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南極物語

作者: さかなで

だまされた。はかられた。目を覚ましたらそこは南極だった。どうにかしてくれ。誰か助けて。

「じゃ、そういうことでね。神野ちゃん、ちゃんと協会に言っておいてね」

「使う音楽に変更とかないっすよね」

「まあね。スポンサーの横やりなけりゃ、ね」


テレビディレクターの河野和樹は苦々しい顔をした。スポンサー収入の1.5%を支払うのだ。クソ音楽に。

バカげている。いっそBGMなしで番組を制作したらいいんじゃないか?まあ、もっともいまの連中はそんな映像は辛気臭いとみなされる。


TVは娯楽だった。そういう時代は終わった。いま、人々の耳目はネットに移行し、家庭内のバカでかいテレビはもっぱらゲーム用になっている。


おどろいたことに、スポンサーの中にはテレビをみないってやつも、けっこういるのだ。そいつらに、これのなにが受けるのか、説明するだけでも大変だ。しかも、いわゆるテレビバカと違って感性は鋭いときているから、なまじ出来の悪い放送作家など起用すると、一発で逃げられてしまう。


その、出来の悪い放送作家が、来た。


「ちゃーす。飯野でーす。おひさしぶりー」


久しぶりなのは仕事がなかったからだろうが。大物役者を落とし穴に落として笑う企画。あれで干されたんだろ。おかげで俺の目の上のたんこぶだった牧野チーフディレクターが飛んだ。感謝してもしきれない。


「河野さんおひさー。お米届いた?新米うまい信州米。どう、うちの米のキャッチ」

「1合もらってどうすんだ。鳩にやったぞ、あんなもん」

「ひどーい。お百姓さんが汗水たらして」

「いまどきお百姓さんなんていわねえよ。米屋のせがれのくせにいい加減なこと言うな」


飯野はくねくねした。わけのわからんやつだ。


「それよっか、なんか企画あるってヨッシーから聞いたんだけど」

「どなたですか、そのよっしーっていうお方は?」

「余野川しんじって、ほら制作局の」

「なんでヨッシーな、あ、もう聞かなくて結構」


余野川しんじ。最悪にして最強の新人制作局長。会長の孫で社長の息子、もちろん、バカ。


「なんの企画だって?」


おおかたアマゾンとかパプアニューギニアとか秘境シリーズだろ。秘境バカ。以前、イヌイット族に腰蓑つけさせようとしてカナダ政府から訴えられたんじゃなかったか。それを社長がもみ消したのだ。作ったのはもちろん牧野だった。


「うーん、目隠しアドベンチャー。ここはどこでショー、って言ってたっけ」

「なんだそりゃ?」


もう、一発で内容がわかった。最悪だな。さすが、バカ。


「河野さんが噛んでるって言ってたよ。あと、僕が現場で原稿書くんだって。同行執筆?マジ、たのしそー」


「俺も入ってるんかい。冗談じゃないぞ。だれがやるか、そんなもん」

「いいじゃないですかー」

「まったく、テレビ屋はテレビに殺されるんだよな」

「なんですか、それ。うけるー」



「河野さん、社長がお呼びです。あ、ちょうどよかった、飯野さんもご一緒に」

総務の恵理子が言ってきた。口元がへの字だ。最悪が待っているらしい。


エレベーターで3人は9階へ上がる。恵理子に肘で横腹を突かれた。最近、お見限りね、という合図だ。スイマセン、忙しくって。週に一回は恵理子と外で食事する約束になっている。最近はご無沙汰だ。


