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赤の断章ゴグマゴグ  作者: 五部 臨
3.吠え猛る鉱山
14/21

1.廃村にて




 フロッガーを広場でようやく止めた。爆撃と弾痕で砕けて、折り重なった瓦礫が並ぶ。無事だった公民館だった建物から、わっと子供たちが現れた。運転席から降りてきた天十郎にわしゃわしゃと群がっていく。

 彼を囮にして、イネはひょいと外に出ていた。軽い伸びをして、ゆうゆうと首を回す。差し込む日差しに目がしょぼしょぼする。疲労が今更のしかかってきた。


「イサゴ! 出来たよ、見てよ」

「ねー、おかしー、おかしー!」


 甲高い声の群れを、おうっと短い声が頷いたのが聞こえた。天十郎がにたりと笑いを作りながら、その中に進んでいく。あちらもあまり寝てもいないというのに、タフなものだ。

 公民館の奥から、のっそりとした男があらわれた。農夫のような格好で、頭の麦わら帽子が似合う男だった。左足の動きはぎこちないもので、作られたもりだと、すぐにわかる。


「やはー、マルツィオさん」

「お疲れー、ハヤマちゃん」


 マルツィオ・カルーゾが軽く手を振るう。のんびりとした様相だがこの廃村に三か月は駐留し続けている部隊を率いる中隊長だ。元は惑星の宇宙軍にいたらしいが、詳しくは知らない。それでも本陣とも言うべきマクラガ要塞にほど近い場所を任されるだけあって実力は十分なものだ。何度か、背中を任せたことがあった。トレヴァーも元はこの部隊の偵察隊にいた。


「聞いたよー、大分ひどい目に会ったねぇ」

「まったくですよ……くたびれた」


 へろりと力なく手を上げてイネは答えた。


「トレヴァーくんは先にマクラガまで走ってもらったから、向こうには伝わっているよ」

「はは、がんばってますね……」


 思わず、引きつった笑みが浮かぶ。ここまで来るのも一苦労だったたろうに、元部下であるトレヴァーの扱いが強い。


「まあ一眠りしてくといいよ。顔、ひどいよ。見張りはうちの仕事だしね」


 その言葉に合わせたように、瓦礫に偽造された格納庫からゆったりと立ち上がる大きな影たちがあった。偵察装備、キノコ頭のノーマッドに続いて、のっそりとした歩行車両、いや船外活動モジュールがあらわれた。

 ノーマッドの倍はあるその巨体は古く開拓時代から使われた名機、パスファインダーだ。型は古く地上では鈍重だが、大型である積載量を利用して火薬式の大砲、オートキャノンを軽々と持ち上げていた。そして、コンテナのようなものを背負っている。それがかぱりと開いて、ゆっくりと独楽のようなものが、射出されていく。ローター・ドローンだ。その下部には軽量のコイルカノンが装着されている。


「あーい、助かります……」

「公民館、使っていいからねー」


 大きく手を振るマルツィオに見送られていく。よろよろと歩いていく。そして、ふわっと欠伸を残した。







 天十郎から、起き抜けの欠伸が広がる。公民館の和室で目を覚ましたが、子供たち、ドルヴァを背負い、リュドミラを抱えたままだ。二人の子供はあれからずっとも天十郎が眠るまで、張り付いたのだ。

 イネはくすくすと笑いながら、布団を敷きなおした。そこに天十郎は優しく彼らを降ろして、しっかりと寝かせてやる。

 そして、それぞれの枕元にタブレットを置いた。天十郎が次会う時の為に、と作った宿題のデータを入れてある。子供たちに合わせてそれぞれ宿題を調整したり、非番の時や隙間の時間にやっていた成果だ。

 本人は気晴らしのつもりらしいが、もう十分、先生をしている。そのために天十郎は銃を取ったのだ、とイネは昔聞いたことがある。


「ねみぃ」

「はは、もみくちゃでしたからね」


 子供たちの相手をして、天十郎がようやく眠りにつけた。その時には日はすっかり陰ってしまった。彼が起きたのは夜半過ぎたこの時間で、じめじめとした風が吹いてくるのは、また一雨、降ったからだろう。それでも、移動にはいい時間になってしまった。

 どこかから虫の声が心地よく響いてくる。昼間と違って適度に涼しいおかげだろう。


 台所へ向かうと、用意されていた夕飯の残り、おひつに入った五目の混ぜ御飯だ。隣の和室にあるちゃぶ台の上に食事を広げる。五目御飯にお茶碗によそり、その横にインスタント味噌汁を作り、いっしょに暖かいお茶を入れた。イネはちょっと冷めて味の染み込んだ五目ご飯が好きなのでそのまま、天十郎はレンジで温めた。

 鼻歌を歌いながら、短く薄く切った卵焼きと刻みノリ、紅ショウガを乗せていく。いただきます、と二人はなんとなし言う。おかずは漬物ぐらいだが、量は大分ある。イネはかき込むように食べていく。白菜のような野菜の漬物と、味噌汁を間に挟んでは、口をひたすらに動かし噛み締める。味の染みた五目御飯がひたすら、イネのお腹へと入っていく。


 イネが三杯目に入るときに、ふとラジオが恋しくなった。インターネットもテレビは半年前から、陸戦が激しくなったこの三か月でとうとうラジオ放送でさえも途切れている。互いが互いに妨害しあっているせいで、インターネットのクラウドに上げていたデータなどは見返すこともできない。逆に紙やサイコロの娯楽が再び持ち上がっているぐらいだ。


「はあ、寂しいものですね」

「そうか? 飯は静かに食いてえがな」


 天十郎は茶をすすり、答える。すでに二杯をきっちり食べきり、一息ついていた。何をするでもなく目をつむる天十郎を横に、イネは三杯目、四杯目をゆっくり食べきった。噛む音と、虫の声だけになった。

 おひつを空にしたが少し物足りない。穴埋めのようにお茶を飲み干し、ふうっと息をつく。そのイネから天十郎が汚れた食器をさらって洗ってくれた。


「ありがとー」

「おう、少し休んでろ」

「あいあいー、さんくすー」


 適当な返事をして、ふうっと息をつく。歯磨きはフロッガーに積んでるからあっちでしないとなあ、そういえば着替えもしてないや、汗臭いかなあ、とぼんやりと考えた。そのうちに、残り物もしまわれて、ちゃぶ台も綺麗に掃除されている。


「さ、いくか」

「ここまでくれば、私とタナゴでもいいんですよ? もうちょっと子供たちと……」

「はっ、馬鹿いってんな、行くぞ」


 口元を寂しげに撫でてから、天十郎はずんずんと進む。あと一日、この夜を超えればマクラガ要塞だ。ここまでくれば、夜にわざわざ移動も必要ないだろうが、相手が無茶するかもしれない。あんな戦力を適当な投入するぐらいだ。


「はいはい、気合入れて行きましょう」


 ゆったりと立ち上がり、それに続いた。すでにこちらの出発を待っているだろう、フロッガーの方へと向かっていった。



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