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4.赤と黒





 ゴグマゴグで黒ずんだ大地を動き回った。蹴って跳ねるたびに灰で覆われていた熱が顔を出して、赤い火の粉を散らす。それを追うように、銃弾が跳ねた。

 宇宙艦載機である人型モジュール、ラシャプが蛇の目のようなカメラを輝かせていた。ゴグマゴグを半円で囲むように、手に持った重機関砲を構え撃つ。外では轟音が響いているに違いない。

 その音とともに放たれるのは横殴りに降る弾丸の雨だ。このままでは、避け切れない。ゴグマゴグは全身から、ぶわっと消火剤を吹き上げて、煙幕にする。幸い今回、予備は多く積んできた。自分も敵も見えなくなる。

 それでも一度放たれた火線は消えず、衝撃が機体に走る。装甲で弾かれているようで、損傷はない。崩れそうな体勢を足の動きだけで調整する。ブースターでは煙が飛び散ってしまうからだ。ゴグマゴグでやるのは初めてだが、うまくいった。


 相手はなぜだか、ゴグマゴグを集中的に狙いに来てるらしい。これたけの弾幕で蹂躙すれば、社長のノーマッドなら落とせただろうに。仮に強奪したゴグマゴグに用があるにしても、こちらの味方を軽視しすぎだ。


「まあ、ありがたいですけどね」


 そう思考を巡らせながら、唇を舐めた。煙の中に機体を沈めながら、“ドラゴンスレイヤー”を絞るように、狙いをつける。そして掠める機関砲の火線から、位置を予想して引き金を引く。遠雷のような音がゴクマゴグの手元で唸ると砲弾が放たれた。

 煙幕を裂いて、一機のラシャプへと砲弾が突き刺さった。“ドラゴンスレイヤー”の純粋な質量弾頭は鈍く、遅く、重いが破壊力は高い。肩口から大きく抉り、そのまま勢いよく、ぐるぐると回るように倒れ込んだ。


「くそっ、やられたッ!」


 撒かれたビーム攪乱弾頭のせいで通信状況がよくないためだろう。オープンスピーカーにしていた敵機の悪態が響く。その隙を縫って、イネは煙から飛び出す。相手の弾丸が追うより早く、倒れ込んだラシャプへ跳ぶ。パイロットはまだ気絶しておらず、足掻こうとするが、少し遅かった。


「ちょっと、ごめんなさいね」


 胴にあるコックピット付近を蹴り上げて、宙に浮かせる。そのまま、右腕で掴み、機体の出力に任せて投げつけた。これで、こちらに向いた銃口の盾にできる。

 相手は最新型で、照準ソフトも確かだから、味方のへの誤射は自動的に止めるはずだ。機能を切らないかぎり、そのままのはずだ。口頭で切ることもできるだろうが、イネにとっては、その時間でも十分だ。


 奇妙な静寂。やはり弾幕が一瞬止む。まだ無事な森の中へとイネは脚部の力だけで跳んだ。方向転換せずにゴグマゴグを後ろ向きで走らせる。背を向けないように、バックカメラだけで、器用に森の中へ入り込んだ。そのまま滑り、縫うように森の中を跳ねた。踏み込んでくるだろう、敵機へ砲身を向け続ける。


「さて、障害物があれば、少しは楽に」

「クソッ、粒子砲を撃てッ! できる奴だけでいいッ!」

「ちょ、まッ!」


 何機かのラシャプが腹部の装甲をぱかりと開いた。荷電粒子のビームが爆ぜて、拡散した光の粒子がゴグマゴグや木々に刺さる。撒かれた攪乱弾頭のおかげで、ビームはゴグマゴグの装甲を抜くほどではない。しかし、遮蔽にしていた木が炎と煙を吹き上げた。


「うへぇー、なるほど」


 装甲化していない有機物だと悲惨なものだ。人間なら穴だらけの火だるまだろう。周囲の木々は内から、表面からと火を吹き上げて、熱を発していた。


「これは参りますねぇ」


 火災の真ん中では、こもった熱が吐きだせない。動きが鈍くなるし、このまま蒸し焼きになる気はない。釘付けにしようと重機関砲が猛然と唸ってくる。相手は警戒を強めているから、奥に引きこむのは難しい。また万が一、こちらを見逃して、トレヴァーや社長の方へ向かわせるのはまずい。となると、相手の狙い通りだとしても、突っ込むしかないだろう。

 やるしかない。息を短く吸って吐く。鼓動を三つ数えて、気持ちを整える。脚部だけではなく、ブースターを使い、加速する。両手で支えていた砲を左手だけで保持する。


「南無三ッ!」


 祖父から伝え聞いた、おまじないで、気合を入れた。そしてイネはゴグマゴグの姿勢をぐっと低くする。地面と機体が並行になりそうなほどの低姿勢で跳ね続けた。足先とブースターだけで、調整した低く素早い動きだ。


 予想通り集中してきた火線を地を這うように避けると、手近なラシャプに肉薄した。そのままラシャプの脚を鉄棒がわりにする。手足とブースターを慎重に、手早く動かす。体操めいた動きで、自身の機体をぐるりと回し、背後を取った。


