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赤の断章ゴグマゴグ  作者: 五部 臨
1.廃都の彷徨い人
5/21

5.敵対者




「へいへい、早くしないと撃っちゃうぞー」

「ひっ! わ、わかってる」


 こういうことに手慣れたトレヴァーの真似をしながら、イネは細身の男に銃口を押し付けた。彼にセキュリティを解除させながら、キャビンからゆっくりとコンテナ部分へと移動する。よろめく男性を小突き、押し込んむ。

 一台の歩行車両が、コンテナの端に座り込んだまま、保管されていた。


 それは外で暴れている歩行車両とは別のものらしい。外観からしてまったく別だ。

 まず目につくのは赤。ザクロのような赤、乾いた血の色で染め上げられていた。外の連中と違って優先した丸みを帯びた装甲、前方に突き出すような胴体、太く分厚い安定性を優先した四肢がある。単純なシルエットだけを見ればグリーンネストで生産されているものに近い。

 だが、頭部は黒い防弾ガラスに守られた半球状で、奥には多数のカメラが配置されている。さらに左肩には回転灯のようなサブカメラが設置されていた。センサーやレーダーは高価だから、民兵たちはこんなに良い頭部を使わない。使った場合、トレヴァーのように大きく戦闘力を削ぐしかないのだ。

 武装はバックパックにたたんで納めてある砲塔らしきもの、あとは対人の機銃が足にそれぞれ2門ある。ただそれだけだ。おそらく近接戦より砲撃支援に重きを置いているのだろう。


「さあて、お願いしますよ、ほらほら登録は?」

「こ、このモジュールはまだ未登録だ……です。正規のパイロットに引き渡し前、なん、です。セキュリティはキーで解除できます」


 汗と血を流す男性がそう答える。

 軍服を着ている割には新兵もゲリラもやらないだろう、あっさりした答え方だ。もうちょっと引き伸ばせば、彼の味方が有利になるだろうに。軍隊に雇われただけ、現地徴用の民間人だろうか。まずい、民間人相手だと、問題が多い。グリーンネスト人同士で殺しあうのもごめんだ。かと言って放置もできない。とりあえずどこかで拘束しておきたい。


「ほうほう、嘘はありませんね?」

「ありません、ありませんから」

「じゃ、お疲れ様でした、そのまま」


 銃をかちゃりと構え直した。その音にびくりと体を震わせた。


「こ、ころさないでくれ!」

「え、ちょッ」


 突然、錯乱した様子で一目散に外へ駆け出す。思わず銃弾を放って牽制する。銃声の後、彼はゆったりと崩れ落ちた。

 イネは彼を蹴って、その様子を確かめた。白目をむいて、泡を吐いていた。血は混じっているが、致命的なものはない。単にちょっと唇を切っただけだ。


「あ゛ー、うん、あー。なんというか、ごめんさない」


 気が弱かったのだろうか、当たってもないのに銃の破裂音だけで気絶してしまったらしい。銃をしまってから、眉間をぐりぐりとかき回す。気を取り直して、歩行車両の方へ踏み出す。

 コックピットの操作は地球製共通、ロックされていなければ、なんとかなる。胴部にあるセンサーにキーで触れば、低くエンジンが唸りを上げはじめた。胴体装甲が一枚、二枚、三枚と上左右へとスライドした。ようやく姿を現したコックピットへすっぽりと収まる。それを感知したのだろうか、起動が始まった。

 同時に目に光が飛び込んできた。


『キーを確認、セキュリティ、解除、セットアップ開始。初期登録をお願いします』


 網膜に投影された表示が写り、続いて無機質な声が読み上げる。立ち上がりからみると、地球で使われている兵器運用のオペレーションシステムだ。幸い、似たような多少は扱ったことがある。大分、古いシステムだったが、基本はそれと同じはず。それなら、音声で簡単な操作はできるはずだ。


「緊急のため、省略ッ! ハッチ締めてッ! 戦闘駆動開始!」

『拒否。最低限のセキュリティのため、ペットネームを登録してください』


 うわ、なにそれ、面倒。その感想を押し込みながら、イネは足をバタバタと動かす。思案する。思いつかない。よし、考えない。


「あーもう、所属不明機につける名前のデータベースありますかぁ? そっからランダムで算出して」

『了解。…………算出、ゴグマゴグ』

「おっけー、ペットネームはゴグマゴグでお願いします」

『了解しました。本機ゴグマゴグはパイロットの生体情報を登録。登録終了後、再起動します』


 軽い痺れが背中に走る。そして、あ、という間もなく機体がいうことを聞かなくなる。思わず天を仰ぐ。たぶん今、電流か何かでデータを取られているようだ。痛いわけでもないが、頭にくる。


「ぐぎぃー、どうしてこう、立ち上がりが遅いんでしょうかねぇ。ほんとに軍用ですかぁ」


 荒い鼻息を残して、頭を突っ伏してごろごろと回す。

 手持ちの鍵を回すだけで動くグリーンネスト製歩行車両とはなぜこうも違うのか。試作機だからか、それとももったいぶるのが地球人の性なのか。そんな文句、もんもん吐き出しながら、イネは、この寝坊助ゴグマゴグが動き出すのを辛抱強く待つしかなかった。





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