら師匠の言葉なら頑固なタロウも気が変わるかもしれない。

 この人に事情を説明して協力を仰いでみるか。


「タロウさんが男としては非力だという事の原因が、鍛錬方法に問題があるんじゃないかという話をしていたんです」


 アニカの俺を見る目が少し細くなる。

 相変わらずニヤついた顔をしているが、俺の言葉に興味を持ってくれたようだ。

 タロウのように頭ごなしに拒絶されず、少しホッとした。


「へえ……それで?」

「師匠、別にオレには問題なんてありませんよ」

「あんたは黙ってな」

「もがっ!」


 アニカが口を挟んできたタロウの頭から手を離し、すかさず腕を頭の後ろに回して豊かな胸に抱き込んだ。

 アニカの身長はタロウより拳一つ分は高く、胸も体も色々大きな女性のため、まるで母親に抱かれているように見える。

 豊満な胸に顔を埋めたタロウはジタバタと必死に拘束から抜け出そうと暴れるが、アニカの鍛えられた腕の前に抜け出すことはできないようだ。


「タロウさんの場合休む事なく、鍛錬をしてるのが問題なんじゃないでしょうか。幾ら鍛えても休ませる暇がなければ弱る一方です」

「ま〜たしかに昔からそういうわな〜」


 俺のこの考えが否定されなくて、もう一つホッとした。

 この世界には昔の日本のように、休む事なくひたすら鍛えるのが美徳という考えがある可能性があったからだ。

 もしかするとタロウの自主トレをアニカが知らないだけなのかもしれないが。


「ではアニカさんからもタロウさんに無茶な鍛錬はやめるように言って「やだね」あげ……へ?」

「こいつは俺が見込んだ男なんだ。この程度でつぶれる様な玉じゃないよ」


 アニカは胸に抱えるタロウをギュッと抱え込む。

 服を押し上げる豊満な胸がタロウの頭でむにむにと形を変えていく。腕の隙間から見えるタロウの耳が心なしか赤く染まっている。

 野性的な美女の熱烈な抱擁とは……ちょっとタロウがうらやましい。


「でも現に……」

「しつけえな。師匠の俺がいいって言ってんだからほっとけ」


 アニカは俺の言葉を面倒臭そうに遮ると、胸に抱き込んだタロウを今度は横に投げ捨てた。

 タロウはどうしてこうも色々ボコボコなんだろうか。

 女に振られ、決闘でやられ、師匠からの扱いは雑。

 最後のに関しては役得もあるのでむしろ羨ましい気はするけど。


 それはともかく、師匠であるアニカさんもその言葉からしてオーバートレーニング症候群のことは知っている?

 そしてタロウの現在の状態も把握した上でオーバートレーニングを許可しているように聞こえる。


「それにもうちょいだから大丈夫だよ」

「もうちょい? アニカさんには何か考えがあるってことですか?」

「ミナトさんそこまでにしましょう」


 俺は強くなることに協力するとタロウに約束したのだ。本人が望んでいないとはいえ、黙って見過ごすわけにはいかない。

 まずは師匠であるアニカの考えを理解しようと、その言葉の意味を問おうと口を開いた。

 だが俺の問いにアニカが口を開く前に、隣で出合い頭に口撃をぶちかましたっきり、黙って話を聞いていたセリアが口を開いた。


「ミナトさん?他所の村の戦士のやり方に口出しをしちゃだめですよぉ」


 相変わらずの力の抜ける話し方だが、その言葉に込められた意志は有無を言わせぬものを感じさせた。


「セリアさん、俺はタロウさんが強くなるのを手伝う約束をしたんです」

「でもタロウさんが望まぬ道なんでしょう?」

「それはそうですが……」

「男が本気で選んだ道なんです。たとえそれが間違ってようが止めるのは野暮です。ましてや私達は余所者なんですからぁ」


 本当にそうなのか?

 

 セリアは男に厳しい。

 力の抜ける話し方と、母性の塊のような見た目をしているが、サンの村三人娘の中で最も俺に、というか男に対して求めるものが大きく、常に強くあれと促してくる。

 肉体的にはもちろん、精神的にもだ。


 男だろうが女だろうが人は間違える。

 えてして自分が間違った事をしていることなどわからないだし、ましてやこれはタロウの命がかかっている。

 危険な獣から村を守り、時には自分から狩りに出る俺たちは、強くなれない=死を意味する。


 タロウの生き方を尊重するのは結構だが、それは命あってこそのものだ。

 まだ出会ったばかりだが、少なくとも俺は彼に死んでほしくはないと思っている。


 そんな事をつらつら考えていると、俺の顔を見たアニカは俺が腑に落ちていないことを察したようで「ハァ~」と大きくため息をついた。


「納得してねえみたいだな。しゃあねぇからお前の実力ちょっと見せてやれ」


 タロウの実力?

 まだ一度だけとはいえ俺とタロウは剣を交わした。それはアニカも知るところだとは思うが、まさかタロウが手加減していたとでも言うのだろうか。

 タロウはそんな事をするとは思えないが……

 

「師匠、既にオレとミナトは一度剣を交わしています」


 地面に倒れていたタロウが顔をあげて、俺とは反対意見にもかかわらず、正直に答えてくれる。

 あの戦いは俺にとっては下らない理由で始まったことではあるが、戦いそのものは自分の誇りをかけて全力で行った。それはきっとタロウも同じ、いや、俺以上に意地をかけた戦いだったはずだ。

 だが、


「それだけじゃわかんねえよ。お前の実力は」

「ぐふっ」


 アニカは地面に横たわるタロウの背中に全く遠慮することなくドカッと座りこんだ。


「ちょっと肉でもとってこい」


 片手をタロウの頬に伸ばし、ゆっくりと、優しく撫で上げた。

 まるで自慢のコレクションを愛でるかのように。

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