「恵理子さん、今度食事でもどう?すごくエキセントリックな店を御徒町で発見したんです」

「おまえ、俺の目の前で、よく恵理子を誘えるな。殺すぞ。だいたい恵理子ってなんだ。馴れ馴れしい」

「いや、変なつもりじゃないっす。下心ないっす、ただ、マムシの唐揚げとかヤモリの黒焼きとか、すごい精がつきそうだから」

「思いっきり下心前面に押し出してんだろ」


9階についた。


「じゃ、また。恵理子さんじゃなかった河野さん」


恵理子は俺の妹だ。変な虫がつかないように監視中だ。


社長室に入ると、秘書室の受付で所属と姓名を名乗る。知っている人間にもこれをやらせる。バカだ。

「社長がお待ちです」ウインクしながら言いやがった。なぜか。それは秘密です。


「入ります」

「ああ、呼び出してすまないね。どうぞかけて」


椅子をすすめられた。ああ、もう最悪だ。こいつに椅子なんか進められるということは、酷い番組を担当させられるか、クビか、ということだ。


「いましんじくんも来るからね」


自分の息子を社内で堂々とそう呼ぶ。バカだ。だから『斜凋室』って言われてるんだ。

去年、アルバイトの女子大生が社内文書でスペルミスをやらかした。本人は打ち間違いといっていたが、どうやったらこんな風に誤変換できるのか。社長は激怒したが、俺はそのとき内定をくれてやって、今年から俺のADやらせてる。なかなか優秀だ。


いきなり声もかけず余野川が入ってきた。ノックぐらいしろ。


「おはよー、パパ。待たせた―?朝のコーヒーがきめられなくってさー。エスプレッソ?でも朝はウインナーだよね。あ、河野ちゃんあひさー。元気してたあ?」


昨日あったろう。制作室でさんざん嫌味言いやがったくせに。死ねこら。


「あ、やっぱあさはウインナーっすよね。ぼくも毎朝シャウエッセンすよ」

「誰、こいつー?」


飯野、ソーセージじゃねえよ。痛いやつだな、お前は。


「作家の飯野君だ。今度の企画を手伝ってもらう」


社長がそう言った。もう企画になってるのか。俺の知らない間にスポンサーも集めたな。やられたな。潰す前にこっちが潰される。これはこいつのできるこっちゃない。会長の入れ知恵か。


「社長、わたしは」俺が言おうとした矢先に社長が口をはさんだ。


「河野君、黙ってて悪かったが、これも明日のテレビ界のためだ」


誰が斜陽産業にしたんだ。みんなてめーが悪いんだろ。


「ということで、目隠しをさせていただく」

「え?なんで」


屈強な警備担当が俺を押さえつけた。看護師もいる?なんで?痛てっ。なにすんだ?注射?


「社長、これは人権の、重大、な、しん、が」


俺は意識を失った。


一度、ニュージーランドで目を覚ました。アナウンスでそう分かった。また眠らされた。


ゴトン。嫌な振動で目が覚めた。


目隠しされている。とると狭い部屋だ。むさくるしい。でかく分厚そうなコートが壁にかかっている。どこだここは?


「あ、お目覚めですか?いまコーヒー淹れますから」


だれだっけ?こいつ。そうだ、漫才師から俳優に転向したゴンザレス滝野だ。ゴンザレスは姓だろと世間で突っ込まれても一向に意にかえさないバカだ。なんでここにいる?


「あ、目覚めちゃった?すごいよー。コンテナごと運ばれてんですよ、僕ら」


なんか嬉しそうに飯野が言っている。


「飯野。なんか知ってるか?コンテナのなかなのか、ここは」

「それがぜんぜん。僕もさっき起きたから。でも部屋の長さからコンテナだと思います」


「あのー、これを預かってきました」

滝野が恐る恐る俺に差し出す。小型のテレビカメラと手紙。



『ということで、がんばって

 ドアが開くのを合図させるから

 カメラまわしてね

 三人でなかよく、帰ってきてください

 帰ってこれなくても

 カメラだけは送ってね

             次期社長 余野川 』


なんだこれは?


ゴンゴン、とノックがした。とっさに俺はカメラを回す。職業病だ。


開かれたコンテナらしき扉から眩しい、いや本当に眩しい。一瞬、何も見えなくなるくらいの光が飛び込んできた。目が慣れると寒気がした。いや寒いのだ。スキー場?ありえん。一番最悪な答えが浮かんだが、無理に消した。


「うわ、なんすか、ここ?南極っすか」


滝野。今一番口にしちゃいけない言葉だぞ。


輸送大型ヘリが側にいた。白人の男がスペイン語かなにかで話しかけてくる。軽く敬礼するとそいつはヘリに向かった。が、すぐに引き返してきて、俺の手を両手でしっかり握りしめ、振った。握手のつもりか?そいつはヘリに乗って上空に去って行った。残されたのはコンテナとアホ面した俺ら三人だけだった。