「ばっ、なっ」

「よいしょッ!」


 敵の戸惑いを終らせないまま、至近距離で“ドラゴンスレイヤー”を撃ち込む。デブリ対策していただろう装甲も、背後からの徹甲弾には無力だ。轟音とともに穴が飽き、人間と機械の破片が飛び散った。


「おわー、むごい」


 自分のしたことの感想を呟くとイネは動かなくなった機体から、さっと離れる。混乱したのか、焦ったのか、それとも諸共やるつもりだったか。誤射停止の機能を切った重機関砲が避けた場所、絶命したラシャプに突き刺さった。力なく倒れるはずの機体が、弾丸を浴びてズタズタになりながら、宙に浮かんだ。


「うわあああ、ああああ」


 自分の行いに悲鳴を上げながらも、そのラシャプは射撃を止めない。よし、アレはなるべく最後まで生かそう、とイネは決めた。嫌になる発想だが、敵にああいうのがいると楽になるものだ。


「落ち着けッ! やめ」


 隊長らしき正気を保ったラシャプのパイロットが指示を出す。このまま残られて、指示を出されては困る。

 咄嗟に“ドラゴンスレイヤー”の引き金を絞る。指示を出していた機体へと、牽制のための弾丸を放った。避けられるが、相手を動かすだけで十分だ。



 ブースターを猛然と吹かし、強く踏み込んだ。一歩だけで、浮いた隊長のラシャプへと機体を寄せていく。並走するように、相手に張り付くように脚を動かす。別のラシャプたちが、重機関砲をこちらへと向けるが隊長機を盾にするように動き回る。


「コイツッ」

「はい、コイツですよ」


 正面から、がしりっとラシャプの頭部を掴んでねじ切った。感覚を繋いでいるなら、視界ごと、もぎ取られたようなものだ。ゴグマゴグの馬力はこういう力業が出来るのでありがたい。

 首から火花を放ちながらも、ラシャプは重機関砲を放つ。しかし、そんな苦し紛れで当たるものではない。ゴグマゴグで思い切り、蹴り飛ばすと、反動を利用して一気に離れる。

 背泳ぎのような姿勢のまま、機体を吹かして残りの敵機へ接近していく。驚きながらも、ブースターで機体を動かしながら、射撃を続けるラシャプたち。


「中隊長! クソッ!」

「ああもう! こんな重力井戸じゃ、ダメ!」


 愚痴と悲鳴が響く。やはり彼らは地上での戦闘は習熟していないようだ。動き回って戦うべきなのに、足さばきが良くない。

 それでも対応しているのはさすがだ。称賛しながらも、イネは“ドラゴンスレイヤー”の照準にラシャプを納めて、撃つ。相手も慣れてきたのか、さすがに急所を外した。それでも肩口を徹甲弾が抉り、敵を横転させる。


 背泳ぎの形のまま、横転したラシャプを通り過ぎて、あえて炎の中へもう一度飛び込んだ。そして、燃える木々の間で姿勢を正した。握ったままだったラシャプの頭部を落として、愛用の片手斧を抜いた。

 轟音が吹き上げて、ラシャプが勇み足で現われた。炎を揺らしながら、こちらへ向かってくる。機体番号から見るに、先ほどまで機関砲を無茶苦茶に乱射していた奴だろう。そこへ向けて、頭部を蹴り飛ばす。ラシャプは咄嗟に避けてしまい、動きが単調になる。それに向けて刃を向ける。無造作にラシャプの腹を横薙ぎにぶっ叩いた。


「ぎぃ、あ」

「ごめんなさい、ねッ!」


 悲鳴ごと潰すように力を込める。めきめきと音を立てて、コックピットが破壊され、沈黙した。力なく倒れた機体から手斧を引き抜く。赤く染まった刃が、火に照らされて輝いた。

 あえて、その斧を見せつけるように、のっそりと炎の中から機体を出していく。


「ここまででいい、引くぞッ!」


 頭部を無くした隊長機が残ったラシャプと共に下がっていくのが見えた。追うか、いや罠か、と思考する隙間に、背筋にぬるっとした予感が来る。

 咄嗟に足で跳ねて、その場から動く。


 ゴグマゴグがいた場所に、黒い巨人が突き刺さるように落ちてきた。


「わあお」


地面へと叩きつけられた拳の先に大きな爪が伸びていた。それはぼんやりと輝きながら、高音と高熱を発している。あれが、超振動という奴だろうか。背から翼のように伸びるブースターが、音叉のように唸るとすっと浮遊する。


 これは急に理解できない。初見の兵器だ。人型をしているが、歩行車両とはもはや別物だろう。


「まったく、次から次へとッ! ええい、もう相手になって上げますよ!」


 悪態を吐き出して、自分を落ち着けると、イネはゴグマゴグの速度をさらに激しく、上下させていく。急停止、急発進を繰り返しながら、悠々と向かってくる黒い巨人をじっと睨みつけていった。


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