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赤の断章ゴグマゴグ  作者: 五部 臨
1.廃都の彷徨い人
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6.ゴグマゴグ




 片足で跳ね、撃つ。トレヴァーは機体とともに息荒く動き回った。

 それでも限界がある、どう踏ん張っても速射砲では痛打を与えらない。そもそもトレヴァーのノーマッドは偵察、対人制圧用機体だ。対人機銃だの火炎放射器だのはあるが、今、有効打にはならない。

 頭部か間接部でも狙い打てれば、いいのだがそんな腕前はない。


「すてい、まじ、すてい」


 ひいひいと声を上げて、打ち込むが敵の機体はもはや回避もしない。そのまま一足で目の前に跳んで、蹴りを入れてきた。分かりきった動きだが、避けられる要素はない。鋭い刃を備えた脚に蹴り折られた。ホバーを全開にして、這いずるように離れるが、胴体が踏みつけられた。

 メリメリという音ともに、コックピットはひしゃげ、計器は短い悲鳴とともに停止した。喰らった場所がよくない。誤作動する腕は言うこと聞かない。ホバーは吸引口が地面へと叩きつられて、半分以上、ねじ曲がってしまった。出力がまったく上がらない。持ち上がらない。

 麻痺していたトレヴァーの恐怖がゆっくりと鎌首もたげた。網膜に外からの映像がチカチカと投影される。光の刃がゆっくりとひらめいた。あ、死ぬ。


「まだッ!」


 動かなくなった両脚の火炎放射器、腰に付けられた対人機銃を放つ。無駄な抵抗だろうが、ただ一瞬、炎にひるむ。

 それで十分、胴体の装甲板を爆破によって強制排除する。爆ぜてわずかに機体が持ち上がった、隙間が出来たと同時にホバーをもう一度吹き上げる。装甲を残して、滑るように逃げる。


「せふせふ」


 一歩、間違えばそのまま潰れていたところだが、紙一重も切り抜けた。死ななければ安い、といいたいところだが、逃げるしかできない。空気を無茶苦茶に噴出し、スライドするノーマッドを捨てて剥き出しのコックピットから飛び出す。

 ごろごろと転がって草葉の影に倒れ込む。愛機は追撃の弾丸を受けて、コックピットから貫かれ、どろどろとした緑色の冷却液を吹き上げてシダの木にぶち当たって悶えている。焼けた甘い匂いが鼻を刺激した。


「すまぬ、すまぬ」


 愛機にそうとだけ伝え、身を隠しながら、ゆっくりと離れる。幸か不幸か、相手はこちらより社長に向かった。


「ごめん、社長、やられちゃった」

「任せろ」


 予備の小型通信機を耳にはめて、端的に音だけを送り付けた。映像がようやく同調し、網膜投影が始まる。


 敵のトゲ付きは社長のノーマッドとうまく、距離をおき、電磁砲を撃ち続けている。敵の左足はひしゃげて、腰のスカートからは時折火花を散らしている。うまいこと一撃を入れたらしい。

 だが破壊したため、敵がすっかり近接戦をさけてしまっている。もっとも得意な間合いに入り込めず、弾丸の回避に必死にならざる負えない。

 それにもう一機のトゲ付きが近づき、電磁滑空砲が向けられる。弾丸が交錯し、さすがに回避が間に合わない。ノーマッドの装甲を掠めて、持っていく。

 格闘戦主体のセッティングをしている社長のノーマッドは、射撃兵装は心もとない。左腕に備え付けた牽制用の機関砲では大した効果はない。それでも頭を確実に狙っているあたり、我らが社長、砂金天十郎だ。


 もう手伝えることもない。今できるのはできるのは離れることだけだ。歯噛みしながら、シダの森を進んでいく抜けようと進んでいく。

 見えたのは、炎上する輸送車両、フロッガーの姿だ。


 それが、めきめきと膨れ上がった。コンテナが内側から破壊されて、ぎりぎりと開かれたシャッターを放り捨てた。

 出てきたのは、乾いた血の色をした巨人だった。ノーマッドより二回りは大きい。半球状の黒い頭部から、鮮血のような紅の光が漏れ出している。


「増援ッ!」

「味方の、ねッ!」


 通信が跳び込んでくる。イネだと、認識するより早く、背中か巨体な砲塔が伸びて、右肩にがちりと接続される、それを両の腕で構えた。肩の回転灯のような部分が高く伸びた。なんどかの回転の後、ぴたりと止まった。

 同時に電磁砲特有のキュポッという間の抜けた音が鳴り、そして大気を砕く轟音が続いた。焼けた大気が噴煙を巻き上げた。


 腹を震わせる音の後、弾丸は左脚をひしゃげさせたトゲ付きに突き刺さり、背中から、胴体に穴を空けて、そのまま貫通した。飛び散った前面装甲、冷却液とコックピットの中身がシダの木を傷つけて濡らした。


「ゔげー」


 撃った本人が威力と状況に引いていた。

 しばらくの震えのあと、トゲ付きは倒れ込んだ。やはり情報秘匿のためだろう。全身から、不自然に火を噴いて機体と周囲の木を焼き始めた。

 その炎に残った敵はおびえたように、森の奥へと駆け出していく。

 社長のノーマッドは武装をしまって、赤い歩行車両の方へと近づいた。


「追わなくていいよな」

「あ、うん、勝負は水物、逃げるなら放置でいきましょう」


 砲塔と肩のカメラをしまい込み、呆けたように我らが隊長イネは答える。以前、深追いしてひどい目、記憶が戻ってきたのだろう。通信の先で首をぶるぶると振って、頭を手で抑えた。


「あ゛で?」

「どったの?」


 間の抜けた声が噴き上がる。今度は呆れたように、イネは頬を軽く叩いた。ぱしゅっう、と音ともに赤い機体が蒸気を吹き上げて、ぴくりとも動かなくなった。


「機能不全? エラー吐いて動かなくなったんですけど。脱出機能も無反応なんで、再起動中です」

「あー、試作品あるある。でも、だいぶまずいかも」

「ほえ」


 森の方へ映像を送る。最近は雨が少なかったせいだろうか。敵の機体から広がった炎が着実に広がっていく。割といい勢いだった。さすがに火が街に届くことはないだろうが、このフロッガー近くまですぐに到達しそうだ。


「このままだと、むしやきよー」

「そんなー……って、の、のわああああ。社長、早く早く消してぇ」


 社長は歩行車両の肩を器用にすくめて、答える。そして白い消化剤をまき散らしていった。オーバーに焦りながらイネがコックピットで踊っている。先ほどまで殺し合いをしてたは思えないし、歩行車両が動きまる戦場を生身で入り込んだ、命しらずだと誰がわかるだろうか。

 なんとも、締まらない我らが隊長にトレヴァーの頬は自然と緩んでいった。





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