撮影を飯野に任せて俺はコンテナの中を物色した。欲しいものは何だと今聞かれたら、迷わず言う。衛星電話だと。ない。安物のトランシーバーがあるだけだ。スマホがポケットにあるが、こんなとこで使えるとは思わない。食料らしきもの、それと飲料水。生肉?どうすんだ。南極でバーベキューか?もはやキチガイだ。


コンテナの入り口付近に小さな発電機が回ってる。室内の照明と暖房か。燃料は、そんなにねえじゃねえか。3日もたない。


「河野さーん。見てくださーい。ほら、かわいいですよー」


ペンギンでもいたか?触っちゃだめですよ。その子たちは無菌なんだから。俺たちは菌で汚染されてるんだからね。


犬ぞりがあった。


カナダでイヌイットが使ってるのと同じだ。あいつの復讐なんだと今気がついた。カナダ政府に訴えられたことを俺に追及された。余野川は根に持っていたのだ。


わんわんわん、と犬が俺に尻尾を振って吠えた。俺から肉の匂いがしたんだろう。これでこいつらには、だれがここのボスかわかったに違いない。犬はだれが餌を配分するやつなのかで、ランクが決まる。猫は違う。猫はボスがいない。猫は自分がボスだと思っている。百獣の王のDNAだ。


いや、ここで猫の話なんか考えてる場合じゃない。犬ぞりだ?どこへ行けと。これで。


壁に大きな地図が張ってあった。南極大陸の全図だ。赤く✕がしてあるのはここの位置か。一番近いのは、チリの観測基地か。ざっと千キロはある。死ぬ。間違いなく死ぬ。


きゃっきゃという声が聞こえる。なんと飯野と滝野が雪合戦をしているのだ。犬が吠えている。


ガルル、ガルルと唸りながら犬たちが肉を食っている。牛肉かと思ったら、アザラシの肉らしい。滝野がそう教えてくれた。そういえば、カナダのイヌイットの番組もこいつが出ていたな。どこで売ってるんだ、そんな肉。


コンテナの中でカメラを回しながらこれからのことを相談する。外は吹雪のようだ。犬は大丈夫なのか?昔見た『南極物語』という映画を俺はトレースしながら考える。しかし浮かぶのは『遊星からの物体X』というSFホラー映画だった。状況的には似たようなものか。


「やはり犬ぞりでチリ海軍の観測所まで行くのがベストですよ」


滝野は意外に冷静だった。知識もあるらしい。最悪な番組だと思っていたあれも、こいつにはけっこうためになってるんだな。

「何日かかるんだよ。そこまでつけるのか。とちゅうで絶対死ぬ」俺はカメラを回しながら言った。テレビマンの悲しい習性。


「大丈夫です。朝になったら行きましょう。早い方がいい」

「なぜだ?ここで助けを待った方がいいんじゃないか」

「燃料がもちませんよ。食料だって」

「人権侵害だ。帰ったら訴えてやる」

「生きて帰れるなら、ですね。第一、人権言ってたら今のテレビ業界は成り立ちませんよ。河野さんが一番ご存じなんじゃ」


滝野。バカだと思ってたが意外にできる人だったんだ。恥ずかしい。人をうわべだけで判断していた。


「まあ、危なくなったらそこの無線で助けを呼べばいいんですから」

「無線て、これか?」

「そうですよ。3台もあるじゃないですか」

「これはトランシーバーだろ?」

「そうなんですか?でも無線だ」

「届かんぞ、どこにも」

「へ?なんで」

「こんなもん、300メートルがギリギリだ。まわりが何もないからもう少し届くだろうが」

「え?じゃあスマホで。僕2台持ってるんですよ、えへへへ」


バカだ。


「滝野くーん、ここじゃスマホは使えないよ」飯野が得意そうに言う。

「そうなんですか?」

「そりゃそうだよ。基地外なんだから」

キチガイはおまえだ。


「あ、そうだ。連絡先交換しようよ」

「あ、フルフルですね」

「変ですね、つながらない」

「じゃ、QRコードで」

「あ、来たよ」

「じゃなんか送ってください」

「あれ?ついた?」

「来ないですねー。電波届かないんですかねー。こんなに近くなのに」


バカだ。


「もういい。寝るぞ。明日は早いんだ」


俺は前に進む。死ぬもんか、こんなところで。


「こら、言うことを聞けっ」

滝野が犬たちに苦戦している。言うことを聞かないのだ。あたりまえだ。人間の言葉がわかるかよ。


俺は一番強そうな犬の側に行き、蹴った。キャン、と割と可愛らしい声で鳴いた。


「なにするんですか」

「こうしないと言うことを聞かないからだ」俺は半分怒りながら言った。


こっちを舐めていた犬どもは言うことを聞くようになった。


「オラ、行くぞ」


犬はうまくソリを引き始める。


「すごいですね、河野さん。犬、飼ってたんですか?」


何か話すのも、大声でなければ伝わらない。だだっ広い雪原では音は吸収されてしまうからだ。おしゃべりな飯野が黙ってる。しゃべりすぎて喉を傷めたのだろう。バカ。


「ADってのがいてな」

「犬じゃないんですか」

「ちっとはましかな」


夜、キャンプをした。中学生以来だ。テントを張るのに苦労した。おどろいたことに飯野がするすると組み立てる。大学まで父親とキャンプに行っていたそうだ。米屋の親父だから、なおさら自然を大事にしたんだそうだ。飯野以外から聞いたのなら、いい話なのだが。犬ぞりのコースもコンパスで教えてくれる。人間、一つくらい取り柄があるもんだ。


「飯野、今何月だ」

「嫌だな、河野さん。ボケちゃったんですか?今は2月ですよ2月21日」

「てことはここは夏だよな。南極なんだから」

「そういうことですね」

「どういうことですか?」


滝野が口をはさんだ。


「いまは何だ」

「は?夜ですよ」

「そうだ。夜だ。外は、真っ暗だ」


「夜は暗いんですよ、河野さん。当たり前でしょ」

飯野が鼻をふくらましながら言った。


「あっ?」


滝野が気がついた。


「こ、ここは南極じゃない?」

「そうだ。北半球の、どこか、だ」

「えー、どういうことですか。わかるように説明してください」

「いいか、飯野。極ちかくでは夏は陽が沈まないんだ。白夜って、聞いたことないか?」

「え、じゃあここはどこなんです?」

「知るか。とにかくここは南極なんかじゃねえ」


「滝野、起きてるか」

「ん、あ、河野さん、なに?」

「ちょっといいか?」

「あ、はい」

「向こうで話そう」


俺と滝野はテントを出た。凍てつく空気が心地いい。


ザク、ザクと雪を踏みしめる音がする。もうテントの中の飯野には聞こえないはずだ。


「どうしたんですか、こんなところで」

「いいか、よく聞け。あいつは、飯野は仕掛け人だ」

「なんすか、それ。必殺シリーズですか、懐かしい。パチンコ屋でやりますけど」

「ちがう。おそらくドッキリだ」

「なんですって?」

「ここは恐らく日本だ」

「なんでわかるんですか?」

「雪質だ。これは雪だぞ」

「南極だって」

「あれは雪じゃなくて氷だ。雪みたいに優しい物質じゃねえ」

「でも、丸一日犬ぞりで走っても、何もなかった。日本だったらすぐ何かあるでしょう?」

「一日走っていたが、太陽はいつも同じ方向にあった。東から昇った太陽が東へ沈むのか?」

「あ」

「俺らはぐるぐるとこの辺りを回らされているんだ」

「あのやろうっ」

「まて、どうするんだ」

「ぶん殴って、すべて吐かせます」

「やめとけ。しらばっくれるだけだ。いい考えがある」

「どんな?」


滝野は乗ってきた。


「うー寒かった」

「どこ行ってたんです、ふたりとも」


飯野は起きていた。


「トイレだ。シロクマが出るかもしれないんで、河野さんについて行ってもらったんだ」

「やだなー、こんなところにシロクマなんていませんよ」

「なんでよ」

「もっと北の方じゃないんですか」

「そうか。そうだったかもな」

「やだなー。早く寝てくださいよ。寒いから早く閉めて」


もっと北の方?南極のはずだろ、ここは。バカが。

俺と滝野は顔を見合わせた。


飯野が寝たタイミングで縛り上げた。俺はそっとテントを出ると、東側へ回り込んだ。朝、陽が昇ると、西からのカメラワークでは逆光になる。撮影するなら東から撮る。撮影の基本だ。案の定、丘の上に白いテントが見える。白いテントは雪の中では目立たない。しかし形がそれとわかる。軍用を使えばよかったのにな。あれは形がいびつだからそれとわからないのだ。


そっと近づくと、テントを通してモニターの明かりが見える。これもそうだ。軍用なら光を通さない。間抜けめ。側にスノーモービルが3台停めてある。壊すのは簡単だ。足跡だらけなので工作もバレないだろう。素人はしょうがないな。俺は中東のテレビ局に2年、行かされていた。それだけでもスキルがわかるだろう。


スノーモービルから北海道のレンタル会社のものだとわかった。なるほどね。


「どうでした?」


滝野が聞いてきた。


「上手くいった。やつらは動けない。連絡するしかないな、親玉に」

「やはりここは」

「北海道だった。手の込んだことしやがって。わざとニュージーランド空港のアナウンス聞かせやがったり、外人使ったり」

「大型ヘリもありましたね」

「ロシア製の中古品なら、道内にけっこうある」

「どうしますか」

「東に山脈が見えた。西は恐らく日本海だろう。西に向かう」


縛った飯野を犬ぞりに乗せ、俺たちは悠々と西に向かった。あわててついて来ようとしたロケ隊も慌てているころだ。衛星電話を使うだろう。時間との勝負だな。


民家が見える。道路に出た。南極か。笑った。


コンビニがあった。セイコーマートというらしい。時計屋がコンビニやってんのか?まあいい。


カップ麺とコーヒーを買った。店員が目を白黒させていた。駐車場に犬ぞりが置いてある。犬が喧嘩をしている。


だだっ広い雪原で俺たちは待った。飯野は観念して全てを話した。要はすべて余野川のたくらみだ。俺たちを笑いものにしようとしたのだ。俺は余野川を追求したし、滝川はカナダの裁判所で余野川に不利な証言をした。恨まれてるのだ。


車列が近づいてきた。うちのテレビ局の社旗がバンパーにささっている。社長公用車だ。


やがて目の前に止まると、社長とそのボンクラ息子が出て来た。


「やあやあ。これはまいった。お見事ですね。すっかりバレていましたか」

「パパ、これじゃつまんないよ」

「しょうがない、バレちゃったんじゃ」


「お前ら、他に言うことないのか?」

俺はすごんだ。


「何がだ。誰に向かって口をきいてるんだ。お前ら騙して笑いものにしようとしたことか?」

「それだけか?」

「なんだ、おまえ。鎮静剤を打ったことか?テレビじゃよくあることだろ。もう、お前に働けるテレビ業界はないけどな」

「俺じゃなくておまえじゃないのか?」

「ばかめ。なんでだ。証拠なんかないぞ」

「テレビ屋は、テレビに殺されるんだよ」


「滝野、くれ」


滝野はテレビカメラを俺に渡した。


「飯野がしゃべった。一切を警察に渡す。言い逃れできないぞ」

「ふざけんな、よこせ」


社長とボンクラ息子が駆けよる。ズドっと落ちる。発泡スチロールの粉が舞う。雪のようだ。


「はい、いい絵撮れました」雪の中からカメラクルーが現れた。軍用の迷彩テントだ。ロシア製だな。

「どさんこテレビの森下あいでーす。今日は東京の有名テレビ局さんのドッキリにそうぐうしちゃいましたー」


「きさま」


落とし穴の中で社長がうめいた。


「コンビニから連絡した。ここのテレビ局の知り合いにな。フットワーク軽いぜ、ここの連中。うちにスカウトしたいわ」


「こんなことして、ただですむと思うのか」

「ほざいてろ。警察がくるまで、な」

「話し合おう、な」


「犬、どうする?」


滝野と俺は真剣に話し合っていた。飯野を見た。あいつんちは庭も広くて、ハスキーの10匹や20匹は飼えそうだ。飯野は寒さで震えていた。



ハスキーのボスと、もう一匹をマンションで飼うことにした。名前はタローとジローだ。きまっているだろう?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 構成がしっかりしていて、テンポが良く、読みやすかったです。色々、笑いました。
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